2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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赤池実咲氏(以下、赤池):ニクヨさんも藤野さんもいろんな視点を持って、「普通はないよ」「それぞれだよ」とおっしゃっていますが、ご自身がそう思えたきっかけとなる出来事はあるんですか?
肉乃小路ニクヨ氏(以下、肉乃小路):そうですね。私の場合なんですが、やはり自分がゲイであるのを受け入れたところで、「もう普通から外れてしまった」って思ったことがあります。
ゲイであることを受け入れたのは20歳の時だったんです。かわいい男の子を見ると胸が踊ったりするんだけど、それって異常なことだから絶対に表明しちゃいけないし、でも気持ちは抑えられないし、もうどうしようかなという葛藤がありました。
このままゲイの世界に行ってしまうと、特殊な世界しかないんじゃないのか? 特殊な道しかないんじゃないのか? って思って。ゲイであることを受け入れたら、いろんな可能性が終わってしまうと思っていたんですね。
なんですが、実際に(ゲイであることを受け入れた)きっかけとしては、20歳の時に父が亡くなって。「人間は死んじゃうんだから」って踏ん切りがついて、自分の中で受け入れて、実際に街に出てみたらゲイの中でもいろんな方がいたんです。
特殊な世界だけだと思っていたけど、こういうふうな道もあるし、そうじゃない道もある。だから普通に就職して、いろんな社会人経験をしてもいいんだってことがわかって。まずはその時点で複数の道があることに気がつけたのが、個人的には一番大きかったなと思います。
赤池:そこから社会人経験を積もうと思って、社会人はいくつまでですか?
肉乃小路:42歳ぐらいまでやってましたね。私が社会人経験をしたかったのは、作家の内館牧子さんという方がすごく好きで。脚本も書かれるんです。
内館さんも30代後半まで日本の企業で会社員として勤めて、やはり社会人経験は日本人の機微というか、社会を知る上でどうしても経験しておきたいと思っていた自分がいて。
そこから先、どのような作品や表現をするにしても、そういった機微を理解していないと、受け手側の人をうまく理解できないんじゃないかと思っていたから働いてたんです。だけど、もともと金融が好きなので、なんだかんだ仕事が楽しくて。気がつくと40歳ぐらいまで(会社に)いたんです。
だけど、テレビでマツコさんやミッツさんとかが出ていて、「やりたいようにやっていていいな」とか思って(笑)。
あの人たちはあの人たちですごく苦労してるんですけど、「こっちのほうが、私ももっと人にいろんな話を聞いてもらえるかもしれない」と思って、42歳ぐらいから女装専業でやり始めている感じですね。
赤池:なるほど。
赤池:「自分はこうなんだ」「こっちでいこう」といって自分で踏み出すことができても、例えば今はLGBTQ+も含めていろんな価値観が出てきています。
それを尊重しようという風潮の中で、相手のことを知りたいし、相手のことも尊敬しているけれども、どうやったら傷つけないんだろう……? とか、思ってることもなんかダサいなって自分で思うんですが。
そういう(多様な)価値観にこれからアップデートをしていかなければならない中で、他者の価値観を受け入れるという点で、「どんなふうにニクヨさんや藤野さんが思ってらっしゃるのかな」をうかがいたいと思います。
肉乃小路:私から。どの方にも一番言いたいことは、自分を一番大事にしてほしいんです。自分を一番大事にすると、人が自分を一番大事にする気持ちもわかって、人が自分を大事にしているのを尊重してあげようと思える。
なぜなら自分も大事にしたいし、それを尊重してほしいからということで、お互いさまの気持ちが生まれると思うんですね。
「相手のことを思って」「みんなで気を遣って」「味方だよ」とか言う前に、まずは自分自身をしっかり守る。なおかつ自分を尊重してほしいから人も尊重する、という順番で考えるといいんじゃないかなって私は思ってます。
赤池:藤野さんもいろんな年齢層の方とお会いすると思うんですが、すごく思うのは、藤野さんって誰に対してもフラットですよね。それはどうしてなのかな? と思っていて。なにか思っていることがあるんですか?
藤野英人氏(以下、藤野):実は今、私の目の前に上司である社長さんがいます。polarewonという会社のレウォンさんという13歳の社長さんが、あそこに傘地蔵みたいになってます(笑)。僕はpolarewonという会社の社外取締役で、彼が社長なので、僕の44歳年下の上司になります。
彼とは毎日のようにFacebookメッセージで話をしているんですが、とにかく対等でフラットに議論をしていて。かつ、たまに言うことがありますけど、原則は(年下でも)「さん」づけ。「レウォンさん」と言うようにしています。
私にも娘がいるんですけど、娘が0歳とか1歳とか(言葉を)話せない時からずっと、彼女に対しても「さん」づけでしたね。社員もそうですね。なるべく「さん」づけで呼び捨てにしないで、ほぼ全員「さん」づけ。
大学で授業を教えていますが、学生に対してもそうですね。それはなんでかっていうと、目線は「同時代人」ということです。同時代人とは、同じ時代に生きている人。
100年経てば、ほぼみんな死ぬんですよ。みんな100年後にはいないんです。そういう面で見れば、前後100年ぐらいの感覚の中で一緒にいる、たまたま無限の世界の中で一緒にいる人なので、その年齢差は歴史的に言うと誤差なんですよね。
藤野:それよりも僕が非常に良くないと思ってるのが、大学生と話す時に、自分が大学生の時と比較するのが一番愚かなことなんですよ。自分の大学生の時と今の(大学生の)彼は、その時は18歳とか19歳でもぜんぜん違うんです。
今の私のほうが、たぶん(大学生だった当時よりも)今の大学生に近いんです。なぜならば、ウクライナで戦争があって、コロナで苦しんでという共同体験をしてるから。
僕らは同じ時代の中で、同じ時間の中で空気を吸っているので、たまたまある人生差は個性であって、ベースは全部同じ。男性も女性も、外国人も、年上も年下もないという考え方を僕はしています。
そうすると学びも多いし、相手を脅迫することもないし、逆に脅迫されることもない。そのフラットさをすごく大切にしてますね。
赤池:ニクヨさんは「フラットさ」というところ、どう思われますか。
肉乃小路:私も昔はけっこう高圧的なところがあって、若い女装の芽を摘んだりしたこともあったんですけど……。
藤野:(笑)。
肉乃小路:でも、だんだん丸くなったというか。それをしていても、結局若い人たちも大人になってだんだん力をつけてきたりするし、あんまり最初からガンガン言ってもしょうがないなって気がついてから、普通に「さん」づけ。
私はぜんぜん大人じゃなかったので、30代後半ぐらいからそういう大人の対応をするようになったんですが、やはりフラットな目線でお話しするのはすごく大事だなと思っていて。
たまたまなんですが、最近、半藤一利さんの『昭和史』の戦争に至るまでのところを観てたんです。その世界で描かれていたことがとってもトップダウンだったり、同一の男性のエリートたちだけで純粋培養された組織で物事の意思決定がされて、それで良くないほう、良くないほうに行ってしまったのを見たんです。
今は私もすごくフラットな目線で、だいたい誰でも「さん」づけなんですが、(『昭和史』を観て)そういう対応をするのがとても大事だなと思っていたところなので、今の藤野さんの話がすごく理解できました。
赤池:「役員の男性がみんな同じ黒いスーツを着てると、外国人投資家から評価されない」という話もあります。なかなか日本はそこにまだ追いついてないと思うんですが、藤野さんは投資家として、そのあたりはどのように見てらっしゃいますか。
藤野:これは本にもいろいろ書いたりしてますが、会社のホームページで言うと「写真」はすごく大事にしていて、経営陣の写真は必ず見るようにしています。もちろん、ある・なしだけで投資をしているわけではなくて、あくまで参考ではありますが。
社長の写真がある会社とない会社で言えば、ある会社のほうが圧倒的に株価のパフォーマンスが良くて、ない会社は絶望的にダメですね。だから投資をする時には、社長の写真がない会社はなるべく投資をしないほうがいいと思います。
一方で役員の個別写真になると、アメリカとかはもちろんほとんどの企業で載せてあるんですが、日本で役員の個別写真がある会社は非常に少なくて。4年ぐらい前でも13パーセントぐらいで、87パーセントの企業にははないんですよ。
藤野:役員の個別写真がある会社とない会社だと、株価のパフォーマンスがぜんぜん違います。
これはまだ(実験は)やってないんですけど、学生アルバイトにお願いしてやりたいなと思ってるのは、「感じが良い・感じが悪い」で絶対に株価のパフォーマンスは変わるだろうということですね。
2つの写真をパッと見せて、学生さん20人ぐらいに「どっちが感じがいいか。イエス・ノー」みたいなことを1週間ぐらいやってデータを集めて、感じの良いグループ・感じの悪いグループを決める。
それで業績や株価とかを見たら、感じの良さとほぼ連動すると思うんです。やはり雰囲気やカルチャーと明らかに連動すると思うんですね。
肉乃小路:一種のコミュニケーションですもんね。コミュニケーションが上手な会社か・そうでないかで、パフォーマンスは変わってくるんじゃないかなと私も思います。
藤野:そうです。時代に対する感受性もあるから、顧客の変化をとらえるか・とらえないかもあるし。
頭がカチンカチンだけど、顧客に対して融通無碍な会社かというと、まずなくて。頭がカチンカチンな会社は自分たちのやり方に非常に固執するので、なかなかうまくいかないところはあると思いますね。
赤池:今日のテーマは「『メインロード』は存在しない」ということで、先ほどニクヨさんも「まずは自分を大切にしようね」とおっしゃってました。
個人が自分を大切にできる環境にある会社と、そうじゃない会社は、これからどんなふうに差がついてくるのか。ニクヨさんは何かお考えがありますか?
肉乃小路:ニュースを見ても、今はこれだけ人手不足の時代だと言われている中で、働きやすさや個人を大事にするか・しないかは、そこの企業に留まるか・留まらないかという意味で大きな要因になると思うんですよね。
別にそれが好きだ・嫌いだとか言ってる場合じゃなくて、個人を大切にしなければ、日本は回らない国になってきていることに気がついたほうがいいんじゃないかなと思ってます。
藤野:本当にそのとおりですよね。特に若い人が激減しているから、これからどんどん若い人は減ってくるんですよ。ということは、少なくとも平均的に言うと、毎年同じ数の新卒採用をできないってことなんですね。
去年生まれた子が80万人を切っていて、77万人とかでしょう? そうすると、これから毎年ずっと激減するわけですよ。
今までも子どもの数は減ってたんだけれども、それが顕在化しなかった理由があるんです。それは「女性の社会参加」と「シニアの人の社会参加」なんですよ。でも、女性の社会参加率とシニアの人の参加率は、まだいけるけど伸び率は今がほぼピークなんです。
ということは、もう工夫ではなんとかならないから、これからは人口減が一気に社会の影響として出てくる。
藤野:コロナの間でたまたまそれが見えなかったんだけど、コロナが明けて一気にリベンジ消費が始まった瞬間に、人手不足が強烈に顕在化してしまったのが今の状態です。
これは今だけの問題じゃなくて、長く続きます。今、我慢すればいいだけじゃなくて、来年もまた確実に子どもの数、新卒の人の数が減っていくわけなので、社会は激変するんですよ。
肉乃小路:そうですね。それに加えて、前までは外国人技能実習生の方とかをアテにしていたところもあるんですが、いろんな批判を受けてそれもなかなかやりにくい。
あとは円安もあって、ほかのアジア諸国との競争力にも負けてきちゃう。そうすると本当に人材不足になっていくから、人を大切にしない会社は本当にヤバいんですよね。
藤野:そのとおり。でもその流れって、総じて見ると企業経営者にとっては厳しいけれども、働く人にとっては良いはずなんですよね。なんでかと言うと、働く人の価値が希少になってくるから、働く側・労働者からするとすごくチャンスなんですよ。
でも一方で、ブラック企業で「ただ黙って言うことを聞いて働く」みたいなことになったら、それは非常に不幸です。声をあげるとか、よりまともな会社に移動していくことがこれから大事で、みなさん一人ひとりの行動が社会をすごく良くしていくんじゃないかなと思いますよね。
肉乃小路:そうですね。それに加えて、これはある意味チャンスだと私は考えていて。
藤野:チャンスですね。
肉乃小路:「生産性を上げることが日本の課題」と、ずっと言われてたんですけど、少ない人数で回していかざるを得ないと、やはり業務に工夫をしていったり、無駄を省いていったりしなければいけない。
そうすると、逆にこの状況は日本の企業にとっても変わるチャンスなんじゃないかなって私は考えているんですけど、甘いですかね?
藤野:いやいや、もう絶対にそうですよ。逆に、変わらない会社は淘汰されることになって、強制的に変わる。要するに、変わる会社は生き残るけれども、変わらない会社は自然と退出することになる。
退出したとしても、それは一見不幸に見えるけれども、非効率で顧客のためになってない。でも、人不足は続いてるから、その人たちは社会的に吸収されて、より良い会社・より給料の高いところに移動していくことになります。
肉乃小路:そうすると会社の選別が大事になってくるから、アクティブファンドって有望になってきますね、社長!
(会場笑)
肉乃小路:あ、こういうのはいらないですね。
藤野:もっと後で、自然なかたちで言ってもらうシナリオだったので(笑)。
赤池:そういうシナリオはないです(笑)。
藤野:そうか、なかったか。すいません(笑)。
(会場笑)
肉乃小路:ちょっとヘタすぎて、大根役者すぎてごめんなさい。こういうの必要かな? と思って入れてみました。
藤野:ありがとうございました。こういうのを「サービス精神」って言うんですね(笑)。
赤池:ありがとうございます(笑)。
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