2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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坪谷邦生氏(以下、坪谷):今、『図解 目標管理入門 マネジメントの原理原則を使いこなしたい人のための「理論と実践」100のツボ』(2023年4月刊行予定)という本を書こうとしていて、目標管理、MBO、OKR、KPIを中心にしてどうやっていくかを、人事の方々やマネージャーの方々、経営者の方々にお伝えしたいなと思っています。今の日本でOKRを一番先進的に実践していらっしゃるのがメルカリさんだと思うので、今回の対談を企画いたしました。
木下達夫氏(以下、木下):よろしくお願いします。
坪谷:さっそくですが、メルカリ社にOKRを導入された背景や経緯についてうかがいたいです。
木下:一般的なMBOはどうしてもグロース企業には向いてないところがあるんです。例えば20パーセント増という目標があったとして、マーケット全体は30パーセント成長していると。そうすると、いともたやすく20パーセント成長を達成してしまって、いわゆるMBO的な目標管理が機能しなくなるんです。
OKRがベンチャーに合うというのは、本当にそのとおりだと思います。一般的なMBOみたいにある程度安定したものが前提ではなく、マーケットがどんどん拡大していく中で、それをさらに上回るようなストレッチゴールを作って、みんなで推進していく。そのために、メルカリがまだかなり小さかった頃からずっとOKRを使っています。
坪谷:OKRの実際の運用プロセスは、全社と部門と個人がそれぞれ目標を立てるようなツリー構造でしょうか?
木下:そうですね。まず四半期毎にカンパニー・部門・チーム単位でOKRを設定し、社内に発表します。それに基づいて社員全員が自身のOKRを四半期毎に作成することになっています。
坪谷:全社・部門・個人で目標を立てる順番や、スケジュールはどうされているのですか?
木下:同時並行です。つまり、別に会社や部門のOKRが決まらなくても、自分がやっていることは更新できるじゃないですか。個人としても、3ヶ月ごとにある程度のマイルストーンを組んでOKRに反映します。
中長期のプロジェクトも多いので、半年ぐらいを見越したOKRもあり、今が7月だとすると、「9月末までぐらいにこのぐらいの着地点を狙いましょう」という感じです。取り組み自体は半年間とか、長いものだと1年間のものもあります。
坪谷:なるほど。
木下:同時並行と言いつつ、期初が7月だとすると、6月中旬ぐらいの経営会議で、「7月からの全社OKRはこれでいこう」と決めています。前の四半期毎の進捗の振り返りをして、そこから次の四半期のOKRを経営会議で話します。
全社レベルで話すということは、当然部門単位でも話しているわけで、6月の頭ぐらいに部門ごとの振り返りと次の四半期のOKRもほぼ決まってきて、6月最終週に、各カンパニー毎に次のOKRを社内発表しています。
坪谷:評価はどうされているのでしょうか?
木下:評価する対象は成果と行動の2つです。まず成果評価については期初に立てたOKRの振り返りをして、実際の評価はOKRに対するインパクトの総量で評価します。社内で使っている評価のフォーマットのシステムでは、「OKRに対する成果」という言い方をしていて。基本的にはOKRを入力してもらっている前提で、「自分はこういうインパクト・成果を出した」と、まずはご自身で書いてもらう。
OKRと一般的なMBOの最大の違いは、やっていること全部を書くのではなく、やるべきことの主なものを書くことなんです。
自分が特にフォーカスしたいことを書くので、タスクリストが10個あるとしたら、上の3つだけとか。「下の7個は書けないんですか」というのはいつも議論になるので、やったことは全部、成果欄には書いてもらいます。
ただ、特に会社として重要だと思うのは、「OKR達成に対してどのぐらい成果が出せたか」が一番高く評価されることです。もちろんOKR以外でもやっていることがあれば、ちゃんと考慮されることも大事にしています。
坪谷:OKRとして書いていないことでも、やったことは全部書いて、自己評価をして、マネージャーに提出するのでしょうか?
木下:社内で開発した「Reviews」というシステムがあります。まず大前提として、私達はだいたい週次でマネージャーとメンバーでの1on1を実施しており、期末・期初は1on1の場で個人としてのOKRを確認しています。
その後で個人のOKRを「Reviews」に入力すること全社員が見られる仕組みになっています。これはGoogleなどGlobal Tech企業の事例を参考にしています。「社内のこの人はどんな取り組みをしているのかな」と思ったら、その人が現在取り組んでいるOKRがいつでもお互いに見れるようになっています。
坪谷:なるほど。例えば成果を自己評価した時に、本人が「僕はすごくできた」と書いていても、マネージャーさんやその上の方が「これは違うんじゃない」となることはあるのですか?
木下:あります。まず、OKRのKRは「Key Result」なので、結果をできるだけ定量化することを求めます。例えばプロジェクトの何パーセント達成とか、改善度合いが何パーセントだったとか、「新しい事業をこれぐらい作れた」といった、定量的なところをできるだけつけるんです。
仮にOKRで100という定量的な目標を出して、「今回110だから、当然高い評価もらえるんですよね?」というわけではないです。なぜなら、そもそも設定した目標が低かったんじゃないかという。
これはよく「成果の総量」という言い方をしています。もともとの目標が低かったら、「本来200いけたのに、110しかいってないんだったら、会社から見たら厳しい評価になるよ」という場合もあるし。
木下:逆に、100の目標に対して70しかいかなかった時でも、「いやぁ、70。よくやったね。普通は30か40くらいだと思っていたけど、あなたは相当工夫して取り組んでいて、本当にoutstanding(並外れた結果)だから、5段階評価の5だね」とか。
だから、達成率ではなく、起こしたインパクトの総量が、マネージャーや周囲の期待値を上回ったかどうかなんです。そこの期待値は、グレードが3の人だったらレベル感は3、グレードが4の人はレベル感も4というふうに、グレードに応じた期待値設定をしています。
坪谷:グレード4の人が、レベル3の低めの目標を110パーセントで達成しても、インパクトがない。でも、その人がより高いグレードの仕事を70パーセントでも達成したら……。
木下:それはもういい評価になります。ただデジタルなものではないので、マネージャーの力量が問われるところかなと思いますね。もちろん評価調整会議はありますけど、一次評価者はあくまでもマネージャーです。
坪谷:マネージャーさんが「成果評価はOKR達成率70パーセントだけど、君は5段階で5だ」とか、「OKR達成率110パーセントだけど、君は成果評価は期待未達だ」と確定したものが、メンバーにもフィードバックされると。
木下:そうです。それがOKRが一般的なMBOよりも良いところであり、難しいところでもありますね。MBOは、経営層が設定した目標や戦略が、部・課・社員へと細分化されて、トップダウンで決まることが多い認識で、評価は達成率から導かれるのでマネージャーにとっては説明しやすいと言えます。
木下:それに対してOKRは、個人やチーム単位のボトムアップを奨励しているんです。それは、イノベーションを促進したい会社にはすごく向いてる。一方、「OKRはわくわくするものじゃなきゃいけない」と言うのは簡単なんだけど、やるのは難しいです。とはいえ上から降ってきた目標は、やっぱりなかなかわくわくしないことが多いですよね。
もちろんチームの目標も会社の目標もあるから、全体との整合性を持ちながら、「自分がわくわくするにはこんなこともやってみたい」とOKRに掲げてもらいます。それがいわゆるジョブ・クラフティング(仕事への向き合い方や行動を主体的にすることで、仕事をやりがいあるものととらえる)だと考えています。
会社やチームの目標を自分なりに解釈して、「自分の強みを生かしたらこういうこともできそうだ」と、OKRをブラッシュアップしてもらう。
もう無理めな目標でいいんです。もともとOKRの思想はムーンショットで、月に行くぐらいの目標を立てるのが理想と言う考え方があります。一般的なMBOでは「月に行くなんて無理でしょ」だけど、OKRは「月に行く」と言っていい。月に行くための逆算の思考をするからこそ、新しい打ち手が出てくる。
木下:Out-of-the-box thinking(既成概念にはまらない考え方で課題や問いを生み出し、解決策をデザインする考え方)を奨励したいんだとわかってくれる人もいますが、入社したばかりの人は「これって目標管理ですよね」と達成可能性が高い現実的な目標設定をしてしまうこともあります。
一般的なMBOの負の部分は、達成度がそのまま評価に反映されることから、目標をできるだけ達成可能なものにしたいという意識を促してしまう仕組みだと思っています。
坪谷:達成度で評価されることが多いですものね。
木下:そうそう。MBOはできるだけ低い目標を設定したほうが、自分が高く評価されやすい。でも、OKRは無理めでもわくわくするもののほうが自分自身もやる気になる。周りもわくわくした目標を追いかけている人たちだから、ある意味の求心力やチームの一体化にもつながるんです。
OKRはMBOよりも自由度が高い分だけ、ちゃんとみんなで議論しないといけない。対話して参加型で一緒に作ることが、プロセスとしてはすごく重要だと思います。
坪谷:さっきの会社や部門全体との整合性の話を考えた時に、本人は自分の目標にわくわくしてるけど、チームや部門にはあんまり関係ないとなると困ってしまいますよね。それはやっぱり、マネージャーとメンバーがしっかり対話をするんですか?
木下:私たちはよく「オフサイトミーティング(社外の会議室など職場を離れた場所や環境で行うミーティング)」と呼びますが、期末や期初にチームで集まって、丸1日使って振り返りや次の四半期の取り組みについて集中して議論する機会を作っています。チームの人数はガイドラインでは6〜8人としていますが、そういったステップがあって初めて、意味のあるOKRができると思います。
坪谷:そこでチームの目標と個人のやりたいことを混ぜるというか。
木下:そうですね。今の企業規模で、これを3ヶ月に1回やるのは頻度が多すぎるのではないか、半年に1回でもいいのではという声もあるんですけど。そうは言っても、私たちのような事業は市場環境の変化も激しいので、今のところはそのコストをかけるメリットがあるという判断をしています。
坪谷:マネージャー間でもすり合わせはするのですか?
木下:いろんなレイヤーでやっていますね。例えば人事部なら、チーム間のすり合せは人事部門マネージャー会議で、部門間のすり合わせはカンパニー単位の経営会議でもします。
坪谷:おそらく先ほどの5段階の評価でOKRに対するインパクトの総量を評価して、それが賞与に反映されるのでしょうかね。
木下:そうですね。成果評価を賞与で反映する設計になっています。そして、成果と行動の両方で総合評価し、いわゆる昇級や昇格につながるデザインになっていますね。
坪谷:ちなみに、行動評価はどんな評価をされているのですか?
木下:これはバリューですね。メルカリには、「Go Bold、All for One、Be a Pro」という3つのバリューがあり、グレードごとにどんな行動を期待するかが言語化されています。その基準を見ながら、期待を超えている・期待を満たしている・期待に達していないと評価しています。
坪谷:これもマネージャーの方が、メンバーの方の評価をするということですね。そうすると、やっぱり一次評価者のマネージャーさんが、しっかりメンバーの状況を分かって向き合ってないと評価ができないですよね。
木下:そのとおりです。なので1on1はかなり重要です。あとは、ピアレビューで周りがその人をどう見ているかも大事にしていますね。
今はオンラインなので、やっぱりマネージャーの人が、一挙一動見てるわけじゃない。そこは一緒に仕事している人たちが、Aさんをどう見ているかを多面的に情報を集めて、そのデータも参照しながら評価につなげていますね。
坪谷:ちなみにピアレビューは、匿名とか公開とか、どんな方法でされるのですか。
木下:それは、私もメルカリに入ってけっこうびっくりしたんです。普通は360度って匿名なことが多い認識ですが、メルカリのピアレビューは実名なのです(笑)。ピアレビューの記入欄には「フィードバックはギフトです」と明記しています。
坪谷:あぁ、素敵ですね。
木下:一緒に働く人の成長を促す時に、率直で前向きで建設的なフィードバックを書きましょうと。バリューに照らし合わせて、よかったことと改善したほうがいいと思うこととして、「グッド」と「もっと」を定性的なコメントで書きます。もちろん「グッド」のほうが多く書かれていて、「もっと」はそこまでたくさんは書かれてないですけど。
ただ、「もっとこうしたほうが良かったんじゃないですか」というものは、ある程度書いてくれているので、やっぱりマネージャーとしてはすごく助かりますね。「そういうふうに見られてるんだな」とわかるので。
坪谷:ピアレビューに書かれた内容も全社員にオープンにされているのですか?
木下:ご本人とカリブレーションに入る方、担当HRだけにオープンにしています。
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