2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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楠木建氏(以下、楠木):(僕が書いた本で、『ストーリーとしての競争戦略』という本があります。)けっこう世の中厳しいなと思うのですが、8割方が金返せということで、日夜苦情をいただいているわけです。一番多いご批判が「これ、お前の本は全く実用性がない」ということと、「この本を読んでもどうやったら優れた戦略が作れるか書いてねえじゃねえか。金返せ」というもの……今日の朝、3ついただいたのですが。
(会場笑)
これに対して、僕は必ずご返事を差し上げています。僕としては、こう(「あきらめが肝心です!」)としか言いようがないわけですよね。そもそも、ここ(担当者と経営者)がゴッチャになっているのが問題の始まりであって、これはまったく違う仕事であります。
今、なにも社長だとか、役員だとかいう話じゃございませんで、これはある商売の塊ですよね。これを持たされて、「ちょっとあなた稼いできてください」と。「わかりました。私がどうやって稼ぐか完全に教えます」。こういう人を、今、経営者と呼んでいます。
これは、担当がないということが、経営という仕事の本質でありまして、こうした例で説明をすると分かりやすいのですが。
僕は、飛行機では必ずエコノミーに乗ります。ビジネスクラスはちょっと高すぎないかな? 仕事先が取ってくれるときは大喜びでビジネスクラスに乗りますが、自分では必ずエコノミー。
そうすると、やはりごはんですよーと言っても、だいたいカレーライスと照り焼きチキンの2種類くらいしかなくて、時間になると乗務員の方が「はい、どちらになさいますか」と聞きに来ます。そこで、僕はカレーが食べたいのですが、僕の5列前でカレーがなくなりました。そうすると、接客のプロですから、きちんと謝ってくださいます。申し訳ございませんと。
そして、3ヶ月後に同じフライトに乗ったら、僕の2列前でカレーがなくなっちゃった。プロですからまたものすごく丁寧に「お客さま、大変申し訳ございません。ちょうど2列前でカレーが切れてしまいまして、今は照り焼きチキンしかございませんが、これもけっこう評判がよろしゅうございますよ」なんて言ってね。「照り焼きチキンでもよろしゅうございますか?」。
そんなことにこだわりはないので、別にいいですよ。でもそのときに思ったのが、この人は一体何百回こんなふうに謝ってきたのだろうかと。もし、経営者の誰かにもうちょっとセンスがあれば。
そもそも、カレーと照り焼きチキンの発注ミックスが間違っているだろう。カレーと照り焼きをシフトして発注しろと言うか、もっと経営者だったら、こんなエコノミーで誰もメシなんて期待してないから、はなから軽いものにしておけと。
(会場笑)
オペレーションも軽くなるし、なにより欠品がないからかえって顧客満足度は上がるのではないか。サービスも早くなるし。つまり、経営の仕事というのは、事前に設定されている担当の領域を絶対にはみ出しているものです。これが全体を相手にするということです。
そして、この違い(担当者 VS. 経営者)が、この違い(スキル VS. センス)に還元できるということが言いたいことでありまして。これ、話は簡単です。あなたの仕事はここからここまでですよ。経営はここまでですよ。
担当者であれば、その分野のセンス、スキルが物を言うのですね。ところが、まるごと全体となると、もはやセンスとしか言いようのない世界に突入するということです。
このスキルとセンスというのは、これは代表的な例ですが、国語・算数・理科・社会。これはスキルですね。女にモテる。これはセンスです。これで、どれだけ違うのかということです。モテない人はなにかのスキルがないからモテないわけじゃありません。向いていないのですよ。
これはもともとベクトルの違いで、スキルは全体が部分に分かれて初めて出てきます。ですから、マーケティングのスキル、ファイナンスのスキル、法務の知識。まるで会社の部門の名前になっているようなスキル設定がいっぱいありますし、英語ができる、プレゼンテーションのスキルなどですね。全体の部分に分かれて、初めて特定できます。
センスはベクトルが逆なのです。常に、全体を遡っている。だから、お洋服のセンスがありますねというときに、あいつの靴下がすごいんだ、ネクタイの結び目が最高だという話じゃありませんね。常に全体を見ているわけです。
これはそもそもの概念的な違いなのですが、スキルであれば、TOEICが850点。けっこう英語ができるので、これを見せられる、示せるで分かります。ところが、「私は渉外センスがありまして」と言っても信用できないので、センスはなかなか示せないわけです。
スキルであれば、さすがに350点じゃもうちょっと英語を勉強するかな、という話になるのですが、センスがない人はだいたいそのまま行きます。洋服のセンスがない人はいつまで経ってもないままです。これはフィードバックがかかりにくいのですね。自分のセンスがないということが分からないのですよ。
スキルは、やればできるようになります。やれば必ず前よりもTOEICの点は上がります。大切なのは努力、時間、投入です。センスがやっかいなのは、ないやつががんばるとますます酷くなるのですよ。洋服のセンスがない人が、10万円持ってUNITED ARROWSに行くとだいたい酷いことになるのでね。ということが、センスとスキルの違いなのですが。
これ(ロジカル・シンキング)は、スキルですね。昔の本ですが、『ロジカル・シンキング』という素晴らしい教科書があるので、ぜひ、この本で勉強していただきたいと思います。この通りにやってください。必ず前よりもロジカルにシンキングできます。
なぜかというと、これ(ロジカル・シンキング)はそもそもスキルだからです。中にはちょっと初めてで心配だという方もいらっしゃるでしょうが、まったく心配ございません(スライドに『はじめてのロジカルシンキング』という本が表示される)。
スキルには必ず対応した方法があります。忙しくてそんなのやってられないよという方もいっぱいいらっしゃると思いますが、心配ございません(スライドに『3分でわかるロジカル・シンキングの基本』という本が表示される)。言いたいことは、これ(ロジカル・シンキング)がスキルだということなのです。
僕は、経営まるごと全体となると、センスだと思っていて、この本を出したときに、新潮社の方が極めてセンスのない帯を作ってくださったのですが、これに僕は反対で、一番最初に持って行った僕の本は、「スキルではどうにもならないことがある。これで(帯を)やってくれ」と。即座に拒否されました。
今、みんながどうして本を買うのかというと、スキルを手に入れたいからわざわざお金を出して本を買うわけで、お前がこんなことを書いても売れるはずがない。そこで引っ込めまして、僕の第2案は、「経営は向いているやつがやればいい」という。これだけはやめろと言われましたが。僕は、心の底からそう思っています。
なぜかと言うと、スキルを超えているからですね。これはどちらも必要です。なにもスキルが要らないなどとは言っていません。このかけ算(経営者のセンス×担当者のスキル=商売の成果)で成果が出るのはおよそ間違いないと思いますが、ただ、(スキルとセンスは)違うということなのです。これをゴッチャにするところから、さまざまな悲劇が生まれているわけです。
例えば、これ(「モテない、さてどうする?」という問い)はセンスがないんですよね。会社の中で、なぜか(モテることを)スキルと勘違いして分析するやつがいるのですよ。これは要素分解なので、もうこれをやった瞬間に、すぐにできるできないという話ですね。例題チャートなどを書いたりして。
するとこれが足りないあれが足りないという話になりますよね。こうやると必ずモテるようになりますよ、というスキルメーターを持ってくるやつがいます。ああそうですかと全部取り入れると、何が起きるでしょうか。間違いなくますますモテなくなる。
(会場笑)
これはですね、最初のところ(モテることはスキルであるという考え)が間違っているだけなのですよ。これがスキルであれば、全部正しいのですよ。スキルじゃないものがあるのではないでしょうかと。そこでまた話が戻るのですが、このセンスというものは、なかなかこうやったらできるようになるという方法がないわけですが、ひとつある手がかりとしては、好き嫌いにかなり依存しています。
スキルは、インセンティブが大切なのですね。TOEICが満点になると、こうした仕事ができるよということですね。インセンティブ。要するに、外にある誘因ですね。
でもセンスは、インセンティブが効かない。中から出てくるドライブ。これが動因ですね。誘因と動因の区別が大切だと思うのです。
僕はその動因に関心がありまして。こうした本(『「好き嫌い」と経営』)、いろんな人にも好き嫌いだけを聞いていくという本(『「好き嫌い」と才能』)を作ったことがあるのですが。
例えば、先ほどの柳井さん。とにかくですね、これ(デカい商売、競争)が好きだったと。もうニッチなんかにこだわっていたらなれないので。競争ドンと来い。雑貨なんてやめてくれと言ってね。「どうしてですか?」と言ったら、「いや、例えばね、クッション。1人の人がね、毎年5個も買わないでしょ? ヒートテックだったら5枚買いますよね」
これ、意味が分かりませんが。というのは、これはもう好き嫌いなのですよね。良し悪しを超えているわけです。チャラチャラしたのはやめてくれと。でかくなりませんから。そこで、ああいった先ほどのような戦略が出てくるわけですよね。
おなじファッション業界でも、UNITED ARROWS創業者の重松さんは、好き嫌いは柳井さんと真逆です。もちろん、(ファッションは)大好きですね。(好きなことをしてきただけ、という)非常に脱力系ですよね。もうこうしたもの(俺についてこい!)はダメだと。
あと、「おれは運が良いんだよ」と言う。重松さんが、「いや、君もおれのことを運が良いと思っているだろう」と言うので、「もちろんいいと思ってますよ」と私が言ったら、「君が思ってるよりもずっといいことの連続だよ」と。
(会場笑)
ぜんぜん柳井さんとタイプが違うのですが。だから、ああいったUNITED ARROWSの戦略が出てくるわけですよね。スタートトゥデイの前澤さんですが、もうとにかくぜんぜん違ったタイプで、自然に自分が喜ぶことをやりたいと。その結果、会社があるのだと。
(前澤さんは)柳井さんはきっと僕のことは嫌いでしょうねと言っていましたが、たぶん嫌いだと思います。でも、それはまったく問題ないのですよ。好きなことが違うから、違いが生まれる。
それぞれに、優れた戦略が出てくる。ちょっと番外ですが、(ローソン取締役会長の)新浪(剛史)さんにおなじ話を聞いたら、「嫌いなヤツに嫌われるのが大好きです」と言っていました。こうした人だから、ああいうことができるのかもしれませんね。
つまり、動因は中から出てくるわけです。戦略的な意思決定。ライブアンドライブの選択。外の力を加えると生まれるものも生まれないということなのです。
例えばそういう視点ですね、昨今のこうした話(働き方改革)。いろいろとありますが、僕も同じ成果が出るのであれば、当然より短い時間で働いた方がいいに決まっていると思います。
ここで確認したいのが、趣味と仕事は違うということ。これ、基準は非常に明確です。趣味は自分のため。自分がよければすべてオッケーなのですよ。仕事は、自分以外の誰かの役に立つということ。シンプルで非常にクリアです。
では趣味とは一体どんなものかについてご紹介します。これ、Bluedogsという僕のバンド(スライドにバンドの写真が表示される)です。25、6年もずっとこれをやっていますが、僕はロックをやるときだけは髪が伸びるという、特殊な体質なのですけれど。
(会場笑)
これは趣味のものなのです。自分たちが楽しくてやっていますね。アマチュアバンドの1つの典型で、やっている方が一方的に気持ちよくなるバンドだと。難点は、誰もライブに来てくれません。なぜか。趣味だからですね。つまり、自分以外の人たちにとっては、価値がないのです。こっちが気持ちよくなりたいので、なんとか頼み込んで来てもらっていますが。人がいっぱいでないと気持ちよくなれないのですよ。
ぜひみなさんも、Twitterかなにかチェックして、来ていただきたいのですが、我々のライブにお越しいただく観客の方々をバンドの中では、犠牲者の方々と言います。それですよ。犠牲をもとに気持ちよくさせてもらっている趣味ですね。
そういうと、好き嫌いは趣味でやれと。仕事は好き嫌いでやっている場合ではなくて良し悪しだからということになる。これが傾向なのですが、言いたいのは、実は仕事こそ好き嫌いが大切である、ということです。
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