2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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伊藤:なるほどねー。今ここで、僕自身もいくつかすごい学びが(ありました)。
「やっぱりそうか」と思ったのが、阪神淡路大震災のように日常ではない経験は、自分の人生を変える体験になりうるということで。今朝たまたま神田敏晶さんとお会いしてそんな話に……。
尾原:はい。まさに僕、神田敏晶さんといっしょにずっとボランティア活動をしていたの。
伊藤:そうなんだ!
尾原:うん、神戸で。
伊藤:神田敏晶さんはジャーナリストで、KNN神田という日本最初のユーチューバーみたいなことをされていて、日本で最初にセグウェイに乗って。
尾原:それで捕まって(笑)。
伊藤:捕まったというのは……捕まったのではありません。罰金を払うのをやめて書類送検になったということや、参議院選挙にでたりといった、不思議な人。知らない方は「神田敏晶」で検索していただければいいと思います。彼と今朝たまたま話したら、阪神淡路大震災が自分にとって人生のものすごい転機になったと(言っていて)。やっぱりそういうことなのかなということが一つ。
尾原:今も、中国地方でいろんな目にあっている方があって、不謹慎ですが、ひとことで言うと、災害のボランティアのオイシイところなんですよ。
伊藤:オイシイというのはどういう?
尾原:だって、僕はそのとき、たかだか京大の大学院生ですよ。(そんな僕)が、神戸の市長や県知事に「こんなことをやったほうがいいですよ」とか(言えるわけですから)。
伊藤:いろんなチャンスがね。
尾原:そうそう。実力と勇気だけあれば。
伊藤:いろいろできる。
尾原:うん。
篠田:ぜんぜん違う観点になりますが、尾原さんの高校生のころのことをお話ししていただいて、あらためて思ったんです。マーケット、市場があって、その中で受給がマッチングするというのは、けっこう世の中の原理原則というか。
尾原:そうですよね。
篠田:それを10代のころから体感値でもっているとおっしゃったのが、すごく大きいのかなと。
尾原:そうですね。
篠田:ふつうに就職してしまうと、マーケットの感じってあんまり分からない。
尾原:ぜんぜんですよ。
篠田:感覚として持たないですよね。たまたま、私が銀行に入ってはじめに配属されたのがいわゆるマーケットだったんです。需給のバランスがあって、そこで価格が刻々と変わる。結局(マーケットに)いたのが4年ぐらいかなあれは良かったです。
尾原:それ、すごくよくわかって。僕は読んだ本が全部おぼえられる子だったので、中学のころからアホほど本を読んでいて。読んでも読んでも足りないわけですよね。
本を買う原資がないから、なにをやっていたかと言うと、今でいう「せどり」を中学のころにやっていて。岩波で、なんの本が絶版になっているかというのを全部覚えていたから、町の本屋に行って、岩波で絶版になっている本をかき集めて、丹波の専門古本屋店に行くと、1冊100円で買った本が、500円、700円で売れていって、そこで生きていたんですね。
伊藤:すでにインターネット的ですよね。
尾原:そうそう。単純に言うと、めずらしいほうにいったほうが得。だって売買の量が一番大きいところは値崩れがはげしいから、そんなところで勝負する意味が分からない。
だから大学のときにやっていたメインの仕事は、3年落ちの中古車のベンツを、中小企業の社長に社用として売りつけること。原価償却がかけられるので、経費でいけるんですね。そして、5年目にもう一度売ってあげると、3年目から5年目はそんなに価値減衰しないので、ほぼ同じ値段ぐらいか、5〜6万落ちぐらいで売ってあげられるんです。そうすると、経費計上する分だけ得しますよね。
そういう珍しいところだけをみつけて、そこだけをやり続けるという人生です。
伊藤:なるほど。今僕はYahoo!アカデミアの学長モードに入っているんですね。つまり、これを一般化するにはどうしたらいいかというと。
尾原:むずかしいよね。なんの学びにもならないよね。
伊藤:なるなる。全部なる。これはまた違う例で、うちの会社に小澤(隆生)という人間がおりまして、小澤も、なんで事業を最初にやったかというと、お父様がビジネスで借金を背負って、自身でも商売をやらないと、どうにもこうにもはじまらなかったと言っていて。ということで彼はビズシークを立ち上げたと。
今の尾原さんの話も、本を買うためには、稼がなければならないだろうというね。「必要は発明の母」ではないですが、稼がなければならないのであって、自分が持っている得意なものを活かして、こういうふうに整理するとすごくチンケな気がしますが。
(会場笑)
けっきょく、それを活かして商売をする。それを何回もやられているうちに、それ自体が面白くなってしまったんですね。
尾原:そうですね。単純に言うと、人が価値を見つけていないものを見つけて、自分だけの価値が開いていっている状態は、どう考えたって強いですよね……押し付けてもだめですよね……というふうに僕は体感できているから。
伊藤:篠田さんはどうですか。就職した年は(僕と)ほぼ同じで、僕の一年あと。しかも僕が興銀に入って、篠田さんは長銀に入った。そういう意味では近いところにいたかなと勝手に思っていますが、今の尾原さんの話を聞いてどうですか?
篠田:ぜんぜん違う。
伊藤:なるほど。よかった。
(会場笑)
尾原:「いっしょです」と言われたら(笑)。
伊藤:「いっしょです」と言われたらもう……一人でちょっと。
篠田:メンタリティとして真逆です。わざわざ人が少ないところへ行ったほうがいいなんて思っていなくて。私も名門とされる東京の学校から……。
伊藤:ちなみにちょっと話がずれますが、今日は篠田さんの母校が。
尾原:おめでとうございます!
伊藤:拍手をお願いします。
(会場拍手)
篠田:甲子園にでることになりまして。
伊藤:なんて高校?
篠田:慶應高校。
伊藤:慶應?
尾原:慶應ですよ。
伊藤:慶應が?
尾原:そうですよ。あなた、わかってなかったでしょ。
篠田:北神奈川の代表なんですよ。
尾原:そうだよ。
伊藤:慶應が! そうなんですね。みなさん拍手です。
(会場拍手)
篠田:いわゆるその、周りの大人から褒められて、「すばらしい優秀なお嬢さんですね」と親もホメられてうれしい、私もホメられてうれしいという場所で育っていたんですね。
就職先も周りから「すごいね」と言われる場所で。唯一ちょっとズレがあるとしたら、いわゆる同世代の女性の生き方からは、逸脱しているなという意識はありましたが。
それもわざわざそっちのほうが面白いからというのが理由なので、それ以外を選ぼうと思わなかった。いわゆる日本の女性らしくいてよという人生は私には無理だと思った。
伊藤:なるほどなるほど。
篠田:そういう就職をした瞬間、私の女としての価値は落ちたなと思って、若干の劣等感があった。
伊藤:そういう時代ですよね。尾原さんのお話をおうかがいすると、そのときに感じた「こうやるとオイシイよね」「ここにつっこむと、人はみんな知らないよね」「それ、ビジネスになるよね」「それを一言で言うとプラットフォームだよね」と。
今にいたるまで、おそらくベースの部分はほとんど変わっていない……そこを追及しているのではないかと思います。そういう理解でよろしいでしょうか?
尾原:そうですね。少しだけズルいところがあって。僕は常に安全ネットを張りながら生きているんですよ。
伊藤:なるほど。
尾原:一応、灘中・灘校・京大卒業だから、バスを東南アジアにバスを売っていても、一応京大生だから信頼されるわけだし。行ってみてわかったんですが、すごくラッキーなことに、マッキンゼーは出戻りがオッケーなんですよ。だから出戻りオッケーの場所をつくればつくるほど、人生を選択するから、冒険できるんですよね。
実際、僕はリクルートに三職目と八職目で2回行っていて、2回目の八職目で帰るときは面接があって。当時一番仲良くしていた上司に電話をしたら、たまたまその日に役員合宿をやっていて、全役員がそこにいて。
「尾原が帰りたいと言っているけれども、どうする?」「いいんじゃないの」と言うのが後ろで聞こえて。
(会場笑)
でもひとり。「あいつ、ぜったいにすぐ辞めますよ。いいんですか」「いいんじゃないの」という、そのぐらいの会議で、僕は戻れるというのが。
伊藤:なるほどね、それはセーフティーネットですよね。
尾原:そうそう。実際、Googleもそうなんです。Googleは一回行ったら、ほぼクオリファイしているから、極端な話……ここまで言うとあまり追及しないほうがいいですが、Googleは採用面接で一回合格をもらったら、やっぱりいきませんと言っても、そのあとも永久通過なんです。
伊藤:そうなんですか。
尾原:枠が空いていれば。
伊藤:なるほど。つまり、「グーグラー」としての適性が満たされていれば。
尾原:そうそう。めったなことではクオリファイしないから。一度クオリファイしてしまえば、新しい人間をクオリファイするより楽ですよね。
伊藤:そうか。だからそうやって、リクルートにしてもGoogleにしても、セーフティーネットを張りながら生きてきているということ?
尾原:そうです。だからマッキンゼーへ行ったあと、しばらくリクルートを八職目でやってフラフラしていて、ちょっと世間的にブランドが下がってきたかなということもあって、Googleを入れておくか、というような。
(会場笑)
伊藤:そこにヤフーがお見受けできないのは、ヤフーはブランディングの上であまり……。
尾原:そういうわけではなくて、ヤフーは取引先さまなの。
伊藤:そうなんですね。 尾原:だから僕、リクルートのときもヤフーの交渉担当になるし。Googleのときもヤフー交渉担当だったから。ヤフーの人たちから、たぶん「尾原は一番面倒くさい人」と認定されていると思います(笑)。
伊藤:なるほどね。そうですか。
尾原:そうそう。どこへ行っても、「おまえ、面倒くさいなあ。いっしょにやろうよ」と。
伊藤:なるほどね。その再現性というか、ご自身で「オレって得意だなあ」という(ところを教えてください)……。
尾原:だから、もう1個間違いがあって。経営学という学問は、あまり整っていない学問なんですよね。なんでかわかります? 経営は再現性がないほうが得に決まっているからなんですよ。
伊藤:そうですね。
尾原:再現性がないほうが、競合が現れないから。だから再現性のないほうへいったほうが得ですよね。
伊藤:なるほどね。そのあたりで、お二人に「これだけはじっくり時間をかけて聞きたい」と思っていることがあって。「個の力を、どうやって鍛えていくか?」というところ。経営は再現性がないということなら、経営学は未成熟だよねということになると思いますが。
例えば、「MBAを勉強するのはどうだろうか?」「自分がこれまで何十年か仕事をした中で、こうやって鍛えてきた」「おまえらね、四の五の言うやつは、ちゃんとここを鍛えているんだよ」といったようなご意見として、なにかありますか?
篠田:「より鍛える」というのは、英語ができるようになるというようなスキルの話ではないんです。イメージをうまく共有できるかな……スキルではない話が通じるかどうかで、ここでお話しすることが分かれると思っていて。
伊藤:じゃあ、「なんのために鍛えるか?」というのは。
篠田:「なんのために鍛えるか」と言うか……「自分固有の人格まで鍛えるというのはこういうこと」という話をしたいんですが、うまく説明できない……みなさんがそこを分かっている前提で話せばいいのか、まだそこが教えられないというか……
伊藤:僕が(会場の)みんなの顔をみています。それで、分かっている前提でお話しいただきながら、みんながポカーンと口を開け始めたら、僕は合図します。
(一同笑)
篠田:わかりました。私は、「こうあったら、自分がよりかっこいい」というイメージを持っているんです。例えば、私の場合は、すごく腹が立つことがあっても、感情を出しすぎず、わりと淡々と改善してしまって、そこに関わる全員にとってベストなこたえをだす方向に持って行くイメージ。わりと若い頃から、すごくそうありたいと思っています。
伊藤:今もそうですか?
篠田:今もそう思っています。
伊藤:ずっとそれは実行して……?
篠田:ずっと心がけています。でも、できないときもあって……とくに若いころの私を知っている方は知っているはずですが、「ばかやろう、このやろう」というようなことを、つい言ってしまうダメな子だったんです。でも、自分の思うかっこいいイメージになりたいと思っていました。
そうすると、ことあるごとに「そうじゃないでしょう」というのに自分で気がつく。「あーまたやってしまった。またかんしゃくをおこしてしまった。また自分の高く評価する、よかれと思うこたえを押し付けてしまった」というように。憧れの像があると、それと自分を照らし合わせて、「あーダメだった、私」というように振り返る。
伊藤:なるほど。
篠田:30年ぐらいそれをやっています。
伊藤:そもそも自分が目指す姿があって、そこが、みんなの前で、ベストなこたえをすっとだして、みんなを安心させる。こういうことをやりたい。
篠田:そう。そこでむだに怒ったりするのではなくて。それって別にスキルとかではないですよね。別次元の話です。そういう基準をわりと若いうちから持てていたというのが、今思うと得でしたね。
伊藤:なんでそうなったんですか? ずっと変わらないでしょう?
篠田:なんでだろう。今一つ思いついたのは、家庭の中で、わりと私の父親は瞬間湯沸かし器的な……。仲はいいんですけれど、父親のそういうところだけは、本当に許せないところだと若い頃思ってました。反面教師、ということでしょうか。
ある日、そんな父親がなにかの話をしていて、たまたま仕事相手だったアメリカ人が苦情を言うときに、感情的にならずに、ぐっとからだごと引く感じで「おことばですが」という感じだった、「あれはかっこいいなあ」と父が言ったんです。
尾原:ロールモデルがある。
伊藤:具体的なある人がいるわけですね?
篠田:いや、私はそれが誰かは知らないです。父親が普通の家庭の会話の中で、ちょっとそういうエピソードを言ったことを、たまたま覚えていた。父は覚えていないかもしれない。
伊藤:それがロールモデルね。
篠田:勝手な自分の中のロールモデル。
尾原:それでわかった。ずっと昔から篠田さんには、たおやかな帝王学があるという感じがしていたんですよ。ちょっと引いて、ちゃんと冷静にやるかんじ。
伊藤:ちょっとそこね、違う観点で言うとね。
尾原:そうそう。
篠田:「ああ、っていうか……」というような。
伊藤:だからこうやってニコやかにしゃべると、案外怖いですね。
篠田:(笑)。
伊藤:なんかねえ、いつ斬られるかわからないなあ、というようなね。
尾原:戦闘力が高いからね。
篠田:いえいえ、とんでもない。
伊藤:なるほど。そういう原体験があって。お父さんへの反面教師のような。
篠田:(マイクをもっと口に近づけるように言われて)こう? わかりました。
伊藤:ちなみにマイクは、こうやって離すと、よくわかります。一番いいのは、ここ(顎にマイクを寄せながら)につけてしまう。
篠田:こういうのはスキルで、個を強くする話ではないんですね。
伊藤:ここはもう覚えるというね。
篠田:そういう話ではないんですね。
伊藤:目指す姿というようなものがあって、そこを常に追い求めている。追い求めて、ここに向かってチャレンジして、うまくいったというときもあれば、うわーっというときもあって、その繰り返しだと思いますが。今は何割ぐらいだと思いますか? 近づいています?
篠田:どうだろう。半分ぐらい……。
伊藤:どこができていて、どこができていないですか?
篠田:どこがというより、その都度できたり、できなかったりするので。自分の調子もあるし。自分が経験のある得意な状況で「これ、みたことがあるわ」というときは余裕が持てますが、まったくはじめての状況だとうまくいかなかったり。いつうまくいっているのかというのは、その都度ですね。
伊藤:ここで、アカデミア的に聞きたいのですが、「うまくいきました」「うまくいきませんでした」。そのあと、どうします? 振り返りますよね。
篠田:振り返りますね。とくにうまくいかなかったほう……実は、自分でも甘いと思うんですが、放っておくと、うまくいったシーンをメガ級で脳内再生しているんですよ。
(一同笑)
もう「主人公はアタシ」というような。
伊藤:ぜったいそうですよね。
篠田:そう。酔ってしまうわけ。本当にそれはよくなくて。だれもそんなの気にしていないのに。
伊藤:でも、うまくいったときのイメージを増幅して、ビジュアル化して、何回も思い返して、というのはぜったいにやりますよね。
尾原:僕はまったく逆です。僕は子どものころからずっとスネっこだから、どっちかと言うと、放っておくと失敗のイメージのほうがぐるぐるまわる。だから逆で、ちょっと変なモードをしているような感じで。
伊藤:なるほど。こっちに来てしまうから。
尾原:そう、こっちに来てしまうから。
伊藤:おもしろい。
篠田:尾原さん、たしかにそうかもしれない。放っておくと、突然「ふーっ」といってしまいます。
尾原:だいたい引きこもってしまう。
伊藤:なるほど。
篠田:なるほど。
伊藤:ちょっともどると、振り返る。
篠田:私の場合、良かったときのイメージを過剰に自己完結的に反芻するクセがある。そこで、逆にダメだったケースのほうを、意識してつぶさに内省するようにしています。うまくいかなかったときは、まず自分の瞬間的な反応として、人のせいにするクセがあるんです。「私は悪くない。誰だれが悪かった」「状況が悪かった」というのがまず立ち上がる。
でも、常にもう1個の視点があって、さすがに「いや、それは違うよ」という視点です。意識して、関係した相手から見たらどうだったかな、というのを努力して想像してみる。俯瞰ではなく、客観なんですよ。相手からみた私のふるまい、私のことばがどう感じられたのかというのを想像します。相手の脳内に自分を入れるような。
そうやって、相手の視線で物語が再現できるまでちょっと自分を追い込みます。そうすると、相手に入りすぎてすごく自分がダメ、というようになってしまいますよね。なんて私はバカなんだ、という感じで。
そこまでできてから、最後に俯瞰です。俯瞰は、ある種の抽象化です。「これ、このパターンですよ」「この状況でさすがにアレは私がまずかったけれど、でもこの状況でも、ベストでいっても100点ではなくて50点だと。私のせいで70点が40点になってしまった」というように全体を見る。
伊藤:へー。必ずそういうふうにするんですか?
篠田:気になることはけっこうやっています。
伊藤:いつぐらいからできるようになりました?
篠田:相当失敗してからなので、30代後半。もしかしてご覧になったことがあるかもしれませんが、「失敗の話をしてくれ」ということで、あるカンファレンスでお話をしたことがあります。私の業績が悪いから、マッキンゼーを辞めなければいけない状況になったという話。
そこが転機ですかね。それまでは「素敵な真貴子ちゃん」を脳内再生することばかりだったんです。
伊藤:なるほどそっちばかりね。
篠田:そう。だから客観的にまわりの状況からみて、私の状況というものがまったくわかっていなかった。それが結果、大好きだったマッキンゼーの仕事を続けられないということにつながり、はじめて「このままではいけない」「あの痛みはもう嫌だ」というところからですよね。
尾原:でも、僕はすごく自信があって。今言ったステップの中の、篠田さんのいちばん素敵なところは、篠田さんには常に、「勝たなければ」という自分がいる。本来だったら認めたくない自分を、ものすごくさらっと明るく言うんですよね。これが篠田力だと勝手に思っていて。
篠田:篠田力! タムカイさん、それ書いて(笑)。
(会場笑)
伊藤:本人、(篠田力を)ちょっと気にいったようですよ。
(会場笑)
尾原:本当はかっこ悪い自分を、いとおしそうにさらっと言うのね。僕は、てっきり昔から言えているものだと思っていたんですよ。訓練して言えるようになったというのは、すごいことだと思いますよ。
篠田:訓練と言えば訓練ですね。ぜんぜんまだできていないと思うんですが。言えるほうが気楽というか。
伊藤:でも、そういうことが習慣にはなってきた。
篠田:そうですね。
伊藤:習慣になったら、こうやってできますからね。
尾原:でも、なんでこだわっているのかと言うと、結局振り返りはルーティンですよね。だから振り返る前に、まず現状を認めなければいけないんですよ。だけど人間は、自分がかっこよくありたいから、自分をイメージしても、いちばんかっこ悪い自分を認められないから、メタ認知が広まらないんですね。それを軽やかに超えているように見えるので。
篠田:いやいや、軽やかではない。
伊藤:それが「篠田力」なんだろうなあ。振り返る、まさにスイッチするというのを体得したんですね。
篠田:なんだろう……もともとそういう癖(へき)が。かっこよくありたいと思うから、その視点と照らすという癖が多分あった。それで、キャリア上……思えば大した失敗ではないですが、自分としては「けっこう失敗してしまったな」というできごとがあった。あと、やっぱり私にとって子育て経験がすごく大きいです。
直接自分の欠点と向き合うということとは少し違うんですけども。いわゆる人格を鍛えるというのではないほうの……例えば、スキルアップして、大企業の中で昇進するためには、点数を着々とつけていって、順調に昇格するということにかなり重心が寄っていたのを、子どもを育てることで強制的に時間やマインドのシェアがそうではない方向にいくんですよね。その結果……子育ては仕事と真逆で、どうにもならないことだらけで。
伊藤:なるほど。
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