2024.10.10
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テュレーン大学 卒業スピーチ 2019 ティム・クック氏 (全1記事)
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マイク・フィッツ学長:本日、ティム・クック氏にお越しいただいたことは非常に幸運なことです。なぜなら、彼は非常に多忙な方だからです。ニュースで言われていることを信じるならば、ティムはまだ太陽が昇る前の4時30分には起床し、日没のはるか後まで働いています。
そんな生活にも関わらず、彼はサイクリングをしたり、クパチーノ周辺の山をハイキングしたりする時間を捻出しているそうです。おそらくはiPhoneを使って、アップル・ミュージックで音楽を聴きながら、アップル・ウォッチで道を確認していらっしゃるのでしょうね。
熱心なハイカーであるティムは、人生における山や谷にも詳しい方です。2011年にはアップルのCEOに就任し、人生の頂点に達しました。1982年には谷を経験しましたが、それは我が校にとっての話です。ティムがテュレーン大学ではなくオーバーン大学への進学を選んだからです。
ティム。今さらですが、本校はまだあなたに未練があります。あまりにも未練が強すぎて、本日あなたに、学位を進呈します。
(会場笑)
これからはいつでもあなたは歓迎です。本校には、気がむいたらいつでも遊びに来てください。あなたが出席を希望するどのクラスでも、出席は可能です。
ティムは、ここから数時間たらずの距離の、アラバマ州メキシコ湾岸で育ちました。すでにお話ししましたが、彼はオーバーン大学で生産工学を専攻し理学士号を取得しました。さらにデューク大学へ進学してMBAを取得しました。
果たしてティムは、デューク大学卒業当時に、いわゆる当代のアレクサンダー・ベルになる自らの運命を自覚していたのでしょうか。卒業後は急速にテクノロジー界の階層を上り詰め、1998年にはアップル社の最高幹部に就任しました。そして今日の彼は、人々の暮らしを根底から変革したアップルのCEOです。
思いを馳せてみてください。日々ますますテクノロジーに頼りつつあるこの世界において、ティムが下す決断の影響は、プライバシーから進歩のペース、革新の在り方に至るまで、人間の生活全般に及びます。
ティムはこの時代のもっとも難しく、根源的な問題に向き合うことを強いられています。そして彼が、プライバシーやテクノロジー革新のみならず、公衆衛生の維持やダイバーシティ、インクルージョンなどにも恒久的な影響を与えていることは周知の事実でしょう。彼は、たった一人の人間が変革をもたらすことができることを示す好例です。最初は一つの音色であっても、それは和音になり、変革のシンフォニーにつながるのです。
ティム本人もさまざまな行動を起こしますが、周りの私たちにも刺激を与えてくれます。彼が言うように、「歴史が一人に屈することは稀だが、実現された時には何が起きるかを忘れてはならない」のです。その一人とは、みなさんのことかもしれません。みなさんであってください。いや、みなさんであるべきです。
2019年テュレーン大学卒業式のスピーチに、こちらの偉大なるマエストロを喜びをもってご紹介させていただきます。アップルCEO、ティム・クックです。
ティム・クック氏:テュレーン大学のみなさん、こんにちは! フィッツ学長、ありがとうございます。フォーマン副長、特別名誉教授のみなさん、その他の教授のみなさん。「テュレーン・ファミリー」のみなさん、つまり職員や守衛のみなさん、そしてこの美しい場を設けてくださったボランティアの方々にも、感謝を捧げます。
また、学生たちの行きつけのバー「ブート」の勤勉なバーテンダーのみなさんをも讃える義務があるように思います。今朝は彼らは共にこの場にはいませんが、卒業生のみなさんの何人かが、彼らの献身を思い起こしていることは間違いないと思われます。
みなさんの多くが、その血管にニューオーリンズが流れている、ニューオーリンズっ子だと思われます。もしかして(飲み過ぎて)肝臓にニューオーリンズが流れている人もいるかもしれませんね。アップルの血管にも、ニューオーリンズの血が流れています。
私がオーバーン大学の学生だったころ、「ザ・ビッグ・イージー」が人気の息抜きの場でした。週末のドーナッツとビールに向けての363マイルのドライブは、驚くほどあっという間でした。そして、その帰りの足取りの重かったこと。
アップル副社長のリサ・ジャクソンは、誇らしきテュレーン大学の卒業生です。Appleの環境・政策担当の彼女は、自身が指揮を執るクパチーノ市に、テュレーンの野球チーム「グリーン・ウェーブ(緑の波)」をはるばる持ち込みました。彼女の才能とリーダーシップをチームに迎えることができたことを、喜ばしく思います。
さて、私たちの会社について語るのは、ここまでにしておきましょう。ここからは、みなさんについて語りましょう。
私はこのような場は、いつも謙虚な気持ちをもって見守ります。一つのコミュニティが結束して、教え導き助言し、最後には声を一つに揃えてこう言う場面です。「2019年卒業生のみなさん、おめでとうございます!」
さて、ここにはもう一つ、非常に大切な集団がいます。みなさんの家族や友人たちです。
(会場歓声、拍手)
みなさんがこの瞬間に達するまで、みなさんを愛し、支え、あまつさえ大きな犠牲を払ってまで後押ししてくれた人々です。満場一致の拍手を贈りましょう。
さて、私からの最初のアドバイスです。みなさんは、人生のもっと後の方になるまで、この瞬間がこの人たちにとってどれほど意味があるか、あなたがたへの責任や愛、義務が、何にも増して大切であるかに、気が付けないかもしれません。
私がみなさんに、今日一番伝えたいのが、まさにこのことなのです。執拗なまでに自分の人生を文章化するこの世界において、私たちは、他者に対し何をなすべきかを十分に認識していません。
もっと両親に頻繁に電話を掛けてあげてください、ということを言いたいわけではありません。しかしみなさんが実際にそうしてあげれば、彼らは間違いなく喜ぶと思いますよ。
私がお話ししたかったのは、力を合わせればたくさんのことができることを、人間が知ったことで、人類の文明が始まったことについてです。人間の集団が大きくなればなるほど、揺らぐ焚火の外の脅威と危険は小さくなりました。
そして人間は、一定の事実を共通の認識とし、集団で行動することにより、より多くの物を創造できるようになりました。富、美、知恵を持ち、よりよい生活を送れるようになったのです。
思い込みかもしれませんが、南部、特にメキシコ湾岸の人々は、この知恵を他所より豊富にもっていると、私は常々思ってきました。
この地方では、しばらく姿を見せないと、近所の人が心配してくれます。よいニュースは、すぐに広まります。なぜなら、手柄をたてると、周りが自分のことのように喜んでくれるからです。よその家を訪問すると、必ず手料理を振る舞われます。
みなさんはあまり実感していないと思いますが、こういった価値観はテュレーンにおける教育理念にも満ちています。大学のモットーを見てください。「我欲のためではなく、大切な者のために行動せよ」。(注:Non sibi, sed suis)
人の流れが混じり合い、魔法のように予期せぬものが生まれ出る街で、みなさんが暮らし、学び、成長できたことは、非常に幸せなことです。ここでは、不揃いの美、自然の美、文学の美、音楽の美、文化の美が、思いもかけない時にバイユーから湧き出て来るかのようです。(注:バイユーとは、アメリカ合衆国南部ミシシッピ川の三角州地帯を流れる細い川)。
ニューオーリンズの人々は、二つの道具でこの街を作りました。「相応しくないもの」と「不可能なもの」です。みなさんがこの先どこへ行こうとも、この街での教訓を忘れてはいけません。これからの人生において、みなさんはさまざまな方法で「ノー」、「不可能だ」「やるべきではない」「挑戦しない方がずっとよい人生を送れる」という言葉を突き付けられます。
しかし、ニューオーリンズの街は、挑戦することは何よりも美しく、価値がある、ということを教えてくれます。我欲のためにではなく、大切な者のために行動する際には、なおさらです。
私がそもそもアップルに来た理由が、より大きな目標を求めてのことでした。私はもともと、「コンパック」という会社で快適な仕事に就いておりました。当時のコンパックは、永遠に業界トップに在るかと思われるほどの勢いにありました。現在では、若いみなさんは会社の名前すらご存じないでしょうね。
1998年、スティーヴ・ジョブスの説得を受け、私はコンパックからまさに倒産の瀬戸際にある会社に移りました。この会社はコンピュータを作っていましたが、当時は少なくとも、まったく売れていませんでした。スティーヴには変化を起こすプランがあり、私はぜひそのプランに参加したいと考えたのです。
これは、iMacやiPodほか、後の世に出る製品の話ではありません。このような開発品を、世に送り出す意味の話なのです。こういったパワフルなツールを、人の手で日常に使われる物として世に出す意味、それは人々のクリエイティビティを解き放ち、人類を進化させることなのです。私たちが創る製品で、人はよりよい世界を思い描くことができ、しかもそれを実現させることができるのです。
大好きなことを仕事にすれば、人生において「働く」ことはなくなる、とはよく聞く言葉ですよね。アップルに来て、これがまったくの嘘であることが判明しました。
(会場笑)
みなさんは、自分でも可能だと思っていた以上にハードに働くでしょう。しかしその成果として手にしたツールは、軽やかに感じられることでしょう。
みなさんは社会に出たら、解決済みの問題に時間を奪われないでください。こちらの方が現実的だと人に言われても、囚われないでください。その代わり、波立つ海原に舵を切ってください。
未開の地を、手ごわい難問を、他の人が迂回に甘んじる煩雑さを選んでください。みなさんが自分の目標を見出すのは、それらの道なのです。自分の力を、人のために大いに役立てられる場なのです。
どこへ行こうとも、慎重になり過ぎるという過ちを犯さないでください。現状維持に甘んじず、足元の地面が不動の物だとは思わないでください。状況はすぐに変化します。ですから、より良い物を創り出そうではありませんか。
私たちの世代は、重大な点において、みなさんに対し申し訳ないことをしてしまいました。私たちは、議論に時間をかけ過ぎたのです。争いに気を取られ過ぎて、進歩を軽んじました。この過ちに手本を求めないでください。
以前、100年に一度の災害から必死になって逃れて来た何千もの人々が、今日私たちがいるまさにこの場、この会場に避難していました。こういった類の災害は、近年ますます頻発しているように思われます。集団の中の人間としての自覚を持ち、お互いに対して何をなすべきかを考察するには、気候変動を抜きにしては語れないと思っています。
(会場拍手)
ありがとう、ありがとうございます。
この問題は、選挙で誰が当選し、誰が落選するかなどといった、単純なものではありません。人生におけるくじ引きに当たり、こういった問題を無視する贅沢を手にしたのは誰か、すべてを失う羽目になったのは誰か、という問題です。
ここルイジアナを含む沿岸部では、人々が何世代もの間、故郷として暮らして来た地を棄てて、高台に移住する計画が持ち上がっています。漁労の網に魚が掛からなくなった漁師たち。保護動物が減少した野生動物保護区。自然災害によって貧困に喘ぐ、社会に取り残された人々などです。
今週末に博士号を取得するテュレーン大学院生、モリー・キオーに聞いてみてごらんなさい。彼女が新たに行った重要な研究によりますと、ルイジアナ南部は海面上昇により、これまでのどんな想定をも上回るペースで荒廃しています。
テュレーン大学のみなさん。これらの土地は、人々の故郷なのです。生活の場なのです。先祖が誕生し、生き、死んでいった地なのです。
気候変動について語る時、また人間が被害を被った多くの問題について語る時、もっとも失う物が多いのは誰かを、みなさんはぜひ調べてみてください。そして、共通認識に基づいた、リアルな共感を得てください。
これがまさに、お互いに対してなすべきことなのです。すると政治的な雑音は掻き消され、みなさんは強固な大地に足がしっかりとついていることを実感するでしょう。私たちは怪物のために記念碑を建てるつもりはありませんし、今から作り始めるつもりもありません。
仕事よりも、争いごとの時間が増えていると気付いたら、この混乱で誰が得をするのだろうと、立ち止まって考えてみてください。反対する相手を踏みつぶしたり、始めから言い分を聞かないのが、自分が強くなれるだた一つの手段だと思い込ませようとする者がいます。唯一の実績を上げる方法は、他者を打ちのめすことだとする者です。
時に私たちは、これまで自分が信じてきたものには、独特の引力があることを忘れてしまいがちです。現在、一種のアルゴリズムが、みなさんがもうすでに知っているもの、信じているもの、好きなものをみなさんの方に引き付け、他のすべてを遠ざけてしまいます。
これに抗ってください。これは間違っています。目をしっかり見開き、新しい物の見方をすることは、2019年においては革新的な行為です。勇気を奮い起こして、聞き流すのではなく、しっかりと耳を傾けてください。ただ行動するのではなく、みんなで共に行動してください。
運が向いておらず行き詰ったように感じたり、こんなことはやる価値がないとか、批判があまりにもしつこいとか、問題が大きすぎると思うこともあるでしょう。しかし、私たちが抱える問題は、まず身の丈レベルで目の前のやるべきこと認識し、共に取り組むことで、解決の糸口を掴むことができます。少なくとも挑戦してみることは、お互いに対する最低限の義務です。
過去にうまくいった実績があります。1932年、アメリカ経済は暴落し、1,200万人が失業しました。世間一般の見解は、事態を待機してやり過ごし、景気が上向くように願うしかない、というものでした。しかし、フランクリン・ルーズベルトという新進気鋭のニューヨーク州知事は、静観することを拒みました。彼は現状に戦いを挑み、行動を起こしたのです。
彼は、人々に楽観的な考えを止めさせ、現実と向き合い、団結して、この閉塞的状況から自ら脱出するよう求めました。ルーズベルトはこう言いました。「この国には、大胆で持続性のある実験が必要だ。対策を講じて試すべきであることは、共通の認識である。もし失敗したなら、その失敗を認めて、さらに別の方法を試せばよい。とにかく、何かを試すべきであることは確かである」。
この演説は、不安定な社会の中、自らの将来に大きな不安を抱える大学生に向けたものでした。ルーズベルトは言いました。「みなさんの仕事は、社会を渡っていくことではない。社会を再建することだ」。
若者たちの、このスケールの大きな共感、つまり自分たちのために生きるのではなく、社会のために生きるという精神、これがまさに進むべき道なのです。気候変動から移民問題、刑務所改革法案(注:トランプ大統領が支持する刑務所改革法案であるファースト・ステップ法案を指す)から経済改革に至るまで、世界をより良くすることが自分の仕事だという気概を持ってください。
若者は、これまで何度も何度も歴史を変えてきました。今がまさに、再び歴史を変えるべき時なのです。
この事実が、みなさんにプレッシャーを与えていることは、私もよくわかっています。堂々としていてください。みなさんを萎縮させる者はいません。勇気を持ってください。立ち塞がる困難は強大なものですが、みなさんの方がより力に満ちています。
そして、感謝の念を忘れずにいてください。みなさんにこの瞬間を実現させるために、誰かが犠牲を払いました。みなさんは澄んだ目を持っており、それを活用できる人生はこれから先が長いはずです。このスタジアムにいる私には、みなさんの勇気が伝わってきています。
闘志を奮い起こしてください。挑戦してください。成功するかもしれないし、失敗するかもしれません。例えそうであっても、世界の再建を、みなさんのライフワークにしてください。人類のために、より良いものを残す仕事ほど、美しく価値のあるものはないはずです。
ありがとうございました。2019年ご卒業のみなさん、おめでとうございます!
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