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「銭湯ぐらし」が生み出すビジネスの可能性〜銭湯×コミュニティ×まちづくり〜(全11記事)

「銭湯ぐらし」を通して気づいた新たな可能性 衰退の先にある「余白」は、私たちに何をもたらすのか?

2017年12月20日、BETTARA STAND 日本橋にて、「『銭湯ぐらし』が生み出すビジネスの可能性〜銭湯×コミュニティ×まちづくり〜」が開催されました。高円寺の銭湯「小杉湯」のとなりにある、風呂なしアパートから生まれたプロジェクト「銭湯ぐらし」。銭湯と風呂なしアパートを拠点にしたオープンイノベーションプラットフォームとして様々な取り組みを行ってきた「銭湯ぐらし」のメンバーたちが、約1年弱の軌跡と銭湯にかける熱い想いを語ります。本パートでは、建築家の加藤優一氏が登場。築く銭湯としてのプロジェクトの役割や、「まちやど」の中の銭湯の可能性について語りました。

2人の出会いがなければ「銭湯ぐらし」は生まれなかった

平松佑介氏:最後は、僕はカトちゃんって呼んでますけど、加藤くんにお話ししてもらいたいと思っています。この銭湯ぐらしは、彼との出会いがなければ生まれることはありませんでした。

僕が冒頭で話したように、当初は「いよいよ新しい建築にしていこう」、「新しい建築を考えていこう」ということで、「新たな建築として、銭湯の価値を高める建築をするにはどうすればいいのか?」というのをいろんな人に相談していった時に、彼を紹介されて。

まあ、彼といろんな話をした時に、「いや、そもそも既存のこのアパートを活用したプロジェクトをやりましょうよ」ということを彼が提案してくれて、企画書をつくってくれました。

このアパート自体は僕の所有ではなくて、僕の父親が所有しているアパートになるので、当然こういうことをやりたいと、こういう仲間内、若いメンバーで盛り上がっても、父親のOKがもらえなければ進められないので。

父親にプレゼンする日をつくって、にプレゼンテーションしてもらったら、すごく父親が喜んでくれて、スタートすることができました。本当にカトちゃんがいなければ、このプロジェクトは始まっていなかったと思ってるので、彼の話を最後に聞いてもらえたらと思います。

加藤優一氏:こんばんは、カトちゃんです(笑)。ええと、みんなからはカトちゃんって呼ばれてます。

ちなみに僕は今期、銭湯トークイベントは3回目なんですけども、1回目の「BETTARA STANDのイベント」に来てくださった人って、どれぐらいいますか?

(会場挙手)

おー、けっこういる! じゃあ、2回目の「東京銭湯とROOMIEのイベント」に来ていただいた方。

(会場挙手)

申し訳ありませんが、今日も同じことをしゃべります(笑)。

(会場笑)

地域の新しい価値観をつくっていく

僕は「築く銭湯」ということで、専門は建築とかまちづくり、プロジェクトでの役割は、空間デザインに加えて、プロジェクトの全体設計も一緒にやっています。

今日は全体統括という立場から、銭湯に多様なくらしを結びつけること自体が、新しい価値観や事業を生む可能性になっているという話。もう1つは、まちづくりの視点から、銭湯と風呂なしアパートを掛け合わせることで、銭湯付きアパートという新しい概念が生まれるという話をしたいと思います。

まず自己紹介ですが、オープン・エーという、建築のリノベーションや街の再生を得意とする設計事務所に勤めながら、公共R不動産というプロジェクトを行っています。

東京R不動産で家を探した人とかいたりします?

(会場挙手)

ありがとうございます。R不動産の活動の一貫で、公共空間の活用をうながすメディア運営とコンサルをやっていて、空間資源を活かした仕組みづくり・デザインを専門にしています。

個人的にも、実家の山形で最近会社をつくって、空き家の所有者や使いたい人、サポートしたい人などを繋いで事業を生む活動を行っています。共通するのは、活用可能性のある空間的な資源や人的な資源を結びつけて、地域の新しい価値観をつくることです。

銭湯ぐらしも、けっこうこれに近い考え方を援用しています。今も話が出ましたが、ことの発端は、僕がもともと小杉湯の常連だったんです。小さい頃から親父と銭湯に行っていたんですが、小学校の時から僕は慢性冷え性と肩こりを抱えていて、もう銭湯がないとけっこう生きていけない体を持っていたんですね。

それで、たまたま高円寺に住んでいたので、近くの小杉湯に入っていたと。ちょうどその時佑介さんは、アパートの活用について共通の知人に相談していて、共通の知人が僕に「近くに住める銭湯があるらしいよ」という、拡大解釈で僕に伝えてくれた(笑)。

(会場笑)

次の日見に行って、その日に住むことが決まったという……そんな感じで進みました。

銭湯の隣で生活したら、どんな化学反応が生まれるか

銭湯ぐらしの企画も、最初の条件を素直に形にしています。1年間誰も住んでいない風呂なしアパートがあることと、常連さんに多様なクリエイターがいること。

「これは、みんなで住んで、それぞれの専門性を活かしながら、プロジェクトをやったらいい」という、答えがもうすでに見えていた状態でした。いつもやっている空間的資源と人的資源を掛け合わせる手法です。

最初に書いた企画書がこんな感じです。

ゴールを決めずに、銭湯の隣で同じ価値観を持って生活したら、なにか化学反応が生まれるだろうという、けっこうライトな感じで始めて、1年ぐらいが経ちます。今日プレゼンにあったように、予想以上にいろんな可能性が生まれました。

今日プレゼンに来ていない人のプロジェクトも、いろいろあります。例えば「歌う銭湯」。

これはミュージシャンの江本さん、EMCというバンドを組んでる人が、月に1回、小杉湯でフェスをやっています。やっぱり銭湯は歌が響くので、すごくアーティストさんが喜んでくれました。あと、これまで銭湯に関心がなかった人が来てくれたり、そういう可能性が生まれています。

あと、「描く銭湯」。塩谷さんというイラストレーターは、銭湯のイラストを描いています。

左下のものが銭湯図解というイラストで、アクソメトリックという図法で銭湯を描いています。もともと建築をやっていた人なので、パースを描くのが上手で、東京の銭湯を回って、銭湯の魅力をSNSで発信しています。

小杉湯では、こういう銭湯のマナーや温冷浴の仕方を、わかりやすく絵で表現しています。温冷浴をご存知の方……?

(会場挙手)

あ、けっこういる。熱いお風呂と冷たい水風呂に交互に入ることで、交感神経と副交感神経のバランスが整って……すごく気持ちよくなるんです。この図のように宇宙コースまでいくと、銭湯を通じて世の中の平和を感じられるみたいです。

(会場笑)

銭湯付きアパートという新しい概念

僕は、こういう多様な出来事が起きる状況をつくることを担当しています。全体の企画以外には、週1回の定例会とDIYによる空間づくりなどによって、銭湯ぐらしの世界観、1つの世界観を担保しています。

という感じで、今日プレゼンにもあったプロジェクトを合わせると、かなりの数になりますが、様々な事業の可能性が生まれました。

例えば、音楽イベントや、アーティストinレジデンスをやることで、アーティストと銭湯の親和性が見出されたほかに、営業時間外の銭湯活用の可能性も見えてきた。あと、銭湯にイラストやデザインを組み合わせることで、UIデザイン・ブランディングによって、銭湯の魅力向上につながったり、宿泊やツアーを掛け合わせることで、インバウンドの展開も見えてきた。企業との連携で、銭湯自体が消費者と企業のタッチポイントになるという発見もありました。

けっこうちゃんとした、と言ったら変なんですけど、しっかり事業の芽が出てきてる。アパートは2月に解体されますが、こういった可能性をしっかり事業として継続できるように、組織化などを最近検討しています。

今日もう1つ話したかったことは、銭湯と風呂なしアパートを掛け合わせて、銭湯付きアパートという、新しい概念を提示できたことです。

銭湯付きアパート、つまり、風呂なしアパートに住んでいましたが、そんなにつらくないし、むしろすごくいいんですね。

僕、毎日仕事で、つらい日々を送ってるんです……。

(会場笑)

帰ったら、楽しいことをしないと寝たくないという気持ちがあって。今までだと1人で飲みに行ったり、けっこう不健康な生活を送っていましたが、その楽しみが銭湯に変わるということで、すごく健康的でいい生活を送れています。

銭湯がそばにあるくらし

風呂がないことで不便な分、生活の一部を街で共有することになるので、人とのつながりが生まれたり、一日の中で人との距離感を調節できる時間が出来たことがよかったです。銭湯がそばにあるくらしというのは、次世代の価値観に近い気がしているんですね。あと、くらしの一部を共有することって、街にもいいことがあると思います。

ちなみに、不動産とか建築的観点から言うと、新築で風呂なしアパートを建てると水回りを整備しなくていいので、すごく初期投資が安いんですね。少なくともシャワーだけあって、銭湯を使うモデルもあるかなと思います。

あと中古でも、風呂なしアパートではなく銭湯付きアパートと、言葉を変えただけでブランド力が増すことを感じていて、そういうブランディングも展開していきたいなと思っています。

じゃあ、ちょっと概念的な話ですが、先程の「その銭湯がそばにあるくらしが次世代的」という理由についてです。最近、くらしの一部を共有する豊かさについては共通認識でみなさんお持ちだと思うんですけども、銭湯はちょうどいい位置付けにあるんです。

シェアハウスほど生活を共有しなくていいし、ゲストハウスほど非日常でもない。さらに、シェアオフィスほど目的性が強いわけでもなく、選択の余地のある生活の余白としての位置付けられると思うんです。

サード・プレイスというか、カフェのように自分でタイミングとか他人との距離感を調節でき、関わり方を選べる場所は、今の都市において稀な存在です。目的に埋め尽くされていく毎日の中で、ふとしたそういう時間を保てる場所というのは、重要になってくると思います。

衰退をポジティブにとらえて可能性を広げる

次に、くらしの一部を共有することがまちづくりにつながるという話です。これからは、街に住むように暮らす人が増えてくると思います。観光のあり方も、高級ホテルに泊まってサービスを受けるだけではなく、その土地で暮らすように泊まるスタイルに嗜好が移つつありますが、その感覚が生活にも延長されていくような感じがしています。

でも、これはすごく真新しいことじゃなくて、近代化で分業が進む前は普通にやっていたことだと思うんですね。

そして海外では既に同じような現象が起きている。

最近、『CREATIVE LOCAL / エリアリノベーション海外編』という本を出しました。

CREATIVE LOCAL:エリアリノベーション海外編

これは、衰退の先にある風景を探すという目的の本です。日本では、地方消滅や空き家問題など、すごくネガティブな都市の未来像が描かれていますが、海外では衰退をポジティブにとらえて、可能性を広げてる都市はけっこうあって、それを調査したこんです。

例えば、イタリアのアルベルゴ・ディフーゾというプロジェクト。

イタリアって300人ぐらいの自治体がいっぱいあるんですが、日本より先に人口減少を迎えていて、空き家だらけなんです。

人口減少によって余白ができて、それをポジティブに転換する動き

ここでなにが行われてるかというと、最初、大黒(健嗣)さんのプレゼンにもあったように、「まちやど」という考え方が広がっています。受付が地域のお店にあって、そこで鍵をもらって勝手に空き家に泊まるシステムで隣には地域の人も住んでいます。そういう街を共有するようなプロジェクトというのは、すでに海外で起きていて、最近日本でも広がりつつあるんですね。

人口減少によって余白ができて、それをポジティブに転換する動きは、きっと日本にもこれからやってきます。そこで銭湯は、日本の生活文化で欠かせないものなので、こういったプロジェクトと組み合わせることは、かなり可能性があるんじゃないかなと感じています。

今までのまちづくりって、行政主導で大きな計画が立てられて、立ち入る隙のないビルみたいなものがドーンと建つ、というプロセスで進んできました。

今の街のつくられ方は、民間主導の小さな実践から始まって、参加の余白があるプロセスと空間が生まれている。銭湯ぐらしはプロセス面でも空間面でも、余白を大事にした活動です。こういう未来のまちづくりみたいなことも意識しながら、銭湯ぐらしを続けて行ければなと思います。

すごく抽象的な話になってしまったんですけども。参加の余白があるプロジェクトなので、まだまだこれからやりたいこともあるし、みなさんにいろいろアイデアをいただきながら進めていきたいなと思います

プロジェクトメンバーもぜんぜん固定してるわけではなくて、MTGに初めて来る人も4、5人ぐらいいます。みなさんもコミットする機会があると思うので、ぜひ参加してください。以上です。

(会場拍手)

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