2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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篠田真貴子氏(以下、篠田):どうですか。ご経験のあるみなさん。どうぞコメントを言っていただければ。
尾原和啓氏(以下、尾原):無尽蔵に時間を吸い取るし。理不尽だし。
篠田:それこそ、「夜に用事があります」というときにかぎって、ぜったいに熱をだしますからね。子どもは意図的に熱を出せると私は思っています。
伊藤羊一氏(以下、伊藤氏):それは言われますよ。
篠田:そういう子どもの理不尽さといえるようなことも、1個1個向き合っていくうちに、自分でコントロールができることはほとんどないんだなと思えるようになりました。私の場合はね。これも別に、子どもを持てば、自分で内省できるというような話ではないということは、みなさんもおわかりですよね。
伊藤:今の話をまとめると、かっこいいという自分の目標とする姿があると。それに対して自分にギャップがあって、そのギャップを常に意識している。ギャップを埋めていくためには内省して気づかなければいけない。そして、今の自分のダメなところをちゃんと認めるというのを、いろんな手段で身につけられたと。
こういうカタチで内省して気づいて、もう一度チャレンジしていって、こういうことを繰り返して、という感じですか?
篠田:そう。結果的に私は、まわりに私よりそれができている先輩方に恵まれてます。もしかしたら自分がそれがかっこいいと思っているから、そういう人が……。
尾原:それがみえてしまうと。
篠田:先輩はそういう人だなっていうのがみえるのかもしれない。自分はまだまだだと思えているから。
伊藤:これもちょっと愚問なのかもしれないですが、尾原さんはどうやって……ご自身を鍛えるということについて、幼少のころから意識されていることはありますか?
尾原:僕は、「鍛える」「成長」というのは大嫌いなんです。
伊藤:なるほど。そう言うと思ったよ。
(会場笑)
尾原:だってそうだよ。結局、僕は生きるだけだったら、古物商ぐらいやっていれば生きられるし。例えば去年、僕は年間で150フライト(飛行機に)乗っているんですが、マイルがいっこうに貯まらなくて、なんにも恩恵がもらえないんですよ。
なぜかと言うと、1フライト平均1万2千円~3千円なんですね。地方へ出張に行くと、基本的に僕は漫喫(漫画喫茶)で寝るんですよ。広いところで寝られないから。
伊藤:そうなんですか。
尾原:人生の必要な経費が少なくて。嫁と娘を食わせないといけないから、月に20万円ぐらいあれば生きていけるので、最低限が少ないんですよ。
それを逆算して考えると、例えば僕は人生100年時代と言っているけれども、嫁が「いい」と言ってくれれば、いつ自殺してもいいと思っているから。
伊藤:意味が分からない。
(会場笑)
尾原:だって他人に迷惑をかけるようになったらイヤですよね。そう考えると、人生に必要な金額は、そんなに大したことはないんですよ。それに、もう貯めたから、なにをやったって食べていけるんですよね。そうしたら、できるだけラクをして楽しいことをやったほうがいいですよね。
伊藤:ほかの人からみると、「鍛えている」というようにみえるけれど、自分は別に自分を鍛えているつもりはないと。
尾原:楽しいことだけやっている。
伊藤:楽しいことをやっているうちに、だんだん自然と備わってくると。
尾原:もっと言うと、逃げ続ける。できるだけ普通の人と戦わない。
伊藤:フィールドをズラす。
尾原:ズラす、ズラす。でも、ありがたいことに、こういう経営のやり方を、3年前に定義してくれた人がいて。Emergent Strategyと言ったり、「エフェクチュエーション」という言い方もする。
伊藤:そうですね。
(一同笑)
尾原:実はNetflixはそうなんですよ。Netflixは、今やディズニーに次ぐ映像制作費を持つ、アメリカのジャイアントで。昨日Facebookが20パーセント株が落ちましたとありましたが、GAFAという言い方で、国よりも強いような(企業の)中に、GAFAMNという言い方をして、Google、Apple、Facebook、Amazonに加えて、Microsoft、Netflixを入れるぐらいアメリカに影響力がある会社なんです。
この会社は逃げ続けて(大きく)なったんですよ。もともとレンタルビデオで始めたんですが、店舗型のレンタルビデオは、BLockbusterというところが店舗をつくりまくっているからお金をかけられないと。逃げるしかないと。
それなら、郵送をやろうと。郵送をやると、いちいち毎回お金を払ってくれるお客さんは、面倒で誰も借りなくなってしまうから、月額(でやる)しかない。これでサブスクリプションモデルというものができた。
そうすると今度は、月額でやると新作はみんながすぐに借りてしまって返してくれないから、新作では勝負できない。どうにか旧作で勝負するしかない、というふうにウロウロしていたら、たまたまアメリカではDVDとしてずっと昔の名作を眺めていたい人がいて。
どうせ同じ金額で借りるなら、マニアックな監督の別の作品もみてみたいな、というところへいって、レコメンデーション……コンピューターのアルゴリズムで、「あなたはこれが好きでしょう?」というのを磨いて。そうしたら、たまたまフィールドがインターネットにかわった瞬間に、これが全部好転するんですよ。
伊藤:なるほど。
篠田:ラッキー。
尾原:そうなんですよ。逃げたら逃げた先がいちばんスイートスポットだったから、たまたまNetflixはこうなったんです。
伊藤:なるほど。僕らが勘違いしてはいけないのは、経営学として「サブスクリプションが王道である」「このマーケットにニッチをみつけるのが王道である」という方向から入ってしまうということです。
尾原:Database is keyというように。
伊藤:なるほどね。逆にあると。
尾原:逆だったんです。
伊藤:やらざるを得ないから逃げて。生き残るためにやっていたら。
尾原:そこが実は王道だったから。ただ、Netflixは、そこからがちゃんと偉くて。「今、オレは王道に入ったんだ」といった瞬間に、AIのものすごい技術をガーッと入れていったり、インディーズのムービーの会社を買収して、ロングテールと呼ばれる、すごく少数だけれどもいい映画を買収していたり。
そのあと、会員数が増えていったら、今度はAIを使って対策をつくるわけ。王道に入ったらちゃんと(戦略を練る)。だから、自分の型ができるまで、自分が王道だってみえるまで、戦略は邪魔なんです。
伊藤:おっしゃる通りね。
尾原:だってオレ、戦略を決めていたら、むしろ目標を見失うんですよ。
篠田:個の人生も同じですね。大学生ぐらいのときから……「自分はこういう大学に入ったから、こういうふうでなければ」「先輩方をみるとこうだから、就職はGoogleでAIかしら」というアプローチでは、間違ってしまう。
伊藤・尾原:そうそう。
伊藤:さっきの「尾原さんのお父さんがこうだからこう」「本を買わなければいけないからこうした」「篠田さんがこういうのがいやだからこうせざるを得なかった」というのは、すごく近い(話だ)なあと思いながら。
結局、やらなければいけないから、日々こうやって一生懸命生きているうちに、だんだん王道にたどり着くまで、そこに入るまでのプロセスのようなものを、ただひたすらやっているなと。
尾原:それはありますね。結局、僕は昔から飽きっぽくて、どう考えても医者は無理なので。お医者さんは患者さんに寄り添って、付き添わなければいけないですよね。僕はぜったい途中で患者さんに飽きて、「ごめんね、できなくなった」と言って帰ってしまうんですよ。
だから、それに合う仕事を選ばざるを得なくて。プログラマーはショットガンなんですね。だいたい毎回全力なんですよ。こんなに自分のキャラクターに合う生き方はないと。結局、理論から入ったらダメなんですよ。
篠田:そう、ダメなんです。が、若い方は個別具体の情報は持ってないですし、経験もないから、理論から入らざるを得ないですよ。それは私もそうだったと思うんです。銀行がイヤで辞めたわりには、ちょっと英語もできるし、金融バックグラウンドだから国際機関だったらどうかしらというように、つい、まだ概念から入っていたんです。
伊藤:概念から入って、でもそこでずっと概念にこだわっていたわけではないでしょう?
篠田:ない。リアリティーを満たすのとは違うわ、とわかって、「ではどうしよう?」という小刻みな試行錯誤の繰り返しだという気がします。新卒のときに、なにを選ばれても、はじめからあたるはずがないぐらい……普通だと思うんですよ。
例えば、昔だったらいろんな人と恋愛をするなんて不道徳だ、という価値観があったかもしれないけれど、今、普通ですよね。いろんな人とお付き合いをして、なんとなく自分の好みがわかってくる。結婚したりしなかったりも、様々な選択がある。たぶん働くのも同じで……フリーランスをやるのでもいいし、大企業に入って、次は競取りというように、いろいろやって、だんだん自分のスタイルがみえてくる。
伊藤:徐々にフィットするものがみえてくると。
伊藤:ちょうど(グラフィックレコーディングの)紙が半分ぐらいにいったところなので、タムラカイさんからそろそろお話を聞いてみたいです。僕らの話は、そもそも意味をなしていますか?
(会場笑)
タムラカイ:意味はなしています。
(会場笑)
伊藤:大丈夫かなと思って。
(会場笑)
タムラカイ:そういう意味で言うと僕らも書きながら、一参加者としても話を聞かせてもらっています。おそらくこういうイベントに来て「個を磨く」というようなテーマになると……もしくは「どう働き、どう生きるか」だと。「どう?」が聞きたいので、「HOW」がくるはずではないか? という聞き方をすると、今日の話はまったく意味をなさないなと。
尾原:なるほど! いいモデレーターだねえ。
タムラカイ:ただ、みなさんが一人ずつ、「僕はこうだった」「私は違った」と言う違いの中に、きっとなにかはあって。僕のイメージでは、直線がいっぱい引っ張られると、真ん中にコアのようなものが残り、そうするとみなさんは自分は「こうかもしれない」と(直線を)引きながら、自分なりに「こうかなあ」というのが浮かんでいれば、今日の話はすごく意味をなしています。
伊藤:いろいろ書いていますけれど。
尾原:僕は赤マフラーだから書きやすいでしょう?
(会場笑)
伊藤:僕と尾原さんは書きやすい。
尾原:篠田さんのはさわやかな。
伊藤:理想の自分にどうやって近づけるか? はじめの主観、客観、俯瞰というあたりはそれっぽく。
タムラカイ:書いております。篠田力だったり。
篠田:それでいくと、データポイントが二つだとわからないところが、データポイントが三つになると相対化もできるので……。
尾原:そうね。そうだ、おっしゃる通り。
篠田:羊一さんにもこのあたりについて聞きたい。羊一さんはどうやって個を磨くか。そもそも、個を磨くという意識はありましたか?
伊藤:僕自身は、いつもすごく磨いているつもりはあって。たぶん、この年になってはじめて……尾原さんと共感するなあと。でも、明らかに生きてきた人生がちがうんだろうなあと思っていて。
篠田:(笑)。
伊藤:お互い趣味の中で生きてきたり、僕がこういうふうに生きた中で共感してるというところをうれしがっています。
何を言っているかと言うと、僕自身はぜんぜん違う生き方をしていて。高校・大学は近いですよね。麻布・東大というのは。でも、ものすごく自信がなかったですね。人と話すのも苦手だし。大学へ行っても引きこもってしまったり、ゲームをしたりして。人とコミュニケーションを取るのが苦手だったから、就職するときもどうやって働くのか、よくわからないし。
就職ランキングの1位から順に受けていったと。それで会社に入って、「働く」というのがどういうことかがわからないですよね。(経験した)バイトも家庭教師だったので。就職して大人の中に入って、いきなり芸をやって。オレはあまり体育会系ではないし、訓練していないし。「とりあえず脱げー」と言われて、これなんなんだ? というような感じでどんどん弱っていくんですね。
尾原:はいはい。
伊藤:弱っていって、ある日会社へ行けなくなってしまうんです。
尾原:あら!
伊藤:26(歳)で。
尾原:へえー。
伊藤:「26のときにメンタルが弱るんだよ」という話はよくしていたんですが、本当に会社へ行けなかったり、会社へ行く前にゲエゲエ吐いていたのが数か月なんですが。
伊藤:ただその前にずっと3〜4年、同期とかは「オレがマーケットを動かしているんだ」というようなことを言ってぶいぶいやっている中、全く何もできず苦しんでいた。そういう自信喪失時期があります。
それで、復活するんですよ。復活して仕事するようになるんですよね。要約するとそんなわけなので、働けること自体がうれしくて仕方がない。なので、いろんなことに関心をもつというのではなくて、とにかく「そうか、オレは働けるんだ」と思って、上司や会社の言っていることに120パーセント応えるのが仕事だと思って。
そういう意味では、自分がやりたいことをやるのではなく、上から言われたことの120パーセントの答えを出すというのが、40(歳)過ぎまで続くんですよ。そうすると出世もするんですよ。すごく仕事をするから。でも、それは本当の意味で「働いている」「生きている」のではないと気づいたのが、東日本大震災のときですね。
東日本大震災のときに「待てよ」と。「オレは今まで会社の言うことを聞いていたけれど」と。…そのとき、僕は物流、商流復旧のリーダーをやったんです。それまでは会社の言うことを聞いていたんですが、この局面で、会社はなにも判断してくれない。オレが決める。決めなければいけないんだ。
選択肢はAかBかあるわけですよ。そんなのばっかりですよ。ABを両方できればいいというのがふつうの状況だとすると、AかBか選ばなければいけないんです。「Bだ」と意思決定することはかっこいいですよね。Aをやることだって、(「Aだ」と)言うのはかっこいいですが、Bを捨てることだということがわかってしまうんです。(その瞬間)うわー! と思って。
誰も決めてくれない。それで、「A」と言いながら、やめたBをフォローもする。で、これはいったいなんなんだと。なにに基づいて決めたのかといったときに、はじめて気づくんです。結局プロコン(pros-cons)をマトリックスで整理しても結論なんかでなくて。最後の最後は、自分が大事にしている信念に基づいて決めるしかないんだ、とんです。
そのときにピーッと目覚めて。「これが仕事か」「これが生きるか」と。40歳を過ぎてはじめて知ることになったんです。そう振り返ってみると「へえー」と。ちょうどビジネススクールに通っていた頃なんですが、MBAのスキルだけではないわと。そういうのも大事なんですよ。大事なんですが。
(一同笑)
尾原:全世界に放映されているからね。言っておくからね。(そういうのも)いいんだけれど、そこにプラスαしてね。
伊藤:そう。プラスαの「意思決定とは、自分の信念に基づいてしていかねばならないだ」というね。理想のようなものや、「こうだ」というものがはじめて見えた気がして。それには、自分の力がまだまだ足りないと思って、そこから、とりつかれるように、実務を通して、自分のために鍛えるようになった。だから、楽しいわけではないんですよ。やらなければいけない。
尾原:がむしゃらですね。
伊藤:44歳までそういう生き方をしてきたら、自分の蓄積は半端ないと。尾原さんは、楽しくそこをゲットしていたわけですが。という中で、気づいてしまって。楽しいことではないですよ。もうガツガツいかないと。
尾原:いかんわあ。僕の(話している)ときより、うなずいてメモする人が多い。
(会場笑)
伊藤:仕方がないでしょう。
尾原:うーん。
伊藤:仕方がない。たぶん、尾原さんの話は、なんか遠い話だなあ。
尾原:悲しいなあ、それ。
(会場笑)
伊藤:僕はそういう意味では……僕が今なにがやりたいのかと言えば、苦しんでいる方がいるとしたら、そういう「がんばっているけれど報われない」「がんばっているのに苦しんでいる」という人のきっかけになりたいと思っているんです。なので、鍛えるということを「意識的にやってきた」というようなことはあるんですよね。そうしないと、追いつかないですからね。
だから鍛えるというのは、MBAのようなものがベースとしてあって、プラスαで実務を通して、「意識的に振り返る」「意識的にアクションする」ということを決めてやったんですよね。そこが自然にできる人はうらやましいなと思いますが、あとから意識的にもできるんだと思っていたり。
篠田:意識してやれるから、人にも教えられるんでしょう?
伊藤:というところはあると思います。
篠田:そうなんですよ、尾原さんの強みはナチュラルだから。
尾原:そうですね。
篠田:再現性がなくて、人に教えにくい。
尾原:だから、人に教えることも自分の……知識は一番せどりができるんですよ。
篠田:はい。
尾原:聴衆に対して、たぶん、これを言ったら一番聴いたことがないだろうなということを僕は無意識に探しながら話していて。再現性はないけれども、みんなには楽しんでもらえる。
伊藤:なるほどね。
尾原:ただ、今日話をしていて、たぶん1個だけ共通点があるとしたら、僕も逃げ続けているし、フラフラしていますが、なんで今でもフラフラできるかと言うと、目の前のお客さんに、ぜったいに鼻血を出させるくらい驚かせるという言い方をしていて……
やっぱりオーバーエクスペクテーションな、期待値よりぜったいに超える成果を、どうやってでももってくるというところはベースですよね。だってそれをやらないと……
結局「フラフラしているけれど、尾原はいいヤツだよ」と言ってくれる人がいなかったら、フラフラできないから、それだけはやっている。
例えば、僕は120パーセントと言うと、あとでかっこ悪いと思う自分がいるから、「ぜったいに鼻血を出させてやる」「ポカーンとさせてやる」と言うように(しています)。
伊藤:そうするためには、結局そのために楽しみながらではあるけれど、自分を鍛えることだってあるわけ?
尾原:まあね(笑)。それは「鍛える」なのかな? 結局、相手に対してどれだけチューニングをするか、お客さんに一番よろこんでもらうためのものをどうやってつくるか、ということだから。そこの出来によって、一番ラクしてそれができればと、最初の話にもどります。
だって僕、大学の卒業論文を自分でやっていないですからね。自分でコンセプトとアルゴリズム考えて、学生に、「これ、2万円で書いてくれる?」と言って書かせて。
篠田:(笑)。
尾原:だってプログラムなんて、たしかに自分で書けますが、どうせ僕のキャリアプランから考えたら、このあと自分が書くイメージがないから、そんな修行しても無駄ですよね。だったら外注したほうがいいですよね。
伊藤:本能に忠実に。
尾原:うんうん。
伊藤:なるほど。必要ですよね。
尾原:人生楽しみましょう。
篠田:それはね、正しいですよね。考えますよ。
伊藤:なるほどね。なんで聞いたのかと言うと、僕はそんな感じだから。わりと求道的なんですよ。
尾原:そうですよね。「くわーっ」というように。
伊藤:そう、「くわーっ」というような感じでやっていた。
篠田:(笑)。
伊藤:やっていた。やっていて、これはこれで充実しているんですが、趣味とはまた違うなと思ったんですよ。それにね、朝起きるのが実はつらかったんですよ。
篠田:それはYahoo!アカデミアの学長になってから?
伊藤:なってから。
尾原:ウソ!
伊藤:最初の2〜3年……2年ちょっとくらい、朝起きるのがつらくて。7時ぐらいまでに起きなければいけないですよね。それでも早いほうだと思いますが、7時ぐらいには起きなければいけないなと。それで「TopBuzz Video」とかみるんですよ。TopBuzz Videoには、かわいいワンちゃんやネコちゃんが出ていて、癒されているうちに、30分ぐらいみていると、だんだん起きなければいけないなと思えて起きていた。
それで、会社にくると、そんなときは求道的なので「今日はみんな充実してやろうぜ!」とやっていたわけですよ。ちょっとそこは、自分のやっていることの意味づけというか、理由のようなものが、分かっているようで、まだ分かっていないような。実は、48から50(歳)ぐらいまで(分かっていなかった)。
尾原:どこで(わかったんですか)?
伊藤:ここ数か月で。
尾原:数か月!? それなら、前に対談したときに、まだみつけていなかったんですか(笑)。
篠田:新しい羊一さん。
伊藤:あの頃ですよ。
尾原:あの頃なんだ。
伊藤:みつけてしまって。基本的に今は朝5時ぐらいになると起きてしまうんですよ。「うぉー今日はじまるぞー」というような。
そのきっかけをちょっと真面目にお話しします。
伊藤:自分がやっているのは「リーダー開発」。それから「インキュベーションのサポート」……アクセラレータープログラムで、事業を一緒につくったり。それから人を動かしていくい「プレゼンテーション」もやっています。
この3つそれぞれについてがんばっている。その3つで、いろいろ評価をされる。だからプレゼンテーションは本も出す。
尾原:はい。
伊藤:インキュベーションでも、アクセラレータープログラム10個ぐらいに絡んでいるんですよ。
尾原:すごいよね。
伊藤:そしてリーダー開発で言うと、Yahoo!アカデミアとグロービスがある。この3つそれぞれが充実しているんですが、なんでこの3つをやっているのかと言うと、わらしべ長者のように、こうあって、こうあったら、こうあって次の話しに……とやっていただけなんですよ。「本当にこれでいいのかな」とも思わずにやっていた。
ところがあるときに、僕のメンターからフランスのパリにあるインキュベーション施設「Station F」の写真をみせられて、「羊一さんのやりたいことってこれなんじゃない?」と言われて電流が走ったんですよ。
孫(正義)さんが志に目覚めたときに、アルティアコンピューターの写真をみせてもらって、もう涙が止まらなかったというような話をするんですが、ほぼ同じようなかたちで。
ブワーッと金縛りにあってね。Station Fというのがなんなのかは、よくわからないんですが、その写真をみて、「オレがやりたいのはこれだわ」というのが。
尾原:へえー。
伊藤:つまりStation Fのビジュアルをみて。
尾原:ほおー。
伊藤:内容(について)はこまかく知らないんですよ。
尾原:(写真自体に)メッセージもないわけですよね。
伊藤:そう。まあすごく素敵な雰囲気ではあるけれども。で、記事に大企業とスタートアップとインキュベーション……というようなことがちょっと書いてあって。そのビジュアルをみて、自分のやっているこの3つのことが、これはつまり、やる気はあるけどへっぽこだった人が、「Lead the self」に目覚めて、「Lead the self」からの授業をつくって、つくった事業をプレゼンして動かしていくと。
尾原:なるほど。全部つなげたんですね。
伊藤:この人たちを、こうしたいんだなというところに。その写真をみて「は~」と(なった)。そのときも、なんだか目が離せなくなりまして……「なんなんだろう、これ」と言っているときに、「趣味」という感覚が降りてきた。趣味ですよ、趣味。
尾原:次回ご期待ということで、8月16日。
(会場笑)
伊藤:そんなことがあって、ようやく。だから、その気づきはいろんなことがたぶんあって。そのStation Fの写真だけでなく、淡々とやっていることを積み上げ、つながる感じ。「Connecting the Dots」という、これなんですよ。楽しくて仕方がない。日々挙動不審で、ノリがホリケンですよ、僕。
(一同笑)
尾原:しかも、Yahoo!アカデミアもどんどん続いているからね。
伊藤:そうそう。そうするとね、永遠にこれが……今まで鍛えるという思いでやっていましたが、尾原さんのおっしゃってる(仕事が)「趣味」だということが完全に理解できるようになりました。
篠田:私はたぶんまだそこまで行っていない。(そう思えるのは)70歳ぐらいかもしれないですね。
尾原:どうなんですかね。
伊藤:僕が言ってるこれも、結局勘違いだって1年後に気づいているかもしれない。
尾原:「わかったー!」なんて言って(笑)。
伊藤:勘違いだったりするかもしれないですよ。でも、プロセスの一環として、そういうクサビが降りてきたというのは、重要だと思っています。
篠田:それでいくと、「この仕事を」というよりも、広い意味で言う「通訳」……通訳役はおもしろい。やっていて楽しいし、うまく場所がはまると、けっこうよろこばれるんですよ。ということまではわかってきました。
尾原:たぶん人それぞれの、それから自分にとっての一番いい状態は、みつけ方も違うし、発揮の仕方も違う話だと思っていて。
篠田さんの場合、自分は勝気なんだけれど、今おっしゃったように翻訳者だったり、やっぱりハーモニーを重視するというところが、チャーミングさを相まっていらっしゃるような。
篠田:本当にお上手ですね。スゴイ! モテモテですよ。
尾原:いやいや(笑)。本気で思っているわけですよ。最初の2分間の自己紹介ではないですが。ただ一方で、僕のまわりで、伊藤さんのような人もすごく増えていて。僕は、「ご縁の確変状態」と呼んでいるんですが。
伊藤:ご縁の確変状態。
尾原:「この人は、これが強い人だ」というタグがそろってくると、「あのことをお願いするには、この人しかいない」という状態がつくれる。特に、岡島悦子さんが言っている「自分のタグ」というもので。
結局、伊藤さんは「リーダーシップ開発」というタグだけだったら、たぶん唯一の人ではないし、「プレゼンテーション」というだけだったら……けっこう唯一の人に近づいていますが、まだ唯一の人ではない。掛け算すると唯一の人になれるというわけでもない。でも、「インキュベーション」をさらに掛け算すると、もっと唯一の人になる。
「こういうことをやろう」と言ったら、必ず呼ばれる人になってくるんですよね。そうすると、そこでまた、何をしても時代の潮流にあっていると、新しいことをやるときに常に羊一さんは呼ばれるようになる。そうすると、次のタグもまた生まれるかもしれないんですよ。そうすると、唯一無二になるからもっと呼ばれるようになる。これを僕、確変状態とよんでいて、これが強みの掛け算をし続けた人ができる世界。
伊藤:強みの掛け算ねえ。
尾原:掛け算をすればするほど唯一の人になる。掛け算が進めば進むほど「あの人を呼ぼう」となるから、ご縁が広がって、また掛け算ができてと。
篠田:今の原理には全く同意するんですが、話は半分でしかないと(思っています)。
尾原:おっしゃるとおりですね。
篠田:どういうことかと言うと、たぶん尾原さんが人気者な理由は、広義のスキル的なところと、前半で話した人格的な魅力と、両方あるはずなんです。でも、ともすると、今のはスキル寄りの話に聞こえます。
でも例えば、尾原さんは、それこそ方々でいろいろ活躍されていて、ひとりでこんなにできる人はいないからある種世界の最先端ですよね。
さっきお話しされたように、お客さんに対して鼻血がでるくらい期待させるとおっしゃっているけれど、そう言っている人が、例えば、会ったら、魅力に欠けるとかただったら、絶対に声をかけられないと思うんです。
だから、もちろん強みのかけ算は全部大事なんですが、尾原さんがみんなに呼ばれたり、尾原さんの話をききたいですと言って、これだけ多くの人が集まるのは、スキル的な強みではない部分ではないかと。
伊藤:やっぱり「スキル」がベースとしてあったうえで。それがないと話にならないから。
篠田:実際「スキル」があるから、呼ばれるきっかけはできるんですが、「もう一回会いたい」「今度仕事は関係なくごはんを食べましょう」というところにいくのは、それとは別次元です。
尾原:でもね、それは1個だけ意識しています。それがあるがゆえに自分が得だなと思っていることとして、僕はほとんどの人と利益を取り合うことがぜったいにないんですよ。それはなぜかと言うと……僕はさっき伊藤さんが言っていた「あー」というタイミングが、3歳のときにあって。
篠田:えー!
(会場笑)
伊藤:すごい!
篠田:3歳! 身長90センチメートルですよ。
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