2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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林篤志氏(以下、林):小川さん、タンザニアの商人たちはテクノロジーをうまくハッピーに使えているんでしょうか?
小川さやか氏(以下、小川):苦しいですかね(笑)。春山さんの話、すごいおもしろかったです。オコナーさんという人が書いた『WAYFINDING』という本があるんですが、画面共有しますね。「人類がナビゲーションを使ってどう進化したのか」とか「人類はもともとどうやって道を見つけていたのか」という話の本です。
これによると、GPSなどをずっと使っていると、だんだん人間が退化していって、もともと備わっていた自然を読む力が失われるだけじゃなく、脳の器質変化までしてしまうということなんです。
もちろん、身体性がなくてテクノロジーだけが突出していくのは、宮台先生がおっしゃるようにすごく危険だなと思います。
タンザニアの商人たちは、テクノロジーに対して、すごく貪欲なんですね。でも、私たちと同じように受け入れるわけではないんですよ。その理由としては、そもそも彼らのパーパスは資本蓄積じゃないからなんです。
林:なるほど。
小川:彼らは資本主義経済での、例えば評価システムみたいなものを絶対に使わないんです。そういうのだけは拒否するんですよ。
なんでかというと、「SNS上に現れる、その時々のその人の感情や状態によって、取り引き相手を選ぶ」という作戦に出ているからなんです。「今この人は落ち込んで飯を食っている」とか「この人は今ハッピーで女がいっぱいいる」とか。
彼らは資本主義経済で稼いだお金を、おもしろそうな人に投資します。しかもその借りを返してもらわないで、「自分に借りを持つ人間」というかたちで蓄積していくんですね。
だから、将来において孤独死する男性ではないんです。財布に500万円はないけれど、5,000人くらいのネットワークができている。しかも、それはすごくバラエティ豊かな人間で。自分に借りを持つ人間がいて、「その人たちから、その時々に必要なものを自由に引き出せる世界を作ること」を目的にしているんですね。
そういう意味で、彼らはテクノロジーの中で人間をある種、物として平等に扱うんです。経済パフォーマンスとか能力とか業績みたいなもので測っていくシステムはあまり好まない人々です。
だからテクノロジーを使っているんだけど、パーパスが違うんじゃないかと思っています。そういう意味では、伊藤先生の話にもつながるような気がしますね。
林:そうですね。その部分、先ほどJoiさん(伊藤氏)が言ってくれた文化レイヤーのところで、もう少し深掘りしたいと思いました。
ここまでの話を聞いていただいて、Joiさんはまさにテクノロジーの進化をリードしてきた世界的な人物の1人だと僕は思っていますが。良いテックと悪いテック。ここまでの3名の方のお話を聞いて、どのようにお考えになりますか。
伊藤穰一氏(以下、伊藤):けっこういろいろ響く話があっておもしろいと思います。ただ1つ、僕もずっとMITとかで学生を見ていて6割7割が自閉症スペクトラムです。たぶん波を見たり、星を見て上手にWayfinderをやっているのはけっこう自閉症型が多いと思うんですよね。自然の真ん中にいて、森の話を聞いて全部わかるのって、そこの脳は子どもの時から育っていると思うんですけども。
MITのすごく優秀なソフトウェアのエンジニアなんかは、90分ぐらいずーっとプログラムの設計を脳の中にアップロードして。そして集中して書くと、もう普通の人間じゃ想像できないようなことを書ける。
あとはゲームやってる子たちを見ていても、普通の人間はマルチタスキングできないけれども、それができるような脳が見えたりするので。だからかなり人間の脳って自分がいる環境にすごく合わさっていくと思うんですよね。
よくデジタルネイティブとか言うけれど、今例えばNFTとかweb3で一番おもしろいことやってるのって、やっぱり15〜17歳のけっこう若い子たちで、僕らが想像できない発想がどんどん出てくる。
テクノロジーを1つのツールとして、今の文脈の中に持ってくるというのはあると思うんだけども。メタバースとかサイバースペースの空間の中でのWayfindingだとか、考え方とか発想とかっていうのがあって。
今は宇宙を見て位置がわかんなくなった分、その脳を違うところに使っていて、それがけっこうデジタルだったりすると思います。
もう1つ今研究するとおもしろいのは、昔の宇宙論の中の環境と人間の関係性と、今のこのデジタルの宇宙論って、実はけっこう似てるところがあると思うので、学ぶことはたくさんあるのかなと。
そういう目に見えない宇宙論と、これからのweb3の文化の関係性とか仕様の考え方だとか、そのへんの物とプロパティと使用権の産業革命後の経済のシステムが、今のリアリティなので。
自然だった時代とこの大量生産の変な文化の真ん中に、すごくコンテクストがない、Simplified(簡略)な文化があるので。だからみなさんが言ってる、古代の宇宙論の時代と、大量生産型時代の先の時代の接続っておもしろいかなと。
伊藤:けっこう海外から見るとおもしろいのは、アニミズムって簡単に言っちゃうかもしれないけど、神道か無宗教なのかわかんないけども。
一神教者じゃない先進国ってあんまり他になくて。日本ってやっぱりそういう意味では原住民的な要素がけっこうたくさんあって、日本文化の中からも学びがあるかなと。けっこう普通の日本人ってあんまり日本文化のことを深く考えてないし。僕も外から来てる部分もあるので。少し浅いと思うんだけども。
WEのプロジェクトもそうだと思うんだけども、日本の地域だとか、日本の地域密着から出てくるいろんなリアリティをweb3で表現して。よく日本の文化とかコンテンツは海外に来るけど、僕はもっと分散型の日本のコミュニティのカルチャー的なところを持ってくるといいかなと思います。
このへんは僕はアマチュアなのでみなさんに聞きたいんだけれども。農家の時代の前の日本。弥生時代とかそのへんの時代がどういうふうに日本に影響していて、それがどういうふうに今後のコモンズの世界に変換できるのか。それを文化的な発想にすると、どうやってコミュニケーションできるか。
これで最後にしますけど、けっこうこれも海外の視点なんだけど、アメリカのカートゥーンとかアニメって、スーパーヒーローが困った人を救う。日本のアニメは、仲間がいて、困った1人をみんなで助けるというのがだいたいのストーリー。
その日本のアニメが今アメリカですごく流行っていて、それが子どもたちの遊び方にも影響してるんじゃないかっていう人類学も出ていたりする。
日本の文化が、全部いいとは言わないけど、ただ、なんかここらへんを自分たちで意識すれば、すでにある日本のチャンネルからもおもしろい文化的なプッシュができるんじゃないかなっていう気もちょっとしてます。
林:なるほど。文化レイヤーをどれぐらい掘り下げていくかって話と、今の話は、宮台先生の話にも通じるんですけれども。
日本的というか、いわゆる僕らの民主主義の範囲を狭めていって、マイクロなコミュニティ、共同体みたいなものって、もしかしたら今で言うとDAOかもしれないです。これを設計していくことによって、僕たちの生存確率を上げられるんじゃないかみたいな話がありました。
林:この文化的レイヤーの話を少し掘り下げたいんですね。Discordの中でも、質問が来ていて。Joiさんが言っている文化レイヤーの話はいわゆる等価交換の文化なのか、不等価交換の文化なのか。仮に不等価交換だとすると、その場合の報酬は何なのかみたいな質問もいただいています。
日本のある種根底にあった文化みたいなものを、新しいテクノロジーと組み合わせることによって、僕たちの社会システムを新しく構想できるんじゃないかっていう、仮の設定があると思うんですけど。
ここらへん、Joiさんに限らず、みなさんでディスカッションしていきたいなと思うんですけど。じゃあ宮台さんお願いします。
宮台真司氏(以下、宮台):社会学や人類学で一番ホットな議論は、社会学が過去30年主張してきた文化相対主義が間違っているって議論なんですね。
最初これを主張したのはイヴァン・イリイチという人です。文化相対主義っていうのが、物理的な自然は1つなのに、文化によってものの見え方が違うよねっていうね。しかも違った見え方をする文化の間には優劣はないんだという発想なんです。
イヴァン・イリイチ、あるいは今だったらエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ。彼らによると文化絶対主義が正しいんですね。なぜかというと、どういう文化が生き残れるのかという問題があるからです。
最も長く生き残ったのはアニミズムの文化です。アニミズムは宣教師が言うような万物に精霊が宿るってこととはまったく関係がないんですね。すべてには見る力があるのだということです。
だから我々は人からも見られるけど、動物からも植物からも、例えば木々からも森からも山からも海からも雲からも見られるという発想。お天道さまにも見られる。日本的な発想をするとそうなりますよね。
初期の『ゲゲゲの鬼太郎』を見ると、そうした感受性が書かれています。そうした感受性のみが人類を長く生き残らせてきたというのが、彼らの人類学的な発想ということになります。例えば、小さな話で言えば交換。エクスチェンジか贈与かギフトかっていう話にもなりますけれど。
それ以前に、そもそも文化には明確に良いものと悪いものがある。例えば我々がなぜ今気候危機に直面しているのか。
なぜ我々が今いわゆる大量殺戮につながるような、あるいは、相互確証破壊(相手の攻撃に対する残存能力を向上させて相手の先制攻撃から自国の核戦力の一部が必ず生き残るようにし、報復攻撃で相手を確実に破壊できる第二撃能力を確保することによって、核攻撃を相互に抑止することができるとするもの)につながるような戦争に直面しているのか。
それは簡単に言うと、文化絶対主義の立場から見た場合、文化相対主義者が増殖したからだという発想になるんですね。なので、まず我々はそこに注意をする必要がある。
宮台:次に、いわゆる日本的なものに戻るという、伊藤穰一さんの考え方。賛成ですが、現時点では日本はどこよりもアニミスティックな感受性が劣化しているというふうにほぼ断定していいと思います。
その理由は三島由紀夫的に言うと、日本には価値観がないからなんですね。価値っていうのは社会システム理論でいうと、貫徹ですね。価値を貫徹する。貫徹への思考、オリエンテーションのことです。
日本は価値、つまり貫徹への志向がなく、適応、つまり学習への志向が有意しすぎているんですね。それゆえに、これだけは絶対失えないという固執が存在しないので、どこよりも早く地域社会も崩壊していくし。どこよりも早く人々は孤独になっていくってことが起こるわけですよね。
なので、日本のアニミスティックな感受性は、詳しく言うとアニミスティックな感受性が近代になっても残っていることと、価値貫徹への志向がないことは、実は同じことなんですね。
アニミスティックの感受性は、見られることによってちゃんとする、という構えです。したがって、見る存在がいなくなれば、我々はちゃんとしなくなるんですね。
実際に見る存在は、実証的に言うと1960年代に消えたんですね。これはキツネに憑かれるとか、キツネが化けるとかっていう、そういう我々のボキャブラリーがなくなったってことから実証できる。
もう1つは、それに続いて今度は世間が消えていくんですよね。自分たちを見る世間っていう感受性がなくなる。これはアニミスティックな生活がなくなったので、共通の生活形式がなくなり、共通の生活形式を信頼することによって支えられる世間という観念が消えたからですよね。
つまり我々はアニミスティックであるが故に、アニミズム的であるが故に、簡単に言うとここまで劣化してしまったというね。そういう明確な因果的な側面もあることを理解する必要があります。だいたいこんなところでしょうか。
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