2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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鍜冶村忠氏(以下、鍛冶村):中川さん、こんばんは。
中川悠氏(以下、中川):よろしくお願いします。
鍛冶村:お願いします。Design Transformation commonsの鍛冶村です。まずこのダイアログをご説明したいと思います。
このダイアログは、デザイン経営の普及とその推進者であるビジネスデザイナーの創出を目指す、一般社団法人Design Transformation commonsがお送りするウェビナーです。さまざまなジャンルで活躍するビジネスデザイナーをお呼びして、1つのテーマを深掘ることを通じて、デザインについて一緒に考えることを目的にしております。
改めまして中川さん、よろしくお願いします。
中川:よろしくお願いします。
鍛冶村:今回は「マーケティング×デザイン」ということで。
中川:なんか笑っちゃいますね(笑)。
鍛冶村:(笑)。けっこう仲良いですからね。
中川:基本、飲みに行くぐらいですけど。
鍛冶村:そうですね、それしかしてないですね(笑)。
中川:(笑)。
鍛冶村:今回は「マーケティング5.0!?(習慣化)」ということで。
中川:言っちゃいましたね。
鍛冶村:マーケティングって、4.0までしかないですもんね。(※注:2021年2月にフィリップ・コトラー氏により『マーケティング5.0』が発売。)
中川:そうなんですよ(笑)。
鍛冶村:(フィリップ・)コトラー先生、怒っちゃいますけどね(笑)。
中川:いや、これはもう本当にあんまり触れないようにするやつですけど、コトラー先生は4.0まで言っていて、今回「習慣化」という新しいメソッドを言う時に、出版社と話して「5.0って言ったらキャッチーじゃないか」……(笑)。
鍛冶村:(笑)。
中川:ごめんなさい、これは本当にヤバいかな(笑)。あんまりこういうこと言わないほうがいいかな。
鍛冶村:でも、コトラー先生が5.0を出した瞬間に、下げられちゃいますよね。
中川:だから「(コトラー先生、ごめんなさい)」って書いてあるんですよ。それ以外はかなり真面目な文体で書いているんですけど、そこだけちょっとそういうのを書いています。
鍛冶村:(笑)。
中川:要はマーケティングのあり方も、短期的に終わるマーケティングじゃなくて、中長期的に続いていくマーケティングを目指そうという意味です。ちょっとセンセーショナルに「4.5から5.0に向かっていくぞ」という話にしました。
鍛冶村:中川さんは打ち返しがうまいので、今日はインタラクティブにチャットを使って。どんどんご質問や感想をいただければ、拾い上げていきますので。
中川:なんでもいいですね。「なんだ、マーケティング5.0って」とかでもいいと思いますし。
鍛冶村:そうですね(笑)。
中川:僕もウェビナーをよくやるんですけど、今日もラジオみたいにできるといいなと思っていて。ラジオってハガキが届いて、MCの人が読んだりすると思います。なかなかこういう時って質問しづらかったりするんですけど、もしなにか思いついたらなんでも書いてもらえると、インタラクティブになるかなと。
鍛冶村:ちょっと、見た目が安いおぎやはぎみたいな感じになってますね(笑)。
中川:(笑)。スタッフのみなさんに「双子なんじゃないか」って言われて。
鍛冶村:ちょっと服もかぶっちゃってね(笑)。
鍛冶村:一回戻しましょうか。中川さん、先ほど説明のあった肩書きが長いじゃないですか。「クリエイティブ・ストラテジスト」。噛みそうです。「ヒット習慣メーカーズ」とか、かなり興味深い肩書きなんですけど、これは何の軍団なんですか。
中川:これはですね……なにか映しますか。
鍛冶村:ぜひぜひ。みなさんたぶん中川さんのことも知らないので、ざっくり自己紹介で。
中川:じゃあ、せっかくなので簡単な自己紹介をさせてもらいます。あらためまして、中川です。博報堂の中に統合プラニング局(※注:対談当時)がありまして。「クリエイティブ」「PR」「アクティベーション」「ストラテジー」とか様々な職種をギュギュッと一緒にした局なんです。
鍛冶村:じゃあもう「なんでも受けますよ」っていうような。
中川:そうです、そうです。言ったら統合型の「ミニ博報堂」みたいな。博報堂の中にミニ博報堂があって……。
鍛冶村:わかりにくくなったんじゃ(笑)。
中川:ミニ博報堂があって、その中の1つのチームとして、ストラテジー出身者が多いチームでやっています。ただ一般的なストラテジーは、戦略を描いて終わりだったりするんですけど、(僕のチームは)戦略を描いて、そのあと実際のクリエイティブまでつなげていく。だから、僕はストラテジーもやるけどクリエイティブディレクターもやる。
鍛冶村:一気通貫でクライアントに寄り添って、プランニングまでやっていく感じ。
中川:はい。だから極端な話、インターネット調査もやるし、CMの現場にも行く感じで、わりと振り幅のあることをやっていて。最近ストラテジーとクリエイティブを両方見てほしいというオーダーはけっこうあって。
広告会社も今まで宣伝の担当者さんと向き合っていたけど、だんだんCMOとかCOO、CEOと向き合うようになってくると……CMO・COOってけっこう幅広く見るじゃないですか。宣伝だけでもないし、なんなら商品も見るし、あと流通も見たり。その全体を見る役割として、「クリエイティブ・ストラテジスト」としてやっているという話ですね。
鍛冶村:じゃあ、相対する人たちはCMOとかCOOとか。
中川:CMOとかCOOとかの方もいるし、当然宣伝の方と一緒にやる時もある。僕の場合だと宣伝の方や事業部の方ともやるし、あんまりないですけど営業・流通周りの方とかとも。CMOの方とかは全部を見てたりするじゃないですか。だからある意味、僕が得意先を渡り歩くことで、向こうの社内も統合する。そういう感じでやっていますね。
鍛冶村:ありがとうございます。
中川:これがまずクリエイティブ・ストラテジストの話で。「ヒット習慣メーカーズ」。よく鍛冶村さんが「習慣ヒットメーカーズ」って。
鍛冶村:(笑)。そうですね、すいません本当(笑)。
中川:けっこうみんな間違えるので大丈夫です(笑)
鍛冶村:「ヒット習慣メーカーズ」ですよね。しかも肩書きが「リーダー」になってます。
中川:(笑)。何なんだこれ、って。「ヒット商品」じゃなくて「ヒット習慣」をつくるっていう気持ちなんですよね。ヒット商品はモノであって、そこには体験が乗っかっていないんだけど、ヒット習慣はそこに体験が乗っかっている。かつずっと続く体験です。
僕らの中で言うと、例えばハイボール。ウイスキーが売れなくなった時に、なにか大きな技術的なイノベーションじゃなくて、体験化することによってウイスキーの売上が伸びた。ああいう「ずっと続く体験」を作りたいと思って、ヒット習慣メーカーズというのをつくったんです。広告会社だとわりと単発的な施策が多く、それはそれで必要なんですけど。
鍛冶村:あの瞬間、ウイスキーってブームっぽく見えましたけど、結局トレンド化して、そのまま習慣化しましたもんね。
中川:そうそう。結局定着して、ウイスキー樽からウイスキーがなくなっちゃったとかもあるし。すごく上手だったのは、結果、乾杯習慣がビールからハイボールに変わったりとか。もうレギュラーメニュー化もしてるんで、本当にすごいなと思って。
鍛冶村:そういうことに気付き始めた人たちが社内に何人かいて、誰かが「これって習慣じゃないの?」ということで集まって、1回ひもといていこうよ、みたいな話になったんですか?
中川:そうです。やっぱり志の近い(人が集まって)「短期的な花火もいいけど、中長期的に残るものが作りたいよね」って。特に僕はメーカー出身で、もともとエンジニアでモノづくりをしていたので。携帯電話でも2年ぐらい使うじゃないですか。ああいう感覚があって広告会社に来てるから。
鍛冶村:あぁ、なるほど。「なんでこんなに花火みたいに終わっていくんだ」みたいな。
中川:それはそれで楽しいんですけど、どこかさみしさもあるというか。ともすると、得意先とも1回のキャンペーンで終わっちゃうこともあるから。もうちょっと中長期的な得意先・顧客との関係も続けていけるといいなと思って。
鍛冶村:本にも書かれてるんですけど、どういうかたちで習慣化が起こるのかであったり、なんで習慣にフォーカスを当てていくのかを聞きたいなと思ったんですけど。
中川:それはさっきの「ずっと使い続けてもらう」ですね。大きな背景としては、やっぱり人口減少で、なかなか新しいお客さんを取ってくるのは難しくなってくる。一方で、人生100年時代で長くなってるから、いわゆるライフタイムバリュー。どっちかというと1回買ってもらうよりは、長く使い続けてもらうほうが大事になってくるよね、という話になって。
それを広告会社として実現する上では、なかなか事業化とか難しいじゃないですか。でも体験化だったら、アイデアやコンセプトで作れるし、なんなら言語化することによってそれが習慣になってくれるから。
鍛冶村:習慣というところにフォーカスしていったと。質問が1個きてるんですけど。
中川:うれしいですね。ありがとうございます。
鍛冶村:(笑)。ちょっとエッジが効いた質問というか、意見なんですけど。「マーケティングを知らない人がLTVとか言っているとけっこう滑稽なんですが、そんなことを言っている人にかけてあげる言葉ってありますか?」って(笑)。
中川:えぇ?(笑)。またすごい難しい……LTVを違う言葉で表現する。
鍛冶村:ライフタイムバリュー(Life Time Value)ですね。
中川:「生涯価値」とか言いますよね。ずーっと使い続けてもらって、結果いくらぐらい使ってもらえるかという合計の金額。
例えば、海外のあるエンタメサービスはLTVが14兆円と言われてて。月額の会費を30年間、ユーザー数と掛け算すると14兆円ぐらいになるって一時期話題になってたんですけど。定量的に計算することもできるので、生涯価値というか生涯価格というものだと思えばいいんじゃないですかね。
鍛冶村:習慣化していくとLTVとして取りやすいよね、みたいな話と、「マーケティング4.0(自己実現)」から「5.0」の、時間価値を見ていくところで。中川さんの目線で、マークティングってどういうふうに移り変わっていこうとしているのか、1回大きく捉えるとどんな感じなんですか。
中川:5.0より前は、マーケティングは「ing」だし、もともとドラッカーという経営学者が「セールスしなくてもよくする状態がマーケティングだ」と言ってるんですよ。要は「自動的に売れ続ける」状態をつくるのがマーケティングだと言ってるけども、今の世の中のマーケティングって、どうしても短期的な売上をとってくる感じで。
お客さんのインサイトを押さえて短期的に売る状態なんですけど、もうちょっと時系列で……さっきのLTVもそうで、長くずっと顧客との関係性をつくっていくことを僕は「時間価値」という言い方にしてるんですけど。長くずっと使い続ける状態をつくっていくほうにどんどんマーケティングはシフトしていくし、そっちのほうが望まれてくるんじゃないのかなというので5.0と言っていますね。
鍛冶村:なるほど。ひとえに習慣って言ってもいろいろあると思うんですけど、「習慣化」って何を指してるんですか?
中川:あれ、なんかすごい本質的ね。
鍛冶村:はい。言っちゃいます(笑)。「習慣化させる」、その「習慣」って何だろうって。
中川:「使い続ける行動」ですよね。例えばハイボールだったら、1回飲んで終わりの人もいるけど、居酒屋に行って乾杯の時に必ずハイボールって人もいるし。あと2杯目はハイボールの人もいるんで。継続的にやってくれる、使ってくれたり買ってくれる状態に持っていくのが「習慣化」なのかなって気はしてますけどね。
鍛冶村:その仕掛けをつくるってことですよね。
中川:そうです。「きっかけ」「ルーチン」「報酬」とループ化していて、このループをぐるぐる回すことが習慣化だと、概念的には整理してるんです。そのループを描いていく感じですかね。
鍛冶村:いわゆる習慣になりそうな兆しを見つけて、それに対してどう落とし込んで設計していくかという話ですかね。
中川:そうです、そうです。これが図式化したやつで、本の中にも書いてるんですけど。要はマーケティングをやってる時って、この報酬というベネフィットの部分ばかりが注目されがちなんですよね。
だけど、その商品を使いたくなるきっかけ、朝なのか夜なのか昼なのかもそうだし、金曜日にビール飲みたいのか、とかもある。ルーチンはどういう行動をしてもらえるか。
もう1個突っ込んだ話で「触媒」があって、使ってもらうためのクセになる演出みたいな感じなんですけど、このループを回していくといいですよね、と。
中川:ちょっとだけ説明すると、これは歯磨き粉の例が書いてあるんですよ。
鍛冶村:「ミントの刺激」って書いてますね。
中川:1930年代ぐらいに「ペプソデント」っていう伝説の歯磨き粉があって、そこから歯磨きは始まったんですよね。
その時広告に書いてあったきっかけは、「朝起きたらヌルヌルするでしょ、歯が」と。このきっかけの描き方も素晴らしかったんですけど。「ヌルヌルしたら使ってください」「ペプソデントをつけて歯を磨いてください」。報酬は「そうすると美しく健康になりますよ」という話。このぐるぐるを最初回し始めたんですけど、それだけだと回らなかったんですよ。
鍛冶村:「歯を磨く」という習慣にならなかった。
中川:習慣にならなくて、なかなかみんな使ってくれなかったんですよ。なんでかというと、歯を磨いた時になかなか「美しくなった」とか「健康になった」とかってパッとは感じづらいじゃないですか。ずっと使い続けることではじめて実感できるものなので。
その時、ペプソデントにミントをたまたま入れたんですよ。これがたまたま良かったんですけど。味気がないから「ミントの味を付けてやれ」っていって、それが結果すごくスースーするので、歯が綺麗になったとか、美しくなった気がするようになったんです。この触媒を入れた途端に、100年ぐらい続く習慣になった。
だから僕らはこの「きっかけ」・「ルーチン」・「報酬」のぐるぐるも大事だけど、「触媒」もめちゃめちゃ大事だという事例として歯磨き粉の例を挙げるんですけど。「習慣化って何ですか」という質問からすると、こういうループを描いていくことが大事なんだろうと思ってます。
鍛冶村:なるほど。これって、なにかしらのきっかけを人が得て、ルーチンは習慣で、それがずっと継続しないと習慣にならないので、そのために報酬があって。報酬を呼び起こすというか、全部を刺激させるのが触媒の効果なんですか。
中川:そうですね、だから……この間、トイレタリーメーカーの元役員の方と対談したんですけど。この触媒の話をしたら、「ベネフィットをエクスペリエンス化することが触媒だ」って言い方をしていたんですよ。
鍛冶村:難しい。
中川:難しいですよね。ベネフィットは、歯磨き粉でいう「歯が美しくなる」という概念なんですよ。成果の見えづらい概念を感じさせる、要は体験化するのが触媒。
鍛冶村:ちょっと難しいですね。
中川:あら? ちょっと待って(笑)。
鍛冶村:中川さんがめっちゃ賢い人みたい。まぁ賢いですけど(笑)。もうちょっと嚙み砕いて……。
中川:嚙み砕けない(笑)。でも要は、報酬を感じさせる演出。演出だから、本能的ではあるんですけど、実は本質的ではないんです。論理的に言うと実はミントって、歯磨き粉になんの寄与もしてないんですよ。
鍛冶村:あっ、そうなんですね。
中川:あってもなくても綺麗になるし、健康になるんです。演出なんですよ。あれはただ入れてるだけ。入れてるだけでクセになってしまう要素。
鍛冶村:人間の感覚的なものに訴えかける、みたいな話ですか。
中川:そうですね、本能に訴えかける。
中川:ちょっと突っ込んだ話をすると、人間の脳みそって二重構造で、真ん中に動物脳があって、外側にタマネギの皮のように人間脳があるわけですよ。なんとなく聞いたことがあると思うんですけど。真ん中の動物脳は本能で動いてるんですね。犬とか猫とか。
鍛冶村:同じなんですね。
中川:同じなんですよ。ネズミとかサルとかみんな。人間も一緒なんだけど、その周りに理性があって。みんな理性で判断してると思ってるけど、9割は動物脳が支配してるんですよ。
鍛冶村:すごいですね(笑)。
中川:だからダイエットしたいのに食べちゃったりもするし、健康診断(の結果が)悪いのに暴飲暴食したりもするし、不倫する人もいるし(笑)。
鍛冶村:(笑)。
中川:本能的な部分が9割を支配してて、だけど議論は常に論理的なんですよ。今日も論理的だけど。
鍛冶村:そうですね、まぁまぁ。
中川:だから本当は、9割の「ぐっとくる感じ」とか、「気持ちいい」「気持ち悪い」とかが大事だったっていう。
鍛冶村:じゃあ習慣化のカギって、いわゆる本能というか、動物脳にスイッチさせる。触媒を含めて、できるだけ考えずに動物脳が働くような状態にすることがポイントになるんですか。
中川:そうそう。昔から広告業界はそういうのをやってますけどね。シズルみたいな。シズルってジュージュー肉が焼ける感じで、なんかおいしそうと感じる表現のことです。
鍛冶村:そっか、シズル自体が。
中川:シズルが触媒ですよね。
鍛冶村:なるほど、理解できたなぁ。
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