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アートとシェア(全2記事)

『カメラを止めるな!』の成功に見る、アート×クラウドファンディングの可能性

2018年9月8日、渋谷キャストにて「SHARING DAY SHIBUYA 2018」が開催されました。“シェアリングエコノミーから生まれる新しい文化”をテーマに、渋谷区のシェアに関わるさまざまな取り組みと2018年にスタートした渋谷区独自の民泊条例の狙い、そして多くの外国人観光客が集う渋谷ならではの民泊体験・ナイトタイムの過ごし方など、その魅力と可能性について語るセッションが繰り広げられました。本パートでは、共感のシェアを生み出すアートの可能性が語られたセッション「アートとシェア」の模様を2回に分けてお送りします(1/2)。

アートとシェアのあり方を巡るセッションがスタート

司会者:ようこそお越しくださいました。さっそくではございますけれども、お二人から簡単に自己紹介も含めまして、現在の活動・取り組みについて、お聞きしてまいりたいと思います。和多利さん、お願いいたします。

和多利浩一氏(以下、和多利):僕は青山3丁目の近くで、私立の美術館をやっています。

「ワタリウム」という名前の美術館です。1990年にオープンして、今年で28年目です。主には、みなさんがよく「訳のわからない」と言われる現代アートを中心に、あとはちょっとヒストリカルなものもやったりします。その代表とキュレーターと、あとはトイレ掃除とか(をやっています)。

司会者:(笑)。

和多利:そういう感じで、なんでもやっています。

司会者:ありがとうございます。では、大高さんお願いいたします。

大高健志氏(以下、大高):MotionGalleryというクラウドファンディングサイトを運営しています、大高です。

映画・現代アート・音楽・出版といったクリエイティブな活動の、制作資金を集めるためのクラウドファンディングサイトを2011年から始めまして、2018年で7年目です。別の仕事としては、カフェやゲストハウスなどで興行として映画を上映できるサービス「popcorn」の共同代表も努めています。

よろしくお願いします。

社会実験的なノリでスタートしたクラウドファンディング

司会者:では、さっそくお話をうかがってまいりたいと思います。大高さんは、アートに関するクラウドファンディングからスタートされたということなんですけれども、そのきっかけ、また原動力はなんだったのでしょうか?

大高:僕はもともと普通に会社員として働いていて、辞めてから東京藝術大学大学院に進みました。僕が行ったのは映画学科ですけれども、本当は「アーティストや作家活動をしたいな」と思っていて、それが出発点です。

当時は「ITサービスをやろう」とはまったく考えていなかったんですけれども、映画やアートの現場の話に自分が入っていくと「お金がないからできない」みたいな話が非常に多くて。

それが若手だけでなく、かなりキャリアのあるプロの人たちでも同じで。金が集まらないことで企画が頓挫するケースをけっこう見てきました。もっと上の世代では「バブル経済のときは、もうちょっとパトロンみたいな人がいっぱいいて、お金を出してくれた」という話もあったんですけれども、僕らの世代は「絶対そんな話はないだろうし、国の助成金もたぶん増えないだろう」と思っている。そうなったときに「これは人生終わったな」みたいに感じると。それがまず最初の感覚でした。

自分たちで作れないとしたら、どうやって作れる環境をデザインしていくのがいいのか。民間の助成金じゃないですけれども「制作の前段階で、ビジョンや思いに共感してお金を出してもらって、それによって作品を作り、その人たちに届けるという循環システムが根付けば、自分たちも作りやすくなるんじゃないのかな?」みたいに思ったのが起点になっています。

当時、日本にはまだクラウドファンディングがなかったので「これをやってみたらおもしろいかな?」という、社会実験的なノリでスタートしたのがきっかけです。

MotionGalleryで支援を受けた『カメラを止めるな!』

司会者:なるほど。社会実験的な状態で始められましたクラウドファンディングでしたけれども、手応えはいかがでしたでしょうか?

大高:毎回のように聞かれるんですけれども、7年やってきてとくに失敗もなく手応えもなく、正直「うーん」という感じです。

和多利:でも、去年私たちがやっている芸術祭に携わっていた1人が、そのサービスのお世話になっていて。ありがとうございました。

大高:いえいえ、こちらこそありがとうございます。そうですね、そういう意味ではちゃんと人が集まるようになってきたのと、当初言われていた「ポップなものには集まるだろうけれど、本当に作家性の強いものって集まるの?」みたいな意見に対して、「ちゃんと集まるよ」ということは示せたと思います。

あと、瀬戸内芸術祭へ行った方ならたぶんご存知だと思いますけれども、宮島達男さんのプロジェクトをさせていただきました。また、六本木ヒルズの前の数字が点滅しているんですけれども、それをやっているアーティストのプロジェクトも僕たちでやっています。

最近のわかりやすい例で言うと、『カメラを止めるな!』という映画があります。実はその制作費を、制作前にクラウドファンディングのMotionGalleryで集めていて。このように、作る前から「きっとこれはおもしろいだろう」と思った人がお金を出してくれるという循環が、一応ができているかなと思います。

和多利:ゾンビの映画ですよね。六本木ヒルズにあるようなメジャーシアターでもやっていて。

大高:やっています、やっています。

司会者:大高さんは、今お話に出ました映画にとどまらず、音楽などをベースにしたアートプロジェクトなど、さまざまなジャンルのものを手がけていらっしゃいます。そういった分野は、これからも広がっていく可能性がありますでしょうか?

大高:広がっていくというか、広げたいというか。僕としては、半分くらいはビジネスじゃなくてノリでやっているようなところもあるので。別にそのカテゴリーが伸びそうとかそういう話ではなくて、クラウドファンドが作家やクリエイターの役に立つかたちとして、どういうあり方でいられるかにコミットし続けたいです。

現代アートをホワイトキューブから街中へと展開

司会者:ありがとうございます。将来の展望につきましては、また後ほどうかがってまいりたいと思います。では、今度はアートを広げていくというお立場の和多利さんにお聞きしてまいります。

私設で美術館を始められまして28年。現在も日本の現代アートを牽引し、世界に発信していらっしゃいます。アートと我々との関係性をどのように作っていくことを目指し、取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

和多利:1980年ごろ、僕は大学へ行っていました。最初は姉と一緒に本屋を始めたんです。それが、今はワタリウムにある「オンサンデーズ」という本屋さんです。その隣でうちの母がCMのギャラリーをやっていました。アンディ・ウォーホルとかヨーゼフ・ボイスとか、現代アートのメインの人たちをやっていたんですけれども、場所がすごく離れているので、やっぱり日本はハンデキャップがあるんです。

今みたいにインターネットもなかったですから、情報が届くのに早くても1週間かかります。1ヶ月、1年遅れるのは当たり前です。だから、いい作品があって買いたいなと思っても、もう売れてしまっているんです。そこで、作品を売るのではなく、お借りして見せることならプライベート美術館でもできるかなと思っていました。

なにかを所有するのではなくて、借りてきて見せて、見せ終わったら返す。そんなことができると思って始めたのがワタリウムです。でも、そこにはとんでもない落とし穴がありました。日本はバカみたいに保険料と輸送費が高いんです。だから、アメリカから100万円で借りて日本に送ってもらったら、150万円で返さなきゃいけないという。

大高:(笑)。

和多利:それで今でも貧乏している、という感じです。

司会者:それは始められたころから、状況はあまり変わっていないんですか? 

和多利:そうですね、あまり変わっていないです。若い作家の場合は、作ってもらったらそのまま作品を購入させていただいて、5年や10年に1回ずつ、コレクションのときに見せるのが今のかたちです。

もう1つ僕たちがずっとやっているのは、純然にファインアートと呼ばれるアートだけではなくて、建築や思想、教育といったところです。

アートをホワイトキューブという白い空間に閉じ込めていくというよりは、街に出ていって、原宿や青山という街を使っての展覧会とかもやっているので、比較的オープンな活動をしていると思います。

絶対に出会わない二者を会わせ、ランドスケープを生み出す

大高:ワタリウム美術館の全面をJRの写真で埋め尽くしたことも、すごく話題になりましたね。

和多利:そうですね。東北の三陸の漁師さんや、津波でいろんな人を亡くしてしまったけれど、元気にやっている残された人たちのポートレートを撮って、それをワタリウムの表面に貼るというプロジェクトです。

司会者:さまざまな世界情勢といった背景も含め、なにを展示していくか、どういったものを展開していくかも、大変重要になってくると思います。和多利さんがワタリウムを創設されて、そういったテーマの変遷もございましたでしょうか?

和多利:それはすごくシンプルで、今の東京や日本に必要なものを、僕たちが海外や日本のアーティストたちと話しながら作っていくということで、それが僕の一番やっていることです。例えば今だと、ハイパーランドスケープというちょっとオタク系の作家と、ブレイクダンスをやっているB-BOY系のアーティストのコラボです。

普段は絶対に出会わない2つをワタリウムの中で出会わせて、2018年のランドスケープを作っています。それは、なかなかに“今々”な感じです。こういうかたちで「古いものだとしても、今の日本にこの考え方は必要じゃないか?」といったことを考えています。例えば、岡倉天心とか古臭いこともやるんですけれども、今から岡倉天心をふり返って見てみると「教育にはまだこんなにやっていないことがいっぱいあるよ」とか、そういうことを提案しています。

司会者:見る側の反応は、和多利さんからご覧になっていかがでしょうか?

和多利:おかげさまで、うちは20代〜30代の方と、あとはクリエイティブな写真家や編集者、建築家がすごく多く見に来てくれるので、そこそこの反応はいただいていると思います。

高まるアートへの関心がもたらす、「広げる」ことの難しさ

司会者:なるほど。お二人のご活動もあり、以前に比べるとアートがより身近になってきたと思います。アートへの関心が高まりつつある中で、お二人が今苦労されていらっしゃることなどについてもお聞きしてまいりたいと思いますが、大高さんはいかがでしょうか?

大高:苦労していることですか? そうですね、本職の和多利さんの前で言う話ではないんですけれども、「広げる」というのは難しいことだなとすごく思っています。

「単に広がっていって、軽く好きという人が増えるだけでいいのか?」「ものとして深く知るとか、知るというモチベーションがないのに、関わるのが簡単になって広がってしまうのはどうなのかな?」という思いがあります。

例えば“アート × クラウドファンディング”でいうと、先に3,000円を出してくれたらこれをあげますとか、1万円を出したらこれをあげます、というリターンを約束します。個人的にはそれが、あまりに即物的というか、作家性とあまりにかけ離れているように感じていて。

単なるECサイトや安売りサイトのようにお金を集めるやり方をとると、「それでいかに参加した人が増えて、お金が集まったとしても、作品性をかなり毀損しているんじゃないかな?」と考えるところがあります。

クラウドファンディングを通じて、どういうかたちならアートの価値自体をちゃんと広めるために参加してくれるのか。どうしたら、ある種のコミュニティをちゃんと作れる装置として利用してもらえるかたちになれるのか。そんなことを常に考えています。クラウドファンディングを使うべき作家と、使うべきではない作家、というところもあるのかなと思っています。

作る場所に一緒にいるだけで、作品が肌から入ってくる

司会者:ありがとうございます。和多利さんはいかがでしょうか?

和多利:僕が扱っている日本のアーティストの表現は、3.11以降にすごく変わったんです。3.11前は、ある種のアートバブルがありました。マーケットは売り買いやオークションといったものが先行していって、「オークションで高値が付いた人が良いアーティスト」という見方もされがちでした。

そういうものを追いかけていく日本の若い人も多かったんですけれども、3.11以降は「いや、本当の幸せってなんなの?」とか「なにが一番大事なの?」といったように、少し変わってきて。社会派と呼ばれるアーティストたちもすごく出てきているんです。それを僕はすごくいいなと思っているし、最近ワタリウムでは、そういう作家を紹介することが非常に多いです。

ただ、そういう作家も食べていかなければいけないので、どこかで誰かがその人の作品を買っていくなり、本当の意味での経済的な循環ができないといけないんです。それが日本のマーケットでは、まだ非常に弱くて。そういったすぐに売り買いできないものを「どうやって経済的にちゃんと回していけるか?」ということが、今一番の問題点です。

大高:そういうことで言うと、クラウドファンディングでは、500円とか3,000円である程度の参加ができるわけです。すごく難しい本を読んで、一生懸命アートについて勉強するのは小難しくていやだなという人もけっこう多いと思うんですが、3,000円出したら出しっぱなしになるのではなくて、制作段階から関わっていけるというか。

「この人はなにを考えてこれを作っているのかな」という途中の情報を共有できたり、もしくはワークショップ的に関わることができたりします。そういった体験として制作活動にちょっと触れてみることで、アートを理解するとか、作品を理解するきっかけになると。そうすると、これまでよりも深い意味でみんな参加できます。そうやって広がっていくといいなと思っています。

和多利:そうなんですよね。だから、これはなにかを理解するのではなくて、作られた場所に一緒にいるだけで作品が肌から入ってくるみたいな。頭を通じなくても、手や汗から入っていくこともありますので、こういう機会がいっぱいあるといいですね。

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