北の達人コーポレーションの木下社長が登壇

亀山敬司氏(以下、亀山):どうも、DMMの亀山です。こんにちは。今回はマーケターの専門の方に来ていただきました。自己紹介をどうぞ。

木下勝寿氏(以下、木下):北の達人コーポレーション 代表取締役社長の木下勝寿と申します。北の達人コーポレーションは、いわゆるD2C(Direct to Consumer)です。

我々の化粧品および健康食品の「北の快適工房」という自社ブランドを、インターネットを使って、直接販売するビジネスモデルでやっている会社です。今日はよろしくお願いします。

亀山:はいどうも。ちょっと緊張をしていますか?(笑)。

木下:ちょっと緊張していますね。

亀山:どうせ大して人は見ていないから大丈夫(笑)。

木下:いえいえ(笑)。

亀山:北海道でもともと起業したんですよね。

木下:そうですね。北海道で起業して、つい最近までずっと札幌本社で、2022年に東京・札幌の2本社制に変わりました。

亀山:それがD2Cで上場して、プライムまでいったという。

木下:そうですね。

亀山:ここ最近、ガンガン勢いのある会社だと聞いたんだけど。

木下:ありがとうございます。

ターゲット外の人にプロモーションをしない理由

亀山:さっそくみなさんに「マーケティングとは何ぞや」を語ってもらいたいんだけど、まず1つ目のお題が「目立たないプロモーションについて」。目立たないって、プロモーションは目立つものじゃないの?

木下:おっしゃる通りなんですけど、闇雲に目立ってもダメなところがあって。ターゲットの人には目立ちつつも、ターゲット外の人に目立たないようにするのはすごく大事だと思っています。

亀山:ターゲット外には目立たない。なるほどね。

木下:ターゲット外に知られると、いわゆる競合を生んでしまうところがあって。弊社は、今は健康食品・化粧品のブランドをやっていますが、もともとカニやメロンなどの北海道の特産品をやっていたんですね。

亀山:ああ、カニ、メロン。

木下:北海道の特産品をやっていた時に、足の折れたカニとか、端っこの切れたタラコとかの、「訳ありグルメ」専門のサイトをやったことがあったんですよ。もう十数年前ですね。

亀山:ああ、俺も買ったことがあるわ。安いのに味に違いがないと思って(笑)。

木下:そうなんです。味に問題はないけど、訳あって安いと。これを我々が先駆者としてやり始めたことで、テレビの取材が殺到しまして、1年間で30回ぐらいテレビに出たんですね。「すごく当たったな」みたいな感じだったんですけど、実際には、我々がテレビに出ることで消費者も増えたんですけど、それ以上に競合が増えたんですよ。

亀山:なるほど。あれを見て、「儲かってるな。パクってやろう」と。俺みたいなやつがいっぱいいるわけね(笑)。

木下:(笑)。初期の頃は、我々が紹介されたら我々に注文が来たんですけど、後半のほうは、我々がテレビに出て、消費者の方が見て、「訳ありグルメ、いいな」と思って検索をすると、我々以外のところもずらっと出てくるんですね。

亀山:なるほどね。

木下:消費者からすると、「あれ? さっきテレビに出てたのはどれだったかな? いや、もうどれでもいいや。この中から一番いいところを選べば」みたいになる。

亀山:なるほど。

木下:どうも「目立つ」のは、闇雲に目立ってもダメなのではないかと。

亀山:せっかく自分で作ったブームなのに、後から来たやつがおいしいところを持っていってしまう。

木下:ほとんど持っていく。「差別化ができていない状態で目立つのは、ほぼ意味がないな」と思いました。

ニッチなマーケットでトップシェアを取りにいく

木下:それ以降、健康食品・化粧品をやり出した時は、最初はリスティング広告をやりました。「~に悩んでいる人」みたいなピンポイントで。例えば「便秘に悩んでいる人」とか。ピンポイントで「便秘」とやると、便秘の人には伝わるんですけど、便秘以外の人には伝わらないんですね。

亀山:なるほど、確かにね(笑)。

木下:ということで、競争があまり生まれなくなったんですね。もちろん競合の中に便秘の人がいたら気づくかもしれないですけど、いわゆる不特定多数の人に知れ渡るのではなく、本当にニーズがある人だけにピンポイントに伝わるので、圧倒的に収益率が高い。

亀山:なるほどね。でもわかるわかる。すごく広い市場だけどそこで5番目、6番目よりも、ニッチなところで1番を取ったほうがいいよね。

木下:そうなんですね。

亀山:それはDMMの戦略ととても似ているよ。

木下:ああ、そうですか。光栄です。

亀山:あんまりでかい市場よりも、みんなが来ないような場所で1位、2位を取れたら一番収益性が高いよね。

木下:そういう事業を、いわゆる「ニッチトップ戦略」というんですけど、ニッチのマーケットでトップのシェアを取っていくことを考えると、まずターゲットの方だけに目立ち、それ以外の人に目立たない。こういうビジネスをたくさん作っていくことで、総合的な売上を上げていく考えですね。

亀山:なるほどね。確かにうちらも、例えば「推し活のこの推しだけ」とか。エンタメの中でも、「こういったアニメが好きな人」とか。同じアニメの中でもけっこう種類が分かれているわけよ。その時に、そこのファンだけを押さえていくのはけっこう大事だったりするし、同じような属性の人間がいっぱい来ればいいという感じで考えてる。

木下:そうですね。ですから我々は、例えば株主総会とかで投資家の方が来てくださって、「お前のところの商品は、売れている、売れているといっても、ぜんぜん聞いたことがないぞ」と言われることがあるんです。

そう言われた時に僕が言うのは、「いや、それは褒め言葉です。要は我々の戦略は、ターゲットの方だけに届き、ターゲット外の人に知られないようにやっていますので。今来ていらっしゃる方はターゲットではない方が多いので、みなさんが知らずに売れているのが、我々としては戦略が一番うまくいっている状態です」というかたちですね。

メルカリも実践した目立たないプロモーション

亀山:そうしたらさ、今度この動画を見た人がホームページへ行って、「このへんのニッチが行けるのかな」と動いてくるかもしれないよ。

木下:それはあるかもしれないですけど、言っても知れているという感じですね。

亀山:そうかそうか。

木下:本当にニッチなマーケットって、ターゲット外の人が見ても、なんで売れているかわからないんですよね。

亀山:確かにね。

木下:その機微の部分がありますので。

亀山:そうか。じゃあ俺もちょっとあとで見にいってみよう(笑)。

木下:ちょっと怖いですね。

亀山:どこかをパクろうかなと思って(笑)。

でも確かに、よくスタートアップとVCの集まりとかがあるんだけど。そこで、お金を集めたいスタートアップとVCがマッチングする。その時にスタートアップが「こんな事業をやっています。ここまでうまくいっているから、みなさんもっと資金を出してください」みたいなプレゼンをするんだよね。

でもそれって危険性があって。「こんなにうまくいっていますよ」と言ったら、VCでお金を出してもらうのと同時に、誰かにパクられる可能性もあるんだよね。

木下:そうですね。

亀山:そのへんで言うと、俺が知っているところだと、例えばメルカリとかってけっこう当初はCMを何も打たないで、水面下でいろんなサービスを作って、「ここまできたらいける」という段階になったら、一気にばーっとメディアに宣伝をかけたんだよね。

それまではあまり目立たなかったから、例えば大手のヤフーとか楽天も、それほど脅威と思っていなかった。「ここが広告の打ち時だ」と思う時に、一気に広めるみたいなことが必要だなと思ったので、確かに目立たないプロモーションってある意味深いね。

木下:そうですね。

亀山:逆説的でありながらも、言っていることは真理ですよ。みなさん、これはいい勉強になりましたね。