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業績向上に直結する働き方改革は「睡眠時間」が鍵(全2記事)

起床して15時間後の集中力は「酒酔い運転」レベルに低下する “残業ループ”を脱し、生産性を上げる働き方改革のポイント

昨今、企業での健康経営や働き方改革の活動が注目される中、国内での睡眠課題は依然として大きく残されたままです。日本では、就労者の7割が睡眠に課題を抱えており、2018年OECD加盟国の中で睡眠時間の最短を記録しました。更には睡眠障害における経済損失額は年間15兆円(GDPの3パーセント)と推計されています。健康経営と働き方改革実現のためには、一人ひとりが適切な睡眠時間を確保できて、社会全体の睡眠リテラシーの広い普及が必要不可欠です。そこで本記事では、企業における睡眠促進策のポイントを小室淑恵氏が解説します。

人間の脳は、起きてから「13時間」しか集中力が持たない

小室淑恵氏:「管理職・経営層に(睡眠の重要性を)伝えるのは難しいでしょ。じゃあ、どう伝えるの?」ということになると思います。今日はお時間もないので、ものすごく早口バージョンになってしまいますが、ふだん私が経営層や管理職向けにご紹介しているデータで、「これが刺さった」とよく言われるものを持ってきました。

先日、日本最大の金融会社の一つで、役員向けに講演し、「これで意識が変わった」と言われた資料です。どれもオフィシャルな資料ですので、こうしたものを使いながらみなさん自身にもプレゼンしていただければと思います。

まず1つ目に、人間の脳は朝起きてたった「13時間」しか集中力が持たないんです。5時や6時に起きたなら、18時から19時には集中は終了。なんと、そこからは酒酔い運転と同じ集中力しかないということです。もう絶対に酒を飲みに行ったほうが良い、という時間帯なんですよね(笑)。

右上のグラフを見てください。朝起きて13時間を過ぎて仕事をしてしまうと、著しく下がって、緑の点線で表されている、酒気帯び運転の集中力以下になりますから、仕事をしてしまうとミスや事故が起き、そこから引き起こされるクレームや上司の叱責で、メンタル疾患になりやすくなってしまう。

適切な睡眠は、定年後の認知症発症リスクも下げる

また、ぜひ注意していただきたいのは、朝起きて24時間が経過すると、深夜に再び集中力が上がるタイミングがあります。

これは、アドレナリンが出てもう一回集中できるようになるから「良かった」と思うかもしれませんが、本来寝るべき時間に副交感神経優位から交感神経優位に無理やり切り替えてしまうことで、いったん仕事が終わってももう寝れないんです。そのまま翌日の業務時間に突入してしまう。これが一番苦しいですね。

そうすると、翌日の集中力は低い状態から始まってしまうので、普通の状態だったら終わる仕事量が終わらない、また残業する、また深夜の時間帯を使う……と、どんどん悪循環に転がり落ちていってしまいます。

この時間帯を使うのはとても快感もあって、アドレナリンのおかげですごく成功体験も強いんですが、メンタル疾患への入口になってしまうので、使わないようにすることを大事にしてください。

そして、慢性疲労研究センターの佐々木(司)センター長のデータによると、これは小林さんのデータにもありましたが、睡眠で体の疲れが前半に取れる。だから前半だけ寝ると、なんとなく「もう十分だ。休息できた」と感じるんですが、実際にはストレスは(睡眠の)後半で解消する。特に寝始めて6時間目以降が、脳のストレス解消にとても重要なんだそうです。

さらにストレス解消だけじゃなく、もう1つ。(スライド)右下を見てください。これは昨年の6月に『Nature Asia』誌で発表になったデータなんですが、現役時代に6時間以下の睡眠を続けていた方が、定年後に認知症を発症するリスクがなんと1.3倍。

認知症のもとになると言われている「アミロイドβ」という、ある種のタンパク質が溜まってしまうわけです。これが、毎晩の睡眠の後半にリンパ液によって洗い流されていきます。ただ、睡眠が足りないと洗い流されずに脳に蓄積していってしまうことが、認知症の発症と関与している。このことは、もう(データで)解明されていることなんですね。

ですので、経営層にお話しになる時にはこのデータがとてもパワフルですので、しっかりとお伝えください。

睡眠不足は、パワハラや不祥事などの引き金になる

そして、さっき小林さんのお話にもありましたように、扁桃体は怒りの発生源なので、この部分が睡眠不足によって活性化すると、パワハラ・セクハラ・不祥事・モラル崩壊の引き金となります。

睡眠不足の上司ほど、部下に侮辱的な言葉を使う、攻撃性が高まってしまうことがわかっています。「自我消耗」と言うそうなんですが、自己をコントロールできなくなる状態が上司に起きてしまう。なので、見せかけの働き方改革をやる会社さんでは、従業員の労働時間を減らすんだけれども、「管理職は別」にしてしまうことが多いです。

これは大変危険で、むしろ部下の残業時間を減らすために上司が仕事を引き受けなきゃいけないようになると、より虐待的な行動をとるようになってしまいます。必ず、部下と上司も一緒に働き方改革をしていただくことが大事だなと思います。

海外では当たり前の「インターバル制度」の重要性

そして、心拍数などで捉えた客観的数値による日本人の睡眠時間は、6時間23分。他国は7時間台なんですが、日本は6時間台になっています。「日本人はがんばり屋さんだから、国民性だよね」と言われたりしますが、実際には労働法制の不備なんですね。

勤務と勤務の間に11時間空けて、7時間睡眠を守るインターバル制度が、EUのすべての国では義務化されています。アメリカは、時間外(労働)に1.5倍から1.75倍払わなきゃいけない、残業させるペナルティーが大きい国なんですね。

つまり他国は、残業抑制策か睡眠確保策のどっちかが入っているんですが、日本はこのどちらもない。これによって、長時間労働する人は他国の約2倍ほどいるんです。それなのに1人当たりが稼いでいる額は、OECD38ヶ国中28位という状況にあります。

最近、私が見てとても衝撃的だったデータがこちらです。縦軸が国民1人当たりの平均睡眠時間で、日本の位置は一番下なんですが、横軸が1人当たりのGDPです。なんと、睡眠時間と一人当たりGDPは世界で非常に相関が見られることがわかりました。でも、日本はすっごく変な位置にあるんですね。すごく睡眠が少ないんだけど、GDPはそこそこ。

じゃあ、逆にあと1時間(睡眠時間を)伸ばして、この相関性と同じところにいったら、すごくGDPは伸びるんじゃない? と。これはすごく浅い計算をしましたが、今は550万円ぐらいなんですが、1,100万円ぐらいになるのかな? と考えたりしました(笑)。

相関しているならば、「しっかり寝かせる」というのはすごい国策ではないかと思います。つまり、他国では睡眠は国家戦略になっているんですよね。

社会課題にもなっている、精神障害請求件数の増加

ここから国がどう動いていくかについてなんですが、すでに昨年9月に「勤務間インターバルが取れていたかどうか」が、脳・心臓疾患の労災認定の基準の中に追加されました。

今までは「月間の残業時間が何十時間を超えてないか」だけ見られていたんですが、月間残業時間が短くても、インターバルが取れてない日が連続していたならば、企業側に理由があるだろうと認定されるようになりました。

こうした認定基準が変わった年には認定数が急に伸びる、ということが今までも起きているんですが、下の折れ線グラフがが認定された数です。そして、上の折れ線グラフがが請求件数。労災申請における精神障害の件数がこれだけ増えているわけです。

認定の基準が変わると、今後はこの認定件数がもっともっと増えてくるのではないか、ということがわかっています。

そしてもう1つ。5月31日に出された、岸田政権肝いりの新しい資本主義実行計画。政府の力を入れていく文章の中に、初めて「勤務間インターバル」という言葉がしっかりと入ったという大きな変化がありました。

「インターバル制度」の導入は、今後加速しそうな見込み

さらに、インターバルの導入企業は今はまだ4パーセントしかないんですが、今度は15パーセントに目標数値を引き上げるという、大幅な引き上げ目標が明記されています。

勤務間インターバルは、2019年の働き方改革関連法施行の時にはすでに努力義務には入っていたんですね。だいたい5年後ぐらいに努力義務が義務化される、という流れが今までは多かったんですが、そう考えると2024年あたりが義務化になってくる時期ではないかなと思います。

自動車運転労働者には、11時間の努力義務、今年から9時間が義務化されました。医師の3.6パーセントが「毎日・毎週自殺を考えている」と回答されているんですが、2024年からは9時間のインターバルが義務化されます。

そして国家公務員なんですが、インターバルとフレックスを国家公務員制度に導入する研究会が、今年立ち上がっています。

私の読みでは、いきなり労働基準法での義務化にはならないんじゃないかなと思っています。その前の段階で、おそらく今年施行になった男性育休と同じように、周知義務化がくるのではないかなと思ってるんですね。

入るとしたら、パワハラ(防止策)などが入っている労働施策総合推進法や労働時間等設定改善法。経営層・管理職層・従業員への研修し、管理職が部下にしっかり周知することが義務化、というかたちでの周知義務化が入るのではないかなと思っています。

となると、人事として検討していくべき勤務間インターバル制度ですが、睡眠の前後に「生活時間」と「通勤時間」を挟んで11時間、というロジックで成り立っています。こうしたものを、ぜひ社内でも説明してみてください。

11時間のインターバルを確保しても、月100時間の残業は可能

実は11時間のインターバルを確保しても、毎日5時間残業ができる仕組みになっています。5時間×20日間、月100時間の残業は可能な制度なんですね。「100時間残業できる状態で経営できないとうのは、それはもう経営能力の問題になるじゃないか」と言っていただくといいかと思います。

「緊急時などの対応でインターバルが守れなくなるんじゃないか?」と、おそらく心配に思うかと思います。

EUでは業種・業界ごとに緊急時の例外規定を作っていて、「保安や監視の業務だから」「サービス・生産の連続性だから」「観光業務だから」「郵便業務だから」というふうに、かなり広範な特例措置を持っています。そうしたものを、日本でもしっかり作っていく必要があるかなと思ってます。

弊社独自で「勤務間インターバル賛同宣言」をやっていて、続々と賛同宣言が増えています。ぜひ法制化される前に宣言して、人材獲得競争に差をつけていってください。これに参加されることによって、いろんな情報が集まっていく仕組みになっています。

企業における「睡眠促進」の3つのポイント

まとめです。「月間残業時間抑制」「従業員だけ」という働き方改革はやめて、ぜひ「一日ごとの睡眠促進策」「管理職も含めた」働き方改革にしていってください。

少ない労働時間で業績が上がり、(従業員の)ワーク・エンゲージメントを向上させ、ご家庭での出産数も増えたり、離職率・メンタル疾患が低下できる勤務間インターバル制度に、経営戦略として先行トライしていってください。

そのためには、①社員に睡眠研修をしていき、自律的なWell-being組織にしていくこと。②管理職・経営層に意識改革のインプットをし、脳科学のデータを用いること。③人事部は、インターバルの現状の把握、またアラートを入れる仕組みなど、ITなどを活用してください。

そして、「ここで(インターバルを)取れなかったなら、何日以内にお休みを取る」という、自社に合った免除規定・代替の仕組みの構築。また、緊急時じゃないのに慢性的に起きている働き方の問題は、即しっかり解決をして、就業規則にインターバル制度を入れ込んでいけるようにしていただければと思います。

個人1人だけ、もしくは1社だけではなかなか睡眠の問題は実現・解決できません。ぜひ、社会全体でお互いの睡眠の尊厳を守っていってください。イライラの連鎖は社員同士だけじゃなくて、家庭にも広がっていっていると思っていますので、ぜひこの連鎖を止めて、好循環な社会を一緒に作ってまいれればと思っております。

以上です。お時間ありがとうございました。

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