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働くママとパパは理解し合えるか?子育てをめぐる男女のギャップ問題(全6記事)

働く女性は“母親の呪縛”から逃れられない? 共働き夫婦のギャップが埋まらない理由

女性の社会進出、イクメン、男性の育休取得といった話題を耳にする機会は増えたものの、依然として「女性は家庭、男性は仕事」という昔からの考え方は根強く残っています。『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)の著者で、男性学研究の第一人者である武蔵大学助教・田中俊之氏、働くママの力で日本を元気にする「博報堂リーママプロジェクト」リーダー・田中和子氏が登壇したトークイベントでは、「働くママとパパは理解し合えるか? ~子育てをめぐる男女のギャップ問題~」をテーマに、共働き世帯が抱える男女間のギャップや女性が職場復帰を諦める要因、男性の育休取得を阻む社会の仕組みについて、解決の糸口となるアプローチを語り合いました。

テーマは「働くママとパパは理解し合えるか?」

田中和子氏(以下、田中和):みなさん、こんにちは。リーママプロジェクトの田中と申します。サラリーマンのママを略して「リーママ」と呼んでいる、働くママが元気になるための集まりを推進するプロジェクトです。今日は、偶然にも私と同じ苗字の、男性学の第一人者である田中俊之先生をお招きしております。

タイトルが「働くママとパパは理解し合えるか?」なんて、理解し合えないことが前提になっていることも問題かと思うんですけれども(笑)、そんなテーマでお話をさせていただければなと思います。よろしくお願いします。

先生の話もすぐにうかがいたいのですが、まずは「リーママプロジェクトが何をやっているのか」を少し紹介させてください。

今日はメンバーも後ろに来ていますが、博報堂という、いかにも長時間労働をしていそうな広告会社のママたちが集まって、「なぜわたしたちは働いているのだろう」ということから始まり。

平たく言うと両立なんですけれども、バランスじゃなくて、自分らしい働き方、自分らしい育て方ってどうやったら作れるのかという疑問をスタート地点に、まずは集まって情報交換して、話し合ってみようよというシンプルな活動を始めました。

社内だけでやっていても、価値観がけっこう同じなんですよね。やっぱり、同じ入社面接を受けてきているので、フィルタリングが機能しているんだと思えるんです。それで、いろんな会社のママとも交流してみようということで、ママばっかりで集まってランチタイムに「ランチケーション」しようと。

夜の「飲みニケーション」に対して「ランチケーション」と呼んでいます。ママはランチタイムぐらいしか時間がないので、いろんな会社さんのママと合コン形式で、日時と場所と人数を決めてランチするということをやってきました。今、50社500人ぐらいのママたちとランチケーションを重ねています。

そこから、いろんなことばをいただいて、ママたちのことばをちょっと綴らせていただいたりもしています。

男性の家事・育児時間

田中和:ママと話すことに意義を感じてはいますが、客観的に自分たちが置かれた状況を見るのも大切だと思い、我々もいろいろオープンデータとかも見ています。

国もいろんなデータを作っているんですよね。でも、それって私たちにどういう意味があるんだろうって、あんまり考えたことがなかったので、ママたちとこんな数字を共有しています。

「29:39」。これは何でしょう、と聞いてもわからないと思うので種明かしをすると、これは、平日の男性の家事・育児時間(分)なんですね。全成人男性で、年配の方も含めた平均値なので、ちょっと低めにはなっています。

「29:39」から発見したのは、共働き世帯の夫と専業主婦世帯の夫を比べて、29分と39分って、そんなに差がない。共働き世帯は夫婦で同じように稼いで対等にやっているんじゃないかなと思っていたら、どっちにしても男性はやっていないという結果なんです。

先生の前で言うのもなんですが、29分というのが、実は共働き世帯の数字だったんです。それで、専業主婦世帯の数字が39分。

逆転したほうがいいんじゃないかと思ったんですけれども、いずれにしても29分と39分なので、ゴミ出しとか、お風呂にちょっと入れるとか、その程度かなと思えてしまうんですよね。

やっている方はやっている、やっていない方はやっていない、という中での平均値だと思いますけれども。まぁ、家事育児はやっていないに等しいですよね。

「1.0:3.0」。これも家事・育児時間なんですが、6歳未満のお子さんをお持ちの家庭の、パパさんの家事・育児時間です。

日本の6歳未満の子供を持つパパさんが、平日1時間。欧米、OECD加盟国などの先進国諸国のパパさんたちが3時間。

3時間だと、ママさんたちだいぶ助かりますよね。おそらく、何かしら家事・育児を分担しているんじゃないかなと思いますね。

例えば、「料理は全部パパです」とか、「洗濯は俺に任せろ」とか。掃除は全部パパかもしれない。毎日のことなので、「必ず買い物してから帰る」とか、業務の分担ができているんじゃないのかなって、この数字から想像できるんです。

働く女性が抱える「60+60+60」のプレッシャー

「60+60+60」。田中先生に「これ何の意味だと思いますか?」と聞こうと思ってたんですが、さっき打ち合わせしている時に言っちゃったので(笑)。これは、ママたちからの「糧ことば」の中にも出てくる数字なんです。

「60+60+60」は、「家事・育児・仕事」の足し算。「産めよ・育てよ・働けよ」すべてちゃんとやらなきゃ、とプレッシャーに感じてしまっている女性たちの後ろめたさを表現しているんです。家事も60パーセントしかできない。育児も60パーセント。専業主婦みたいにきちんと子供に向き合えてないかもしれない。

仕事も中途半端で、毎日帰っちゃっている。ものすごく「私って全部できていない」と思っちゃっているママさんたちと話している時に、「いやいや、でも60を3つ全部足せば180パーセント、私たち100パーセント超えるじゃない」という、ありえない算数なんですけど(笑)。

でも、そのぐらいの気持ちで、「もう十分にやっている」って思えることが大切だと感じているんです。これは言い方は悪いかもしれないですけれども、傷の舐め合いでありつつ、励まし合いなのかなと思っています。

働くママのモチベーションを左右する「3つの壁」

リーママプロジェクトではいろんなインタビューをさせていただいたり、ランチケーションを通してアンケートを取らせていただいているので、そこから見えてきたママたちの働くモチベーションの増減を大きく「3つの壁」にあわせて表現しています。

まず妊娠から始まって、出産があって、産休・育休を取っている時期、モチベーションはどんどん下がっていきます。もちろん休み中なので、この辺には働くモチベーションよりも育児に集中している期間ということもありますが、さらにガタンと落ちるのが、今「保活問題」なんて言われている、保育園探しのところですね。これが「復帰の壁」と呼ばれる第1の壁。

その時期にたまに人事から電話があったりして、「復帰先どうしますか?」とか、「君はこのあと、どういう働き方をしますか?」とか聞かれても、「いやいや、そもそも私、復帰できるかどうかわからないんですけど」「キャリアがここで分断されちゃうかもしれない」って思ったら、もう仕事へのモチベーションなんて下がりまくり。

それから、どうにか復帰できると、モチベーションはエイッと少し上がるんですね。それで、上がるんだけれども、そこで重なってくるのが育児と仕事の初めての両立。

育児休暇を取得できる期間が長くなり、1年弱から2年くらいまで取られているママさんが多いでしょうか? 一番手がかかる頃に(子供と)一緒にいられることは悪いことではないですし、母子ともに良い経験だと思いますが、(育児休暇が)長くなったところで、私の経験値から言う落とし穴は、「イヤイヤ期」。これが「第1次反抗期」と呼ばれる第2の壁です。

1歳半ぐらい〜2歳半、場合によっては3歳ぐらいまでイヤイヤ期というのがやって来るんです。いわゆる「魔の2歳」。それが終わったら「悪魔の3歳」なんて言っていますが(笑)。

もう何があっても「イヤイヤ」と。「保育園行きたくない、靴履きたくない」何でもヤダヤダと。経験あるママさんたちは、「そうそう、ほんと大変よね」と共感してくれるんですが、初めて経験する新米ママさんはどう対処したらいいかわからない。イヤイヤ期がいつまで続くかもわからない。

さらに自分の仕事の復帰も初めてで、今まで残業つきの働き方をしていたのを、グッと6時間に縮めなきゃいけない。そういう縮め方をした結果、昼間もどう回したらいいかわからないことだらけ。

それで帰ってからも、このイヤイヤの怪獣をどう扱ったらいいかわからない。そういう時に、ママたちの心がものすごく乱高下しちゃう。「子供が泣いているたりグズるのは、ちゃんと相手してあげてないからかしら?」なんて自分を責めることも。

そんな時、「ちょっと、もうダメだ」って(仕事から)離脱しちゃう。復帰後の離脱って、そこの理由がけっこう大きいんじゃないかなと思ったりします。

そのあとも、第3の壁と呼ばれる「小1の壁」などがあります。東京では、今50パーセント弱が中学受験をするんですかね。中学受験をするとかしないとか、受験の勉強を見てやれるとかやれないみたいな時に、やっぱりちゃんと子供と向き合ってあげられないのはつらい、しかも「そんなにやりがいのある仕事ではないんだったら辞めちゃおうか」って言って、辞めていってしまう。

そういう離脱の壁というのはいくつかあるのかなと思うんですが、これは第1子の成長だというのもキーポイントで、これを超えて2人目とか3人目とかまで行くと、この波がなくなっちゃう。

これはなぜかというと、育児の経験が自分の中で積み上がっているから、「先があるんだよね」というのがわかるし、「子供は泣くもんだし」くらいにおおらかな気持ちになれて、母としての成長がこれを乗り越えさせてくれているのかなと思っているんです。

2人目、3人目を経験できればいいんですが、問題は最初の子の時に振る舞い方がわからないこと。1回目の苦労で離脱してしまったら元も子もないじゃないですか?

ランチケーションの中でも、一人っ子のママが多いんです。一人っ子が多いのは仕方が無いけど、経験値を伝えていけたらだいぶみんな楽になるんじゃないかなと。

1回苦労しただけで終わっちゃっているのはもったいないので、自分の苦労も楽しさも、次のママさんに伝えていってあげたらいいなと思って。あえて「こういう苦しみがあるよ」っていう経験をみんなでシェアしているところです。

「すべての男性は育児休暇をとるべき」その理由とは

田中和:あとは「糧ことば」という、ママたちが元気になることばをランチケーションの中で拾っているんですが、それをちょっとシェアしながら田中先生にもご意見をうかがいたいと思うのですが、例えば、「量より質」。

まぁ、普通の言葉ですが、ママたちは本気なんです。先ほども申し上げたように、仕事も中途半端かもしれない、子供との時間も短いかもしれないという時に、質を求めればいいんじゃないのかという考え方ですね。

「密度重視」。量どころじゃなく、密度を重視してやっていきたいと。ママたちに聞いていると、ものすごく仕事も効率よくやろうとしているんですよ。

時間制限のある人の働き方はエンドがあって、そこから逆算していくんですよね。どうも時間制限がなく働くと、積み上げ型で永遠に働いていってしまうのかなと思うんですけど、どうですかね?

田中俊之氏(以下、田中俊):ちょっとそれに関連して、話は戻るんですけれども、この間、「半年間、育児休業を取った」という男性と話をしたんですね。彼が言うには「(育児休業は)勧めない」と。

「確かに育児休業は取れてよかったけど、あまり勧められない」と言っていたので、「なんでですか?」と聞いたら、やっぱり半年、育児休業を取って仕事復帰した時に、仕事に馴染むのにすごく苦労したと。だから勧めないと。

それを聞いて逆に思ったことは、「やっぱりすべての男性は育児休業を取るべきではないかな」と。何が言いたいかというと、女性は産休から始まって、育児休業まで取っているわけですよね。

彼自身もそうだったと言っていたんですけれども、例えば「出世までに貯めておいたポイントがリセットされる」とか、「元の部署に戻れない」とか、そういったデメリットについてかなり言っていたんですね。

今、田中さんが言った問題に戻ると、無限定に定年まで働いている人には、そのことの意味がわからないんですよ。つまり、自分が実際に経験してみないと。

手元にデータを持ってきたんですけど、「できれば働きたくないですか?」という質問に対して、男女問わず「そう思う」って答えた人が全体の半数なんですね。

世の中には、働きたくて働いて、頑張って働いて、働くのが楽しいという人もいると思うんですけど、生活費を得るために働いているという人たちも、正直いると思うんですよね。そのような気持ちの人が半年なり1年休んだら、なおのこと、仕事復帰って大変厳しいと思うんですね。

でも、これから共働きが一般化していく中で、それでもやっぱり復帰していかなければいけないわけです。だから、男性も同じことを味わうべきだろうと思いますし、今の時短勤務の話に戻れば、男性は独身・既婚問わず無制限に働けると思っていますし、企業も働かせられると思っている。

そこが改善しないとママの問題は絶対に解決しないので、パパにどうアプローチするかというのはすごく大事なことだと思うんですね。

妊娠や出産がハンデになる社会の仕組み

田中和:男性も、味わってみて初めてそういう状況がわかるということだと思うんですけど、仕事をリセットするというのはキャリアにとっていいんでしょうか?

田中俊:いやいや、休みを取ることでリセットされちゃうというのは困ったことだと思うんですよね。業種にもよると思っています。

最近、男女共同参画に医師会も取り組んでいて、医師会に講演に行ったんですが、やっぱり医師の業界には、「女性が子供を産んだら、辞めるのが当たり前」というのが常識としてあると。女の人に対して、そういう非常に固定的な見方をする業界もあるわけです。

ここで語られているのは、個人の感じ方の問題なんですけど、社会の仕組みの問題をどうしていくかと考えていったときに、無限定に働く男性が標準と考えられる職場においては、現状、妊娠とか出産がハンデになっちゃうんですよね。それは大変まずいことだろうなと思いますよね。

いったん「キャリアはなくなったもの」と考えた

田中和:私個人の話をすると、私はこの仕事のリセットを自分のキャリアの中ですごくうまい具合に使ったんですね。正直、最初のリセットは相当戸惑いました。リセットになり切らなかったのがいけないのかもしれませんね。

もともとは営業職で、某外資系のクライアントさんを担当していたんですが、私が1年弱休んでいる間に、ピッチ、いわゆる競合ですね。「競合他社と5社ぐらいで戦ってください」と言われてしまったらしくて。

結果、うちの会社が継続できたんですけど、その条件として、今までのオペレーションを知っている人がいたほうが絶対にスムーズなので、「田中を戻しなさい」と。戻すんだけど、「周りのスタッフを全部変えろと」言われたんですよ。

それで戻ってみたら、私と契約社員の女性、彼女も同じ時期に育休を取って同時に戻ってきたんですが、ママ2人で現場を取り仕切りしながら、周りがまったく新しい環境になったんです。もちろん、チーム員にはサポートされていたと感謝していますが、当時私が感じていたプレッシャーは相当だった。

リセットしたつもりが全然リセットになってなくて、逆にすごく負担な上に、初めての育児で、私も根っから不器用なので、何でもかんでも120パーセントの力を出しちゃうんですね(笑)。それで一度つぶれて。

その経験から、2人目、3人目の時には、「(復帰後は)どんなにつまらない仕事でもいいから、いったんゆっくりさせてもらいたい」と会社にお願いをしたんです。

キャリアアップはまったく望まず、例えば「営業から上がってきた数字をExcelに打ち込むような仕事をする部署に行くのかな」と思ったら、そうではなくて。

今度は「新規の競合をどんどん受けてくれ」という話だったので、それはそれでまたどんどん増えていく仕事だったんですけれども。

新しい仕事を受けた時には、今までの経歴は1回切って、スタートのやり直しで、「キャリアはなくなったものと思おう」と覚悟を決めたんですけれども、全然違う分野をさせてもらって、しかもそれを3回も繰り返したので、結果的に今は相当社内でも顔が広くなって(笑)。

田中俊:それはメリットがあったということですね。

田中和:でも「メリットになるかもしれないよ」という話は誰からもされていなかったので、今は、私は他のお母さんたちに「そこでキャリアを切ったと考えるのではなくて、新しい経験を積ませてもらっているって考えたらいいんじゃないの?」とは言っているんですけど。

田中俊:それが偶発的な感じになっちゃうところは少し問題かなとは思いますね。田中さんの場合はたまたまうまくいったけれども、そのことでキャリアが積めなくなってしまって、女性の場合、「だったらいいか」ってなっちゃう人が出てきちゃうのが問題かなと思いますね。

田中和:確かに。業種にもよるでしょうし、何でもチャンスにさせてくれるような会社にいたからできたことではありますね。医師とか、ひとつの専門の中でキャリアを積んでいく人にはだいぶ厳しいですよね。

フルタイムで働くリーママの葛藤

田中和:これも、とあるお母さんが実母から言われたことばで、「子供がかわいそうだと思っちゃいけない。その気持が子供に伝わるから。あなたがイキイキしていることが一番大切」と。

「『ママ、かわいいお顔して』って子供から言われました」なんて糧ことばもいただいていますけれども、これが心に響くということは、やっぱりどこか後ろめたさを抱えながら仕事をして、育児をして、ということなのかなって。

これもたぶん家族学からのご指摘もいただけるのではと思うんですけど、「母の呪縛から逃れる」ということ。

同世代の多くの女性と同じく、私の母も専業主婦なんですけれども、そんな母親を見てきているので「育て方ってこうなんだよな、家事ってこういうふうに回すものなんだよね」という専業主婦像が常識となってしまう。

でも、自分は共働きだから、本当は旦那さんと分け合いながらやっていきたいんだけど、それを旦那さんに渡しきれない自分もあるんじゃないかなと思うのですが。「母の呪縛」ってどうですか?

田中俊:家族を巡る問題は、そこの部分が非常に大きいと思っています。「どう家族があるか」という現状の把握の話が、「家族がどうあるべきか」という話に入れ替わっちゃうんです。「どうあるべきか」はみなさんそれぞれ思ってらっしゃるから、非常に感情的な議論になりやすいんですよね。

今、田中さんに言っていただいたことについて言うと、そもそも、日本はまだ専業主婦の方が多いんですよ。6歳未満のお子さんがいるご家庭で、奥さんが何をされているかというと、正社員の人って2割ぐらいなんですよね。

非正規社員が2割なので、5~6割は専業主婦をしているわけです。ですから、ここで言うような「リーママ」って実はマイノリティなんですよね。

ただ一方で、これからは共働きがスタンダードになるという話なので、「共働きをするべきだ」という提案が多いんですけれども、「するべきだ」という主張があまりにもメディアでなされていて、共働き世帯がさも一般化しているように誤解される方が多いので、この話をするとびっくりされることが多いんですね。「まだ5~6割も主婦がいるんですか?」って。

だから、現状についてどう考えるかっていうと、やっぱり主婦を選択している人がそれだけ多いということは、日本社会全体では、「子供が小さいうちは母は子育てに専念するべきだ」というルールが健在なんだと思うんですね。

とすると、一番葛藤を抱くのはフルタイムで働いている人のはずです。そういうルールが現にまだ生きている中で、自分はフルタイムで働くということですから。

呪縛から逃れると言っても、これは本人の意思の問題は当然あると思いますし、じゃあ、本人が意識を変えて「うちはこうする」と言っても、周りからは「でもやっぱり、小さいうちはお母さんがそばにいないと」と言われたり、テレビを観ればそういう番組をやっていたりすると、本人の意識を変えるということだけではなかなか逃れられないので、とても重い問題だなと思いますね。

母の呪縛から解放されるには

田中和:「子供ひとり置いてなんて、かわいそう」とか。

田中俊:僕らの世代だと……同い年ですよね?

田中和:そうです。『<40男>はなぜ嫌われるか』っていう著書がありますけど、私、40女なんで。

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)

田中俊:「鍵っ子」っていう言葉があったじゃないですか?

田中和:ありました、ありました。友達にもいました。

田中俊:鍵を首からぶら下げている子は、「なんかかわいそうだよね」って。「なんでお母さんまで働かなきゃいけないんだろう」とか、学童保育とかも、「学校終わったあともあんなところに預けられて」みたいな。

田中和:学童保育の事情も、すごく狭いところに……。体育館の裏とかっていうのもありましたよ。

田中俊:そういう世代である僕らが親になった時に、その記憶ってやっぱりありますよね。だから、呪縛から逃れるという時に、本人の意識の変革もそうですけれども、やっぱり自分たちが新しいものを生み出していくっていうことをポジティブに考えないと、なかなか逃れられないかなと。

かつてはこうだったということから逃れるのって、けっこう怖いことだと思うんですけど、そこをやっぱりポジティブに捉えたいなと思うんですよね。呪縛から逃れるというか、新しいものを作っていくぞということで臨んでいくことが大事じゃないかなと思いますね。

共働きのロールモデルはまだない

田中俊:だって、夫婦が2人ともフルタイムで定年まで働くような社会って、今までなかったわけですから。そもそも、人間が雇われて働くようになったのが高度成長期以降なので、雇われて働く人が2人いて、定年までいて、子供育ててどうするとかというのは、まさに今日的な課題で、ロールモデルとか言っても、いないんですよ。

田中和:なるほど。女性たちの間でも、「私たちのロールモデルを探そう」とか、「ピカピカのロールモデルはもう無理よ」とかちょっと下の世代の女性は言い出していますが、それでも、「自分たちらしい働き方をしているのがロールモデルです」とロールモデル探しをしている。しかし、探しても実はいない。

田中俊:いないし、僕は今、自分たちが転換点にいるということは、ラッキーなことだと思うんですね。もっと昔の社会だったら、伝統的にこうだったということを受け継ぐしかなかったと思うんです。

それが近代になって、自分たちで職業選択したり、結婚するパートナーを自由に選べたりとか、自由が拡大していっているわけじゃないですか。

家族のあり方もそうだと思うんです。「家族はこうあるべきだ」という、そもそも子供を作って、それを受け継いで、家を継いでいかなきゃいけない、みたいなところから、だいぶ離れた地点に来れるわけですよ。だから、家族のあり方とかいうこと自体、個人の選択の問題になってきているわけなんですね。

これを作っていけるということ自体は大変で、たぶん、苦悩がよく語られているんだと思うんですけども、やっぱり、かつてない自由を得ているということの裏返しですよね。だから、それは非常にポジティブに捉えられればいいかなと思いますけども。

田中和:「自由」って「責任」も付いてくるじゃないですか。

田中俊:そうなんですよ。責任も当然付いてくる。考えなきゃいけないので。「昔はこうだった」ということだけをやっている社会においては、そこの悩みはないじゃないですか。

職業選択にしても、親がやっている職業をやらなきゃいけないし、結婚相手も決められているわけですから。

だから、かつてなく人間は自由になれるし、僕は渋谷区の審議会の委員をやっているんですけれども、その流れが「同性愛の方にパートナーシップ証明を出しましょう」というところにまで波及しているんじゃないかなと思うんですよね。

田中和:私自身、初めての育休復帰の時に、毎日のように旦那に「辞めたい、辞めたい」って言っていたんですけど、今から考えると、辞める自由もあったからこその苦悩なんですよね。

田中俊:そうです、おっしゃる通りですよね。例えば、世襲制の仕事をやっていて、それを受け継がなければいけない時代には「辞めたい」というのはないですね。

田中和:それは、あとでまた戻って話したいかもしれないですね。

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