「理解力」に含まれる、非言語を察知する力

深沢:拓朗さんはどうですか、この「論理を超えた事柄」という難しいテーマ(論理で説明できないことに、どうやってアプローチするか)。

山口:僕の『理解力』の中でそのテーマを見つけるとしたら、「人間に対する理解」ということを書いていて。人間を理解するのはなかなか論理的にはいかない。自分の奥さんのことを理解するとか、子どものことを理解する、上司のことを理解するのは、なかなかうまくいかないですよね。

この本の中では、さっき「理解の箱」の話をしたんですけど、僕は「言語だけにとらわれない理解」についても実は書いています。まず1つは五感を使うこと。五感は視覚で見たりとか、耳で聞いたりとか、味わったりとか、触ったりとか、匂いを嗅いだりという感覚ですよね。これも実は理解にあたるじゃないですか。

例えば、相手が「ありがとう」という言葉を言った時に、その言い方が「あー、ありがと……」だった場合。これは「ありがとう」なのか、ということですよね。言語的に理解するのであれば、これは「ありがとう」ですけど、そうじゃないわけですよ。でも相手がぜんぜんうれしそうじゃないということに、やっぱり気づかない人もいるんですよね。だからこれは言葉だけの理解でしかなくて、その人を視覚的にちゃんと見ていないということになります。

つまり非言語と言いますけど、非言語を使って相手が「今どういう気持ちなのかな」ということを察知する力もやっぱり理解力には必要です。特に論理的になかなか説明がつかないことに関しては、体感とか五感を使って感じ取っていく力。ここはけっこう現代人は衰えてきているので、そういうことも磨いていかないといけないよなと、自戒を込めて書いています。

擬似体験でも「感覚」を磨くことの重要性

山口:いわゆる日本的な言葉で言うと例えば「空気を読む」なんていうのもそうですよね。空気を読むのも別に言葉だけで読んでいるわけじゃなくて、「なんとなく今ここはイヤな空気だなぁ」とか「なんとなく居心地がいいな」というのも、いろんな情報を使って私たちは理解していくわけなので。

ふだんの生活の中から、やっぱり感覚にもっと敏感になるのはすごく大事だと思うんですよ。単純なことを言うと、こうやって「机を今、手で触っている」という感覚をちゃんと味わうようにね。あと「このコーヒーはすごく苦いけど、こっちのコーヒーは甘いな」とか、「甘さもこっちのお店とこっちのお店はちょっと違うな」ということを感じることが、そこの感覚を伸ばしていくことだと思います

僕はけっこう映画を見るのも好きです。映画を見ると、自分にはない世界がスクリーンに2時間映し出されますよね。例えばヨーロッパの映画だったら、ドイツのどこかの食事が出てくるというように。これは疑似体験なんですけど、そこで味わえる感覚はたくさんあるんですよね。

「なんかこの人自殺しようとしている。自殺しようとしている人の感覚はこういう感じか」と。これはふだんの自分の生活の中ではないんだけど、そこで人の気持ちがちょっとわかる。完全にわかるとは言えないですけど、「こういう気持ちなんだろうな」と感じる。そういう時に私たちは感動したり、恐れを抱いたり、喜んだりするわけなんだけど。やっぱりそういう体験を増やしていくことは、すごく大事だと思うんです。

だからドラマでも、小説でもいいと思うんですね。そういう自分の世界にはない人たちやシチュエーションに触れることによって、人間のさまざまな感覚が磨かれていく。そこを磨いていくと、きっと理解力が高まっていくのかなと思います。

「人と会う」機会が減ると感覚は鈍りがち

深沢:こういうのを読むだけではダメですね。

山口:本当にそうだと思います。

深沢:例えば知らない国に行ってみるとか、いつもと通る道を変えてみるということですかね。

山口:そういうことだと思います。これは日常の中でできますからね。人と会うこともそうですよね。人と会う機会が今ちょっと減ってきちゃったので、そういう意味でも感覚が鈍りがちだと思います。今日は真ちゃんとも久しぶりに会いましたけど、やっぱりこうやってお会いする中で、SNSでつながっているだけでは得られないエネルギーを感じています。これを感じることがすごく大事だと思います。こんな感じで大丈夫でしょうか(笑)。

荒尾:ありがとうございます。難しい質問に的確に答えていただきまして、ありがとうございました。

深沢:いや、でもいいテーマですね。

山口:いいテーマです。こういうことについて考えることがすごく有意義……たぶん僕らが一番得しています(笑)。

理解するためのアプローチは「具体」からか「真理」からか

荒尾:あっという間にお時間は過ぎまして、もう8時20分ですかね。最後にお二人からひとことずつ、まとめのお言葉をいただきたいです。

深沢:質問の時間は大丈夫ですか?

荒尾:質問を先にしたほうがいいですかね。

深沢:いや、わからないです(笑)。

(会場笑)

山口:質問が先でもいいんじゃないですか?

荒尾:では質問を先にやります。会場の中で、質問がある方は?

(会場挙手)

質問者1:本当に参考になるお話をありがとうございました。蔦屋さんのこのイベントは、すばらしいなと思いましたね。というのも、この『理解力』と『因数分解』の本がセットで、さらに理解が深まるかなと思ったからです。

『あらゆる悩みを自分で解決! 因数分解思考』(あさ出版)

『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』(日本実業出版)

私は、山口さんのライティングサロンのメンバーでもあるんですが、山口さんのアプローチはいつも具体的で、過去の例とか今までの体験談などいろんなところからアプローチしていただくので、すごくわかりやすいんですよね。

でもたぶん深沢さんは因数分解から課題を解決していこうという手法で、帰納法と演繹法のように、ちょっとアプローチが違うのかなと思ったりはするんですね。

私はどちらかというと帰納法のように、なにか課題があって解決する時に「昔はこうだよね」と、具体的なところからアプローチをします。でも性格的にそれはちょっといけないなと思うから、昔からの真理のようなものからのアプローチも必要かなと思うんです。

だから質問としては、性格によってアプローチを変えたほうがいいのか、ということです。両方あったほうがすごくわかりやすいと思うんですが、そこはどうお考えかなと思いました。

コミュニケーションが出てくる時は、相手の物差しに合わせる

山口:やっぱりどっちの思考もあったほうがいいと思います。考え方は1つではないので、具体的な事例を集めてきてから最終的に結論を導き出すやり方を僕もします。そうじゃなくて、つながりを見ていく、大きなところから見ていくこともしますので。本当にどっちも持っていることがすごく大事。行ったり来たりですね、そこを行ったり来たりしながらやっていく。

もちろんピタッと、具体的な事例から集めたほうがハマるテーマもあると思うんですよ。だからそのへんも含めて、思考のアプローチをいくつも持っておく。別に2つだけじゃなくても、それ以外にもいろいろ持っておくといいと思います。どうですか、真ちゃん。

深沢:帰納法と演繹法、どちらもご存知なのであればすばらしいことだと思います。どちらも必要だし持っておいたほうがいい、できるようになっておいたほうがいい、というのがまず答えです。

その上で、考える行為のゴールが「自分の中で理解すること」なのであればどちらでもいい。だけど「考えて整理した内容を誰かに伝える、説明しないといけないこと」がゴールだとしたら、その相手が演繹タイプなのか帰納タイプなのかで決めたほうがいい、というのが私の答えです。つまり、その思考という行為のゴールはどこにあるのかという話ですよね。それで決めたほうがよりいいんじゃないかと思いました。伝わりましたか?

質問者1:はい、よくわかりました。相手に合わせてアプローチしないといけないということですよね。

深沢:最後ね、コミュニケーションが出てくる時はやっぱり相手の物差しに合わせたほうが、好みに合わせたほうがいいんじゃないかなと思います。そうでないと、正しいことを言っているのに「伝え方が気に入らないのでYesと言わない」ということが起こるんですよ(笑)。それは一番損してしまうしもったいないので、そういう視点のほうが得かなと思います。

質問者1:やっぱりこの本は2冊買うべきですね、ありがとうございました。

山口:(笑)。

深沢:ありがとうございました(笑)。

メールの「速さ」と「言葉」のさじ加減

質問者2:今日はお話いただきありがとうございました。日経新聞の広告を見て、応募させていただきました。初めて来たんですけど、非常によかったなと思います。ありがとうございます。

私は会社員で、ふだんからメールを書いてのやり取りが多いんですが、相手に送る時に……私はせっかちなので、考える前に行動してしまって、いかにレスポンスを早くするかを是としているんです。

そのために、余計な文章が残った状態で送って、見る相手がちょっとイヤな思いをしてしまうことがあって、上司から注意を受けたこともあるんです。これもやっぱり相手にもよるかと思うんですけれども、お二方はメールを送る時に1回溜めてから送るか、それともだいたいレスポンスを早く送るのかということと。もし溜める場合であれば、どれくらい最大で寝かせて送るか。ちょっと具体的な質問になるんですけれども(笑)。そのへんをお聞きしたいと思います。

山口:メールは基本的にスピード感を大事にしているので、スピーディに返していきます。ただここは本当にさじ加減としか言いようがないんですけど、みんなやっぱり短く端的に伝えて、パッとやりたいと思うんです。でもそれで言葉足らずになってたらアウトですよね。

つまり自分が送ったメールに対して、相手が理解できないとか、「これは誰がやるの?」とか「どういう意味?」とか「何の会議の話?」となってくると、またその質問メールが戻ってくるわけですよ。これは本当に不経済だと思うんですよね。不毛なやり取りを何回も何回もするっていうのは、僕は避けたいと思っています。

文を書いたら「読み手の立場」にスイッチを切り替えてみる

山口:だからスピード感を大切にしながらも「このメールで伝えるべきポイントは何だろう」と考えます。そこは考えながらも、スピーディに送る。なかなかパキッとした答えになっていないかもしれないですけど、いつもその両立を図ろうとしています。どうですかね、真ちゃん。

深沢:まず伝えたい内容を書きます。それで、そのあと読者目線で読みます。問題なくて、伝わるかなと思えばすぐに送る、という感じでしょうか。だからそういう意味では、私の場合は寝かせるという考え方がないですね。書いたらすぐにスイッチを変えるということだと思います。

だからちょっとイヤかもしれないですけども、上司になった気持ちで読むんです。「いつもあの上司はこのへんを突っ込んでくるよな、ということはここがイヤなんだろうな」というように直して、なるべくすぐに送ったほうがいいと思います。とてもシンプルですけど、一旦読み手の立場になってみるということでしょうか。答えになってますか?

質問者2:大変参考になりました。ありがとうございます。

深沢:オンラインのほうでもご質問がありますか?

「理解力」を因数分解するとどうなる?

質問者3:今日は貴重なお話をありがとうございました。私は3日前に深沢さんの本を読ませていただいて、数ヶ月間困っていた書類整理が一気に捗ったんですよね。ちょうど「片付けの因数分解」のところで、まず整理して捨てて、分類して収納すればいいんだよという例があったと思います。

そうかと思って、分類する時に「1ヶ月以内に使う書類」「3ヶ月以内」「半年」「1年」「それ以上保管しておくもの」と書類を全部分類したら、その日のうちに片付きました。めちゃくちゃうれしかったので、まずありがとうございました(笑)。

深沢:いやとんでもない、私はなにもしていないと思います(笑)。すごいですね。

質問者3:それで、これまた深沢さんに質問なんですが、深沢さんがもし「理解力」というものを因数分解するとしたら、どんなふうに因数分解するかを聞きたいなと思いまして、質問します。

深沢:なるほど。ぜんぜんわかんない(笑)。

(会場笑)

山口:すごい質問ですね(笑)。

質問者3:でも山口さんの本の中で書かれている「理解力」ではなく、一般的な「理解力」。相手を理解する力という意味で、それを深沢さんなりに因数分解するとしたら、どんな要素からできているのかなということを聞きたいです。

理解力=分ける×つなぐ×相手に対する関心

深沢:質問の意図はよくわかっています、すいません茶化しちゃって。「理解力=分ける×つなぐ×相手に対する関心」。

質問者3:もう1回言ってください(笑)。「分ける×」……?

深沢:「分ける×つなぐ×相手に対する関心」。その対象に対する関心ですね。まず関心がなければ理解しようとは思わないと思います。だから関心が必要だと私は思います。関心さえあれば、今回ご紹介したように分解する、分ける、矢印でつなぐを組み合わせて必ずその物事は解き明かせる、理解できると思います。1行で、数式で表現すると今のような感じです。

質問者3:すばらしい。ありがとうございます。

深沢:ありがとうございます、1行で表現しました(笑)。

質問者3:これは例えば、人によってそれぞれ答えが違ってもぜんぜんOKなものなんですか?

深沢:もちろんです、違うから楽しいんじゃないでしょうか。違っていいんです。一番大事なのはその因数分解をした結果に、そのご本人が納得するかどうかです。納得すればそれを信じて「じゃあここをやろう」とか「ここはやめよう」とできますから。すべてはその結果にご本人が納得できるかどうか。たぶん今回のこの本の主人公も、納得をしたから行動したんだよね。そこがすべてかなと私は思います。

質問者3:とてもよくわかりました。ありがとうございました。

深沢:こちらこそ、今日はありがとうございました。すてきなご質問です。

著者の言いたいことを理解する「キーワード」を拾う読み方

山口:オンラインのほうでもありますか、ご質問?

荒尾:オンラインが1つですね。「山口さんの読書はアクティブラーニング。では深沢さんの読書術はありますか?」という質問です。深沢さんの読書術ですね。

深沢:なるほど、ありがとうございます。すごい質問ですね。読書術なんてそんな立派なものはございませんけれども、1つ挙げるとすれば、私は「キーワードだけ拾っていく」という読み方をしていると思います。全部読むのがイヤなので「ああ、これはキーワードだね」というものが見つかれば、以降はそのキーワードが出てくるところを重点的に読むんです。だからなるべく単語で理解していくという読み方を、私はしていると思います。

山口:ごめんなさい、そこに重ねて1個聞いていいですか? そのキーワードは、真ちゃんが興味を持ったキーワードなのか、あるいは著者が一番言いたがっているキーワードなのかで言うと、どちらのキーワードですか?

深沢:著者が「これはキーワードだよ」とメッセージを発しているもの。なぜかというと、まず著者の主張を理解しないといけないと思うので。そこはやっぱり相手の物差しでまずは読むという感覚ですね。「なるほど、著者はこういう考え方でこういうことを言いたいのね」ということがつかめれば、読書はおしまいですから。私はそんな読み方をしています。

山口:なるほどね、いいですね。

深沢:ありがとうございました。

山口:どうしますか、時間的に。

荒尾:オンラインは以上ですか? はい、ありがとうございました。それでは時間も頃合いになりましたので、最後にお二方からひとことずつ、まとめの言葉をいただきます。お願いします。

深沢:では手短に、私からで大丈夫ですか。

山口:お願いします。

できないものができるようになる2つの要素

深沢:みなさま、今日はありがとうございました。遅い時間までお疲れさまでした。オンラインのみなさまもありがとうございました。では手短に。できないものができるようになることは、因数分解すると「その物事を理解する」と「練習する」、この2つの組み合わせなんです。

お勉強でも水泳でもなんでも、仕事でもそうです。できないものができるようになるためには「理解して」「それを練習する」という2つを組み合わせてやります。今回「理解するとはどういうこと?」ということをここで学べたわけですよね。そのあと「じゃあそれをどうやって練習するの、トレーニングするの」ということをこの本で、パンダさんが教えてくれています。

どんなテーマでもそうですけど、どれだけトレーニングしていても、本質が理解できていなければできるようにならない。なのでシンプルですけれども、理解と練習。今回ご一緒しましたので、ぜひ『理解力』と『因数分解思考』という2つの本を通じて、そんなメッセージがみなさまに届けられたらいいなと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

山口:みなさん、本当に最後までありがとうございました。オンラインのみなさんもありがとうございました。最後のメッセージとしましては、先ほど僕は「みなさんの伸びしろを信じる」と言ったんですけど、それは講師の側として言いました。やっぱりみなさんお一人お一人が「自分はできる」ともっと信じていただきたい。というのが僕からの最後のメッセージですね。

文章力は「自分はできる」と信じると伸びる

山口:僕はけっこう文章術の本をたくさん書いているんですけど、サインをする時に「あなたは書ける」と必ず書いているんですね。本当にそう思っていて、そしてそれを受け取った人が「私は書ける」と思った瞬間に、その人の文章力は間違いなく伸びていくと思っているんですよ。

なので自分ができるということをちゃんと理解する。それこそそこにも理解があって、自分はできないという理解を持ってしまうと、どうしても伸びていかないんですよね。だから自分のポテンシャルをもっと(信じて)、みなさんご自身に期待をかけていただきたいなと思います。

これは自戒を込めて言っていますけど、自分もまだまだ進化・成長していくつもりですし、これは死ぬまで続くと思います。みなさんも「自分はできる」という言葉をまず理解して、そして呪文のように唱えていただけると……最後にまた言いますが、「人生が変わる」のではないかなと思っております(笑)。今日はありがとうございました。

(会場拍手)

荒尾:本日は会場のみなさま、そしてオンラインのみなさま、ありがとうございました。そして深沢真太郎さん、山口拓朗さん、貴重なお話をありがとうございました。みなさま、もう一度拍手でお礼をお伝えください。

(会場拍手)