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Look Good, Feel Good, Do Good ~オールバーズが描く未来~(全3記事)

ビル・ゲイツ氏から学んだのは、社会を動かす「戦略」の重要性 オールバーズ蓑輪氏が語る、サステナブル×イノベーション

DMMオンライン展示会が主催する「SDGs推進EXPO ONLINE」にて、ビジネスの観点からSDGsを考える10つのセミナーが開催されました。本記事ではそのなかの1つ、オールバーズ合同会社 MarketingDirector 蓑輪光浩氏が登壇したセッションの模様をお届けします。「世界一快適なシューズ」として若い世代を中心に世界的人気を博しているオールバーズは、サステナビリティを経営の中心に置いています。最終回の本記事では、コミュニケーションや戦略、パートナーシップなど、サステナビリティ分野でイノベーションを起こすためのオールバーズの取り組みが解説されました。

サステナブルな分野における「透明性と責任説明」の重要性

蓑輪光浩氏(以下、蓑輪):次に「伝わり方を設計する」という点になります。これはコミュニケーションの話ですよね。どういう表現にしていくのか、どんなメディアを使うのかという話ですけど、大事にしているのは「シンプルにナチュラルに」と「透明性と責任説明」。ここを感じています。

今は調べればフェイクニュースもたくさん出てきますし、みなさんも会社では外からはキラキラ見えるけど、中はけっこう泥臭い仕事をされたり、実情は異なると思います。サステナブルな分野においては、この「透明性と責任説明」が非常に大事だと思っています。自分たちが完璧じゃないと自己認識をしているので、正直に、透明性を持って伝えています。

いろんなことを隠して自滅するブランドを、過去にいろいろ見たことがあると思います。そうしないように自分たちは、透明に、なるべく正直に、オープンにしようとしています。「うちの会社はこういうことをしたいんだけど、できないんだ」というのもあると思いますけど、これはいろんな方法があると思います。

先ほどのように、いろんな部署の方とお話しして、下から持ち上げていく場合と、上から落としてくる場合があると思います。それは会社のスタイルによって違うと思いますので、もし上の方の意見が強いのだとしたら上の方の意志を変えればよくて、上の方の「チャーリー(顧客像)」は誰なのかと考えてみるといいと思います。

「この人はこの本を呼んでいるんだ」とか、「このメディアを呼んでいるんだ」とか、「こういう人と会っているんだ」と思ったら、そういう人の中で自分が行きたいサステナビリティの分野のことを言っている人の記事を送ってみるとか。そういう戦略を考えたりとかすると時々変わったりすると思います。

結局最後は情熱だと思うので。やりたい思いがトップの人なりチームに伝われば、はじめは暑苦しいなと思っているけど、だんだん仲間が増えていくと思います。ぜひみなさんも、いろんなところで会話していただければなと思います。

NIKEのいい広告にはいいコピーライターがいる

蓑輪:コピーライターの重要性です。これはどのサービスもブランドも企業も、どういうトンマナにするかすごく迷われると思います。一度迷ったら、自分のミッションとか価値観とか「チャーリー」とかに立ち返る必要があると思います。

そういうことを、クリエイティブブリーフとかビジネスブリーフを書く時に書いておくといいと思います。社外の方々が理解できなかったり、わかっていないことはあります。だからミッションをちゃんと明確にすることが大事です。

オールバーズは、会話の引き金になるようなことをなるべく設計しています。難しいことをなるべく簡単に言うとか、時には言いにくいこともズバッと言ったりします。先ほどのNIKEの話じゃないですけど、NIKEのいい広告にはいいコピーライターがいるというので、僕もそれに習っています。撮影とか新しいサービスをつくる時には、コピーライターの人になるべく早い段階で情報を渡します。

なるべく一緒にミーティングを出てもらって、撮影にも同行するんです。撮影の時は、その人は別に仕事はないわけです。たまにインタビューしたりしますけど。でも最後の最後に言葉を紡ぎ出すので、「この商品のコピーを書いてください」じゃなくて、一緒にジャーニーを共にする。そうすると紡ぎ出る言葉のインパクトがぜんぜん変わってきます。

コピーライターの方々と長く仕事をしていると、お互いの意思疎通ができてきて、熟成していくと思います。翻訳は、今Googleとか他のサービスでもかなり精度が高いですから、そこの部分がコピーライターの仕事だと僕は思っていないです。そうじゃなくて、伝わり方の設計と伝わるコピー。ここは本当にめちゃくちゃ大事だなと、ずっと思っています。

いいクリエイティブが生まれるのは、クリエイターに余白があるから

蓑輪:もう1つ、「クリエイターに余白を」と書いています。これは先ほどの浮世絵なんですけど、左が一番はじめのラフスケッチで、だんだん出来上がっていくところです。ワイデンアンドケネディの偉い人に、ジョン・ジェイさんという人がいるんですけど、僕はその方とユニクロの時も一緒に仕事をしました。

ジョン・ジェイさんは「クリエイターに余白を持たせなさい」と。「本当にやっちゃいけないところだけはチェックをしていいよ」「そうじゃない部分に関してはなるべく自由に任せなさい」と。

先ほどのリテールの勉強会もそうですけど、なるべく任せるんですね。細かいところにどうしても赤入れしたくなるけれども、それをググッと堪えて、どうしてもリーガル上無理なことだったりとか、容認できない価値観があったらそれはNOを出していいと思うんですけど、そうでなければなるべく余白を作ること。それによっていいクリエイティブが生まれてきます。

最後に「課題解決へのアクション」。僕は「Start Small, Go Big」というのをすごい大事にしているんですけど、なるべく小さく完璧を求めすぎずに、だんだん練ってくるようなかたちです。

戦略もすごく大事です。一時、ビル・ゲイツの財団で働いていることがありました。ビル・ゲイツさんは自分がお持ちになっている資産を使って、できるだけ不公平のない、公平な社会を作っていきたいと思っているんですね。

ビル・ゲイツから学んだ課題解決のアクションと「戦略」の関係性

蓑輪:コロナがこんなに広がる前から、ワクチンの問題はすごい大きな問題で。日本だとあまり気づかないんですけど、アフリカとかアジアのほうでは、エイズ・マラリア・肺炎という3大疾患で、かなりの子どもたちが命を落としていました。

100円くらいの錠剤の風邪薬が買えなくて死んじゃうような子がいっぱいいて、ワクチンのデリバリーとか戦略の大事さをゲイツさんは痛感しているんです。自分がいい戦略を立てて動くと、政府や社会が動くというのを知っているんですよね。

例えばみんながアフリカの子を助けたいと思っていても、結局製薬会社の人たちが安い医療サービスを提供しない限りできないわけですよ。でも製薬会社の人たちも、別にお金持ちの人たちを助けたいわけじゃなくて、みんなを助けたいと思っている。医療従事者の人もほとんどですから、その人たちに資金をゲイツさんが投入していくわけです。

そうすると製薬会社の方々はその資金力があるので、ジェネリックじゃないですけど、そういう比較的手に届きやすい価格のサービスや薬を提供できるようになります。

そういう戦略をちゃんと練って、自分たちが投入しなきゃいけないところに資金を投入することによって、例えばフランス政府や日本政府もかなりのODA(政府開発援助)を出していますし、塩野義製薬さんや三共製薬さんのような製薬会社さんも、実は見えないところで世界中の人たちを助けているんです。

そこでちゃんとした課題解決のアクションと戦略の大事さを学びました。オールバーズは違うアプローチですが。「エデュテイメント(エデュケーション+エンターテインメント)」と呼んでいる、会話を引き起こすようなアクションを作っています。なるべく自分たちが思っている常識を超えるというか、固定概念を超えるようなことを考えています。

靴箱に靴紐を通すことで、バッグを買わずに済むというアイデア

蓑輪:例えば、今これを聞いてくれている方が「カーボンフットプリントを計測して商品を出しましょう」と会社に持ちかけても、実現まではかなり大変なんですけど、これくらいだったらできるかなと。我々の靴箱には、小さい穴が2つ空いているんですね。靴紐をお店でサービスしているんですけど、そこに靴紐を通すと、ショッピングバッグになります。なのでバッグを買わなくていいんですね。

近藤雄太郎氏(以下、近藤):なるほど(笑)。

小山美紀氏(以下、小山):かわいい(笑)。

蓑輪:右側はEコマースで買った方です。梱包用の箱に入っていなくて、そのまま伝票が貼り付けられてくるんです。僕もこれを最初に聞いた時に「いや、箱を用意しないとまずいんじゃないか」「緩衝材を用意しないといけないんじゃないか」と思ったんですけど、とりあえず始めてみたんです。始めてみたら特に問題もなく、逆にみなさんからお褒めの言葉もいただきました。

業界を超えたパートナーシップから生まれる価値

蓑輪:今度近々発表するadidasのパートナーシップには、業界を超えてパートナーシップをする大切さがあると思うんです。本当にいい学びがありますね。

adidasとオールバーズが共に、スポーツやファッションはどうやったら地球環境に対していいことをできるかと真剣に考える。1企業で解決できる問題じゃないので、一緒にやりましょうと。お互いのエース級の人材を投入して、オープンな環境でみんながさらけ出すんです。スケッチとかから作るんじゃなくて、とりあえず作ってみることを大切にしました。

こうして環境負荷の低い素材とデザインを組み合わせて作業をして、史上最も低いカーボンフットプリントで作るパフォーマンスのランニングシューズを作ることができました。近々発売になる予定なんですけど、大事なのは、お互いが同じベクトルを向いて進んでいくことです。

これはグローバル規模のパートナーシップなんですけど、例えば日本でいうと、この間藍染の靴を発売しました。藍染めは「ジャパニーズインディゴ」と呼ばれて、世界でも有名になっています。

徳島とか京都とか、いろんなところで作られている。その日本の持っている伝統の技術を、サステナブルなやり方を世界中に広めたいと思って作ったんです。これをグローバルアカウントのInstagramに上げたところ、今年一番コメント数が多かったポストになりました。世界中が日本の技術に注目しています。

最後に、これは一番はじめのスライドなんですけど、この9つの言葉をスクリーンショットしておいてください。それをもって、いつも我々は、オールバーズがLook Good, Feel Good, Do Goodなかたちで未来を描きたいなと思ってやっています。ちょっと最後は駆け足になっちゃいましたけど、こちらで以上になります。ありがとうございました。

小山:蓑輪さん、ありがとうございます。

コラボレーションを乗り越えると、社内のレベルが上がる

近藤:マーケティングも含めてお話を伺って、本当にいろんな角度からいろいろ聞きたいことがあるんですけども。

透明性という話がありましたが、業界的にも言いづらいことをズバッと言うこともあれば、adidasさんの協業のような話もあったと思います。ある種、競合他社とも言える企業とのコラボの難しさというか、かたちにするまでの困難な局面とか、どれくらいの時間がかかったのかとかが気になりました。

蓑輪:僕は実際にプロダクトを一緒に作っていないのでわからないんですけど、コロナになって拠点がバラバラになりました。オールバーズでいうとアメリカ、adidasでいうとヨーロッパ・ドイツ・オランダ、あと生産拠点がアジアですね。普通はだいたいどこかに集まってやり取りして、また戻って、集まってという感じなんですけど、それが全部オンラインで行われました。

サプライチェーンもかなりズタズタになっていますから、そういう意味でかなり大変だったと思いますけど、やはりみんなが成功に導くという強い意志を持ってくれていましたね。トップの人たちもがんばってサポートしてくれましたし、現場の人たちもがんばってくれています。

今アディダスジャパンさんと僕らは一緒に、ほぼ毎週のようにお話ししています。普通のコラボレーションじゃなくて、いろんなことを共有し合って、このプロダクトが出来上がったあともお互いが活きるようしています。

ユニクロ時代でいうと、僕はジル・サンダーさんとのコラボレーションに立ち会ったことがあるんです。ジル・サンダーさんはすごく天才的なデザイナーで、究極の美意識を持っている方で、すごく大変だったとユニクロの方は言っていました。でもそのあとは、ジル・サンダーさんのコラボレーション以外の商品のクオリティレベルが上がったり、社内のレベルも上がるんですよね。

adidasさんと僕らもこれと一緒で、異業種の方、違う背景を持った方が来ることによって、いろんな化学反応が起きています。なので僕らも、adidasさんと一緒に仕事をすることによってたくさん学びましたし、逆も然りだと思っています。

近藤:adidasという業界大手とのコラボレーション、SDGsの世界的な波もあってスムーズにいった部分もあったんでしょうか?

蓑輪:そうだと思います。僕らはサステナビリティの分野は意外と、遠慮なくいろんなところに話に行きます。断られるケースもあるし、「一緒にやりましょう」というケースもありますし、比較的「競争」という意識より「協業」という意識が強いんじゃないかなと。

近藤:サステナビリティはただ単に地球にやさしいだけじゃなくて、イノベーションの機会にもなるという話は共感できるポイントでした。すごく勉強になりましたね。

世界共通で言えることは、新しい社会問題に対する若い世代の反応のよさ

近藤:Q&Aに質問が来ていますね。

<質問:SPOをIPOに変更した背景など、何かご存じですかか?>

蓑輪:株式公開の時に、はじめに「SPO」、サステナビリティパブリックオファリング(持続可能な株式公開)という名前にしていたんですけど、IPOという名前に変わったんです。お詳しいですね。

我々がサステナビリティの、ESG投資の新しいフレームワークを作りたかったんですよね。「SPO」という名前にこだわったわけではないので詳しくはわからないんですけど、ステークホルダーの方から複雑なIPOとSPOの混同が起きてしまうとか、なにかしらの背景があって違う名前になったと聞いています。

近藤:ありがとうございます。「ミューズ」「チャーリー」の話があったと思うんですけど、世界で一番共通している項目はどんなところにあるんですか。ソーシャルとかエシカルとかですか?

蓑輪:国によっていろんな情勢が違って、UKでいうとブレグジットの問題ですとか、Roaring20’sと言ってみんながパーティしちゃって分断されていたり、COP26の時にすごいデモが起きていたり、アメリカも山火事がすごくあって、環境問題に対してすごい注目していたり、大統領選挙で混乱がおきたり、いろいろと国が分断するような大きな動きがありました。

日本も東京オリンピックについていろんな議論がされましたけど、結果的には日本じゃなかったらできないくらい、平和的に開催できたんじゃないかなと思っています。国民が我慢したこともありますけれども。

なので国によって違うんですけど、共通して言えるのはジェンダーの問題とか、環境の問題とか、いろいろな新しい社会問題に対して若い人たちが気づき始めて、アクションに向かっている。そのあたりが特徴的かなと思います。

アクションの仕方も欧米の人はけっこうラディカルですけど、日本の人はけっこうピースフルなかたちで、マイバッグとか、できることからやっていると思います。アプローチは違うんですけど目指している方向は同じで、特に若い世代の人たちは反応がいいなと思っています。

コミュニティは、自分たちで囲わずに大きく交流を促す

近藤:時間がそろそろ来てしまうんですが、1個だけ聞いてもいいですか?

蓑輪:もちろんです。

近藤:コミュニティづくりの話がすごく興味深かったなと。小さく始めるところがあるかなと思うんですけど、その後はどんなゴールがあるんですか? 定量的なところもあると思うんですけど。

蓑輪:もちろんコミュニティの数をこうしたいとか、こういうところとつながりたいとか、そういう目標は持っています。でも今やっていて一番いいなと思うのは、アンバサダー同士が横でつながっていくんですよね。

なのでサーフィンをやっている山中海輝君やランニングをしている櫻子さんが、農業をやっている西辻さんのところに行って、一緒に農業をするんです。そうするといろんなことを話し合うんですよね。

ふだんランニングの世界にいる櫻子さんは、農業のところになかなか行かないんです。そこを僕らが橋渡しをしてあげている。そういうことによってスケールアップしていくのを肌で感じていて、そういうよさはコミュニティの中であるんだなと思っています。自分たちで囲わずに、なるべく大きくしていろいろ交流させる。そういうことを1つの目標にしています。

近藤:なるほど。そこもある種の透明性というか、DtoCの文脈にもつながってくるようなコミュニケーションですね。

蓑輪:そうですね。ランニングのコミュニティとかは比較的やりやすいじゃないですか。「一緒にスノボーに行きましょう」は難しいけど、「皇居の周りをみんなで走りましょう」のほうが簡単に行けるので。丸の内の店長さんも、近くの中通りのお店に行って「一緒に走りましょうよ夜」と声をかけるし、だいたい来てくれるんですよね。

近藤:そういうカルチャーがまさにオールバーズさんだなと感じました。それがちゃんと現場まで伝わっている。リテールのスタッフさんの勉強会の話もありましたけど、コミュニケーションの点と点がつながって線となり面となっているのかな。

蓑輪:毎日お客さんと接しているリテールのスタッフが一番大事だと思います。本社の人が偉そうにプレゼンを作ってもしょうがないんですよね。現場の方々がどうやって働きやすい環境を作っていくのか、オールバーズだけじゃなくて他の企業でも学ばせていただきました。

近藤:ありがとうございます。オールバーズの魅力をすごく感じる1時間でした。お店もすごくかわいくて居心地のいいお店なので、ぜひみなさん足を運んでみてください。

それではみなさま、本日は誠にありがとうございました。それではただいまのお時間をもちまして、本セミナーを終了とさせていただきます。最後までご視聴いただいたみなさま、本日はお忙しい中、当セミナーにご参加いただきまして誠にありがとうございました。

近藤:ありがとうございました。

蓑輪:ありがとうございました。

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