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働くママとパパは理解し合えるか?子育てをめぐる男女のギャップ問題(全6記事)

「女性はもうじゅうぶん活躍している」家事・育児という“労働”に対する無知はなぜ治らないのか

共働きを選択するママは増えていますが、「女性は家庭、男性は仕事」という認識は根強く、今でも、パパとママの間には悩みや不満が尽きることがありません。男性学研究者の田中俊之氏と、「博報堂リーママプロジェクト」リーダーの田中和子氏が、ランチケーション(働くママたちの異業種ランチ会)から生まれた「糧ことば」を紹介しながら、子どもを持つ共働き夫婦がどうすればわかりあえるのか、お互いの立場から語りあいました。本パートでは、「女性が輝く社会」や「一億総活躍」といったキャッチフレーズに感じる違和感について、家事・育児に対する正しい評価がされない背景とともに議論しました。

「女性はもうじゅうぶん活躍している」

田中和子氏(以下、田中和):2年ほど前から、「女性の活躍」とか「女性がもっと輝く社会に」と言われ始めた時、「私、もうじゅうぶん輝いているんだけどなぁ……」って思ったんです(笑)。

「もっと輝いていいって言うなら輝いて見せてあげましょう」と思いつつ、これを2年間言われてきて、私自身だいぶ疲れてきちゃったんですよね。

田中俊之氏(以下、田中俊):やっぱり、僕はあんまりいいキャッチフレーズだと思わないんですよ。「総活躍」とかについても。言い方は悪いですけど、「人が足りないから、女の人にも働いてもらわないと困る」みたいにしか聞こえないから。

それは産業界のせいであって、女の人自体がしたい働き方をできるという話ではないので。あれは大変気になりますし、人から言われるようなものでもないと思うんですよね。「輝く」とか「活躍」というのは。自分で基準を持つべきところなので。非常に懸念がありますけれども。

田中和:ちなみに私は、平日よりも休日のほうが疲れます。

田中俊:そうですか。

田中和:専業主婦じゃないからこそ、休日に向けて家事を溜め込んでいるので。今日も洗濯機を3回まわして来ましたけど、 午前中はPTA の広報委員会で下期の広報誌のレイアウトをママたち6人で集まって決めて、家に帰って、子供たちにカレーを食べさせて、真ん中の子と上の子を習い事に送り出して、ここに来て、私、今日一番安らいでいるんですよ(笑)。これが平日だと、朝頑張って、とにかく全部終わらせて、会社に行くと座れるんですよね。

「総活躍」とか「もっと輝け」と言われた時に思ったのは、「これを考えた人って、家で家事・育児をしてないな」って。

家事労働というのが、どれだけの労働なのかっていうことを(わかっていない)。生活しているだけでじゅうぶん活躍していますよ。この労働が正当に評価されているか、また女性だけの負担になっていないかの議論はさておき。

若い世代は「家事で1日が終わっちゃう」という経験をすべき

田中俊:そうですよね。だから、若い世代について言えば、なるべくひとり暮らしをしたほうがいいなと前から思っているし、提案したいんですよね。

僕は東京の大学、東京の大学院に行って、実家は東京なんですけれども、大学院生の時からひとり暮らしを始めたんです。

というのは、1人になったほうがゆっくり研究できて、成果が上がるだろうと思ってやったんですね。びっくりしたのは、家事をやっていたら、それだけで1日が終わっていくので、ちっとも研究ができないんですよ。

(会場笑)

田中俊:それでなんか知らないですけど、家事にハマって、トマトソースとかもホールトマトをじっくり煮ていたりしていたら、それで1日が終わっちゃうんですよね。これはマズいなと思ってやめたんですけど。

特に、今の若い子のご家庭に専業主婦のお母さまがいらっしゃると、家事はしなくても済むものだと思っちゃう。お母さまがやってくださるから、大変さがわからないんですね。

食べれば洗い物が出るとか、着たら洗濯物が出るという基本的な教育・家事を子供の頃から手伝わせているご家庭ならいいんですけど、そうでない場合、特に専業主婦のお母さんはそれが自分の役割だし、それこそ自分が輝くところだと思っている方は一生懸命やってらっしゃると思うんですよね。

だから、そういう経験がないままご結婚された場合、非常に大きなハンデがあるというか……。特に、女性のほうが家事をやる家庭だった場合には、共働きになった時に、妻にどういう負担をかけているのかうまく理解できない男性が一定数出ちゃうんじゃないかなと思いますね。

田中和:子供のためと思って「あなたはいいから勉強しに行きなさい」と言うのが逆に仇となる可能性が?

田中俊:それはもう長期的に考えれば。だって、よく言われることですけど、家事ってやらなかったら生きていけないものですよね。

仕事もやらなかったら生きていけないですけど、家事だってやらなかったら生きていけないものなのに、その一方のスキルを極度に欠いてしまうのは問題ですよね。

家庭科を学んでこなかった男子学生

田中俊:これは本にも書きましたけど、家庭科って共修になるのが遅かったじゃないですか。1993年とか1994年に高校、中学で共修になったんですね。(注:1993年に中学校、1994年に高校で共修化)。

僕の世代、男の子は何をやっていたかというと、家庭科をやっている時間に、中学の時は「技術」ですよ。トランジスタラジオとか作って。今どき絶対作らないと思うんですよ、トランジスタラジオなんて。

(会場笑)

田中俊:だいたいradikoがあるから、もういいんですよ。アプリで済む時代がやってきたわけですよ。家事は何年たってもやらなきゃいけないのに。高校生の時は「格技」ですよ。格闘技。

田中和:えっ? そんなのやるんですか、男の子って?

田中俊:少なくとも都立高校ではそうです。剣道か柔道は選べるんですけど。でも、家庭科は女子だけがやっていて。

田中和:え~っ、それって体育の授業がダブルであるみたいな感じじゃないですか?

田中俊:そうです。僕は柔道をやっていたんですけれども、「だから何?」ってことなんですよ。

田中和:きっと暴漢には強いですよ(笑)。

田中俊:いやいや(笑)。そこまで強くなれるほど、学校の授業ではやらないわけですから。

男女をわけた教育が役割意識を欠落させる

田中和:家庭科のあり方でも、女子も、確か「ごはんを炊きましょう」から始まりませんでした? 小学生は、まず「雑巾を作りましょう」。「雑巾を作りましょうは、実用的でいいと思うんですけれども。

家事をやらないと生きていけないよねとか、1日のうちに必要な家事が何時間あるかとか、1週間の食料ってこれだけあって、それを調理するためにどれだけ手間隙かかるかなとか、それを全部自分でやっていたらどうかなとか、家に帰って自分のお母さんを観察してみようとか……。

家庭科も技術ばかりを教えていて、そういうのが嫌いな子は全然話を聞いてないし、家庭科って女の子でも半分以上は遊んでいる時間じゃないですかね。少なくとも私はそうでした。何か考え直したほうがよさそうです。

田中俊:そうですね。ただ技術うんぬんについては、こういう話をすると、「いや、別に男だってクックパッドとか見れば作れるだろう」という話があるんですけど。

問題なのは、「隠れたカリキュラム」って社会学で言うところのもので、そうやってわけて教育しちゃうと、自分の役割だと思えないというところが問題なんですよね。

例えば、進路指導で言われるのは、理系に進む女の子って少ないですけど、そういったものを自分の将来と結びつけて考えられないようになっているし、親も「理系に行けば」とか勧めない。

進路指導でも、男の子が文学部に行くって言ったら反対する教員はけっこういると思うんですよ。就職につながらないということで。

田中和:うちの旦那がそうでした。「文学部に行きたい」って両親に言って、大反対されて、最初経済学部に行ったんですけど、「やっぱりやりたいから」ということで文学部に行ったんです。

田中俊:科目の内容というよりも、学校で「これが男として普通の進路だよ」とか「女として普通の進路だよ」と教え込まれているということは、実はみんなが思っている以上に大問題で、それを「隠れたカリキュラム」って社会学では言うわけですね。

カリキュラム上こうなっているということとは別に、「男のコースはこっちで女のコースはこっちだよ」って分けられちゃっているということに問題があるので、単にカリキュラムを改修していくというよりも、やっぱり社会全体にある、男と女を2個に分けてやるような考え方をなくしていかないといけない。

男子が抜かれないように女子は遅くスタート?

これがどのくらいひどいかというと、僕の友達が調査した高校で、長距離走のタイムを測る時に、女の子だけ3分遅くスタートさせるという学校があるんですよ。それはなぜかというと、女の子に抜かれる男の子を絶対に出さないためなんですよ。

田中和:意味がわからないです、私。

田中俊:3分遅くスタートすれば、ビリの男の子は先頭の女の子にも抜かれないじゃないですか。混ぜて走らせちゃうと、女の子に負ける男の子がワラワラ出てきますよね。

田中和:そうですね。

田中俊:そう。だから、一緒に走らせない。わざとスタートを遅らせて、男と女は違うっていうことにしたいんですよね。一番ひどい例では、そういうことになっている。

100メートル走とかでもいいんですよ。20秒遅れてスタートしたら、どんなオリンピック選手だってもう絶対抜けないじゃないですか。そういうことをやらせている学校もあるらしいんですね。

だから、やっぱりまずいんですよ。普通に生きていれば、足の速い女の子と足の遅い男の子だったら、当然足が速い女の子のほうが速いはずです。つまり、個人差のほうが男女の問題より大きい問題でも、男女で2つに分けようとする傾向があると。これはけっこう大きな問題だと思いますね。

田中和:確かに、成果もフェアなんだったら、機会もフェアにしてもらわないと。

田中俊:そうなんです。

田中和:女性も扱いを男性と同じになることを覚悟しないといけないかもしれませんね。長男と長女の躾も無意識に差をつけているかも。考えさせられます。

自動化できるところは頼ればよい

田中和:あと、家事・育児を女性が頑張りたいという意欲もすごくあるんじゃないかなと思って。日本の女性って家事時間がものすごく長いんですよ。別に専業主婦かどうかに関わりなく、他の国の女性と比べるとすごく長くて、やっぱり完璧にやりたい。

自分で言うのもなんですけど、日本の女性は優秀です。その中で「やらなくてもいいよね」「ホコリでは死なない」というような、「もうちょっとスペック落としてもいいんじゃない?」ということばも出てきたりしていますね。

田中俊:これはかなり自動化できる側面があって、僕は結婚したお祝いに同僚たちからルンバをいただいたんですけれども……。

田中和:素敵ですね。

田中俊:いいと思いますよ、ルンバって。使ってみるまでもう少しバカなのかなと思ってたんですけど、これが賢いもので、リビングに置いて出かければ、かなりきれいになってますよね。自分で買うのはちょっとはばかられる値段かもしれないですけど、何かのタイミングで人にもらったりすれば。

つまり、手を抜いてもいいはずのところを、自分が頑張ってやっちゃっているところがあるとするならば……。でも、それは個人の趣味の問題なので。

「それ(家事)をやっていると楽しい」という人の場合はそれが息抜きになると思いますけれども、そうじゃないという人は、ホコリでは当然死にませんし、ある程度自動化できるものは自動化して頼っていくということでいいと思いますね。

田中和:ルンバって本当に発明だなと思うのは、掃除が楽になったんじゃなくて、「掃除のない生活を手に入れた」ということなんじゃないかなと思って。

田中俊:そもそも床が雑然としていると彼(ルンバ)が機能できないので、ベースを綺麗にしておく習慣がつくのがいいと思いますね。床に物が散乱していたら、ルンバは機能しないですからね。

田中和:うちはルンバじゃなくてシャープさんの「COCOROBO」という自動掃除機を使っているんですけれども、しゃべるんですよ。関西弁でしゃべってくれるんですけど、ぶつかると「イタイ~」とか言うんです(笑)。

それで、「ほら、COCOROBOちゃんが走り始めるよ」って言うと、子供たちが必死になってレゴとかを集めて。吸われちゃうので。

田中俊:いいですね。

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