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「銭湯ぐらし」が生み出すビジネスの可能性〜銭湯×コミュニティ×まちづくり〜(全11記事)

斜陽産業だからこそ、ビジネスチャンスがある 銭湯をアップデートする、高円寺・小杉湯の挑戦

2017年12月20日、BETTARA STAND 日本橋にて、「『銭湯ぐらし』が生み出すビジネスの可能性〜銭湯×コミュニティ×まちづくり〜」が開催されました。高円寺の銭湯「小杉湯」のとなりにある、風呂なしアパートから生まれたプロジェクト「銭湯ぐらし」。銭湯と風呂なしアパートを拠点にしたオープンイノベーションプラットフォームとして様々な取り組みを行ってきた「銭湯ぐらし」のメンバーたちが、約1年弱の軌跡と銭湯にかける熱い想いを語ります。本パートでは、マーケターの伊藤直樹氏が登場。「起す銭湯」として、ITと銭湯をかけ合わせた、銭湯の新たなビジネスモデルを紹介します。

IT×銭湯の可能性

平松佑介氏(以下、平松):次に紹介するのは直樹ですね。彼は、最初のきっかけは、小杉湯で掃除のアルバイトを募集しまして。そのアルバイト募集を普通にやったら集まらないだろうと思ったので、「将来、銭湯を経営したい若者求む」みたいなかたちでやったら、彼が応募してきたのが出会いのきっかけでした。じゃあ直樹、大丈夫?

伊藤直樹氏(以下、伊藤):今ご紹介にあずかりました、直樹と申します。よろしくお願いします。

まず自己紹介から入らせていただくんですけれども、銭湯ぐらしだと、マーケティングとBiz Dev、IT業界の言葉で事業開発ですね。銭湯をもとに、なにか新しいことをやるという担当をしております。

もともと新潟県生まれで、新聞社に憧れて新聞社に入ろうかなと思って。まぁ実際に入ったんですけれども、そこでいろいろあって。今は一念発起して、アプリのコンサルティングとかを専門でやっていて、もう80名ぐらいなんですけど、僕が入ったときは10人弱ぐらいだったベンチャーで働いています。

なので、マッチングアプリばっかりやっていて彼女はいないんですけど(笑)。そういうマッチングアプリだったり、漫画アプリだったり、いろんなアプリのコンサルとかをやっていて、本当に本業は銭湯とあんまり関係ないような仕事なんですけれども。このあとも話すんですけど、ITビジネスと銭湯は生かせるなって、おもしろそうだと思って入りました。

入ったきっかけは、今、佑介さんからお話しいただいたんですけど、佑介さんは本当に人たらしで。

僕、けっこう仕事が忙しいっちゃ忙しいんですけれども、銭湯のアルバイトって深夜の1時半から4時とかなんですね。終電で終わってそこから帰って、1時半から4時まで働いて寝れば、まぁいけるなと思って(笑)。

(会場笑)

本当に「週2ぐらいで週末って書いてあるし、いけるな」と思って応募してみたら、佑介さんとお話して、なんかもう「You、入りなよ」みたいな感じで(笑)。

(会場笑)

「ちょうど隣にアパートがあるから入る?」って言われて、「じゃあ入ります」と言って。本当にその日に一緒になることが決まって、その日に引っ越しも決めてみたいに、すごいスピード婚で今もこんな感じでやらせていただいています。

銭湯経営の新たなビジネスモデルの創出

なんでやっているかというと、もともと本当に銭湯が好きで、自分でなにか事業はいつかやりたいなと思っていたんです。ITにいるんですけど、別にITはそんなに好きじゃなくて。好きじゃないっていうとあれなんですけど、自分でなにかやるんだったら、こういうBETTARA STANDみたいなイベントをすてきにやっているコミュニティとかもそうですし、自分でお店とか。

自分の身の周りプラスアルファぐらいの人に対して、なにか価値を提供できるというか、「なんかお前のやってることイケてるね」というのを、ぜんぜん知らない人に言ってもらうより、本当に自分が好きな人により好きになってもらうようなことをしたいなと思っていまして。銭湯はすごくそこにもマッチするので、いいなと思っています。

もう1個は、けっこう業界の課題解決に自分がキーマンになれるんじゃないかなというのを、大それながらちょっと思っておりまして。

新聞社に入ったのも、IT業界でもともとイケてるサービスをさらに伸ばすというよりは、僕は本当に昔からなりたかった新聞業界で、1年に北海道の地方紙ぐらい部数がなくなっている斜陽産業なんですけれども、そういうところに入って自分が新聞社を、僕は朝日(新聞社)にいたんですけど、朝日新聞を救えるヒーローとかになれたらいいなと思っていました。

それはちょっと新聞社では実現できなかったんですけれども、銭湯業界で実現をしたいなと思いまして、入ったという感じですね。

「起す銭湯」という、なんやねんという、ウェイクアップなのかって感じなんですけど。やろうとしているのは「銭湯経営のあたらしいビジネスモデルの創出」です。「ビジネス」じゃなくて「ビジネスモデル」というところがミソなんですけど。

銭湯って、お風呂に入るという体験はもちろんそうなんですけれども、コインランドリーとか物販とか、周辺地域との関係性とか、実際に佑介さんから小杉湯の収支とかも見せていただいているんですけれども、意外と銭湯は、もちろん入浴業がメインではあるんですけれども、それ以外のところでかなりいろいろおもしろいことができるのかなと思っておりまして。

それを生かして、とくに僕のバックグラウンドでITみたいなものと組み合わせて、ビジネスモデルを作っていければいいなというのを、ミッションでやらせていただいております。

単発ではなく持続可能なビジネスに

とはいえ、新しいビジネスを行う際に、こういうことを大事にしないとたぶんうまくいかないんだろうなということをまずお話しさせていただきます。それを踏まえて、ざっくり2つぐらいしかやっていないんですけれども、どういうことをやってきたかということ。3番はけっこう妄想に近くて、こういうことをやっていきたいということをお話しさせていただきます。

いまさら気づいたんですけど、すごく(僕の)今日の格好がスティーブ・ジョブズっぽい(笑)。

(会場笑)

本当にぜんぜん意識してないという(笑)。じゃあ、歩きながら話そうか(笑)。

(会場笑)

自分で言って笑っちゃった(笑)。すいません。

まず新しく銭湯をやる際に考えるべきことというのは、横文字で書いているんですけど、サスティナブル、持続可能であることが絶対に必要です。

単発の、PRとかはいいと思うんですけど、単発のビジネスというものじゃなくて、例えばイベントでも、イベントを単発でやったら良いというわけじゃなくて、ちゃんと持続可能なビジネスにしないといけないと思っています。

そのなかでどうすればサスティナブルになるかというと、僕の中で4つぐらい必要なのかなと思いました。全部カッコつけて英語なんですけど、別に英語はしゃべれないので。

1個目が、模倣可能である、真似できるということですね。2個目が、それこそ既存の銭湯業界や、その周辺の人たちとの共存がちゃんとできるということ。あとIT、あとで例も出すんですけど、なにかと悪者に捉えられがちなので、とくに古い業界に対してはちゃんとポリティカルな、倫理的に正しいということでやっていくところと。

そして、オープンソース。今日の場もそうなんですけれども、いいことを隠さない。これは本当にIT全体でいい傾向だと思っているんですけど、いいものをちゃんとほかにも伝えて業界全体の底上げをするとか、そういうところがやっぱり大事なのかなと思っています。

なので、僕はそんなにすごく新しいことをするというよりも、まず模倣可能で、考えるべきは既存ビジネスのベースアップなのかなと思っております。

既存の業界と喧嘩をするようなことはしたくない

なのでゴールとして、僕がやることを「すごいな」って、例えば銭湯の経営者でほかでやってる方が思うというより、「あ、来年からうちでも真似できるかも」と思ってもらえたらすごくいいんじゃないかなとか、「やってみよう」と思ってもらえるのがすごく大切かなと思っています。

小杉湯もまだそんなに本格的にできていないですが、基本は入浴業があって、不動産の収入があって、あとはコインランドリーとか物販みたいにほかのビジネスがあるんですけど。そこに対してちょっと工夫を積み重ねることで、前年の昨対比でどんどん上がっていくようなことをするべきなのかなと思っています。

2個目は、日本だとすごくこういうのが多いんですけど、革新的でも、新しいことをやりすぎて既存の業界と喧嘩をする、みたいなことはやっぱり僕はしたくないなと思ってまして。

Uberとかも、日本だからこういうことになっているというのは、もちろんあったりするんですけれども、やっぱり新しいことをやりすぎて、もともとの業界のことを「いや、知らねーよ」みたいな、「エンドユーザーに対してはいいサービスなんだからいいじゃん」みたいな感じでいくと、すごく摩擦が起きます。とくに銭湯みたいな古い業界だったりすると起きる。そう思っているので、そういうサービスとかビジネスはやらないほうがいいのかなと思っています。

結局、悪いことはやっぱりしちゃダメだと。最近だと、まぁ別に悪いことをしてるわけじゃないと思いますけど、有名な「チケットキャンプ」が閉鎖したり、WELQの問題はみなさんが認知するぐらい、本当に社会的な問題になっています。

こういう「儲かるからいい」とか、「新しいことをするからいい」とか、もともとが新聞社でけっこう正義感にあふれているのもあって、こういうことはあまりしたくないと思っています。

今まで会った人トップ3に入るスーパー主婦

ナレッジの積極的共有というのは、たしか来月の終わりにもまた小杉湯を借りてイベントをやるそうなので、常に我々の発信をアップデートするというのが必要なのかなと思っています。

それを踏まえてなにをやってきたというのをお話しさせていただきます。1個は、Airbnb。いわゆる民泊って、これもちょっと日本だと悪いイメージがあると思うんですけど。我々が住んでいる湯パートの空き室をリノベ―ションして、民泊を行いました。

これも今の日本というか、杉並区だと一応30日以上という規制、いわゆる民泊法みたいなものがまだあって、長期の滞在はちゃんと届け出をしないと認められないんですけれども、ここは30日以上泊まる人、みたいなかたちでやっています。佑介さんが大家さんなので、いわゆる短期の賃貸契約を結ぶみたいなかたちで、正当に外国人の方をおもてなしして民泊をするという活動をしました。

実は佑介さんのお父様が、横尾忠則の(スライドの)こういうポスターを持っていたり、これもそうなんですが、既存のリソースで「いい部屋になるやん」みたいになって。僕も個人でAirbnbをやっていたことがあるんですけど、それよりもすばらしい日本情緒あふれるような部屋で、実際に泊まっている人たちからも本当に好評でした。

あとこれが既存のビジネスやコミュニティにとってディスラプティブじゃないところのポイントなんですけど、Airbnbやるうえで地域人材の活用を意識したというお話です。これまたミホさんという、僕が会った、本当に今まで会った中でトップ3に入るぐらい、マジで尊敬してるスーパー主婦なんですけれども。

高円寺の地域に住んでいて、たぶん小杉湯に誰よりも通ってる主婦の方です。ふだんは主婦なんですけれども、実は3ヶ国語を話せるとか、過去にはすごく有名な企業で働いていたとか。

今は主婦しかやっていないんですが、すごくコミュニケーション能力が高くて。この人がいないと、小杉湯の昼帯の常連さんばかりがいるところに新しい方が来ると、なんか常連さんが怒るんです。でも、ミホさんがいることでそこをちゃんと円滑にできるという、地域全体のキーパーソンみたいになっていて。

長期滞在だからこそ仲も深まる

彼女が主に掃除だったり、僕がちょっと行けない時間のゲストの迎えをすることで、本当に、エアビーを知っているとあれなんですけど、「最近お風呂に入りにくる外国人のお客さんが多いわね」みたいなかたちで、地域の人も受け入れてくれているし、なんなら「最近入りにきている若い子たちよりも、外国人さんのほうがマナーがいい」みたいに褒められることもあったりして。

ミホさんがいなかったらこれは成り立たなかったぐらい、本当によかったなと思っております。こうしたリソースの活用というのは今後なにかやる上でも、とくに銭湯ってもう地場産業だと思うので、うまくいかせるためのキーになるのかなって思っています。

長期滞在だからこそ、すごく仲良くなるみたいな。ちょっと写真が粗いんですけど、このクリスという男性とミホさんは、本当に付き合ってるんじゃねえかなと思うぐらい、今も仲が良くて。

僕とミホさんが飯を食べていても、彼がいたり。あとは、番台も彼が手伝ってくれていたり。

本当に長期滞在だからこそ、銭湯とか日本の文化についていろいろ話してくれましたし。逆にここの人たちじゃなくて、この方の前はアメリカ人の女性で歌手とかをやっている方だったんですけど、その方は長期滞在中に逆に恩返しをしたいと言って、小杉湯に英会話の教室のビラとかを貼って、それで「英会話を提供します」みたいな感じで。まぁ、ちゃんとお金は取るんですけど(笑)。

そういう長期だからこそすごく密にした、本当に銭湯ぐらしの一員になってくれるぐらいのコミュニケーションができたのは、すごくよかったのかなと思っています。

あと、最近はツアーというのが「エクスペリエンス(体験)」という機能がAirbnbにあります。これもすごく今Airbnbで推している機能で、審査自体は難しいらしいんですけれども、さすがの小杉湯ですね。企画は別の方がしているんですけど、通って。

銭湯を、実際に開店の様子を見て、最後にお風呂に入って、入ったあとにお酒を呑んで仲良くなるみたいな。

こういう日本をちゃんと知ってもらう、銭湯を知ってもらうというような活動をやっています。これは、さっき言った4つのポイントをすごく大事にしているからこそできたのかなと思っています。

銭湯が空いている時間をうまく使っていきたい

もう1個がCRMという、またコテコテな用語ですけど。要するに銭湯って、パレートの法則、お客さんの2割がほぼ常連で、2割が8割の売上を生み出すようなモデルです。

なので、ちゃんと新しいことをやって新規を囲うというのもそうなんですけど、既存のお客さんにもっと好きになってもらうとか、入浴業以外でお金を落としてもらうとか、そういうことをしてもらうことがすごく重要だと思っています。

それこそ、地場のお客さんが今日は何人来て、誰が訪問して、どういう活動を行ったかというような。

銭湯って本当にローカルで手勘定というか、すごく現金商売なので、何人来たかかもカウントしたりしてなかったりしてるんですけれども。それって普通だとありえないんですけど、こういうことをちゃんとやるだけで逆にすごく伸びると思っています。本当、タイムマシン戦略じゃないですけど、こういうことはやっていきたいと思ってやっています。

今後の取り組みは、エアビー以外にも、空きリソースの活用というのがあって。今「シェアリング」がトレンドにもなっていますけど、荷物の預かりサービスとかスペースの預かりサービスとか。

どちらのサービスもけっこう有名なので、もしかしたら知ってるかもしれませんが、2020年までにこういったシェアリングとか、とくに訪日外国人をテーマにしたサービスだったりするので、こういったものを使って銭湯が空いている時間をうまく使うと、もうちょっといいのではないかと思っています。

こういったことを手伝ってもらうにも、やっぱり僕は地域の人たちを大事にしたくて。さっき言っていたツアーも、まず叩きというか流れは僕とかが主導になってやったりはするんですけれども、ある程度フォーマットができたら、それを働きたいけど働き口がない地域のおじいちゃんなどに働いてもらって、そこで国際交流をしてもらって、みんなハッピーみたいなかたちにできたらいいなと思っています。

消費ではなく体験の流れが来ている

あと、ここから妄想なんですけど、消費から体験への流れみたいなものがIT産業に来ていて。この辺はどれも有名な企業なんですけど、たぶん思い起こして見ていただくと、ExcelとかPowerPointとかIllustratorとかも、買い切りからサブスクリプションになりましたよね。年間契約みたいな。いかに使い続けてもらうかというところが重要になっています。

そういうのをITの世界だと「Software as a Service」と言います。SalesforceというBtoBで一番大きい、BtoBのGoogleみたいな企業が作った言葉なんですけど、こういうサービスがすごくお手本になるのかなと思っています。

うちの会社でやっているビジネスもこういうSaaSというモデルなので、ここを取り入れると、例えば銭湯の入り放題モデルとか。入居してもらいながら、サービス自体は使い放題で、いわゆる年間で加入してもらうことで、その月その月の収益で考えるよりも、経常収益が1年先まで見えるような状態にすると、もっと長期的に投資とか新しいことができるのかなと思っていまして。そういうことをやっていきたいなと思っています。

うちのメンバー全員、「余白」と言ってるのであれなんですけど、もう本当に銭湯って余白だらけで。僕みたいな若造ががんばればなにかいけるんじゃねえかって感じになっていて。斜陽産業なんですけど、逆にビジネスチャンスなので。やっぱりオリンピックとパラリンピックが1つのタームになるかなと思うんですけど、いまちょっと銭湯にきているブームをムーブメントとしてカルチャーにできれば、仰々しく言ってる「起す銭湯」というのが本当にちゃんと名乗れるようになるかなと思っております。

ちょっとオーバーしましたが、僕の話は終わりです。以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

平松:これで、3人のプレゼンテーターの話を聞いていただいたんですけど、最初にお話しした「クリエイター・アーティスト×〇〇×銭湯」というかけ算が非常におもしろくて。

アートと銭湯のかけ算、そして広告と銭湯のかけ算、旅と銭湯のかけ算、今のITと銭湯のかけ算。いろんなところのかけ算によって、僕自身も銭湯を経営していく上での、これから描く上でも大きな発見をいろいろとしています。このあと、さらにみなさんにそういうところのお話をお伝えできればなと思っています。

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