管理職に求められる「能力」の定義は曖昧

小田木朝子氏(以下、小田木):ありがとうございます。(「多様な“上級管理職”が増えない問題の背景に何がある?」という問いに対して)まず沢渡さんから「3なし」という3つの観点が出てきました。じゃあ、有馬さんもお願いできますか?

有馬充美氏(以下、有馬):わかりました。かなり沢渡さんと重なっているんですが、私なりの言い方で。

小田木:韻は踏まなくて大丈夫なので。

有馬:そこまでは考えていませんでした(笑)。ごめんなさいね。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):僕の趣味だからいいです(笑)。

有馬:まず、女性の部長が少ないことに対する企業側の言い分として、「部長にするための能力や経験が十分な人がいない」「候補者がいない」というコメントがよくあると思います。私からすると、そもそもどんな能力が必要なのかをちゃんと共有できているのか、これがまず1つ目の課題だと思います。

例えば、ある会社の部長達のほとんどは「私はダイバーシティ大賛成なんです」と言うのですが、いざ「あなたの後継者候補となる女性を選んでください」と言ったら、「いやいや、この仕事は女性には無理だよ」みたいな。

沢渡:ありますね。

有馬:「どうしてですか?」と聞くと、「この仕事はお客様とゴルフをしたりお酒を飲んだりしなきゃいけないからさ」と言う。女性がそれができないと決めつけるのもどうかと思いますし、その前に本当にお客様がそんなことを評価しているのかって感じなんですね。

これは男女関わらずですが、結局「これができるのが部長なんだ」という定義が、日本の企業では明確にされていなくて。むしろ、メンバーシップ型雇用の中で「組織にロイヤリティを尽くした」「長い間いたし、部長の面倒もよく見たし」みたいな人がかわいがられているケースもあると思うんですね。

ここが定義されていないと、女性側も男性側も「自分はどこを伸ばせばいいのか」「今後どういう経験を積めばいいのか」ということが明らかにならない。挙句に、「部長になるための能力や経験がある人がいない」という、悪いスパイラルになってしまう。これがまず1点目ですね。

沢渡:すごくよくわかる。

組織全体に求められるのは「聞く能力」

有馬:能力の問題について、もうちょっと付け加えたのが2つ目です。先ほど沢渡さんが「多様な人材を活用するためのスキルが、組織全体に欠けている」とおっしゃっていましたよね。

例えば、私はたまたま入社5年目にMBA留学させてもらって、経営用語をある程度学んできました。でも、多様な意見をお持ちの方の中には、そういう経営用語に翻訳して自分の意見をいう訓練をする機会がなかった方もいると思っていて。

沢渡:英単語が出てきただけで、毛嫌いする人もいますもんね。

有馬:お客さまに接している方が、お客さまの変化や要望をすごく直感的、かつ敏感に感じているとします。でも、それを経営用語に翻訳して上に伝えることがあまり上手じゃないとします。その場合、聞く側も自分たちとは違う言語を話す人を理解するつもりで「どうやって相手側の視点を取り入れるのか」ということについて努力するべきだと思うんですよね。

「何を言っているのかわからない」じゃなくて、本当に多様な意見を取り入れたいのであれば、相手に歩み寄る、「どういうことを言っているんだろう?」と、組織全体でもっと聞く能力を作っていかないと。

いつまで経っても「女性が俺たちのスタンダードまで上がってこないから選ばないんだ」という感覚になっているのがすごく残念で、ですから、私は今、そういう組織の能力をいかに上げるかというところにすごく問題意識を持ってやっています。

沢渡:すごくわかるな。要は、古い意思決定層が「俺たちのやり方が正しい。俺たちに合わせろ」なんですよね。

有馬:そうです、そうです。

沢渡:一言で言うと、「オレオレ組織経営」なんですよ。

有馬:そうそう(笑)。

小田木:オレオレ組織経営(笑)。

多様な意見を取り入れて、より良い意思決定をするには?

有馬:「女性がたくさんいると会議は時間がかかる」という発言が問題になったことがありました。会議の前に根回しが済んで、会議自体はシャンシャンで、という流儀に女性は従っていないということかもしれませんが、そうじゃないと。多様な意見を戦わせる場所では、どうしてもいろんな意見が出る。それは時間もかかりますよと。

その中で、どうやって合意形成をしていくのか。多様な意見を取り入れて、より良い意思決定にするにはどうすればいいのか。それは、「これまでのやり方に従え」ではなくて、自分たちもコミュニケーションのためのスキルをきちんと鍛えないといけないんです。その認識が不足しているんじゃないかなというのが2点目ですね。

沢渡:まさにおっしゃる通りですね。コメントでも、「多様性って、実はコミュニケーションにすごく手間と時間がかかりますよね。きちんとやろうとする覚悟が必要」とあります。

有馬:本当にイノベーションを起こしたかったり、自分とは違う他人が何を言っているのかを知りたかったら、絶対にそうするはずなんです。最近聞いた話では、ある大企業で、抜擢した女性管理職の方がパワハラで訴えられるケースも結構あるとか。

「男性のようにならないといけない」というのがあって、そこに無理があったのかも知れないし、逆に部下の方達も「女性だから優しい」と期待したのかも知れない。それを見た後輩の女性たちも「ああいう人になりたい?」と聞かれれば、「魅力なし」「別になりたくない」という話になっちゃう。

沢渡:そうですね。今、スパイシーなコメントをいただきましたよ。「だから今のマネージャーたちを見ると『あれにはなりたくない』と思います」。

有馬:そうなんです(笑)。

沢渡:(このコメントに)凝縮されている。

有馬:私も本当にそう思いますね。

男性にとっての出世は「デフォルト」、女性は「オプション」

有馬:それから3つ目。私もそうでしたが、女性にありがちなのが「インポスターシンドローム」。つまり自信がないんですよね。男性の場合は出世がデフォルトですが、女性にとってはオプションなんですね。だって、「偉くなりたい?」「管理職になりたい?」って聞かれるわけですから。

たぶん男性は聞かれないと思います。出世したり、そういう階段を上がっていくのが良いことだとされているので。女性はそう聞かれてしまうと、100パーセントの自信がない限り「いや、できません」と言ってしまう。これは男性・女性じゃなくて、個性でもあると思うんですけど。

それでも男性は出世がデフォルトなので、50パーセントぐらいできそうだったら「やります」と答えて、いろんなプロジェクトを経験させてもらえる。人がチャレンジすることに対しての、チャレンジのしやすさ・しにくさみたいな。

あと、女性は「偉くなりたいです!」って言うと、社会が求める「女性らしさという期待」とぶつかってしまう。つまり、もう1つの人生のオプションである「いいお嫁さんになる」っていうのを消しちゃうことになるわけですよね。

私の場合も、社内公募の留学試験を受けた時に、1年目は「女性だからダメ」だったんですね。「いつ辞めるかわからない女性に投資はできない」と。私も実は心の中では「そうだろうな」と思ってました。でも2年目にも受験して、「合格」と言われて、「げっ」と思いましたもの。「これで辞められなくなった、お嫁さんへの道はなくなったんだな」って(笑)。

沢渡:なるほど。「詰んだ」みたいなね。

有馬:そうそう。なので「自分が! 自分が!」ということが、いろんな意味で女性らしさとコンフリクトを起こすんです。だから、そこで「どっちを取るのがいいのか」みたいな葛藤があるんですけれども、本当は若いうちに仕事のおもしろさみたいなものを体験できるといいなと思います。

すべての人には、何らかの「資質」がある

有馬:上に行くほど裁量も広がり、仕事のおもしろさも増えていくので、自然に「自分がやりたいこと=ポジション」が結びついていくような流れができればいいんですよね。

いずれにしても、どうやったら女性側のチャレンジがポジティブなものになるのかということが課題だと思います。いかがでしょうか。

沢渡:小田木さん、めちゃめちゃスパイスが詰まっていましたね。

小田木:ありがとうございます。スパイスが詰まっていたし、チャットにも「共感します」というコメントがあふれている。

沢渡:今日はいつもより共感の声がすごいですよ。

小田木:今出てきたご意見を聞いて、私の感想としては「これは決して『女性はこう・男性はこう』と固定される話ではない」ということですね。

沢渡:おっしゃる通り。

小田木:たぶんこの課題感は男女という区別ではなくて。例えば世代間ギャップとか、個性や価値観の持ち方など、仕事と会社との関係性の中で(男女ともに)どちらの色にも染まる可能性があるのかなという感覚を持ちました。

有馬:そうですね。だから、そういう意味ではそもそも「『部長級の女性管理職を増やす』という課題設定が正しいか」という話なんですね。どちらかというと、小田木さんがおっしゃっていた「資質のある」という言葉にも、私はちょっと抵抗があるんですね。すべての人には何らかの資質があるので。

「個人の資質を最大限に活かせる組織をどうやって作っていけばいいのか」という中に、たまたま女性には非常にバイアスがかかっている。

「男性VS女性」という構造を生まないために

有馬:「女性はリーダーに向かない」「こういう仕事を任せたらかわいそうだ」とか、いろんな意味でマイナスからスタートしている部分もあるので、そこはもちろん是正していかないといけない。でも、この問題は「男は、女は」という形でフレームすると「男性VS女性」みたいになっちゃうから。

沢渡:そうですね。

有馬:男性の中には「なんで女性ばっかり」という声もあるでしょうし。だからそうじゃなくて、「全員の持っているポテンシャルを活かせる組織とは?」という課題設定をしないと、みんなの問題にならないですよね。ダイバーシティって、いつも女性だけが声高に叫んでいる感じになるので。

沢渡:そうですね。

有馬:ということが、そもそもすごく問題だなと思っています。

沢渡:おっしゃる通りです。でも、私は経過点・プロセスの目標として、女性管理職を増やすことはあながち悪いことでもないと思うんですよ。

なぜなら、ぼっちすぎると結局組織の中のマイノリティになるので、その中での成功体験や問題・課題が見えにくくなる。ぼっちの意見ってどうしてもマイノリティになってしまって、組織の中で埋もれてしまいがちなんですよね。

「女性管理職を増やすこと」がゴールではない

沢渡:経過点として(女性管理職を)増やすのはあながち悪くない。でも、そこから見えてくる本当の問題・課題に名前を付けて、能力や意欲を持つすべての人が正しく活躍できるように方向転換をする。そうでないと、間違ったことになるのかなと。

有馬:そうですね。

沢渡:だから、女性管理職を増やすことがゴールではないんですよね。

有馬:そうなんです。逆にそれをゴールにすると、よく聞く「名ばかり管理職」じゃないけれど。

沢渡:そうそう。そうなっちゃうんですよ。

有馬:部下がいない女性管理職を作って、帳尻を合わせちゃうとかね。そうすると周りは、選ばれた女性に対して「お前は能力はないのに、世の中の流れに乗っているからだ」みたいな……。

沢渡:バイアスがね。

有馬:一方で選ばれた女性の方も「こっちだって希望して選ばれたわけじゃないんですけど」みたいな。みんなにとって不幸な話になっちゃうので。

沢渡:そうですね。

有馬:「この課題設定がこれでいいのか」というのは、いつも考えているんですけどね。

沢渡:本当に、こういう議論をみなさんの組織でもしてほしいですね。結局、みなさんが考えるダイバーシティとは何かという話だと思うんです。本当のダイバーシティ&インクルージョンって、能力や意欲を持っている人たちが、その組織のゴールに共感して、参画や活躍するためのハードルを下げることだと思っているんですよ。

時代は変化するのに、過去の「勝ちパターン」が根付いている

沢渡:今のお話をまとめると、時代は変わっているのに過去のやり方・過去の勝ちパターンに最適化された習慣や、評価制度、組織文化が未だあると。そしてそれが、本来正しく活躍できる人の足を引っ張ってしまっているのが、今の状態だということ。

有馬:そうですね。なので、ハードルになっているものはどんどんみんなで下げていく。「大量に採用して、一括で育てていこう」というこのパターンも、かなり制度疲労を起こしている感じですよね。

沢渡:そうですね。負けパターンになっているかもしれないですね。

有馬:みんなのポテンシャルをそれぞれ見極めて、どういうキャリアを描くのがいいか。これは1人ずつ、だいぶ違っているから。

沢渡:そうですね。こんな話で盛り上がっていますが、小田木さんはいかがでしょうか。

小田木:ここまでの話には共感しかないと思うんですよね。おそらくみなさんの中に前提としてあるのは、「女性をどうするか問題」でもなければ、「とにかく課長も含めて『管理職を増やさなきゃいけない問題』」でもなくって。

有馬さんがおっしゃるとおり、「そこは本質ではないよね」なのだと思います。みなさん、チャットも本当に活発に書き込んでいただいてありがとうございます。コメント、つぶやきを読んでいると、まさに建設的な対話をすることがスタートなんだなとあらためて思いました。