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DeX commons dialogue #04 博報堂の中川悠氏が提唱する「マーケティング5.0!?(習慣化)」とは?(全3記事)

使い続けたい気持ちを生む、“ポジティブ”の付け足し 博報堂の戦略のプロが語る「習慣」の4つの要素

さまざまなジャンルで活躍するビジネスデザイナーとの対談を通して、ビジネスデザイナーになるための方法やヒント、考え方を探る「DeX commons dialogue」。本セッションでは、『カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-』の著者・中川悠氏をゲストに、「マーケティング×デザイン」をテーマに行った対談の模様をお届けします。本記事では、習慣をつくるための4つの要素や、ブームと習慣の違いなどが語られました。

マイナスをなくす習慣もあれば、プラスをつくる習慣もある

鍜冶村忠氏(以下、鍛冶村):質問がきているんですけど。

中川悠氏(以下、中川):ありがたいですね。素晴らしい会ですね。なかなか質問ってこなかったりするけど。

鍛冶村:「ハビットループ(習慣のループ)について学んでいます。習慣化の報酬としてメリットが増える以外に、デメリットが減る例もあると聞いたことがあるんですが、どんな事例が考えられますか?」。

中川:デメリットが減る例。

鍛冶村:ハビットループってあれですよね、習慣が回る(という神経学の用語)。

中川:それで言うと、歯磨き粉もそうですよね。そういうことじゃないのかな? デメリットの意味合いが(いろいろあって)あれですけど。歯磨き粉は、歯が気持ち悪いからそれを解消する。

気持ち悪くなくても、例えばエナジードリンクを飲むと、疲れてるから(テンションが)上がるみたいな、マイナスからプラスの話もあれば、コカコーラ(の広告)みたいに、もともとそれなりにいいテンションがより上がるとか。マイナスからゼロもあれば、ゼロからプラスの話もあるとは思うんですよね。

習慣はポジティブなほうがいい

中川:もう1個おもしろい話で、この間、大手の家事代行サービスの会社……これは記事化されてるんで言ってもいいかな。『MarkeZine』さんの記事で、ベアーズという会社のCMOの方と対談をしました。あそこってサブスクリプションで1万円ぐらいするじゃないですか。最初「部屋が汚いのを綺麗にする」だけだと、(お客さんが)なかなか1万円を払ってくれなかったらしいんですよ。(1回払っても)2ヶ月ぐらいで離脱しちゃったりとかして。だけど、そこにプラス「感動」を乗っけたら続いたと。

鍛冶村:どういうことですか。

中川:例えばシーツを洗ったあと、ホテル並みのベッドメイクをするとか。

鍛冶村:あぁ、なるほど。

中川:子どもがいらっしゃるところには、おもちゃを除菌してあげるとか。まったく頼まれてないのにやったら、(業績が)すごく伸びたという。

鍛冶村:それは触媒になるんですかね。

中川:それはわりと……ごめんなさい、質問にぜんぜん答えられてない気がしますけど。もう1つ(スライドを)見せます。

中川:習慣の種類は4つあります。ポジティブなほうの「成長」は、例えばランニングアプリを入れてどんどんタイムが良くなるとか、英語学習アプリを入れてどんどん成績が良くなるとか。「快楽」は、コーラを飲んで楽しいとか、ビール飲んで楽しい、みたいな。

「不満解消」は、部屋が汚いから消臭スプレーをシュッシュとするとか。「不快」はちょっと難しいんですけど、なんかやらないと気持ち悪いからやってるという。男子トイレの的みたいな。

鍛冶村:(小便器の)真ん中にある、狙うやつね。

中川:そう、やらなくてもいいけど、なんか狙っちゃう(笑)。あれは別に不満でもないじゃないですか。で、家事代行の話は、もともと「不満解消」だけでやってたんですよ。

鍛冶村:「理性的」と「ネガティブ」の2番の部分を解消していた。

中川:そうそう。そこに3番(快楽)をプラスしたしたらうまくいった。だけど、2番だけでうまくいくケースもあると思うんですよ。

鍛冶村:じゃあ「習慣の4分類」は、1つだけではなく複数あったほうが効果が倍増するというか、習慣化が大きく回るというか。

中川:そんな気はします。例えば男子トイレの的も、別にそれ以上(の「習慣の4分類」)はなにもなくても(習慣として)やるように、それぞれのブロック単体でも当然いけるんだけど。

上まで目指すとよりいいんだろうな、やっぱポジティブを狙っていったほうがいいんだろうなって、今、本の執筆時以上に思ってます。

鍛冶村:そうなんですね。

サブスクも「習慣」か?

鍛治村:あと何個か質問がきているんですけど。

中川:すごい、素晴らしいですね。

鍛冶村:「サブスクも5.0ですか」と。

中川:サブスクも5.0だと思います。習慣化してちゃんとみんなが使っていれば、5.0なんじゃないかなって気はします。ビジネス化していく時に、毎回得意先と「サブスクをやるといいよね」って話になります。ただ逆に言うと「サブスクやろう」から入っちゃうと、本当に習慣化する時に「サブスクがいいんだっけ」みたいな。

「サブスクが本当に合ってるのか?」もありますし、サブスクが週1がいいのか、月1がいいのか、毎日がいいのかも違う。やり方は後なのかもしれないですけど。

鍛冶村:ビジネスモデルありきじゃなくて。回収のHowありきで設計しちゃうと、そういうことになるかもしれないですね。

中川:そうそう。

言語化のコツは「言葉のストック」

鍛冶村:もう1個(質問が)きているんですけど、「言語化と聞くと簡単に聞こえがちですが、UX設計などにおいてはこの言語化が一番難しいと考えています。言語化のコツなどはありますでしょうか」っていう。

中川:言語系の本が、最近いっぱい出てるということは、みんな言語化に苦労しているし、なんなら僕らも苦労しますしね。でももうアウトプットし続けるしかない。

訓練ですよね。人って本を読むことはできるけど、書くことはできないから。UXとかコンセプトとかを自分でひたすら書き続けたり。あと、発明ってまったくゼロからは生まれないじゃないですか。だから、「UXを言語化してるな」と思う言語を集めまくるといいんじゃないですかね。

鍛冶村:そういうことか(笑)。

中川:真似しろという話ではなくて、そうすると自分なりに法則が見えてくる。自分が感動した言語があったらストックしておくと、絶対それがまた活かせると思うんですよ。言葉の組み合わせとかあると思うので、なるべくそれに倣って。

あと、広告のコピーとPRの言葉って違うんですよ。例えば「第3のビール」のように、「第3の〇〇」と言うとPRになりやすいとか。

だから意外と(言葉を)収集する時に、ネットの記事の見出しとかで出てるキャッチーなワードを収集しまくると、PRに強い言葉が作れるし。一方、女性誌の表紙とかで出ている「ゆるふわ」とかを捉えてくると、感情に強い言葉が作りやすくなる。

鍛冶村:そういうのをストックして、感覚的に良さそうなものをチョイスしていくという。

中川:そうすると法則がなんとなく見えてくるじゃないですか。「ゆるふわ」って言うといいのね、とか。一時期、NPOで地域の伝統工芸を活性化することをやっていて、その時に「渋くてかわいいものがいいよね」って、「渋カワ」と言ってたんですよ。

鍛冶村:なんとなく通じる感じですね。

中川:通じる感じあるじゃないですか。「渋カワ」って言っていろんな人と話すと、「この人たちこういうことやりたいのか」って(思ってくれるし)、向こうも言いやすいから言語になっていく。「ゆるふわ」的な発想でやってるし(笑)。

習慣化の兆しは、“点”ではなく“線”で追う

鍛冶村:習慣化(の話)に戻すと、大きな流れで習慣の「兆し」があるじゃないですか。これは習慣になるなって思う瞬間と、一時的にそういう現象が起きていて、習慣になるかどうかはわからないものもある。そこはどう見極めているんですか? 要は習慣になるかどうかを、チームや中川さんの中でどういうふうに(情報収集しているのか)。

中川:これが世の中に認められるかどうか?

鍛冶村:そうです、そうです。そこをどう拾うかが重要じゃないですか。

中川:そうそう。でも、いろんなやり方があると思います。僕らは常に、まず情報を見る。例えばビールの仕事をしてたら、永遠にビールのニュースとかを見まくる。メディアの論調を分析すると、世の中の縮図がわかるんですよ。

けっこう簡単で、Yahoo!ニュースとかでなにか(言葉を)入れて検索すると、いろんなニュースが出てくるじゃないですか。メディアの人は世の中の数多ある情報を凝縮して届けているので、それをある程度見れば、世の中が「どっちに向かっているのか」がまずわかります。

ものすごくいっぱいお酒を飲みたい人が多いのか、かたやコロナでちょっと飲み過ぎているからあんまり飲みたくないのか、という振り子もわかってくる。振り子がわかった状態であえて逆張りにいくのかというと、大概振り子なんですよ。

グローバル化が進んでたと思ったら、今度はナショナル化が進んでいってたり。都会の23区が流行ってたのが、今度は地方が流行ったりとか。でも、たぶんまた都会が戻ってきたりするから、「振り子」なんですよね。振り子を感覚的に理解するとしたら、ずーっと見続けるしかないんですよ。

鍛冶村:点じゃなくて、線で追っかけていくんですね。

中川:線で追っかけていく。そうそう、いいこと言いますね。

鍛冶村:(笑)。

中川:線で追っかけていくために、僕らは毎週、博報堂のホームページでコラムを書くことを課してるんですよ。それも1つのメディアだと思ってご覧いただくといいかなと思うんですけど。毎週そのコラムを書くことによって、強迫観念が……(笑)。

鍛冶村:(笑)。テーマについて情報収集していかないと(という強迫観念)ですよね。

中川:そうそう、情報収集しないといけない。しかも今週のコラムの順番が僕なんですよ。ヤバいんです。明日1日で書き上げなくちゃいけない。

鍛冶村:(笑)。ちゃんと情報収集してます?

中川:情報収集してますよ。してるんですけど、コラムにしてアウトプットするのがけっこう難しいんです。でもそれをやると継続的にできるというのは、あると思いますけどね。

「ブームはつくるな」

鍛冶村:そこで「これが習慣化の兆しだ」みたいなものがあったら、次にどうするんですか? ターゲットを見つけるんですか、それともそこはもうターゲットとセットなんですか。

中川:ターゲットとセットであります。そこからどこまで解像度を深く決めるかがあるんですけど、そこはストラテジーの領域で。ちゃんとやる時はインターネット調査やグループインタビューをやるんですけど。

ライトにやるとしたら、周りの友達に聞いたり、Googleトレンドで狙ってる現象がどれぐらいじわじわ伸びてるのかを見たりしますね。どっかの会社のマーケティング部長の人が「ブームはつくるな」って言ってたんですよ。ブームをつくっちゃうと……。

鍛冶村:すぐ落ちますよね。

中川:タピオカもそうじゃないですか。Googleトレンドが如実にこう(急上昇に)なっちゃったんですよ。

鍛冶村:一気に。

中川:こうなっちゃうと、飽きがくるから反動で下がっちゃうんですよね。パンケーキは意外とじわじわと上がってて、ちゃんと習慣に組み込まれた感じがするんですけど。

ターゲットはGoogleトレンドからも見れるし、ちゃんとやろうとしたら調査をかけるし、ストラテジーのいろんな手段はありますけどね。

鍛冶村:情報収集をしてストラテジーを立てて、次はコンセプトを立てていくんですか?

中川:そうですね、順番的にはコンセプトです。一言でなんて言うか。

鍛冶村:なんて言うかを当てて、そこからループを回していく流れなんですか。

中川:順番的にはそうですね。兆しを拾い、コンセプトとして言語化し、それをループに落として。コンセプトは概念なので、それだけだと人は動かない。コンセプトも広いから、意外と何していいかわからなかったりするので、具体的な行動まで落とす。行動に落とした上で、今後どうやって広げるか。

鍛冶村:それがさっき見せていただいた、アディクションのフレーミングなんですね。

中川:そうですね、ループはアディクションのところのフレームですね。

商品を「どう使うか」に、習慣化のヒントがある

鍛冶村:ちょっともう1回見たいなと思うんですけど。

中川:ループのところですね。……これですね。

鍛冶村:すごくわかりやすいなと思うんですけど、わかりやすいからこそ、実は設計がけっこう難しいんじゃないかなと思っていて。きっかけや兆しを見つけてコンセプトを立てて始まるとして、ルーチン化して報酬化して、触媒がそれをつないでいくというのを、どういうかたちで設計していくんですか? こうなってくると、もう商品企画に近いものになるんですか。

中川:商品企画から入れるほうが、効力を発揮しますね。ただ、もうすでにあるものの中から紡ぎだすこともありますよね。

鍛冶村:その場合、もうそもそも商品があるじゃないですか。ループ自体を発見するって、どこをどういうかたちで……。

中川:一番理想的なのは、結局「どう使うか」って話じゃないですか。商品がすでにあって、それをどう使うか、どう食べるか、どう飲むかという話だから。できたら、実際に人がどうやって使うかを観察したほうがいいんですけど。

具体名が言いづらいんですけど、消臭スプレーがあったとして、それが家でどう使われるかを理解する。もともとは臭いところにシュッシュとやるものだったのに、よくよく見てみると意外と「夜寝る前にやってる人、めっちゃいるやん」みたいな。要は1日の汚れを、夜にシュッシュとやる。

鍛冶村:浄化するみたいな。

中川:臭いを消すよりは、浄化する人が多かったのが判明して、とある会社が「きっかけ」を昼じゃなく夜にしたりするじゃないですか。

鍛冶村:なるほど、なるほど。

中川:実際使っている人を見るのをエスノグラフィーって言いますけど、それもお金がかかったり手間がかかるなとなったら、自分でどうやるか使ってみる。あとはAmazonとかアットコスメのレビューでなんて言ってるかを見るとか。

やり方はいろいろあると思うんですけど。あとTwitterをソーシャルリスニングして、どんな時に飲んでるのかな、何と一緒に飲んでるのかな、とか。使ってる人が観察できたら、よりベストではありますよね。

鍛冶村:なるほど。

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