ChatGPTの情報の出所
徳力基彦氏(以下、徳力):質問もいただいているので、ちょっと拾っていきましょう。「ChatGPTってどこから情報を得ているのですか? 内部で検索してるのか?」という質問です。まだそういうバージョンではないってことですよね。
深津貴之氏(以下、深津):厳密に言うと、ChatGPTは、質問をされた時にどっかから引っ張ってくるというよりは、自分の頭の中というと誤解があるけど、ChatGPT.exeみたいなでっかいファイルがあって、そのファイルの中で計算して、確率上高いのを出してるんであって。
徳力:先ほどの、5兆個でしたっけ?
深津:5兆個から学習した「モデル」っていうんですけど。
徳力:その5兆個は基本的にネットとかの情報が中心ですか?
深津:そうですね。5兆個をネットから持ってきて訓練して、できあがったセーブファイルみたいなやつから答えを持ってくる。
徳力:それが2021年に生成されたものなので、ちょっと知識が古いという。
深津:そう。質問した瞬間に調べにいっているわけではないってことですね。
徳力:このへんは今いろんな企業がいろんなものを開発していますから。引用元をリンクするパープレキシティでしたっけ?
深津:パープレキシティとかですけども。
徳力:いろんなものが出てくるので。仕組みは変わるけど、基本的な考え方はたぶん一緒だろうと。
深津:そうそうそう。ただ、もう来週ぐらいには、答えの確率が正解じゃなさそうな気がしたら、自分で検索して答え調べてきて、それをサマリーしてしれっと出すみたいなものを、Microsoftが世に出してくると思いますね。
徳力:Microsoftがその機能を追加して。
深津:わからないことは調べて出すみたいな。
徳力:なので、今の段階のChatGPTを、日本語で検索して答えが間違っているからまだ大丈夫って安心するのは大間違いだと、ぜひ私からみなさんに申し上げたいです。
深津:そう。個別の質問を暗記するのとかもたいして重要じゃなくて。今知っていることは、僕らが確率上高いものを返してくるマシーンと会話をしているということ。結局のところ、その空間をどう限定するかがすべてってことですね。
AI時代に人の心を支える言葉
徳力:今日のメイントピックではないのであまり長くはやりませんけど、当然こういう話を聞くと気になるのが、人間の仕事ってどうなるんですか? っていう。Stable Diffusionとかを見た時にショックだったのが、僕はコンピューターは単純作業をやるのが得意で、創作活動は人間の領域だと思い込んでいたんですけど。
noteには「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションがありますけど。
今、AIが創作領域に入ってきているじゃないですか。長文ブロガーの自分としては、記事を書くのは人間の仕事だと思ってたんですけど、もう気が付いたらAIが記事を書き始めていて。「記事を書くのはAIでいいんじゃない?」みたいな感じになってくると、人間の仕事って何が残るんだろうと気になっちゃうんですけど。
深津:どれくらい未来の話として、それをトークしましょう?
徳力:直近でお願いしていいですか(笑)。
深津:直近?
徳力:10年ぐらいですか。
深津:10年ぐらいだと、マルセル・デュシャンという現代美術家の人がいて。有名な『泉』っていう便器の現代美術を作った人なんですけど。
何をやって何をやらないかを決めるとか、自分のやりたい表現をどういうかたちで実行するかを決めるとか、「決める」ということが芸術の本質だって言っていて。
徳力:芸術家の方がそうおっしゃったんですね。
深津:そうそう。絵がうまいかどうかとか、がんばったかどうかは、エッセンスじゃなくて過程の部分だよ、みたいなことを言っていたんですけども。僕はわりとこれ、AI時代の心を支える言葉の1つだと思っていて。
AIが「創作」まで担える時代に人間に残る仕事
深津:もう1つがミケランジェロ。だいぶ昔のおっちゃんですけども。彫刻とかいっぱい作りましたね。
徳力:おっちゃんね(笑)。めちゃめちゃ有名な人ですね。
深津:そのミケランジェロが、大理石の立方体の中に天使や女神がすでに入っていて、その入っているものを削り出して形にするのが俺の仕事だ、みたいなこと言ったんですね。これって可能性空間の限定と一緒なんですよね。
女神も魚もリンゴも、何でも作れる立方体があって、それに1個1個ノミを入れるたびに、リンゴが作れる可能性が減って、魚が作れる可能性が減って、天使っていう形に終着するみたいな。ミケランジェロの作業って、先ほど言った可能性空間を削っていくということとイコールなんですよ。
デュシャンの「我々が何をすべきかを決める」とか、ミケランジェロの「無限の可能性の中から選択肢としてどこに終着させるかを狭めていく」というのが、人間の当面なくならない仕事なのかなと考えています。決めること、選ぶことですね。
徳力:決定すること。ちょっとこのスライドを出したほうが、聞いてる人に見えやすいかなと思って。
深津:もう1つは、土下座すること。
徳力:(笑)。そっちの責任をとることですか。
深津:「ダメでした! ごめんなさい!」って言うのは、AIにはできない。できるかもしれないけど、誰も納得しないですよね。
徳力:まあまあそうっすね。ChatGPTはしょっちゅう謝っていますけど、そういう責任のとり方じゃないですからね。
深津:「プロジェクトに失敗して1億円の穴をあけました。本当に申し訳ないです」みたいなことは人間しかできないですよね。
AIが人間に提供する選択肢
徳力:当然、AIが人間の仕事を奪うという文脈の言い方も、別にしようと思ったらいくらでもできるんだけど。最終決定をする人や、責任をとる人からすると、実はいろんなことをやってくれる人がどんどん増えているってことですもんね。
深津:そうそう。入口の「これをやるぞ」を人間が決めたら、AIがやってくれますっていうのがある。そして、できました、となったら、人間が「うん、これを僕の責任のもとで世に解放する」と。入口と出口が人間に残る仕事。あとは中間で味見する仕事も。
徳力:なるほどね。創作活動の楽しみ方とか、どこにエネルギーをかけるかみたいなのも当然変わってくるって話ですよね。
深津:けど、それは究極までいった時にそうなるという話なので。全人類がそうあるべきとは別に思いません。これは、料理に近いと思うんですよ。コンビニ飯があると言っても、クッキングする人もいるし。「電子レンジで解凍できるから」と電子レンジを使う人もいれば、自然解凍したいって人もいるだろうし、みたいに。
過程をすっ飛ばす選択肢が手に入ったというだけの話なので。過程をすっ飛ばしたい人はすっ飛ばせばいいし、過程をすっ飛ばさない人はすっ飛ばさなければいいってだけなので。
人間としては、減ったというよりは、チョイスが増えたと考えるのがいいんじゃないかと思いますけども。
深津氏から参加者への依頼
徳力:時間はオーバーしちゃうんですけど、いただいた質問に1つか2つ回答できればと思います。
これは質問というか確認ですかね。「2021年の情報で止まっているってことだけど、私たちが新たに入力したデータとかから学んで更新されてるってことはないんだろうか」。
深津:あるかもしれないし、ないかもしれない。これはユーザー規約をしっかり読むのがいいと思います。もし学んでいるんだったら、ユーザー規約にそういうことが書いてあると思います、っていうとこですかね。
徳力:ChatGPTの回答に対して、いいねボタンや悪いねボタンを押す機能もあるので、フィードバックは何かしら活かされているんだけど、今のバージョンに反映されるのか、次に反映されるのかはわからないですよね。
深津:正直言うと、僕もちゃんと契約書を全部読んでいないんだけど、今はまだそんなに反映されていないかな。ベータ版は「俺らの実験に付き合うんだから、なんとかしてね」って書いてありそうな気がしますけどね。ちょっとそこは誰か調べてください。逆にプロ版とかは「プライバシーが完全に保護されます」みたいになる気がしますね。
徳力:「ユーザー規約読みます」ってコメントいただいているので、大丈夫だと思います。
深津:ちょうどいいので、ChatGPTにユーザー規約をまとめてもらっておいてください。
徳力:そういうのも頼むのか(笑)。
深津:そういうのも頼む。
ChatGPTに命令を出す際に意識したいこと
徳力:では次の質問ですね。「確率的に高いことの集合分布から離れたことを答えてって命令したら、突飛なアイデアとかを答えてほしい時に使えるのかな?」。
深津:これはチャレンジしたいんですけれども。ある程度効果があります。ただ、ChatGPTは自分が「確率的に最も高い答えを答えている」ということを意識して答えているわけではないので。
徳力:哲学的だな(笑)。「ここから離れて」って言っても、離れたところの一番確率の高いやつになっちゃうみたいな。
深津:かもしれないし。自分が集合分布から答えていることを知らなかったら、この命令はあまり意味をなさないので。
「突飛もない答えを答えて」っていうのだったら答えてくれるかもしれないし。「標準偏差区間何パーセントの人たちが答えないような答えを答えて」って言ったら、答えてくれるかもとか。「気難しいアートディレクターの意見として聞かせてください」とか言ったりとか。やはり僕らが工夫して可能性空間を区切らなきゃいけないでしょうね。
徳力:小学生とか、プロのライターとか、職業の振り幅で比較的、振り幅は出そうな感じはしますよね。
深津:そうそう、職業でやりやすいです。
徳力:僕もまだ深津式メソッドでちゃんとやっていないからあれですけど。ぜひ突飛なアイデアの出し方を見つけた方は、深津さんまで情報提供いただけると、深津式に新たな公式が追加されると思いますので。
深津:お願いします。突飛な答えを出すのはなんだかんだで難しくて、ケースバイケースになりやすいので、統一理論が欲しいところです。
note初のAIを使った取り組み
徳力:ありがとうございます。最後の締めのコメントをいただく前に、ちょっとだけnoteからお知らせをさせていただきます。深津さんはずっと画像生成AIで遊んでるのかなと思ったら、ちゃんとnoteの機能に役立つことをやっていたということで。
今「note AIアシスタント(β)」の先行ユーザーを募集中(※現在は募集受付を終了しています)です。これ、初出しですよね?
深津:初出しな気がします。
徳力:そもそも、僕もこのAI機能開発をしているのを一昨日初めて知ったんです(笑)。
深津:ちょっと補足すると、ChatGPTの裏側にある、確率的にそれっぽいことを返してくれるロボのGPT-3を、noteを執筆・編集するエディタにも搭載しようとしていまして。それのプロトタイプが今(画面に)表示しているものですね。
徳力:これは、カレーの作り方的な記事を作る時に、先ほどのプロットが出てくるみたいなもので。当然、noteとしてはこれで記事作成を完了させるための機能ではないんですけれども。
深津:先ほど話したミケランジェロとかデュシャンみたいに、何をすべきかを決めるのは人間という考えなので、そういったものを作る予定はなくて。
あくまで「自分の書いた記事に最高のタイトルを付けるにはどうすればいいんだろう?」とか、「頭の中に半分アイデアがあるんだけど、構想としてまとまらないから助けて」とか、「締めの文章がうまくいかないんだけど」みたいな、自分が書きたいものを書く時に苦戦するところを手伝ってくれるAIですね。
noteで初めての、AIを使うプロトタイピングプロジェクトのベータ版ユーザーを今募集してるところです。
徳力:ぜひご覧の方に、ベータユーザーに申し込んでいただけたらと。企業向けのイベントとかでも、例えばSmartHRさんとかは、記事を書けない人に段落だけ作ってあげるとおっしゃっていたんですね。「そこの項目や質問を埋めて」みたいにすると、意外にみなさん書けるようになるみたいな。
そういうところをまずAIが出してくれると、一気に書くハードルが下がったりするのかなみたいに思っていまして、ぜひベータテスターに申し込んで試してみていただければと思います。
今日のイベントの感想などがありましたら、noteの中で「#ChatGPT」で記事をまとめていますので、よければハッシュタグ「#ChatGPT」で投稿していただければと思います。
深津:ぜひぜひつぶやいてください。
明日からやったほうがいいこと
徳力:では、最後に深津さんから締めのコメントとして、このチャットAI的な時代についていくために明日からやったほうがいいことをお願いします。心構えを変えるとかでもなんでもいいんですけど。
深津:あらゆることで言えるんですけど、食わず嫌いが一番良くないんで。「なんでもいいから試そう」っていうのがいいと思うんですよね。自分の業務じゃなくてもいいと思うので。もし試すネタがない人は、「試すネタがないんでnoteに記事1本投稿したいと思います。何を書いたらいいですか?」みたいのをChatGPTに聞いてみてください。
徳力:どんな感じの答えが出てくるんだって、おもしろいですね(笑)。ということで、ぜひみなさんもさっそく試してみていただければと思います。ぜひ画面の向こうから深津さんに大きな拍手を送っていただければ幸いです。本日のイベントは以上になります。どうもご視聴いただきましてありがとうございました。
深津:ありがとうございました。