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働くママとパパは理解し合えるか?子育てをめぐる男女のギャップ問題(全6記事)

「男は結局仕事でしか評価されない」世の中のイクメン像に苦しむパパ達の本音

共働きを選択するママは増えていますが、「女性は家庭、男性は仕事」という認識は根強く、お互いに配偶者に不満を抱える夫婦は少なくありません。男性学研究者の田中俊之氏と、「博報堂リーママプロジェクト」リーダーの田中和子氏は、ランチケーション(働くママたちの異業種ランチ会)から生まれた「糧ことば」を紹介しながら、子供を持つ共働き夫婦がどうすればわかり合えるのかを語り合いました。本パートでは、「男性は仕事、女性は家庭」という考えが根強い背景として、男性の社会的な評価基準が、家事や育児ではなく仕事の成果に偏っていることの問題が挙げられました。

パパを育てるか? 初めからいないものと思うか?

田中和子氏(以下、田中和):(次に)パパとの関係の話です。「パパも育てるもの」という糧ことばです。パパの家事時間が1時間という話の中で、「初めからパパが家事ができるわけじゃない」と納得した上で、パパとどう付き合うか。でも、本当はママも同じなんですよね。

お母さんだって、初めての母親業なんですよ。しかも、それまでずっとサラリーマンとしてフルタイムでやってきているので、家事という家事をやっているわけではない。子供ができて初めてきちんと家事に向き合うんじゃないかな。

自分は必要に迫られていろんな葛藤の中で頑張っているのに、パパはなかなか家のことに入ってきてくれないという時に、「いや、パパだって根気よく育てていくとやってくれるよね」っていうような話。こちらはハッピーエンドを想像できることばですね。

それと、もう1つセットで出てくることばが、「パパはいないものと思え」と。どうせ帰ってこないお父さんはいないものと思ったほうがよっぽどストレスがないと。こんな2つの両極端なことばがあるんですけど。

田中俊之氏(以下、田中俊):やっぱり、現実に家庭を営んでいる人にとって、今日・明日が問題だということもあると思うんですね。

長期的に考えれば、パパはいないものと思うことは、あらゆる意味でお勧めできないと思うんですよ。「だったら独身でいるほうがいい」という話になっちゃうじゃないですか? 僕は39歳まで独身だったから、よく知っているんですけど。

いないと思ってよいのであれば、結婚しなかったほうがいいんでしょうけど、ごく短期的に、例えば、夫が週60時間ぐらい働くような職場に勤めている場合とか、新聞社みたいに転勤が多いという場合。そもそもいない中で「パパもやってくれれば助かるのに」って悩むこと自体は、非常に不毛なことになってしまうので。

「糧ことば」っていろいろな種類があって、僕も読ませていただいておもしろいなと思うんですけども、ユンケル的なものと、漢方薬的なものを使いわける必要があって。これ(「パパはいないものと思え」)は、ユンケル的なものだと思うんですよね。

田中和:ははは(笑)。即効性のある。

田中俊:今日頑張りたいけど、ユンケルって毎日飲んでたら……。

田中和:いろんな意味で健全ではないかも。

田中俊:僕は毎日飲んでいるんですけど。毎日飲んでいるから、奥さまに「それはすごく無駄だろう」と言われているんですけど(笑)。

田中和:根本的なリセットをどこかでしないと(笑)。

田中俊:長期的には、このような考えはするべきではないけれども、今すぐというところでは、必要ということになるわけです。

性別役割を信じている大学生たち

田中俊:とりわけ、家事・育児に関しては、女性だからできるというわけじゃないけど、無関心の男子がいるんですよ。今の大学1年生においてすらそうです。

大学1年生に、「君らが結婚したら、お料理はどうするつもり?」って聞いた時に、半分ぐらいの男の子は「奥さまがやる」って言うんですよ。

「なんで?」って聞くと、「僕がやってもおいしく作れない」とか。どうして奥さまだったらおいしく作れると思ったのかという疑問はあるんですけれども。でも、働くとは思っているんですよね、彼らは。

今の大学1年生でも、結婚して専業主婦になるという女の子が一定数いるんですよ。つまり、この問題は性別役割分業の問題で、「男は仕事、女は家庭」というのをみんなが信じている社会だから、若い子もそれを信じているんですよ。

だから、とりわけ家事の面に関して育てないと、そういうことを自分の役割だと思っていない男の子は一定数いるし、逆に仕事でお金を稼いで家計を支えることを自分の役割だと思っていない女子もいるっていうことのセットであるので。

これは両方育てていかないと、とりわけ彼らの世代は共働きしないと家計の維持が難しいでしょうから、お互い足りない面を育てなきゃいけないし、特に年長者とか教育機関の人は、そのことを彼らにうまく理解させないといけない。

大学生の役割意識に変化のきざしも

ただ、もちろん変化はしていて、「奥さまのほうがお給料高かったらどう?」って聞いた時に、「ラッキー!」って言う男子は一定数出てきたんですね。20年前にはいなかったと思うんですよ。

妻のほうが背が高いのは嫌とか、学歴が上なのは嫌とか、とにかく何でも奥さんのほうが自分より上なのは嫌だという男ばっかりだったと思うんですよ。

実際、東大の女の子はモテないとか、早稲田の女の子はモテないとかあると思うんですけど、それが変わってきている子もある。奥さまがいっぱい稼いでくれているんなら、自分は地域限定正社員とか、パートとか、あるいは主夫でもいいという。だから、過渡期ですね。これはお互い。

田中和:女子も(社会性を)育てるものだと。

田中俊:そう。これはお互い様だと思うんですよ。

田中和:なるほどね。ママのランチケーションでは、そういうふうには出てきません(笑)。みんな、ママとしての一人称で語っているので。

田中俊:でも、いいと思うんですよ。場面場面によって(使いわければ)。そういうのはユンケルなんですよ。ガス抜きが必要だから。ママだけで集まって、「パパはいない」とか「あいつは育てないとね」って愚痴を言うのはいい。逆もやればいいと思うんですよ、パパも集まってね。

配偶者に不満がない人はいない

田中和:なかなか激しそうですね、パパランチケーション(笑)。

田中俊:いいと思うんですよ。だって、奥さまに不満がない人とか、配偶者に不満がない人とか、世の中にいるんですか?(笑)

(会場笑)

田中俊:だから、それが「こうあるべきだ」という話なんですよ。それが人間を苦しくさせちゃう。「夫婦とは常に仲良く睦まじくあるべきだ」って思っているから。あるに決まっているじゃないですか、嫌なところとか、愚痴とか。「お小遣いもうちょっと上げてくれ」とか。

田中和:しかも年を取ると、だんだん自分も変わってくるしね。

田中俊:そうです。だから、ガス抜きは必要なんです。

田中和:夫婦のガス抜きね。ガス抜きしすぎちゃって、私1回だけ家出したことがあるんですけど、それはちょっとまた今度……。

田中俊:ははは(笑)。

結局のところ、男性は仕事で評価される

田中和:パパとママの関係や家事・育児負担で言うと、何だかんだママが抱え込みすぎているのは、私はどうにかしたほうがいいんじゃないかなと思ってるんです。

ママ友をもっと活用しようよとか、もっと地域の輪をつなげていこうと、前向きなことばとしてこういうのがあるんですよ、「遠くの親戚より近くの他人」と。

でも、今から思い返すと、「パパにもっとやってもらおうよ」という話はその時出てこなかったんですよね。

田中俊:すごく真面目な話をすると、日本の場合、男の人は家事や育児をいくら一生懸命やっても、さほど評価されないという現実がある。

じゃあ、何で評価されるかというと、男の人はやっぱり働いていたらめちゃめちゃ評価されるんですよ。「長時間労働はよくないね」なんてみんな言いますけど、長時間労働の現場では、やっぱり彼らは評価されているわけですよ。

結果、偉くなっていって、職位が上がったり、年収が上がったりした場合に、その人の評価は下がらないどころか、上がるんですよね。

これは女性学を日本で始めた井上輝子先生がおっしゃっていることですけれども、女性の場合は、評価の基準が、日本では結局、美と若さしかないと。

田中和:ドキッ(笑)。

田中俊:いやいや(笑)。僕がそう言っているわけでも、井上先生が偏見で言っているわけでもなくて、社会的にそうされてしまっていることは、大変よろしくないことですよねっていうことですよ。

男性の場合は、仕事上の経験と業績。イクメンの話題を見ていても、例えば「主夫」になった人をフィーチャーして、「あの人は素晴らしいね」という動きって、ほとんどないと思うんですよ。つまり、世の中のイクメン像というのは、仕事もバリバリしていて、かつ(家事育児もする人)。

仕事で有能であり、かつ家事・育児を頑張る人は評価されるけど、一番低いことで言えば、主夫みたいになって、仕事をやめましたという人、「僕は地域活動や、PTAとか子育てを頑張ります」という男の人が出てきた時に、やっぱり世間の評価は低いと思うんですね、残念ながら。

男性の評価基準を変えないと家庭に参加しにくい

したがって、男の人の評価基準が仕事しかないというところが変わっていかないと。

奥さま自体も、自分のパートナーにどういう期待をしているかというのを考えてみた時に、こういう話があるんです。

(ラジオパーソナリティの)小島慶子さんの夫が、仕事を急に辞めてきたんです。小島慶子さんってかなりフラットな考え方の持ち主だと思うけど、それでもやっぱりショックを受けたと。

なぜかというと、男が働かなくなる、自分のパートナーが仕事をしないなんていう事態があるとは思っていなくて、そう思った自分にびっくりしたみたいなことが書かれていました。

だから、「遠くの親戚よりも近くの他人」と言った時にパパが出てこない理由は、奥さまの中で、仕事を外してまで、家事や育児のところに来てもらおうとは思ってないし、そうされると困るというところも僕はあるんじゃないのかなと思っています。

話を戻すと、結局、男性を評価する軸が仕事しかないということは、家庭の問題においてはパパの協力は得にくくなりますし、僕ら男性として生きている人からすると、大変苦しいですよね。

田中和:実は私は小学校の間、アメリカで過ごしていたんです。それまで、うちの父は高度成長時代の男なので、私の幼稚園時代、日本にいた頃は全然家で姿を見なかったんですよ。

それが、アメリカに行ったら家に帰ってきますよね、みんな夕方には帰るから。「お前、帰らないのか?」って言われるから。「お父さん、平日に夕食食べるんだ」って、まずそこにびっくりで。

それで、オフィスに行ったりすると、うちの父が、恥ずかしげもなく家族の写真とか母の写真とかを置いてあるんですよ。「え~、何これ? ママのこと、こんなに好きだったの?」とかって、すごくびっくりして。

家族のことを大事にしていることをアピールしないと、普通の人だって見られないんですよね。ダイバーシティだとかLGBTだとかいう話が出てくる云十年前の話なんですけど、ちゃんと家庭のことを思って、ちゃんとした父親、夫をやっているんですということ自体が、社会的ステータスとして必要なんですよね。

幼稚園児にとっても「家にいる父親」は不思議

田中俊:日本の話に戻すと、僕の知り合いで、フリーでライターをされている35歳の男性が、実家に帰ったそうです。実家には、兄夫婦が住んでいると。その人は出勤しないので、フリーライターなので何日も家にいることがあるし、幼稚園の甥っ子とも遊んでくれると。

でも、ある時甥っ子が、「○○ちゃんは会社に行かないけど、大丈夫なの?」みたいな話を(聞いてきた)。つまり、幼稚園生でも、平日の昼間に働いているであろう男性が家にいたら、「この人って大丈夫なのかな?」って。

田中和:ははは(笑)。

田中俊:ただ、独身でフリーライターでそこそこ稼ぎがあるから、お金はこの人はどうもあるようだと。うちのパパはブラック企業で働いていて帰ってこないのにお金もないけど、この○○ちゃんは、お金はあるし、家にいるし、何なんだろうと思ったらしいですね。幼稚園生の子が思うぐらいなんですよ。やっぱり、異常だと思うんですよね。

田中和:確かに、働き方も、評価軸も、すごく一定だということなんですよね。

田中俊:やっぱり、日本とか、他に長時間労働がきつい国というと韓国だから、ある限定された国の特徴的なことで、この厳しさというのはあるだろうなと思いますね。

だから、もしかしたら、僕が『男がつらいよ』という本で書いたことは、ワークライフバランスが当たり前の国の人にとってはそんなに響かないかもしれませんけど、日本とか。これ、韓国語版が出るんですけども、中国語版と。

田中和:共感値があるんですね。

田中俊:わかんないですけどね(笑)。そこが変わっていかないと誰が困るかというと、男はもちろん困るんですけど、共働き世帯のママは大変困りますよね。

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

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