ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」などのコピーライティング、日曜劇場『VIVANT』のコミュニケーション統括など、さまざまな広告キャンペーンを手がけてきた元電通コピーライターの梅田悟司氏。コピーライティングの実務家が、なぜ生成AI人材を目指すことになったのか。自身が生成AIを導入したきっかけや、効果的なプロンプトを書く方法について紹介しました。
もともと生成AIの専門家ではなかった
梅田悟司氏:私から「生成AI人材になるってどういうことなんだろう?」ということについて、お話をさせていただければと思います。あらためまして、梅田と申します。よろしくお願いいたします。
今、ワークワンダース株式会社のCPO、チーフ・プロンプト・オフィサーをしています。ちょっと聞き慣れない肩書きかもしれませんが、基本的にはプロンプト(生成AIが適切な結果を出力するための指示文)を作る仕事だと思っていただければ問題ありません。
ただですね、私はもともとシステムエンジニアでもなければ生成AIの専門家でもなかったんですね。みなさんと同じように実務を行っていました。
では、実務家である私が、どういうふうに生成AI人材になり、業務を効率化できるようになったのか。そのあたりについてお話をできればと思っております。
生成AI人材を内部で育成することが重要
先ほどもお伝えしましたが、私は特にシステムや生成AIに詳しいわけでもありませんでした。今まさにチーフ・プロンプト・オフィサーということでプロンプトを作っていますが、もともとは生成AIの専門家ではありません。
では、何をしていたのかというと、コピーライティングや広告宣伝、マーケティングの実務家として働いていました。
なぜそんな私が生成AI人材になっていったのか。ここはすごく重要だと思うんですね。みなさんの会社でも「生成AIを使って何かやろう」って時に、(社外の)誰かにお願いするのではなくて、社内に生成AIの人材を育成して、効率化していったほうがいいに決まってますよね。
本日は、御社の中で生成AI人材をどう作るのかといった目線で私の話をお聞きいただけると大変うれしいです。私1人の事例ではありますが「生成AI人材を育てる鍵」をご共有できればと思っています。
今日のテーマは「実務家ならではの生成AI人材になる」ことの重要性についてです。ここを中心にお話をさせていただきます。
まず目次です。「はじめに」。この後に自己紹介をさせていただきます。そして生成AI人材になったきっかけ。生成AI人材が実務をわかっている価値について。
今、生成AI人材ってよく耳にするようになってきましたが、差があるのかないのか。そして最後に、生成AI人材をどう育てていくべきなのか。そもそも社内で育てていくべきなのか。このあたりについてお話をしてまいります。
ドラマ『VIVANT』などのキャンペーンを手がける
自己紹介をさせていただきます。私は広告会社のコピーライターとして、広告宣伝のマーケティングまわりを行っていました。その後にベンチャーキャピタルでベンチャー支援をしています。そして今、プロンプトを扱っています。なぜそうなっていったのかという部分をお話します。

今まで私が手がけた仕事は、例えば「世界は誰かの仕事でできている。」という缶コーヒーのジョージアのキャンペーンコピーですとか、タウンワークの「バイトするなら、タウンワーク。」ですとか。
最近で言うと、TBSテレビ日曜劇場のドラマ『VIVANT』のコミュニケーション統括なども行わせていただきました。
じゃあ、なぜそんな私がプロンプティング(生成AIに指示を出すこと)ができるようになったのか。どのように試行錯誤してきたのか。そこから生成AI人材になるのはどういうことなのかを一緒に考えていければと思っています。
「自分の仕事はなくなるな」言葉のプロが抱いた危機感
実際に私がプロンプトを扱うようになったきっかけからお話しします。

2022年11月にChatGPTが公開されました。まだ2年ぐらいなんですよね。やっぱりみんなわーっと盛り上がりました。実際、僕も「キャッチコピー、書いて」ってプロンプトを書いてみると、答えてくれるんですね。
その(出力された文章の)精度がどうっていうよりかは、「あ、もうこれは自分の仕事はなくなるな」って、直感的に思いましたね。ChatGPTってまさにチャットするので、会話をしながら、つまり言葉を紡ぎながら作業が進んでいくんです。
あえて厳しい道を選び、生成AIの世界に飛び込む
(コピーライターの商売道具である)キャッチコピーって、まさに言葉です。ゆくゆくは出力される文章の精度が上がっていったら、もう自分のコピーライティングの仕事もなくなるなと、瞬時に悟りました。
そうすると、2つの分かれ道が広がるわけです。じわじわ苦しんでいくのか、自ら加速させるのか。もうこれ、どっちかしかないんですね。二択です。
じわじわ苦しんでいくっていうのは、ChatGPTを見ないように逃げていく世界観です。しかし、それにも限界があります。やっぱり大きな波には抗えない。それだったら、ChatGPTを使いこなして「もっと質の良いコピーライティングができちゃうんじゃないの?」と考えて、険しい道を選んだわけです。自分の首を絞めるような方向を加速させていく。これを自らやるしかないなと思ったわけです。
「結果から学ばせるか、方法から学ばせるか」
生成AIを活用し始めたきっかけはわかりやすくて、「自分のコピーAIを作ってみよう」というものでした。自分がやっている方法をそのままプロンプトにして、どんなキャッチコピーが出てくるのかを試してみようというところから始まったんですね。
ここで大事なのは、「結果から学ばせるか、方法から学ばせるか」という問題です。ここに大きな分かれ道が出てくるんですね。
結果から学ばせるのはどういうことか。いわゆる機械学習と言われているように、いいものをたくさん与えることです。そしてそこから純度の高い要素を抽出して、似たような感じで書いてねっていう方法です。
一方、方法から学ばせるというのは、先ほど安達(裕哉)さんのお話にもあったように、キャッチコピーの書き方には、いわゆる鉄板のやり方、そして、自分なりの経験を足した独自のやり方があるんですね。それを学ばせるということです。「いや、両方ともあるな」ということで、両方を試してみました。
「名作コピー」を学ばせるだけではうまくいかない
広告の世界っていいコピーって言われてるものがたくさんあるんですよ。それを学ばせてみて、「こういう感じで書いてみて」と指示を出しました。いやはや、まったくうまくいきませんでした。
では、逆に方法から学ばせてみよう。鉄板のやり方をプロンプトに落としてコピーを書かせてみたら、これがうまくいったわけです。
これはコピーライティングだけじゃないと思うんですね。みなさんの仕事一つひとつに同じことが言えると思います。プロンプトを使って、ふわっとしていたことをカチっと説明してみたんですよね。
みなさんが仕事をする時ってなんとなくできていると思うんですよね。例えばリサーチだったら、ああやってこうやって。みなさんナチュラルにできてしまっていると思うんですね。
それを、ふわっとしているんだけどちゃんと説明してみる。例えば初めての人に「自分はこうやってるんだよ」って伝えながら、その順番でやってもらうってことです。マニュアル化に近いかもしれません。このプロセスをたどると、やっぱり精度が上がるんですね。
プロンプティングのコツ①誰かに教えるように書く
プロンプティングって、みなさん聞いたことがあると思います。「なんか難しそう」「考えないといけないこと、決まりごとが多そう」って思ってらっしゃる方もいると思います。
ただ、そんなに特別なことをしているわけではありません。ふわっとしていたこと、何気なくできてしまっていることを、ちゃんと説明するだけ。それがプロンプティングの基礎なんです。

プロンプトとは、生成AIとの対話形式のシステムにおいて、ユーザーが入力する指示や質問のことを言います。だからまさに、ChatGPTのチャットの部分を適切に問いかける、適切に指示をすることが重要なんです。
自分がやっていた方法を誰かに教える、そして、やってもらう。(この方法の言語化そのものが)結果的にプロンプトをやっていたってことに気づいたんですね。
プロンプティングのコツ②業務の流れを分解する
マーケティングだけで考えると、実は6個ぐらいの方法が積み重なっているんです。まず、情報の整理(であるリサーチパート)。商品はどういうものなのか? 競合にはどういうものがあるのか?

そして、マーケティングパートです。ペルソナはどういうふうに設定するのか? コンセプトはどう導くのか? 最後に、クリエイティブをアウトプットするパートですね。コピーライティングってどうやるのか? どうブラッシュアップするのか? ってことを広告会社が実際にやっているんですね。
これは僕だけがやっていることではなくて、まさに安達さんの発言にある「鉄板のやり方」なんですよ。まず、ちゃんと情報を整理し、競合の情報を集める。どういう人に情報を届けようか、ペルソナを考える。そこから大きいコンセプトを作って、メッセージを作っていく。まぁ、広告会社がやっていることなんですよね。
そういったことを一つひとつ言葉にしていきます。それってどんな商品なんだろう? 商品のカテゴリーや特徴、市場調査や関連キーワード、直近のトレンドを考えないといけないわけです。
ペルソナであれば、候補から決定していく。コンセプトを考える上では、洗い出したペルソナが何を求めていて、どんなインサイトがあるのかを考えていく。
コピーライティングでは、おもしろいものから真面目なものまで幅広く考える。最後に「やっぱりこれだよね」と1つの言葉に収束させる。実際にやっていることなんです。
周辺情報を整理して、ペルソナを書いて、コピーを書く。この流れは、実際は1人でやっているわけではありません。では、誰にやらせるのか。生成AIに役割を与えて(数珠つなぎのように)一つひとつの工程を生成AIにやってもらうのです。
プロンプティングのコツ③生成AIに「人格」を与える
では、どのようにすると精度が上がるのか。これにも方法があるんです。

生成AIの人格を決めて、作業をしてもらう。これが鉄則です。例えば実際のビジネスでは情報の整理をコピーライターがやってもなかなかうまくいきません。逆にクリエイティブな部分をリサーチャーにやってもらっても、やっぱり精度は上がらない。領域によって得手不得手があるわけです。
情報整理の部分は生成AIのリサーチャーを呼び出して処理してもらう。プロンプトで「あなたはリサーチャーです。情報の検索が得意です。こういうことについて考えてください」と書くだけなんです。
続いてマーケターを呼び出します。「あなたはマーケターです。生活者心理を熟知しています。この商品に興味を持つペルソナの候補を挙げてください」。こう聞くわけです。
最後はコピーライターに登場してもらいましょう。「あなたはコピーライターです。アイデアの幅を広げるのが得意なので、とにかく幅を広げてください」と。
もう1人、仕上げが上手なベテランのコピーライターを呼び出してきます。「あなたはアイデアを着地させるのが得意なので、(納得感が高まるように)ブラッシュアップしてください」。
自己肯定感の連鎖を楽しもう
このように「鉄板のやり方」を言語化して、方法論に落としていく。それだけで、だいぶ精度は上がります。
そしてですね、(精度が上がると)めっちゃうれしいんですよ。みなさんも実際に触ってみたりすると「あ、雑な指示だとうまくいかない。だけど、自分がふだんから行っているように指示してみると、驚くほどに精度が高まる。いやはや、自分の行っていた方法は正しかったのではないか」と、自己肯定感が上がるような反応が見えるわけですね。
本当にうれしいんです。(ここを体験していただきたいんです)。うれしいとまたやりたくなるんですよね。このループが回り始めたら、ほぼ生成AI人材と言ってもいいんじゃないかなと思います。