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コンテンツ制作とどう向き合うべきか?~『コンテンツマーケティング最前線02』出版記念トークイベント~(全5記事)

目の前の一人をどこまで大切にしているか コンテンツ制作で問われる「探求心・リアリティ・想像力」

2019年3月26日、BOOK LAB TOKYO主催による、『コンテンツマーケティング最前線02 コンテンツ制作の極意』出版を記念したトークイベントが開催されました。今回の出版記念イベントでは、本書に登場するSUUMOタウン編集デスク・岡武樹氏、「セーラー服おじさん」こと小林秀章氏、アーティストのヌケメ氏が登壇。マーケティング視点のコンテンツとの向き合い方について、 クマベイス代表の田中森士氏と語ります。 本パートでは、コンテンツ制作で大切にしていることや、参加者からの質問について答えました。

コンテンツ制作で大切なのは、探求心とリアリティ

田中:それでは、一言ずつ簡単なまとめということで、ずばり「コンテンツ制作の極意とは?」。コンテンツ制作の極意を一言で言うと何でしょうか。今日のお話とかぶっても構いません。一言ずついただければと思います。じゃあ岡さんから。

:極意……。今日のイベントに出て感じたのは、たぶんコンテンツ制作の極意はないんだなというか。人によって答えが違うんだと思います。

人によっても違うし、時代によっても変わってくるはずなので、「これがゴールだ、答えだ、完璧だ」と思わず(必要に応じて)アップデートしていくことが重要になってくるんじゃないかなと思います。

田中:なるほど。探究心を大切にして、ということですね。

:バ美肉おじさんを見てみたり、新しいものをどんどん取り入れたり。

田中:あとで鑑賞会をやりましょうか(笑)。ありがとうございます。ではヌケメさん、お願いします。

ヌケメ:難しいですけど、リアリティですね。

田中:リアリティ?

ヌケメ:「本当にこういう価値観を持って、こういう生活をしている人がいるんだろうな」と想像できるようにするのがすごく大事な気がしていて。さっきのバ美肉おじさんも、「やっぱり画面の向こうにおじさんがいるんだ」ってすごくわかる。

それは、作られた3Dアイドルみたいなものとはぜんぜん違うわけですよね。「顔が見える」とよく言いますけど、リアリティ。洋服のブランドでも、会社に着ていけるきれいなトレンチコートみたいなものではなく、もうちょっと……。今、ニューヨークのファッションがすごくおもしろくなってきているんですよ。

ニューヨークで、セクシュアルマイノリティの人たち向けの洋服をデザインソースにしたファッションが一部にあるんです。「あ、こういうやつクラブにいるな」みたいな服ばっかりなんですね。ショーに使っているようなものとか。

田中:それは誰に向けて作っているんですか?

ヌケメ:誰に向けているんでしょうね。僕はそういうのがすごく好きなんですが、自分が買って着るわけじゃないので……微妙なところですよね。でも皮膚感覚というか、「こういう身体感覚を持って生きている人は、確かに一定数いるよな」という気持ちにさせてくれる洋服って、すごくいい洋服だなと思って見るんです。

田中:今日はいろいろなキーワードが出ましたよね。「生々しい」ということでしょうか。

ヌケメ:生々しい。そうですね。

田中:「空気感が伝わる」「リアリティ」。そこは企業側のオウンドメディアでも大事になってくるのかもしれないですね。

ヌケメ:だと思います。「机上の空論じゃないんだな」っていうか。

田中:では最後、小林さんお願いします。

受け手に対して親身になるには、他人への想像力が必要

小林:極意というほどでもないですけど……なんだろうな、「下心が丸見えになっちゃうと人々は逃げていく」ということがよくわかったので、やっぱり受け手に対して親身になるということが大事。そのためには、受け手に対しての想像力が必要です。

(受け手を)よく見ている、想像できている、具体的に想像がついている、ということが大事なんじゃないかと思っていて。ペルソナでもう1つ思ったのが、「ペルソナは私自身である」と言っている人がよくいますよね。それはいいんだけど、そこにはすごく二面性があって。

自分の書いた文章って、絶対に一番おもしろいんですよ。何をおもしろいと思うかは人によって違うんだから、自分がおもしろいと思う基準に照らして自分が書いたものは(自分で読んで)おもしろいに決まってる。でも、それは人が読んだらぜんぜんおもしろくないんですよ。

だから「私、文章がうまくて、私の文章が一番おもしろい!」と思っている人はだいたい危険です。これは視野が狭いことの証でもあります。ということは、自分の中にたくさんの他人が住んでいないとだめなんですね。

田中:はぁ〜。

小林:例えばそういう人が小説を書いたら、登場人物がぜんぶ似たり寄ったりの自分になっちゃう。作家がコントロールして、結局、自分同士を会話させているようなリアリティのない会話になるんです。まったく違う人たちが出てくるから小説はおもしろいんですよ。その人たちが自発的に動いているようであるからおもしろいんです。

制作側にそれぐらいバラエティに富んだ他人が見えているかが大事なんだと思いますね。だから、親身になるコンテンツを作れるようになるためには、自分の中に他人がいっぱいいることがカギなんじゃないかなと。

田中:なるほど。経験したことしか書けないみたいな。新聞記者時代にすごく叩き込まれたことがあるんですけど、一次情報とか経験とかそういったことしか書けないし、ペルソナの気持ちがわからなかったりするんですよね。

小林:そうしたらもう、バリエーションに富んだ一次情報をいっぱい経験したほうが絶対に強いので、そういうことなんだろうなと思います。

短期的な効果や利益が出にくいメディアを長く運営するには?

田中:ありがとうございました。ここからは質疑応答です。付箋に質問をご記入いただいている方がいらっしゃいましたら、うしろのスタッフにお渡しいただければと思います。あれ、誰もいない(笑)?

スタッフ:質問がある方、いらっしゃいますか?

田中:あ、口頭でも大丈夫です。

(質問が書かれた付箋が渡される)

ありがとうございます。「とくに岡さん、コンバージョンを狙わない、短期的な利益を狙わずに長期的な利益を出すメディアを、社内でどのように合意形成したんでしょうか?」

これは極めて具体的な質問ですね。日本の場合、すぐに上司の方が「これは何のためにやっているのか」「これは利益につながっているのか」と言いがちなんですよね。その場合、どうやって合意形成されていますか? というご質問です。

:すぐに効果が出たり、ものすごく儲かったりするオウンドメディアはないと思っていて。「これによってSEO対策ができるし、商品もめちゃめちゃ売れますよ」というメディアって、なかなか難しいと思います。そういうことがある上で、まずどうしたらいいかと考えると、やっぱりどれだけコストをかけずに運営するかも重要だと思います。

いきなり「数百万円を使ってメディアを立ち上げます、効果は出ます」と言ってしまうと、振り返ったときに「その費用対効果が出ていない」「やってる意味あるの?」という話になって、終わってしまう可能性が高いのではないかなと思います。

SUUMOタウンでは、例えば出す本数も月7~8本くらいなんですけど、ものすごく大きなにコストをかけているわけではない。

だから、そんなにすごい効果は出ていないかもしれないけど、実際にTwitterやFacebookを見て好評なコメントが来ていることを考えると、マネージャーとかも「そんなにお金をかけていないし、評判いいのなら続けよう」となるのかな、と。

田中:入り口の部分はすごく大事ですね。

:最初にメディアをすごく大きくして「コンバージョンが高まる」「売り上げが数十万・数百万円上がります」と約束するのは、気をつけたほうがいいと思います。

価値を認めてくれる人が現れ、悪質な人は自然に離れていく

田中:確かに。ありがとうございます。では続いての質問。「協力者を得るために苦労したことなどはありますか?」ここで言う協力者、差し支えなければご質問いただいた方、ここで言う協力者というのは?

質問者:自分だけで終わったらオープンにならないから、それに対して世間にリリースしたり、岡さんならメディアに入ってとか。自分以外に影響していくために、そこで苦労したことはありますか?

田中:なるほど、コンテンツは力を入れて作りましたと。じゃあそれをどうやって世の中に届ければいいのか、もしくはどうやって協力者を見つければいいのか。ディストリビューションですよね。配信するために、どう流通させるかという質問ですが、小林さんどうでしょうか。

小林:それは方法論というか、偶然出てくるので……なんだろうね。幅広くいろんな人とつながっておいて、どこかから出てくるのを待っている感じです。とりあえず社内では四面楚歌で、なにしろ「こんな格好をしているときに社名を出すな」と言われているぐらい周りは冷たくて。価値がわかっていないんですね。

(一同笑)

でも、価値をわかってくれる人がちゃんといてくれるのがありがたいですね。いま本当にお世話になっているのが、中国のイベントの人選をやっている人です。その人がマネージャー役を買って出てくれたのですが、そういう人がどうしたら見つかりますか? と言われると困りますね……。

なんというか、人がたくさんいる中で、やっぱり波長が合っちゃったのかな。価値を認めてくれる人が現れて(自分のところに)来る。そういうものなのか、来なくて苦労している人がいるのか、そこはわからないですけど、とりあえず広くやっておく。

そうすると「こいつで金儲けしてやろう」みたいな悪質な人は、いったんは(その人に)捕まっても、そのうち向こうから「こいつは儲からない」と関心がなくなって自然に離れていきます。そしてありがたい人だけが残っていくので、そういう自然の成長でいいんじゃないかな、という気がしますね。

田中:なるほど。大前提として、行動を起こし続けることが大事ですよね。

小林:弾をいっぱい持っていることは、いいことかもしれないですよね。 

確信が強い人・極端な人がおもしろい

田中:なるほど。ヌケメさん、アドバイスはございますか? ヌケメさんの場合はアートになるわけですけれど、それを世の中に広めるために協力者をどうやって見つければいいのか? もしくはどうやって広げればいいのか?

ヌケメ:なんかこう、「おもしろいやつだな」と思ってもらえたらそれが一番いいというか。「つまんない人だな」と思われたらダメなわけですよね。どう言えばいいかわからないですけど……。

「自分が何に興味を持っていて、どう感じているか」の解像度をひたすら上げていくというか。ものすごく変わったものとか変わった趣味とかじゃなくても、例えば「パンケーキがすごく好きだ」ということを突き詰めていくんですよ。

「パンケーキの何が好きなのか」「どんなパンケーキのどういうところが、どのくらい好きなのか」を突き詰めていくと、パンケーキの本を出せたりもするわけですよね。

すごく好きなライターさんで、トミヤマユキコさんという人がパンケーキの本を出しているんですよ。なので、確信を深めていくことが大事です。確信が強い人はおもしろい。そうしたら営業をしなくてもいい段階が来るようになると思う。

田中:「ニッチ」という言い方が合っているのかわかりませんが、深堀りし続けるとか。

ヌケメ:そうですね。

田中:とがらせ続けるとか。

ヌケメ:そうです。とくにニッチでなくてもいいと思うんですよ。AKBがめちゃくちゃ好きだったり、そんなことでもいいと思うんです。ニッチなのかもしれないですけど、それはそれで。

田中:ラーメン二郎とかも。(手振りで)私、こういうグラフでよく表すんですけど……あっ、どうしよう、説明できない(笑)。

ヌケメ:(笑)。

田中:(手で90度の角を作る)四角形を想像してください。ぼんやりすると、あんまり進まないんですね。でも、こうする(角をとがらせてひし形のようにする)と、届きやすくなるんですよ。

ヌケメ:あぁ、平行四辺形になるってことですね。

田中:そうそう。平行四辺形ですよ。ヌケメさんがおっしゃったのはパンケーキですよね。パンケーキ(が好きなこと)を突き詰めると、(四角形の角が)とがっていく。

ヌケメ:(四角形の角をとがらせ続けて)限りなく直線にしていくという。

田中:そうなると見つけてもらいやすくなる、というのはありますよね。

ヌケメ:「いかに極端な人間になるか」みたいなのはあると思います。

田中:おもしろいですね。いかに極端な人間になるか。

ヌケメ:極端な人は、敵が増えるけど味方も増えると思うんです。どんなに極端でも、同じような趣味というか、 話の合う人は必ずいると思います。

目の前の一人をどこまで大切にしているのか

田中:なるほど。では岡さん。テクニカルなアドバイスを。

:テクニカルではないんですけど、SUUMOタウンは始まってもうすぐ2年半になるんですが、最初はライターさん探しで、自分でブログを見たりひたすら個別にお声がけしたりして会って「こういうことを書いてほしい」「こういうことを取り上げたい」と話をしていたんです。

そして実際にそのライターさんに書いてもらったときに「すごく楽しかった」「書いたことによって、地元の人からも『このことを紹介してくれてありがとう』と言われました」という声があったんです。

そうやって書いて満足してくれた人が友達のライターを紹介してくれたり、じわじわ広がっていきました。なので、一人が満足するとそれが伝染していくんだなと思っていて。

最近では自分からライターさんにお願いするよりも「めちゃめちゃ書きたいんです」という問い合わせが来るようになったんですよ。

やっぱり一人ひとりに対して親身になってその人が満足してくれると、それが同じような人たちにも伝わっていくんじゃないかなと思います。

田中:先ほどの突き詰める話に通じますよね。目の前の一人の満足度を100パーセントにどれだけ近づけられるか。そうすることによってどんどん伝播していく。

:そうですね。

田中:すごく勉強になりますね。ペルソナ設定もするんだけど、目の前の一人をどこまで大切にしているのか。そこは自分でもちょっと反省点ですね。ありがとうございます。

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