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「答えがないのに、ゴールを示すべき」というジレンマをどう乗り越えるか?〜これからの時代の未来との向き合い方(全7記事)

将来が見通せない、だけど勝ち筋がないとやる気が出ない… 多くの組織が抱える「ジレンマ」をどう乗り越える?

中土井僚氏の著書『ビジョンプロセシング』の出版を記念し、これからの時代の未来との向き合い方を探究するトークイベントが開催されました。『プロセスエコノミー』などの著者でIT批評家の尾原和啓氏、READYFOR創業者の米良はるか氏と中土井氏の3名がトークセッションを行い、「答えはないのに、ゴールを示すべき」というジレンマの乗り越え方について探ります。本記事では、中土井氏が著書の内容について紹介します。

新刊『ビジョンプロセシング』を上梓した中土井僚氏

司会者:まずは、著者の中土井さんから書籍のダイジェストとして4年分の蓄積を10分で発表していただく時間を取りたいと思います。中土井さん、よろしくお願いします。

中土井僚氏(以下、中土井):よろしくお願いいたします。みなさま、初めまして。オーセンティックワークスの中土井と申します。

今回は、『ビジョンプロセシング――ゴールセッティングの呪縛から脱却し「今、ここにある未来」を解き放つ』という書籍の出版記念イベントにご参加いただきまして、ありがとうございます。まず10分ぐらいで、本書のポイントだけご紹介させていただければと思います。

先ほどご紹介いただきましたが、私はオーセンティックワークスという会社を(経営)しております。表立っては、U理論や成人発達理論を日本で紹介する活動をしているんですが、実際にはコンサルタントから始まって、コーチング、組織開発のファシリテーション、リーダーシップ開発のトレーナーとして、さまざまな活動をしています。

なので、どちらかというと現場に入って一人ひとりの内面の変容から外的な変革を作り出すお手伝いをしています。経営理論などを知的理解として提供させていただくというよりも、一人ひとりが実際に自分自身の内面と向き合い変化していくというのは、どんなプロセスで起きるのかをサポートさせていただく、そんなお仕事をしています。

そんな仕事の中で、いきなりその方の内面に踏み込むのはけっこう抵抗があったりします。なので、私は頭の理解をすごく大事にしておりまして、なんとなくモヤッとしていることだったり、何をどう考えたら良いんだろうということを考えていくお手伝いをさせていただいています。

2025年で、この仕事を始めて20年になるんですが、その中でいろんな対話を通してみなさまが「なるほどね」と言ってくださることを今回まとめたのが、この『ビジョンプロセシング』という書籍です。

「答えがないのにゴールを示すべき」というジレンマ

中土井:ポイントをちょっとだけ紹介させていただきますと、「結局のところ環境の変化が激しいとは、どういうことを意味するんだっけ?」という(問い)が出発点になっています。今回のイベントのテーマで、書籍の帯にも書いていますが、「答えがないのにゴールを示すべきというジレンマ」が、私たち一人ひとりに根本的に問いかけられていることじゃないかなと思います。

VUCAとかBANIとか、いろんな言葉で言われていますが、環境の変化が激しいのって何を意味しているかというと、明確な目標や綿密な計画を立てたとしても、結果的に明日どうなるかわからないことがありますよね。その最たるケースが、コロナだったと思います。

昨今の政情不安を考えても、日本がすぐに戦争に巻き込まれることはないとしても、他国で起きている戦争によっていきなり起きた物価高が私たちの生活を直撃しているという話で言うと、決して他人事ではないなと思っています。なので、十年の計を立てるのは難しいので、3年ぐらいで考えようと言っていたのが、2000年になってからの話だったんです。

ですが、おそらく今は、3年後を考えるにしても、生成AIが代表するテクノロジーの変化も含めて、自信を持ってこうなると言える方ってけっこう少なくなってきているんじゃないかと思います。この環境変化が突きつける要件は、先行きが不透明過ぎて計画や目標を立てられませんということに加えて、勝ち筋が見えないということがある。

だからこそ、三人寄れば文殊の知恵とする必要があるよね、みんなで力を合わせましょうというふうに、環境が私たちに要件を突き付けています。ところが、人間の特性というのは、見通しの明るさや投資対効果、最近だったらタイパ、コスパとよく言われるように、やる前に勝ち筋が見えていないと、やる気が出ません。

「そもそもそれをやる意味はあるんですか?」という姿勢になってしまうことが、どんどん増えてきている風潮なのかなと思います。

これまでとこれから、未来との向き合い方の違いとは

中土井:その上、先行きが不透明だからこそみんなで力を合わせるしかないけど、会議を躍らせずに一枚岩になるためには同じ目的や目標が必要だよね、と言われたりもします。これって真っ向から対立するジレンマだなと思っているんですね。

計画が立てられることで先行きが透明化されることと、タイパ、コスパが見えていないと力が出せません、ということ。みんなで目的・目標を共有できないと力を合わせられませんという特性に対して、環境の要件が「そうはいきませんよ」と言っていること。このジレンマに対していかに向き合っていけるかが鍵を握ると思っています。

そこで、みなさまとのいろいろな対話を通してたどり着いたのが、自分たちに都合の良い状態になるように未来・将来を予測して、状況をコントロールしようとする、これまでの未来との向き合い方から、どれだけ勝ち筋が見えなくても可能性を見据えて、何度くじけようとも力を合わせて創造のための試行錯誤を繰り広げようという変化です。

これまでの(未来との向き合い方)が「計画」と「統制」だとしたら、これからは「実験」と「進化」といえる根本的な変化が必要になるのかなと思っています。これはある意味「瓢箪から駒が出る」というのを、どうみんなで力を合わせてやっていくか。そのために、未来との向き合い方そのものを変えていく必要があるんじゃないかというのが、ここでお伝えしようとしているテーマです。

本書では、それを可能にしていく上で、1つの原理と3つのパラダイムシフトというものが大切だと紹介しています。特にこのパラダイムシフトは、これまでとは違う新たな常識なので、私は非常識ではなく「反常識」と言っています。

私たちの常識に反する感覚なので、この新しいパラダイムは、にわかには理解できなかったり、すぐには行動できなかったりするんですけれども、そのパラダイムを生きていくということが問われているのだろうと思っています。

この原理は、『学習する組織』を提唱しているピーター・センゲさんの言葉なんですね。彼は「創造することと問題処理することの根本的な違いは簡単で、問題処理をする場合は望んでいないことを取り除こうとする。創造する場合は本当に大切にしようとしているという、これ以外に根本的な違いはほとんどない」と言っています。

売上低下や人材不足など「ないこと」の問題を口にする人々

中土井:私たちはミーティングをやっている時に、売上が上がっていない、若手のモチベーションが下がっている、人が採れないといったように、「ないこと」の問題を口にします。

そうじゃなくて、何を本当に大切にしたいのかをど真ん中に置く必要がある。これを原理としてまずは進めていくことで、計画のジレンマを乗り越えていく。そこに(未来と)向き合っていく鍵があるだろうと思っています。

それによって、立ち直りのしなやかさと力を合わせた試行錯誤、そして主体性と創造性の解放によって、本当に大切にしていることを作り出したい。これを「心の羅針盤と本質的な課題の掛け合わせだ」と言っているんですが、この主体性と創造性をいかに可能にし続けるかによって、瓢箪から駒が出るまで力を合わせ続けることを可能にする必要がありますね、という話をしています。

2つ目のビジョンのパラダイムシフトに関しては、これまではビジョンが答えであり、そこを目指していくべきだとなっていたところから、この問いとしてのビジョンに変わるという表現にしています。

これは何を言っているのかというと、これまでのビジョンは山頂だったので「何年後にどこに到達します」という未来に到達することが目的であって、今という時間は手段になっている状態でした。そうではなくて、頂上にたどり着けるかどうかわからないので、先が見えないからこそ、今この瞬間の自分自身をモチベートする(ことが重要になってきます)。

自分たちをエンパワーする未来やビジョンと付き合うことで、この瞬間の状況がどうであろうとも、自分自身が沸き立っている状態を目的にする。未来を自分自身を沸き立たせる手段にすることで、(これまでとは)目的と手段が入れ替わることを、ここではビジョンのパラダイムシフトと置いています。

なので、こちらのビジョンは答えなのに対して、こちらのビジョンは今の自分自身をエンパワーする、問いを誘発するものだと置いています。

「山登り型プランニング」から「波乗り型プランニング」へ

中土井:今度はプランニングのパラダイムシフトです。これも先ほどのビジョンと少し近いんですけれども、これまでのパラダイムは山登り型と言っていました。現状と山頂が明確で、地面と頂上が存在していて、この目標に向かって逆算して、As-Is/To-Beと言われたりもしますが、この状態で進んでいくのが、これまでのパラダイムでした。

ただ、地面は動かず、頂上は存在しているという前提が成り立たないと山登り型のプランニングってできませんよと。なので、やる前からルートを決められるものではなくて、これからの時代は刻一刻と変わる波の状態に対していかに舵を切っていけるかという、波乗り型のプランニングが必要だと考えています。

サーファーは当てずっぽうにサーフボードに乗っているわけではなく、微細に波の動きを察知しながらバランスを取り、(身体やボードを)うまく動かし、強い体幹を持ちながらしなやかに舵を切っていきますよね。このように、山登り型プランニングから、波乗り型のプランニングにパラダイムシフトしていくと考えています。

チームワークのパラダイムシフトというのは、心理的安全性で有名な、ハーバードビジネススクールの教授のエイミー・エドモンドソンの言葉なんですが、これまでのチームワークは、役割分担が明確で、人の入れ替わりもなく進めていくものでした。

(これまでの)チームビルディングを重視するチームに対して、これからは組織内外の人たちと都度うまくつながっていきながら協働していくチーミングが必要だと言っています。

彼女は、チームが名詞なのに対してチーミングは動詞だと言っているんですね。チーミングというのは、いわゆる災害医療などがその代表格です。災害が起きたその瞬間は、医療従事者が必要な人数整っていてすぐに手術ができる環境ではないので、そこにいる通行人や自衛隊員、警察官とその場で協働する必要がありますよね。

これをチーミングと言っているんですけれども、環境変化が激しい状態であればあるほど組織の内外の方とインターネット上でやり取りしながら答えを見出していく活動が必要だと、彼女は言っています。これを採用して、チームワークのパラダイムシフトと言っています。

特にビジョンに関してはもう1つお伝えしたいものもありますが、あまり詳しく話をしているとちょっと長々となってしまいますので、まずはポイントだけお伝えするということで、ここまでにさせていただきます。

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