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テクノロジーが変える経営手法(全3記事)

借り入れがあっても「実質無借金」なら大丈夫 飲食店が目指すべきビジネスモデル

飲食業界のリーダーたちと外食の未来を考えるカンファレンス「FOODIT」が2017年9月21日に開催されました。業界の今後のカギを握る「生産性」をテーマに、外食産業に今後起こるイノベーションについて第一人者が議論。本パートでは、マネーフォワードの辻庸介氏とCredo税理士法人代表の水野剛志氏が、クラウド会計でできる飲食店のマネジメント方法についてディスカッションしました。

売上3ヶ月分のキャッシュを目指す

辻庸介氏(以下、辻):キャッシュをちゃんと持つようにするには、どういったところに気をつければいいのですか?

水野剛志氏(以下、水野):まず前段に、いくらキャッシュを持っておけばいいのかという、そこの基準がないと話ができません。会社全体の売上を12ヶ月で割ってもらって、月商平均の何ヶ月分のキャッシュを持っているかがポイントになってきます。

1ヶ月分を切っている会社を銀行はどう見ているかというと、自転車操業と見ています。実際に僕、お客さんが銀行へ行くときにけっこう同席するのですが、その話は何度も出たことがあります。やっぱり1ヶ月というのがひとつ、そこを切っている会社の場合は自転車操業だよねと言われるのですよ。

:売上が出ていてキャッシュがない会社は、借りたいのに、1ヶ月(の預金)を見られて、売上は高いのに貸してくれないとということですか?

水野:よくあります。そこで、いくら目指したらいいのかという話ですが、いちばん目指してほしいのは3ヶ月分です。3ヶ月は財務的には超優秀。ですが、まぁ月商平均の2ヶ月分ぐらいキャッシュが貯まってくると、調達は伸びてきます。

:売上の3ヶ月分ですか?

水野:そうです。例えば年商1億2,000万の会社の、月商の平均は1,200万円ですよね。そうすると、1,000万円を切っている会社、現金・現預金を合わせて1,000万を切っていたら、かなり自転車操業だと見られます。2,000万を超えてくると、銀行が融資をしたいなという会社になってくるのですね。

:なるほど。そうなんですか。

水野:それは明確にそうですね。

借り入れがあっても「実質無借金」なら大丈夫

:「自己資本金」や「借入金」などもあるじゃないですか。あの辺りも、素人ながら、銀行から見られていると思うのですがいかがですか?

水野:めっちゃ見ていますね。

:そこもですか?

水野:逆に言うと、そこだけなんですよね、大きく見ているところは。

:(合わせて)3つですね?

水野:キャッシュ、自己資本、借入金。自己資本はどうしてかというと、今までその会社の利益がどのように積み上がったか、利益の積み上げの利益幅、歴史が乗っているのが自己資本なんですよね。そして借入額というのは、この会社に対していくらまで貸せるかということを判断する部分です。

:それは売上、月商の3ヶ月分が残高であります、自己資本もそこそこ積もっています、でも借り入れがなかったらもうぜんぜんOKといったような?

水野:そうです。

:借り入れあったらその分引いてもらうということですか?

水野:そうです。そこもやっぱり明確な基準がありますね。

:へぇ~、そうなんですね。借り入れはした方がいいのですか? それともしないほうがいいんですか? 

水野:借り入れをしないでキャッシュが持てるのであれば、それが理想です。でも飲食店さんは、やっぱり投資ビジネスなので、かなりお金がかかってきます。そうなると、理想の状態はなかなか作れないので、無借金ではなくて「実質無借金」を目指すように僕らはお伝えしています。

:実質無借金?

水野:借金を全額お金で返せる状態ですね。借り入れ以上に現預金を持っている状態。これがやっぱり一番理想ですね。

銀行は必ず3行以上とつき合うこと

:そこまで到達するためのステップは難しいですよね。はじめに店舗を出してから、どんな成功ストーリーを身につければいいのですか?

水野:やっぱり、付き合う銀行はどんどん変わっていくんです。はじめはやっぱり飲食店さんの場合、日本政策金融公庫から借りるケースが多いです。僕らはその場合、もう借りれるだけ借りてもらうんですよ。

:もう、MAX借りるんですか?

水野:MAX借りて、かなり現預金が厚い状態でスタートします。そうすると次の段階で、1年も経たないうちに、今度は銀行さんからすぐに運転資金を借りられます。

保証協会では、初回の融資にすごく時間かかるんです。だから保証協会をはじめに早く使っておかないと、新店舗を出そうとすると時間がなくなりすぎて設備資金の借り入れも合わなくなってしまうですよ。

:なるほど。

水野:だいたい3店舗から5店舗ぐらいになって、最初3期分ぐらい良い状態ができて、財務がよくなって、キャッシュもしっかり貯まってきてという状態になると、今度は銀行から運転資金が出るようになってくるんですね。

飲食店さんの場合は、設備資金でしか出ないと思われているのですが、そんなことはありません。運転資金で、複数行組成することができます。5,000万円引っ張ろうとするならば、5行から1,000万ずつ借りる。プロパーで5行から1,000万ずつ借りていくと、運転資金として自由に使っていいお金ですし、一気に調達が伸びてくるんですよね。

:借入先は、わざと分散させたほうがいいのですか?

水野:分散させる必要はありません。もう貸してくれるのであれば借りれるだけ借りたほうが僕はいいと思っています。そして、それをキャッシュとして残しておく。でも、複数行は絶対につき合うべきです。少なくとも、3店舗をやっている飲食店さんであれば、3行以上は絶対につき合うべきですね。

どうしてかというと、銀行は支店長が異動になって変わると、方針がものすごく変わるんですよ。もし1行としか付き合っていなくて、支店長が変わってしまった場合、調達が伸びなくなる恐れがあります。

:あるあるですよね。

水野:あるあるです。複数行とお付き合いしておくと、「うちの金利高いですか?」とよく聞かれます。複数行つき合って「別の銀行がこうで、高い」みたいにやっていくと、金利コストも落ちてきますよ。今はだいぶ落ちているので。

:今は本当に安いですよね。

水野:今、すごく安いです。

:へぇ~。そういった交渉、飲食店のオーナーさんにとって、すごく難しいじゃないですか。そういうとき、水野さんがついていってくださいますか?(笑)。

水野:そうです。いくつかプランがあって、スタンダードプランはそこまではやりませんが、CFO的なポジションで入っていくプランがあるので、そうすると決算報告に一緒に行ったり、半期の報告に行ったり、新規出店の際の投資計画、資金計画を作ったり、全部やっています。

:僕なら払います(笑)。

銀行には絶対に「紹介」で入れ

水野:あとですね、銀行さんとの関係作り。例えば、複数行つき合いたいけど、現時点でおつき合いがない場合、銀行には絶対に紹介で行ってほしいのですよ。

:紹介で?

水野:(いきなり)入っていって「お金貸してください」と言う人に、お金を貸してくれませんから。

:あぁ~。やっぱり世の中紹介ですよね。

水野:紹介です。ですから、僕らのような業者、税理士なども銀行さんとは絶対におつき合いがありますから、顧問税理士とつき合いがある銀行を教えてもらって、「お金を貸してほしいという紹介をして」と言って紹介してもらったり、仲のいい先輩の経営者などに紹介してもらうというようなかたちで入っていく。

「あの会社、いい会社だから、紹介してあげるよ」と言ってもらって紹介してもらったほうが、やっぱり彼らは本気になってくれます。

:それはそうですよね。しかもその紹介してくれた人にお金を貸していたら銀行のお客さまからのご紹介になりますもんね。

節税には3種類ある

:あと、聞きたいことがいっぱいあるのですが。節税もやっぱりすごく関心が高いと思うんですよ。みなさんキャッシュができると税金を払わないといけなくなりますよね。節税について、飲食店の経営者さんはどう考えればいいのですか?

水野:節税は、税金を減らすことですが、実は3種類ほどありまして。「税金を減らす」というのは全部一緒なんですが、飲食店さんはやっぱり、先ほどから何度もお伝えしているように、財務をよくしないといけない。キャッシュを残して、さらに自己資本も残すということをやらないといけません。

そうなったときに、税金を減らす方法は3種類。1つはキャッシュも減って利益も減る節税。例えばいちばんスタンダードなのは、儲かったから交際費を使う。今年は利益が出ているから、今のうちに買えるだけ買っておこうと。

:「車を買う」などですか?

水野:そうです、そうです。節税ですね。そうすると、キャッシュも利益も減っていくので、財務は毀損しちゃうのですよ。そうすると調達は伸びなくなるのですよね。

次に、キャッシュは減らずに、利益が減る節税。例えば、減価償却の方法を変えたり、会計基準のやり方を変えたり、あとは社長さんの携帯代など、もうすべて払っているのだけど経費に充てていなかったものを経費にする。

そうした節税は、キャッシュは確かに減らないのですが、利益が減ってしまいます。それを提案してくれる税理士は、いい税理士だと思われているのですが。

:なるほど。

水野:いちばんいいのが、キャッシュも減らないし利益も減らない、税金だけ減る節税。

:そんなのあるんですか?(笑)。

水野:あります。今の話を茅ヶ崎のラーメン屋さんとしたら、「本当にそんなことあるの?」と。あるんですよ、申告書上でやっていく節税。税額控除ですね、端的に言うと。税額控除を使っていくと、税金だけ減って、決算書の利益も減らないし、お金も減らない。飲食店さんでは、「所得拡大促進税制」というのが今使いやすいです。

:へぇ~。所得拡大促進税制ですか?

水野:ざっくりいうと、去年よりも給料が上がっているところは、かなり使える可能性があります。

:なるほど。

水野:ただ、僕らは税理士変更で来ているお客さんの決算書などをいっぱい見るのですが、使っているところはほとんど見たことがありません。

:なるほど(笑)。詳しくは水野さんに聞いたほうがいいですね。3つの節税があって、みんなだいたい1番(キャッシュも減って利益も減る節税)をやりますよね。

水野:それはあんまり、長い目で見たらよくないぞということです。税金を避けるところは一緒なんです。けれども財務は毀損するので、調達が伸びなくなるんですよ。

:なるほど。

フランチャイズは店舗戦略を促進させる手段

:あと最後に、フランチャイズの多店舗展開の方法、これについて、みなさんもご興味あると思うのですが、コメントをいただいてもいいですか?

水野:店舗展開をやっていこうとすると、みなさん5店舗を超えると、フランチャイズの仕組みを検討されます。

理由としては、スピード感が合わなくなってくるんですね。自分たちが出していきたいというスピード感と、銀行さんが出してくれる融資のスピードが合わなくなってくるんです。ですから、ここのスピード感を一気にとっていきたいというときに、フランチャイズの仕組みというのは非常に有効なんです。

あとは、今、人材不足の中、やる気のある社員をどう確保していくかということが1つの課題になっていて、そこで独立開業支援制度などをうまく使ってやっていくという意味でも検討される方もいらっしゃいますね。

:レバレッジと、それも仕組み化ですよね。店舗戦略を促進するというような。

水野:そうですね。

:なるほど、ありがとうございます。あっという間に時間が来てしまいましたが、ほかになにか、これはちょっとお伝えしておいたほうがいいということはありますか?

水野:フランチャイズのところで、これは辻社長にお願いなんですが、マネーフォワードさんの部門別の権限設定ができると、これは親会社、フランチャイズの親の方がすごく喜ぶのですよね。

:なるほど!

水野:子会社側の状況をどうやって管理、把握していくかというのが絶対の課題なので。ここを必ずやるために、フランチャイズの契約は指定業者があって、レジを必ず指定業者にする。POSレジを指定業者にしているのですが、それがなければ利益ベースで子会社側の経営が見えるので。

:なるほど、わかりました。そこは改良をさせていただきます。

水野:よろしくお願いします。

:あっという間に45分間が過ぎ去ってしまったのですが、本当に僕もごく勉強になることが多くて、今日のお話がみなさんに少しでもお役に立てればと思いますし、このあと水野さん、残っていただけますよね?

水野:はい。

:さっきの話では時間がなかったので、税制の話や節税の話など、コンサルティングの話でもしもご興味があって、ちょっとでも聞いてみたいという方がいらっしゃいましたら、このあと水野さんに残っていただきますので、名刺交換等していただければと思います。

では、すいません。ダーッと急いだペースで大変恐縮ですが、貴重な時間をいただきましてどうもありがとうございました。水野さん、どうもありがとうございました。

水野:ありがとうございました。

(会場拍手)

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