CLOSE

アントレプレナーの意思決定に必要な戦略思考を学ぶ(全6記事)

マッキンゼー出身の戦略コンサルタントが明かす、優れた経営者の前提条件

2016年1月22日、「Impact HUB Tokyo」がマッキンゼー出身の戦略コンサルタント・田中良直氏を迎え、「戦略思考」について学ぶミートアップを開催。本パートでは、戦略思考をする際に、大切な「論理性」「ファクト」「ゼロベース」についてレクチャーが行われました。

論理性がなぜ必要なのか?

田中良直氏(以下、田中):3つ目。3つ目は、論理性が必要になります。論理だけがすべてではないんですが、論理性は重要ですね。なんのために重要だと思いますか?

参加者5:説得するため。

田中:説得するため。なるほど、人を説得するため。それもあります。ありがとうございます。ほかに戦略思考をやっていくうえで、論理性がなんで重要なのか?

参加者6:ほかの人と共有する、論理立てて説明する。

田中:ほかの人と共有する、論理立てて説明するためということですよね。ありがとうございます。

参加者7:よりシンプルに見るため。

田中:よりシンプルに見るため、なるほど。論理的に見て、本質を捉えて、よりシンプルになるということですよね。すばらしいです、ありがとうございます。

参加者8:予測が立てやすい。論理的だと。

田中:論理的だと、予測が立てやすい?

参加者8:数式化しようと思えば数式化できるので、予測はしやすいかなと。

田中:そうですね。ありがとうございます。すべて非常にすばらしい指摘だと思います。予測をすること、説明をすること、本質を捉えること、シンプルにものを見ること、全部そうなんですけど、あと1つ付け加えるとすれば、ランダムにならないことなんですね。あてずっぽうにならない。思い付きにならない。

私はこれまで、いろんな規模のいろんな経営者の方とお仕事をさせていただいてきました。そのなかには、論理性とは違ったタイプの方もいらっしゃいます。例えば、これは家庭教師関係のビジネスをやってらっしゃる経営者の方なんですが、この会社は大成功している会社です。ですが、この方は論理性とはちょっと違ったタイプの方で、経営者のなかにはそうじゃないやり方で成功してらっしゃる方もいらっしゃいます。

どうやるかというと、その人は直感的にいろんなこと、どんどん思いついたことを片っ端から試していくというやり方をされます。そのかわり、ダメだと思ったものはすぐに切るという、トライ&エラー。その方は非常にそこのセンスがよいので、それで成功できているんですが、社員は大変ですね。

そういうタイプの方は、どちらかというと少ないです。やはりただの思い付きではなく、根拠のある仮説なるような論理性を持っている方のほうが成功していらっしゃいます。

欲しいデータは「自分で作るもの」

4つ目。ファクト。事実。なにがあっても、まずファクト。推測、憶測ではなく、まずファクト。事業家としてビジネスの決定をする時は、必ずファクトに基づいて意思決定をするということが非常に重要です。これぐらいのところが当たるだろうとか、憶測とか推測とかでは失敗するリスクが高まる。

例えば、さっきのインナーマッスルを鍛えるビジネスをやってらっしゃる方の場合は、市場がどうなってるのか調べましょうと。「いったい、あなたのビジネスの対象市場は、日本で市場規模はいくらなんですか?」と聞いたら、(その方は)答えられないんですよ。よくわからないんですね、それが。

ここが少し難しいところなんですが、ファクトを押さえるための数字は、その辺に転がっているものではないです。自分で作るものなんです。データは作るものと私が言うと、勘違いされる方もいらっしゃるんですけれども(笑)。データ改ざんではなくて、推測をして、計算をして、根拠のある妥当な数字を作っていくんです。その時に論理性が必要になるんですが、それで算出をしていくというやり方をします。

さっきのカイロプラクターの市場は、いったいどれぐらいの規模があるのだろう? どこにもそんな数字はないんですよね。ないんですが、近似値を算出する方法はあります。例えば、およそ世の中には、各業界ごとに団体というものがあります。団体にどのぐらいの人数が登録をしているかがわかります。

カイロプラクティックというのは、日本では国家資格がないんですが、アメリカでは有資格、国家資格なんですね。アメリカの国家資格を持っているカイロプラクターの団体が、日本にはあるんですね。そこに500人の人が登録しているということがわかるんです。そうすると、日本にはこれでビジネスをやっている人は500人いると。1,000人だったかな? 正確な数字は覚えてないんですけども。

その方々は、お1人でやっていらっしゃる方もいれば、何人かを使ってやっていらっしゃる方もいるだろうと。でも、150人のカイロプラクターでビジネスをやっている人は、まず見ません。チェーン店も存在していません。そうすると、1人でやっているか、せいぜい平均2人ぐらいでやっていると推測ができますよね。

週に6日稼働して、お客さんがこのぐらいの稼働率で来て、平均単価が4,500〜5,000円取ると年間1施設あたりこのぐらいの売上があると。それが1,000人いるんだったら、この団体でだいたい市場がどれぐらいなのか算出ができるわけです。

それを積み上げていくと、インナーマッスルを鍛えるというビジネスが対象にできる市場は、いったいどのぐらいの規模があるのだろう? だんだん積み上げていくと、7割、8割の精度ですけど、100パーセントの精度ではないですけれど、市場規模が100億の市場の話をしているのか、300億の市場の話をしているのか、1,000億の市場の話をしているのか、大体見えてくるわけですね。それを繰り返していくと。

もし、みなさんがこれからビジネスを作っていく、あるいは自分のビジネスをもっと加速させようという時には、必ず最低限市場がどれぐらいあるのか、お客さんが何人いるのか、それがどういう構造をしているのか、数字でぜひ押さえてください。これは一番重要です。常にファクトが大事。あと金額ですね。単価がどのぐらいか、何回使ってるか、トータルの支出がいくらか。ビジネスの現場でも、そういうデータは明確なハードデータとして常に使います。戦略的に優れた経営者は、一番キーとなる数字をよく把握していらっしゃいます、すごいディテールまで。自分が一番よく知っているという状態を、ちゃんと作ってらっしゃいます。なので、ぜひそれを実践してください。

目の前の情報にとらわれない

最後の5つ目、ゼロベースです。ゼロベースでものを考える。さっき全体感のところで、「目の前に見えているもの、人間の視野はだんだん狭くなることがあります」というお話をしたんですが、ゼロベースでほかのことを考えるのは、意外に難しいんですよね。

ある事業をやっていて、今見えているものがあると、その枠のなかでものを考えることを始めてしまうんですね。なので、ほかのやり方でものを考えるということがなかなかできないことがよく起きます。

これは笑い話みたいな話なんですが、マッキンゼーにはトレーニング・プログラムがあって、世界中のコンサルタントから20人ぐらい、いろいろな国のやつが集まって、2週間トレーニングをやるんですね。インテンシブなトレーニングをやる。そのトレーニングの時に、いろんなことをやるんです。分析手法とか、インタビューのやり方とか、プレゼンテーションのやり方とか、いろんなことをやるんですけど。

そのなかの1つに、「クリエイティブにものを考える」というクラスがあって。その時に出された課題が、「地面に穴があいてます。このぐらいの大きさの穴。深さが30センチ。これぐらいの穴なので、これ以上は大きくならない。そこにピンポン玉が落ちてしまった。そのピンポン玉を取り出したい。自分が持っているのは10センチの棒と、20センチの紐、これだけしか持っていない。ほかにはなにも持っていない。助けを呼びに行こうと思っても、人里から離れていてぜんぜんなにもない。そういう条件だったとします。それでどうやってピンポン玉を取り出すか? 考えてみよう」と。

10センチの棒と20センチの紐。深さは30センチの穴。大きさはこのぐらい。ピンポン玉が奥に入っちゃった。手元にあるのは10センチの棒と20センチの紐。どうやって取り出すか。なにか思いついた方はいらっしゃいますか?

参加者9:それ以外は使っていいんですか? なにか自分の体から出るものとか。

(会場笑)

田中:それがヒントですね。自分の体を使ってもいいです。

参加者9:だったら簡単です。

田中:素晴らしい! その時に出た一番簡単な方法は、穴にションベンをするんです(笑)。

10センチの棒と20センチの紐というのは、ある意味私がみなさんを誘導したわけです。「10センチの棒と20センチの紐があります」、何回もそこに誘導したんですね。そうすると、人間の脳はだんだんそのなかでものを考えようとし出すんですね。ですが、10センチの棒と20センチの紐を使わなくても、「ションベンすれば出るじゃん」という。ちょっと臭いけど(笑)。1人のションベンじゃ足りないかもしれないけど(笑)。3人でやれば出てくるだろうみたいな。要は、そこに広げられるかどうか。これは本当の話です。マッキンゼーのなかでは、こういうトレーニングもやっていました(笑)。

さっきお話したように、ビジネスの場だとどうしても今の既存の環境のなかでものを考える方向にいってしまうんです。それを常にどこかで打破してあるべき姿に広げるという、ゼロベースでものを考えることを身に付けること。

この5つが戦略思考で一番重要な要素になります。これが実現できると、戦略的にレベルアップします。

旅行プランを考えるエクササイズ

田中:ここでエクササイズを1つやりたいんですけれども。こういうエクササイズです。「1週間の時間が空いてバケーションが取れたので、旅行に行くことになりました。どんな旅行にするか、プランを検討してみてください」。これだけです。単純に旅行プランを考えてください。1週間のバケーションなので、旅行プランを考えてください。それだけですね。時間は4分でやりましょう。

エクササイズを出した時に、セミナーをやっているとおもしろいことをやる人がいて、「これは来週のバケーションですか?」、「バケーションは半年後の夏でもいいですか?」と、条件を細かく聞かれる方がいるんですけど、好きな時期でけっこうです。

どんなすごいプランができるかというのが目的ではないので。自分の思考法を観察するのが目的なので、ぜひ気楽に思い付くままにやってください。じゃあ、4分でやります。どうぞ。

(参加者がそれぞれ思考)

はい、終了します。またペアを作ってください。2人1組のペアを作ってください。先ほどと同じで大丈夫です。時間節約でいきます。同じペアでいきましょう。「Aさん」、「Bさん」、さっきと同じでいきますか。「Aさん」の方? 「Bさん」の方? 今度は「Aさん」からいきましょう。今、自分が作ったプランを簡単に楽しく相手にシェアしてください。1分でシェアしてください。どうぞ。

(参加者同士でシェア)

じゃあ、交代してください。

(参加者同士でシェア)

終了してください。続けていきます、もう1つ。今度は同じペアで、今は楽しく旅行のプランをシェアしたんですけれども、自分がプランを考える時にどこか迷ったり、止まったりしたところ。自分がこういうところで1回思考が止まった、もしくは迷った、もしくはここで手が止まったというところがどこだったか? それを相手の方にシェアしてください。これも1分でやります。どうぞ。

(参加者同士でシェア)

じゃあ、交代してください。次の方どうぞ。

(参加者同士でシェア)

終了しましょう。どうですか? やってみて。

思考が止まったポイントは?

こういうところで自分は思考が止まった、迷ったと、気が付いたことを何かシェアしてくださる方、はい、どうぞ。

参加者10:わりとペアで決めるプロセスが近くて。すごいまじめなんですけど(笑)、旅行のなかのいちいちを、どの要素から決めていくかみたいなかたちで話しました。

僕の場合は、誰とどこを見にいってなにをするかまでスーっと出てきたんですけど、そこから自分の思い浮かべた人と一緒に行くという時に、どうやって声をかけたらいいかなとか、予算どれくらいにしたらいいかなとか、細かいことを書こうと思った瞬間、思考が止まりました。

田中:なるほどね。実際にもう、相手を巻き込むプロセスで止まったということですか?

参加者:シチュエーションを迷い始めたので……。

田中:同じような感じがあった方は、いらっしゃいますか? 人のことを考えた時に……。誰と行くか、そういうことを考えた時に止まった方、いらっしゃいますか。

参加者11:旅先で、家族にどうサービスをするかとか。

田中:大事ですよね(笑)。家族の問題で悩まれた方は、ほかにもいらっしゃいますか? 大丈夫ですか? ありがとうございます。

(会場拍手)

ほかにはどうですか? なにか気付かれた方、こういうことを気が付いたとか、ある方?

参加者12:普段、1週間とか休めないので、(旅行の行程として)パッと浮かんだのが1週間じゃ短かったので……。1週間じゃ短いなと、そこで止まっちゃいました。

田中:なるほど(笑)。もう、そこのところで。1週間の休み自体が、自分の思考の外にあるという感じなんですかね(笑)。全体感を広げましょう。1ヶ月まで広げましょう(笑)。そういうことがありますよね。どうもありがとうございます。

(会場拍手)

参加者13:僕は山か海に行って過ごしてみようとして、1日1アクティビティにしようかなと思ったんですけど。アクティビティをどのように選んだらいいかというところで止まりました。

田中:なるほど、アクティビティを選ぶところで。アクティビティで悩んだとか、そこで止まったという方は、ほかにもいらっしゃいますか? なにをやるかという……。

参加者14:最初に止まったのは、そっち(アクティビティ)だったんですけど。企画を立てるところで止まっちゃったんですけど、そこで止まってたのかな……?

田中:なるほど、ありがとうございます。すばらしい。

(会場拍手)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • “退職者が出た時の会社の対応”を従業員は見ている 離職防止策の前に見つめ直したい、部下との向き合い方

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!