2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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林篤志氏(以下、林):DAOは1つのツールで、順番としては逆なんじゃないかという話があったんですよね。DAOの定義も非常に難しいし、今ここでかちっと決めるものではないとJoiさんにはおっしゃっていただいたんですけど。
例えば1つの特徴としては、ブロックチェーンが代名詞になっているような、いわゆるトラストレスな社会を作っていくという話ですね。世間であったりアニミズムの話があって、すべてに見られている世界からそれが消失して、自治体とか法律とか国が移行していく。
Web2.0の世界ではプラットフォームの評価とか、プラットフォームに監視されている世界があって、web3.0はいわゆるトラストレスな世界。それを手助けするものとしてスマートコントラクトというものが登場したりしているわけです。
スマートコントラクトという、自動化されているけれどもある種の法律でありプロトコルが、みんなの唯一の共通項目になるということは、我々人類の共同体にどのような影響を与えるのか。単純にそれは「便利じゃん」とか「トラストレスでいいじゃん」と言われがちなんだけど。ここの議論をちょっと深掘りしたいと思います。Joiさん、先にお話しいただいてもいいですか。
伊藤穰一氏(以下、伊藤):この間ビットコインの人とイーサリアムの人がディベートしてるのを聞いたんだけど。そうしたらビットコインの人が、今回のイーサリアムのマネージがうまくいかなくてハッカーにやられたらどうするの、と言って。「コミュニティで議論して、もし必要なら戻すよ」「えっ、コミュニティって言った! それはトラストレスじゃないじゃん!」「いや、コミュニティ……」「あー、またコミュニティって言った!」みたいな感じで話していた。
やっぱりビットコインの原理主義者の人たちは、コミュニティという言葉が「そもそもそれはトラストじゃないか」「そんな文脈がないのがビットコインの美しさ」というように言う。だからコミュニティそのものがもう中央集権だと思うのが、本当のトラストレスなんだよね。
そういう意味で言うとイーサリアムがおもしろいのは、「コミュニティとは言いながらトラストレスがあるじゃん」みたいな感じで、中央集権の今の社会とトラストレスの良いとこ取りをしている。だからトラストのシステムとパワーのシステムは微妙に関係があっておもしろい。
伊藤:例えば自分の親を大切にするとか権力に従うことは基本的にコンサバティブな、ゆっくり動くシステム。特に代をまたぐような時は、偉い人を偉いという。それをまったく無視するとカオスになっちゃうんです。
アメリカにおけるフェミニズムでもそう。『The Tyranny of Structurelessness』というペーパーがあって。これはまったくストラクチャーがないコミューンとしてやっていたんだけど、結局ダメだった。変なパワーゲームになっちゃって、人間の一番悪いところが出てしまう。たぶん社会とその文脈の中で一番適切なコミュニティの大きさと、適切なロイヤリティとかフレンドシップでうまくいくのがあって。それがスイートスポットになる。
アメリカの今の左のプログレッシブなほうは、もうシンボルウォーになってしまった。「信頼する」とか「親を大切にする」とか「お世話になった人にちゃんとする」というのは、もうコンサバティブな考え方。今の保護主義の人たちはプログレッシブじゃないというので。だから変な話だけど、「友だちを大切にする」ということもアンチミッションになってる。
何が言いたいかというと、すごくアグレッシブに社会を変化しようとすると、トラストレスに向かってしまう。権力を信用しちゃいけない。で、だんだん落ち着いてくるとやっぱりトラストになって、保護するということになってくると思います。
だからトラストという言葉と、コンサバティブ、プログレッシブの文脈の中と、コミュニティのあり方は関係があるけどけっこう複雑で、パワーにつながる。うちの人類学者チームは、このあたりの事例をいっぱい見ているので、こんな反応をしちゃいます。
林:小川さん、いかがですか?
小川さやか氏(以下、小川):めっちゃおもしろいと思います。私、宮台先生がおっしゃってることもすごくよくわかるんですけど、実は自分のところの大学院生が「触れる」ということについて研究してるんですよ。もうね、彼女は「コンドームの伝道師」と言われていて、学生向けのワークショップでお互いの指にコンドームを付け合うということをしている(笑)。
そういう触れ方のおもしろさについて研究している大学院生がいることもあって、宮台先生が言ってることもわかるんです。でも一方で、もうちょっとテクノロジーの美学みたいなものも、けっこうおもしろいと思っているんですよ。
例えば、タンザニアの人たちはかなりアグレッシブに「コミュニティなんてない」と言うタイプの人たちなんですね(笑)。確かに長屋とか近隣集団とか職場というと、一般的なアフリカ層は貧しいから相当コミュニティみたいな、宮台先生がおっしゃる生活世界の自然な感じのコミュニティ、選べないコミュニティがあるように思うかもしれないですけど。
でも彼らは本当に流動的な生活をしているので、1つのコミュニティにずっと長くいることは不可能なんですよね。そうするとかなりパーソナルなネットワークベースで人間関係が回っていく。コミュニティベースで権威を発揮して誰かが誰かをコントロールするとか、「他者の人生は他者のもの」みたいなことを常にみんなが言って、誰かをコントロールできることを前提にしたような世界観は絶対にイヤだ、という感じの人々なんですよ。
それでも私は、何かコミュニティがあるような気がするんですよね。むしろタンザニアの人たちが目指してるのは「自律分散型であることが良い」という感じではない。もともとすでに鬱陶しいくらいにベタベタとした人間関係があって、そこからどのようにして離脱するかをリープフロッグでやっているんです。
どれくらいテクノロジーを駆使すると「なんとなくはあるけれども、でもあるとは言わない」感じの世界を築くことができるかを、みんな必死に考えているんだと思うんですよ。そういう意味で、私たちの世界で行われる「コミュニティがなくなってしまったから、どんなコミュニティを作るか」という発想ではなくて。「もうすでにある鬱陶しいコミュニティを、どのようにしたら良くできるか」という発想でテクノロジーを使っているんですね。
その際に彼らは、テクノロジーにある種の欠陥をすごく求めるんですよ。バグが大好き、バグのようなものがあったほうがいいんですね。うまく機能しない偶然性がテクノロジーに埋め込まれているほうがいい。弱いロボットを作ってる先生がいるみたいですけど、ああいう発想とすごく似ています(笑)。
テクノロジーすらも多自然主義の中の1個と捉えている。人間の世界があって、テクノロジーがあって、動物の世界があって……という感じです。「自分たちが働きかけて、何かをしてあげないと育たないようなテック」としてうまく使っているんです。
でもテクノロジーを使ってより良くしたいというところもあって、どういうふうにテクノロジーを改造するかも考えたいなと個人的には思うんですけど。なんかちょっとズレちゃったかもしれないです(笑)。
宮台真司氏(以下、宮台):伊藤穰一さんの話から言うと、トラストレスとかスマートコントラクトによって中央集権制や人間関係の権力から脱すると、良い社会になって人は幸せになるというのは、アメリカにありがちな神経症的な信仰だと思います。
それがアメリカ的だと言えるのは、人類学者のエマニュエル・トッドが言うように、そもそも家族親族ユニットが小さく、個人がコミニュティではなく宗教原理主義的に神に依存しがちだという、歴史的に形成された傾きに依存するからです。
人類学の思考に従えば、保守的かとかイノベーティブかとか、あるいは右か左かということは、所詮は言葉の界隈における選別と排除なので、人類史的には比較的どうでもいいことです。最終的に人がどれだけ幸せになるかだけがポイントで、何があると人が幸せになるのかは、イデオロギーの違いはあれ、ある程度ジェノミック(遺伝子的)に決まっています。
例えば孤独であれば人は幸せになれません。退屈であっても人は幸せになれません。他方、森のようちえんやキャンプ実践で分かるように、子どもは、母語が違っても、しばらく一緒に遊べば、仲良くなって「同じ世界」に入ります。個体発生は系統発生を繰り返すというヘッケルの法則は、出生後にも適用できるので、こうした子どもの特性は、万年スケールの遊動段階から初期定住にかけて大人も持っていた心身の性能だと推定できます。
そのような僕らがもともと持っている、享楽と結びついたジェノミックな性能を、どのように組み込んだアーキテクチャを作れるのかが、ソーシャルデザイナーとしてのテックデザイナーのポイントになるんだと思います。「安全・便利・快適」にもっぱら固執するような、文明に汚染された感受性に由来する「劣化したニーズ」に、ただ応えるだけのデザイナーは、社会的に有害です。
今から二十数年前、中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)という有名な社会派の映画監督と話したことがありますが、彼いわく、90年代の末からゼロ年代初めまでに、中国は貧困者でもみな携帯を持つようになりました。それは仕事探しのサバイバルのために必要だったからだとのことです。自分の家族を支えるために携帯を持つ必要があったということです。
そこに存在するのは確かに損得勘定だけど、「私の(自分の)」というよりも「我々の(自分たちの)」損得勘定です。そのためにテックの情報ツールが必要だったんですね。その意味で言うと今、小川さやかさんのおっしゃった、もともとベタベタした人間関係があるからこそテックを使っていくというのは、過剰な個人化が進んでいない社会のあり方として、よく理解できます。
宮台:1980年代末に伝言ダイヤルについて調べた時、大変おもしろかったことがありました。サービスが始まった1988年ごろ、NTT伝言ダイヤルとか時報ダイヤルにはけっこうバグがあったんです。実は当時、それを自衛隊の寮の仲間たちが探して、バグを使った遊びをしていて、それが実は「同じ世界で1つになる」営みだったんです。
「このバグを利用したらおもしろい遊びができる」ということが、森で遊ぶ子どもたちとよく似た身体性、あるいは感情の働きを与えていたという事実があります。ここには普遍的な享楽があります。物事はいつも抽象的に考えなければならず、言葉の世界で保守的とか革新的とかは、体験の豊かさに照準する場合にはさして意味がないと考えるべきです。やっぱり人間の感情や身体の働きに注目するべきだと考えます。
結論的には、ゲノムに紐付けられた普遍的要求に応えながらも、既に存在する文化の破壊を最小化した上で、正義と公正を実現できるようなテックを実装することが必要なんです。ちなみに、正義と公正への要求もゲノム的なものですが、およそ3,000年前からの書記言語による文明化以降は、具体的な内容を文化が上書きし、さまざまな差別や格差やそれを肯定する権力が正当化され続けてきました
そこからすると、いわゆる時代拘束的な思い込みで「我々の社会ではこうなれば人は幸せになるはずだ」というのは、近代の自明性を前提とした文化相対主義的な発想です。アメリカ発のイデオロギーが陥りがちなものです。やはり人類学ルーツの、文化絶対主義的な発想に立つべきだと思います。
文明化以前の初期定住段階や更に以前の遊動段階では、人間以外にも、動植物から樹木や山や川みたいな万物に「見る」力があると考えられていました。これは万年の単位で長く続いてきて、その文化によって人類の持続可能性が担保されたという意味で、普遍的です。これを千年スケールの「多様な文明」や百年スケールの「近代の多様な文化」と同列視できないというのが、エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロの思想です。
コストレスやトラストレスを金科玉条とするアメリカ的な信仰は、人類学的には過剰に文化拘束的な「下品な文化」として嘲笑すべきものですし、人が権力的だと感じるものだけを権力と呼ぶのも、フーコー的な「場の権力」やレッシグの「アーキテクチャーの権力」概念を参照するまでもなく、人文知の歴史からいって軽薄です。
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