2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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庄野裕晃氏(以下、庄野):日本は都市としていまなにを目指しているのか、目指すべきなのか、太刀川さんの目線からはなにが挙げられますか?
太刀川英輔氏(以下、太刀川):コミュニティのつくり方や共感のつくり方が問われているような気がしています。しかし一例ですが、インターネットでのコミュニケーションには対話がなく、Aの立場の人とBの立場の人は意見を戦わせます。
イノベーションを起こすのであれば、立場を超えた話し合いや相互理解が絶対に必要だと思います。たとえば、エンジニアとデザイナーとマーケティングの担当者が話をしなければなりません。
イノベーティブ・シティになるためには、都市を構築している銀行員や、不動産業者や、行政など様々な人が個人を超えたビジョンにたどり着く必要があるのです。
そうでなければ、不動産業者は投資を回収できさえすれば、あとは知らないということになるかもしれません。しかし、心ある人たちはすでに気がついていて、それぞれの立場で、勝手な投資では立ち行かないと考えるようになってきています。
そうなったときに、これまではつながっていなかった領域間になにが起こってくるかに、ワクワクします。いい共犯関係をこれまでにないつながりのなかで生み出すことは、絶対にやるべきです。
庄野:ジャンルの横断という意味ですか?
太刀川:ある意味ではそうですね。ジャンルの横断であり、かけ合わせですね。ヨーゼフ・シュンペーターはイノベーションを新結合と定義したのですが、いままでにない関係の中に、新結合があります。
不動産的、老人ホーム的、学校的なにかというように、なにかとなにかをランダムにつなげていくようなことをいいかたちで実現できればおもしろいですよね。
庄野:異なるジャンルをつなげ、流動性を高めて、それを結合させていくための力としてのデザインが求められていると。
太刀川:そうですね。「百聞は一見にしかず」というように、理解してもらうためにかたちにする部分でデザインが機能します。デザインになると流動性が上がるのです。
庄野:『東京防災』のハンドブックは、まさにそうですよね。文字だけで書かれていたら、おそらく読まれなくなってしまうでしょうね。
太刀川:はい。流動性が高いということが大切です。
庄野:デザインによってわかりやすくするということですね。ジャクソンはいま話があったような、日本で起きていることを、流動性という観点でどう思われますか?
ジャクソン・タン氏(以下、ジャクソン):シンガポールのクリエイターたちにとって、日本や東京は文化のリーダーですから、多くを学んできました。社会が成熟期を迎えると、政府、クリエイター、コミュニティ、アーティストなど、それぞれが異なった方向に動きはじめ、皆が変わってきます。
シンガポールとしてのチャレンジは、どのようにそれをコネクトするのかです。共通の場と共通のビジョンを持ち、共に1つの力として動いていけるだろうか、ということです。
東京はシンガポールと比べて、もっと大きいですから、多様性があり、インフルエンサーもたくさんいらっしゃるだろうと思います。
庄野:2つ目のテーマに差し掛かっているような気がしますので、話題を変えます。
2つ目のテーマは、「目指すべき方向がわかったいま、クリエイティブなプラットフォームはどんな役割、機能を持続的に果たせるか」です。
持続的ということが大事だと考えておりまして、冒頭に申し上げたとおり、3人はそれぞれ、個人の想いや衝動、勢いみたいなものが行動として表れ、プラットフォームをつくっているなと見ています。
ではそれを持続的に、継続的、安定的にしていくためにはどうしたらいいのかをお聞かせいただけますか?
ジラット・ポーンパニパン氏(以下、ジラット):タイでは、都市の発展やクリエイティブの発達は、見ている限りにおいては、その都市に住んでいる人の生活がベースになっていると思います。そのなかで好みや、それぞれのライフストーリーを綴ることで成長していくのだと。
自分から離れたことをやろうとしても長続きしません。私は人に近づいていって、その人が何を考えていてなにを好きか。そしてどこを目指しているかを見ています。
タイ人はとにかく楽なものが好きで、強制されるのが嫌です。好きなものは好き。ですからその好きという部分を取り出して、それをクリエイティブに取り入れていき、その人の人生に元来あるものを、抽出して伸ばしていくようにいつも注意をしています。
タイ人のライフスタイルもさまざまで、地方によっても違います。ですが、それぞれのライフスタイルを取り出して、それをクリエイティブのモデルにしていけば、ちゃんとうまくいくと思うのです。その人の人生そのものを取り出すことで、持続可能になると思っています。
庄野:ジラットさんはとても個を見ていらっしゃいますね、そこに対する洞察力というか、個を引き出すことに能力をお持ちだなと思います。
太刀川:ジラットさんのお話のなかで大事だと感じるのは、「コミュニティはつくろうとしてつくるもの」だとは考えていないところです。暗黙知の中で共通を見出せるか。それがコミュニティを形成する前の段階に必要とされることです。
「OLIVE」を例にとると、皆が東北を助けたいという強い気持ちがあったから集まれたのであって、「集まろうぜ」と言ったから集まったわけではないのです。われわれのなかに潜在的に「こっちに向かいたい」という気持ちがあるから、コミュニティが形成されるのです。
東京の人も、それがポジティブであれネガディブであれ、共感し合う部分を持っているはずです。そういうちょっとした不安感にささったのが『東京防災』だったのかもしれません。
人の心理に流れているトレンドの波とクリエイティブがつながると、コミュニティーができる。その波は流動的ですので、いまなにがきているかを感じられる洞察力がとても大事ですね。
庄野:話を集約すると、やはり共感なのかもしれないですよね。
太刀川:そうだと思います。だから、ジラッドさんは共感の話しかしませんね。そういうことなのだろうと思います。
ジャクソン:共感はもちろん重要だと思います。それからコミュニティーにおいては共通の目的観が重要だと思います。そしてその目的観を信じなければいけません。
人と人とのつながりも重要です。多種多様なアイデアをつなげ、いろんな関心事項をつなげるために必要なのは、関連性あるいは目的観を持続させることだと思います。
庄野:ジラットさんは目的観を意識されていますか?
ジラット:お二人の意見に同感です。パワーは同じ方向を向いているところに生じると思います。やはり態度や視点がとても大切で、それが一緒でなければ、みなバラバラになり、自然と消えてしまいます。
庄野:そう考えると、個の集合体やそこに対するリーダーシップとは、人と人の間に共通するものや目的観を読むことなんでしょうか?
太刀川:おもしろいなと思いながら聞いていたんですが、クリエイターは新しいものをつくっている人たちで、新しいということは、いままでのものの破壊だったりもします。
ということは、新しくて破壊的であるにもかかわらず、そこに共感しているわれわれがいるということです。皆で破壊的な方向に進んでいかなくては、イノベーションは起こりません。
これは微妙なさじ加減でアンチにもポジティブにもなりうることです。『東京防災』はとても歓迎されましたが、クールジャパン提言は、「英語特区を作る」と言ったら炎上して「ああなるほど、そこに突っ込んでくるんだ」と。
なにが共感されてなにが共感されないのか、なにが新しくてなにが本質的かを捕まえるのには、すごくセンスが必要です。
庄野:リーダーシップという言い方ではない気がしますね。ぜひ3人にお聞きしたかったのが、「プラットフォームを運営することとはどういうことなのか」ということです。
リーダーシップではないだろうなとはわかりながらも、ではファシリテーションということなのかなと、まだ自分のなかで明文化されていません。
そこをぜひ、クリエイティブ・プラットフォームを運営する上での、リーダーとしての役割をお聞きしたいと思います。
ジャクソン:リーダーシップあるいはファシリテートを考えた場合、「クリエイティブシティ」のプロジェクトにおいては、まずコンセプトを生み出し、目的観やプロジェクトの関連性を考えなくてはいけません。
しかし、そのプロジェクトをリードする手法は従来のものとは異なります。私が直接300人のクリエイターと話していては、リソースが分散してしまいます。インターネットがあるからこそ、やり取りも簡単におこなえますし、レスポンスも簡単に得られます。
ソーシャルメディアなどを介在させたリーダーシップは、これまでとは違ったものだと思います。もっと微妙なものでこれまでのやり方とは異なっていると思います。
庄野:非常に微妙ですよね。先ほども太刀川さんがさじ加減とおっしゃいましたが。
太刀川:コミュニティにどうオーナーシップを持たせるのか。自分がやりたいからやっているという自発性があり、自分の目的と重なっているという感覚をどうやったらつくれるのか。それはコミュニティをつくる上で非常に大切なことです。
また、「言葉を受け取る」というプロセスが重要です。勝手にリードしているわけではなくて、「彼らが彼らのほうで一旦受け取る」というプロセスがなければ、共感が育まれない。正しいコンセプトだからうまくいくわけではなく、おそらく正しいプロセスがあるから前に進むのです。
庄野:プロセスというのは、何に対してのプロセスでしょう?
太刀川:おそらくゴールは設定されるものではなくて、浮かび上がってくるものなのでしょう。
なんとなく仮説はあります。最初にそこに集まる、アーリー・アダプターの間で、「なんとなくこういう感覚ってあるよね」というのを、ぶち当たって話していく。
そこで交流がなければ、「俺はこのコンセプトを提示した、お前らはそれに従っているだけだ」となってしまい、気持ちよくありません。
そうではなくて、「ぼんやりそういうのが集まっているね」、「集まっている感あるよね」という感覚がスターティング・ポイントに必要なのです。
一方で先ほどジャクソンが「目標がすごく大事だ」と言っていたのは、本当にその通りだと思います。最初はすごくぼんやりしたものでも目標が固まると、そういうときにデザインが変わっていくのです。
「モダニズム」というデザインがすごく変わっていくムーブメントがありました。
物資のなかった時代から産業革命を経てさまざまなものがつくられだしたときに、「デザインはもっとワールドワイドなものを目指していくべき」とか、「デザインでもっとコミュニケーションができるようになるべき」とか、「もっと合理的につくれるものがいい、シンプルになるべき」といった時代の要請が当時のデザイナーたちに共有されていたからこそ、大きな変化が生まれたのだと思います。
庄野:ぼんやりとした仮説の投げかけはおもしろいですよね。でもそれもさじ加減のような気がしていて、強すぎてもぼんやりしすぎてもダメなんでしょうし、そこもセンスとしか言えないのかもしれないのですが。ジラットさん、その辺りはいかがでしょうか?
ジラット:私も同感です。やはりリーダーは少ないですね。誰でもリーダーになりうるのですが、「あなたもリーダーになれるよ」と応援してあげることが大事です。
私の役割はクリエイティブを応援することと、新しい世代の人たちをインスパイアすることです。新しい世代の人たちはとても良いものを持っています。これからタイではなにが起こるかわからないですが、若い人たちが、自分が持っているものを思いっきり表現するのを応援することが大事です。
どんな人にも良いところがあります。そこを引き出すことが大切です。そしてなにかを起こさせる。そしてそれが社会に広がっていく。社会にフォロワーはたくさんいます。
ある人がこういうことをすれば、自分もやってみたいと思うものです。そしてパワーが生まれてくる。そうした状況は様々な人たちがつくりあげていくのだと思います。
太刀川:質問があるのですが、応援するってすごくいいキーワードだと思うのですが、たくさんの人を大きな応援をしなくてはいけないでしょう? そのコツはありますか?
ジラット:もちろんあります。なにかをやるときには必ず自分のスタイルが出てきます。たとえば私はファッションやライフスタイルを新しい人たちとやってきていますが、私がやっているようなことをやりたいと、若い人が訪ねてきます。
そういったグループがタイにはたくさんあり、若い人たちは誰を訪ねていけばいいのかを自分で判断しています。私の場合はファッション関係もしくはライフスタイルに関心のある人が訪ねてくることが多いのです。
そういった分野ごとにリーダーを育て、皆が仲良く一緒に発展をしていきます。とあるイベントを、私が持っているメディアで宣伝することで支援したりしています。
庄野:誰でもリーダーになれる。だからリーダーを育てて、リーダーがインフルエンサーになり、良い影響を与えていくというのは、いいことを聞きましたね。
太刀川:成熟社会は応援しない方向にいきがちなので、その点は気をつけなければいけませんね。隣の人であっても応援しないということになりがちです。いろんな産業やデザインで応援が起こってくると、とても明るくなりますよね。
庄野:ジャクソンはどんなところを憂慮してプロセスを実行していますか?
ジャクソン:プラットフォームでは若い世代の人たちとどのように情報を共有するかが重要ですね。知識やネットワークなどを、プラットフォームを通して共有することが重要だと思います。
庄野:ちょっと答えが見えてきた気がしますね。
太刀川:そうですね。プラットフォームを通して共有することが応援だと、ジャクソンは信じているのですね。
庄野:そろそろ時間がきてしまいましたので、それぞれお互いの話を聞いて、印象に残ったこと、今後活動に活かしていきたいと思ったことをお聞かせいただけますか?
ジャクソン:いつも興味深いのが、「共有する」ということです。自分たちのつくったプラットフォームを、それぞれ共有すること。そうしたプラットフォームを邁進させていくのはやはりパッション、情熱だと思います。
ジラット:今日の話をタイの人たちにも聞いてもらいたいと思いました。とても刺激的でした。私たちはさまざまなものを見ることでインスピレーションを受けます。シンガポールや東京の人ともエクスチェンジできれば嬉しいです。
バンコクではいろいろなことが起こっていますので、それを見ることで自分のなかに火が起き、すごくやる気も出てきています。
太刀川:ジラットさんがおっしゃった「応援」というのがいいキーワードだと思いました。どうしても競争になってしまうなかで、自分は誰を応援できているのかを考えていくことが大事だと。
経験上、誰かを応援するプロジェクトはうまくいきます。当たり前のことでもありますが、やはり雑誌をつくっている人の視点はそうなのかなと。
新しいものを作ることは競争でもありますが、その競争を共に作っていく競争というか、そういう状況に向かいたいなと思っていますし、そこにトライしていくのが僕のミッションでもあると感じていますが、それを「誰を応援できているか」で振り返るのは簡単だと思いました。
当たり前のことすぎて、「ああそっか!」という感じなのですが、とても刺激を受けました。もっと話を聞いてみたいです。
庄野:問えば、おのずと自分自身で答えが見えてきますよね。「誰を応援しているんだ」「だれを応援することをやっているんだ」と問うのも、大きなヒントかもしれないですね。
太刀川:繰り返しになりますが、ジャクソンが言っていた「共有する」というのも応援なんですよね。自分が思っていることを閉じてしまうと、誰かを応援することができないわけですからオープンでなければいけない。だからシェアすることが機能するということについては、あらためて気付かされました。
庄野:今日はみなさん長い間ご静聴いただきましてありがとうございました。
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