S/4HANAとBusiness Networkの連携で実現できること

川崎雅弘氏(以下、川崎):みなさま、こんにちは。ここからの時間は、S/4HANAとBusiness Networkの「Business Network」が今回のテーマなんですが、Business Networkの連携で実現できること。SAPが持続可能なサプライチェーンへどういう提案をしているかをお話しさせていただければと思います。

このパートは、SAPジャパン インテリジェントスペンド・アンド・ビジネスネットワーク事業本部の川崎と古川でお送りいたします。どうぞよろしくお願いいたします。

さっそくですが、2023年の5月にUSAのオーランドで、グローバル向けの「SAPPHIRE」というイベントが開かれました。この中で、SAP SEのCEOであるクリス・クラインから、「Business NetworkをSAP戦略のコアとして投資を拡大していく」という発表がなされました。

バックエンドにクラウドのERPを拡充しつつ、クラウドERPと外部のサプライヤーさま、ビジネスパートナーさまたちをデジタルネットワークで接続していく。この部分に大いに投資をして、イノベーションをご提案していくことをお約束した次第です。

これは、従来のERPをずっとお使いいただいているお客さまからいただいたお言葉を整理しています。

「ERPシステムで内部のデータ統合・プロセス統合を図るように、外部の協力会社とも連携がしたい」「従来のERPだけでは、確かに自社内のプロセスの最適化はできるんですが、真のエンドツーエンドでのプロセス統合はなかなか図れない」。

非常に興味深かったのが、このお客さまがおっしゃるには、80パーセント以上のデータは自社内の内部に存在するのではなく、外からやってくる、もしくは外へ発信するものであることです。

こういったお客さまの声にも応えるべく、Business Networkをどう実装していくかが、次の我々の提案になっていくことになります。

繰り返しになります。従来のERPシステムは、自社が直接管理する社内のリソースですね。ヒト・モノ・カネを情報集約して経営判断を実施していくメカニズムでした。昨今のグローバル化、またネットワーク化の経済では、ERPそのものの進化が求められていることが、先ほどのとあるお客さまの言葉からもうかがえるのではないかなと思っています。

SAPの提唱する次世代ERPのかたち

川崎:SAPのBusiness Networkは、ERPとサプライヤーさま、もしくはビジネスパートナーさまが、ネットワーク全体でリアルタイムでかつ包括的な情報の連携、情報のやりとりをダイレクトに行える仕組みをご提供することを可能にします。

従来のスタンドアロンERPという世界から、Networked ERPへ。これがSAPの提唱する次のERPの姿となっていきます。

言い古された言葉です。何回もこの絵は使わせてもらっているんですが、昨今スマートフォンの技術力はすごく上がっていますよね。みなさまもお持ちだと思います。この非常に優れたスマートフォンの機能であったとしても、例えばSIMが存在しなかったり、外部と接続する接点を持ち得なかったら、日本で「文鎮だ」とよく言われるようなメカになってしまいます。

これと同じことがERPの世界にも言えるかと思います。スタンドアロンでも確かに最強の能力を発揮します。しかしながら、SIMカードを投入し、外部と接続することによって、さらなる力を発揮することができる。そうご想像ください。

Business Networkが拡張する新しいERPのシステムの姿ですね。まず必要性があるのは「俊敏性」です。SAPのBusiness Networkは、世界で約860万社以上のサプライヤーさま、バイヤーさまを含めた企業さまにご活用いただいています。

この世界最大のネットワーク、ビジネスプラットフォームをご活用いただくことによって、エンドツーエンドでバイヤーさま、サプライヤーさまたちの関係をつなぎ、事業の俊敏性に貢献することが可能になります。

また、「拡張性」ですね。従来のERPに不足している機能をBusiness Networkは補うことができるようになっています。一気に大きくではなくて、徐々に徐々にスモールスタートでこれらのネットワーキングを拡充していくことができるようになります。こうして継続的なDXを提供することが可能になってきます。

また、最後ですけども「シンプル化」。従来システム資産としては、過去からいろいろと積み上げられてきたものがあろうかと思います。こういったものをアドオン機能でいろいろと強化したりしてきました。

そういったものをOne SAPで、かつクラウドの環境でご提供することによって、シンプルなシステム化に移行することができるところも、1つのポイントになるのではないかなと思っています。

直接・間接材購買ネットワークを網羅してきた

川崎:「SAP Business Network」と繰り言のように言っていますが、これでハンドリングできるデータ種別を少し表させていただきます。従来からあります間接材購買のネットワーク機構ですね。

サプライヤーさまとバイヤーさまのやりとりをはじめとして、単にモノの移動だけではなくて、実際に物流のネットワーク、フォワーダーさま、キャリアさまなどとの輸配送の情報連携も含まれます。

また、自社内に各種存在する生産設備の保全やメンテナンスなどもあろうかと思います。ここの資産情報の公開や共有、また取引なども含まれていくのが、資産管理ネットワークの能力になってきます。

そして会計ネットワーク。財務ネットワークとも言いますが、ダイナミックディスカウントないしはサプライチェーンファイナンスと呼ばれる、ファイナンスのネットワーキングですね。バンキングなど業務を含めた1つのネットワーク構造体をご提供できます。

最後に業務委託系ですね。外注などの情報連携。当然この中には発注・見積もりも含まれますが、そういったビジネスオブジェクトも、このBusiness Networkの中で保全することができます。

そして、今日のテーマは一番上に載せている直材購買ネットワーク機能です。バックエンドでERPをお使いのケースで、いかにサプライヤーさまと連携を図っていくかというテーマを中心にお話しさせていただきます。

2012年、SAP社はAribaコーポレーションという企業を買収しました。当然この中では、間接材購買のアプリケーションファンクションを手に入れることになりましたけども、実はその裏に隠れているネットワーク機構もSAPは手に入れました。

そして長い年月をかけて、このネットワーク機構を間接材取引だけではなくて、直接材取引でも応用できないかに主眼を置いて、どんどん取引できるトランザクション量および経験するインダストリーの数を増やしてまいりました。こうして継続的に進化してきたのが現在の過程になります。

本日はこの中からサプライチェーン、直材取引に関わる部分についてのご説明をさせていただきます。まず最初に古川さん、概要から少しご説明をいただけるとありがたいです。

Business Networkはすべてのプロセスに対応している

古川京佳氏(以下、古川):川崎さん、ありがとうございます。全体像について、川崎に代わり、ソリューションアドバイザリーの古川からご説明させていただきます。

まず、こちらのスライドでは、直接材の調達・購買の全体的なプロセスフローを表示しています。まず初めに見える黄色い部分は、SAP Aribaのファンクションのみを使ったプロセスフローです。例えば新しいサプライヤーを探したり、電子証明を含めた契約を結ぶ部分となっています。

2つ目、3つ目のところからは、スライドには表示していませんが、IBPやSAP S/4HANAを使ったプロセスフローになります。こちらのすべてのプロセスフローにおいて、Business Networkは対応しています。

今バイヤー企業さまのお話をしましたが、サプライヤー企業さまにとってのメリットもございます。サプライヤー企業さまは上の部分にある、サプライヤーとの情報連携ポータルシステムにログインするだけで、1つのバイヤーさまだけではなく、あらゆるバイヤー企業さまの情報を見ることができます。

そしてこちら、SAP Business Networkで一番注目していただきたいポイントは、このBusiness Networkを通してバイヤー企業さまとサプライヤー企業さまが連携する際に、SAP AribaのUIは一切使っておりません。例えば右側にあるSAP S/4HANAの情報は、直接サプライヤーとの情報連携ポータルシステムにつながっています。

次のスライドはいろいろ情報を書いていますが、こちらがすべてバックエンドERPのトランザクションの情報になっています。こちらはすべてBusiness Networkで対応できます。

例えばサプライヤーの在庫状況や外注発注連携であったりと、従来のEDI連携では開発する必要があったと思いますが、Business Networkは開発する必要なく、SAP S/4HANAの標準として提供しています。

今いろいろ情報についてお話ししましたが、まずはじめに標準発注連携についてご説明したいと思います。こちらが標準発注連携のプロセスフローです。下段にあるのがSAP S/4HANAで処理した情報になっています。この情報は直接Business Networkを通し、サプライヤーさまはSupplier Portalからバイヤー企業さまの情報を確認し、バイヤー企業さまに情報を送信できます。

このようにBusiness Networkはすべてのプロセスに対応していることから、バイヤー企業さま、そしてサプライヤー企業さまは交互にスムーズにやりとりできます。

Business Networkを介したスムーズな連携

古川:それでは具体的に、そのやりとりの情報について、実際の画面をご紹介したいと思います。まず初めにバイヤー企業さまが発注をし、注文伝票が発行されると、Business Networkを介し、サプライヤー企業さまはSupplier Portalからその注文書を確認することができます。そしてサプライヤーさまは注文書を確認し、納期回答や出荷通知の情報をバイヤー企業さまに送ることができます。

バイヤー企業さまは、SAP S/4HANAにもちろん自動反映され、対象品目が届くと入庫処理を行います。発行された受領書は、Business Networkを介してサプライヤー企業さまはSupplier Portalから確認できます。

この後はERSによる支払通知書や会計処理の部分に進みます。バイヤー企業さまはサプライヤーさまが作成した請求書の管理、支払通知書をBusiness Networkを介してすぐに確認することができます。

このようにBusiness Networkを通して、バイヤー企業さまとサプライヤー企業さまのエンドツーエンドのプロセスをスムーズに実現することができます。以上が標準発注連携のお話でした。

次に、「Forecastコラボレーション」というMRP実行結果の連携についてお話ししたいと思います。こちらがプロセスフローになります。バイヤー企業さまのMRP実行をした後に、購買予定が自動作成されます。この情報をそのままBusiness Networkを通し、サプライヤー企業さまに送信できます。

サプライヤー企業さまはその情報の確認、そして供給コミットメントをBusiness Networkを通してバイヤー企業さまに送信でき、バイヤー企業さまはすぐに把握できます。

それでは実際の画面を使ってこちらをご紹介したいと思います。先ほどお伝えした通り、バイヤー企業さまはSAP S/4HANAを使い、MRPによる購買予定の自動作成をします。

この情報をBusiness Networkを介し、サプライヤー企業さまに送ることによって、サプライヤー企業さまはSupplier Portalからその購買予定、フォーキャスト情報を確認し、供給コミットメントをバイヤー企業さまに送信することができます。バイヤー企業さまは、このフォーキャスト情報をサプライチェーンモニタから見ることができます。

状況と進捗がリアルタイムに共有できる

古川:こちらのサプライチェーンモニタについて、次で少しご紹介したいと思います。みなさん実際の業務を想像していただきたいのですが、実際にバイヤー企業さまがサプライヤーさまの状況を把握、ましてやリアルタイムに把握することはさすがに無理があると思います。

しかし、Business Networkを通すことによって、バイヤー企業さまに代わり、サプライヤー企業さまの状況をすぐに把握できます。

こちらが実際の画面になりますが、このようにサプライヤー企業さまが送った供給コミットメント、そしてバイヤー企業さまが対応しないといけない部分をアラートしてくれます。

一例として、例えばサプライヤーさまとの計画のずれがあった場合はこのようにアラート表示され、詳細を詳しく見ることができます。これらによって、安定供給や納期の遵守率の向上につながります。以上がMRPの実行結果の連携についてでした。

一番はじめに標準発注連携について、そして次にフォーキャスト連携についてお話ししました。しかし、価格交渉の企画・設計のフェーズや、入荷後の品質検査などの検収や支払いのフェーズにもBusiness Networkは対応しております。

さらにはもう少し詳しくお話ししますと、IBPによる長期需給計画やMRPによる供給量のコミットメントについてもBusiness Networkは対応しております。従来であれば、このような情報を個々に連携していたと思います。

しかし、Business Networkを介していただくことによって、サプライヤーとつながるため、情報のリアルタイム性、情報の一貫性を担保しながら、サプライヤーさまとスムーズにやりとりをすることができます。それではこちらの活用した姿について、川崎さん、ご紹介していただけますでしょうか。

スモールスタートで巨大な仕組みに成長できる

川崎:わかりました。チャートの色合いが変わりますが、今ご説明したみたいに長期需給計画、IBPで立案されたものの連携が1つ。ここからもたらされたPIR。これからMRPの展開がされて、所要計画となります。

この情報も、かつコミットメントとしてサプライヤーさまと連携することができる。さらにそこからドリルダウンして、受発注の連携もできます。

逆に、例えば発注状態に変更・違算が発生した場合、MRPに戻ってやり直さなければならない。当然計画タイムフェンスの中ですが、やり直さなければならないところも、先ほど申し上げたサプライチェーンモニタが常時監視していますので、再度MRPとしてやり直さなければならないなどの判断を行っていただいて、業務遂行できます。

もっと言うと、長期計画として見直さなければならない要素があれば、IBPにまで立ち返って、その計画そのものも反映することができる。こういった一連性のある、一貫性のある業務プロセスを、エンドツーエンドでサプライヤーさまとつながることによって実現できるのが1つの事例となります。

この巨大な仕組みを、いきなり一気にスタートさせるのはさすがに非常に厳しいものがあります。一番最初に申し上げましたスモールスタートで、徐々に始められますよというのがこのチャートです。

例えば、中心的には「Order Collaboration」と呼ばれる発注情報の連携からスタートして、サプライヤーさまの状況の重要性に基づいて、例えば経営企画にどんどん範囲を広げていく。

例えば品質管理の部分やVMIも含むサプライヤーさまの在庫管理に進めていくのであれば、こちらにも展開していける。これを時期を考えながら、タイミングを考えながら、負荷を考えながら展開していけるのが1つの特徴になってまいります。

開発費用と追加費用はかからない

川崎:いいことばかり言っていますが、「実際にSAPのERPとBusiness Networkはテクノロジースタック的にどうつながるの?」は非常にご興味のあるところかと思います。古川さん、これをご説明いただけますか。

古川:ありがとうございます。従来のEDI接続では、1つのバイヤーさまに対して開発をする。そしてトランザクション情報に対して毎回開発する必要があったと思います。

しかしBusiness Networkだと、S/4HANAに合わせた連携を標準で提供しています。そのため開発コストもかからず、すぐに利用できます。イメージとしてはコンセントを差すだけのものです。

こちらはBusiness NetworkとともにSAP S/4HANAを使っていただくことによるメリットを挙げてみました。まず初めに、SAP Business NetworkはSAP S/4HANAに合わせて製品設計をしているクラウド製品となりますので、開発費用は一切かかりません。

そして2つ目。SAP Business NetworkとSAP S/4HANAの接続ツールを、SAP S/4HANAの標準としてご提供していますので、接続は非常に簡単です。先ほどお話した通り、イメージとしてはコンセントを差すだけです。

そして最後に、SAP Business NetworkはSAP S/4HANAの開発に合わせて新機能追加をしておりますので、追加費用はかかりません。最新機能をすぐにお使いすることができます。以上がメリットでした。では川崎さん。

川崎:今回お話ししているBusiness NetworkとS/4HANAの関係性。直接S/4HANAのデータをサプライヤーさまにお届けします。そして連携することができるところを1つご記憶にとどめていただけると。

私は「Ariba」というロゴを付けていますけど、今日はAribaのお話をまったくしていません。S/4HANAとBusiness Networkのお話だけです。詳しいお話はブースをご用意しています。古川さん、ブースの紹介をお願いします。

古川:ありがとうございます。今私たちがいるのが青い枠のところです。お客さまから向かって右側の奥に進みますと、こちらにBusiness Networkの展示ブースがございますので、ぜひお越しください。今日はありがとうございました。

川崎:どうもありがとうございました。よろしくお願いします。

(会場拍手)