商売を知っている人にITを教えるのは意外と簡単

西澤直樹氏(以下、西澤):ざっと全体を通してもたくさんの示唆があったんですけれども。僕がこの資料を初めて拝見した時にびっくりしたのは、いわゆる開発部隊とデジタルマーケティング部隊が1つの組織の中に存在していて、お互いが自分で作っていくというか、モノ作りに携わっている点がすごくユニークだなと思ったんですね。

多くの企業さんだと、デジマ部隊といわゆる開発部隊ではもう少し距離がある。作ったものを売る人たちと、それに対してフィードバックをして、また良いものを作ってもらうという関係性が多いと思うんです。ここを一体にしている中で、どういうふうに言語やスキルの共通化を図っていったんでしょう。

池照直樹氏(以下、池照):商売を知ってる人にITを教えるのは、けっこう簡単なんですよね。商売を覚えるのはだいたい10年ぐらいかかるんです。でも、例えばITの1つの領域を覚えるには、3ヶ月とか半年あれば大抵(できる)。「コーディングをディープにやれ」と言われたらちょっと時間がかかりますけど、自分のデジタルマーケティング業務で使えるようなデータベースの使い方は覚えちゃうんですね。

実際に、今うちのデータアナリティクス部隊の部長をやっているのは、プロパーでお店にいて、さらに商品部をやっていた人です。もともと数字は得意だったんです。データベースのことを知らなかったんだけど、「こうやってやるんだよ」と教えたら、3ヶ月ぐらいでSQLが書けるようになったんですね。

「どうしたの?」と聞いたら、「勉強しました」と言うわけですよ。本当にバリバリのエンジニアじゃなきゃできない仕事は当然あるんですが、そういうふうにExcelの延長線でできる仕事が実はたくさん隠れていて。ただ、それをちょっと遠いもののように思っているところがあると思うんですよね。

そのバリアを外してあげるのが僕らの仕事なのかなとは思うんですよ。実際に僕もSQLを打っちゃいますけど。イヤですよね、CDO(最高デジタル責任者)が書いてたら(笑)。

(一同笑)

現場の社員もエンジニアも、お互いに学び合えるカルチャー

塚本洋氏(以下、塚本):お話おうかがいしてて、そういうところこそ、本当に成功の秘訣じゃないかなって。ビジネスとエンジニアって、どうしてもカルチャーも違うとか、扱っている商売道具というか、ツールも違うから交わりづらいところが(ある)。

やっぱり、CDOがアーキテクチャについて語ったり、実際にSQLを書くようなところは、「学ぶような人を入れる」という、エンジニア採用(の基準)とも共通点があるんじゃないかなと思います。

(エンジニアが)逆にビジネスのほうを学んでいこうとか、フラットにお互いを尊重し合いつつ学び合う。ハンズオンの話もそうですし、そういうものがカルチャーとして根底にあることがうまくいっている秘訣なんじゃないかなと思いましたね。

池照:「できません」と言われることは当然あるんですけど、言い直してあげるんです。「『今』できません、でしょ」って(笑)。

(一同笑)

でも、やっぱり世の中は変わるので、学ぶ力さえ鍛えておけば、どんなに変わってもその人は楽しい生活ができると思うんですよ。「これだけしかできない」と凝り固まっちゃうのが、社会人としてそもそも一番怖いのかなとは思っていますね。

西澤:もう1つの成功要因としては「マイナスから始める」。飴と鞭の飴から始めるというお話もすごく印象的です。多くの企業は、何かをやる時にはそこ(現状の仕事)に乗せていく考え方が多いと思うんです。

池照:足し算ですよね。

西澤:先にマイナスにすることで余力を作って、新しいことをはめていく。当たり前のように聞こえるんですが、難しいところでもあるなと思っています。そこはどういうふうにされたんでしょうか。

池照:いっぱいいっぱいの状態で新しいことがくると、新しいことがいい加減になるんですよね。ですから、結局やってもなんにもならない状態を、いろんなところで見てきました。ですから、ちゃんとできる状態とか、できるリソースを準備してやっていく。

もし今、お店に何かをお願いする時に、足し算で(新しい仕事を)渡してできるんだったら、そもそも人時を減らしておけよという話じゃないですか(笑)。

西澤:余力があるんだったら減らしとけよという。

古いものを新陳代謝させれば、予算が取れるようになる

池照:でも、余力がなくて、自分たちでがんばってがんばって最適化をして今の場所がある。だから、それはやっぱりちゃんとリスペクトするべきだと思うんですよね。そこで余白を作っていくのが、僕ら業務側のデジタルの仕事なんだと思いますし。それ(新しいことと余白作り)を両輪で回していかないと、なにもかもが足し算になってしまう。

システムも実はそうなんですよね。リタイアさせるプランを持たずに足し算をしていくことってあると思うんです。そもそも、リタイアさせないから予算がとれないだけで。古いものをリタイアさせれば、まぁまぁ予算はとれるはずなんですよね。そうやって新陳代謝をきちんと作っていくことが大事です。足し算ばかりだと、ちょっとお腹も出てきちゃうから(笑)。

(一同笑)

塚本:ITを使ってまず業務改善して、時間を作ってさらにプラスのほうにいくというお話ですけど。業務改善は従来のITで、新しいことをやる価値創造はDXと、文脈的に切り離しちゃうこともあるのかなと思うんですよ。でも、まったくそこに壁がなくて、融合されてる状態もすごくいいなと。

池照:たぶんPL(損益計算書)ってそうやってできてるんですよね。

塚本:そうなんですよね、経営視点で見ると別に分けることでもないという話ですよね。

池照:マネジメントチームがお金の観点で話をすると、けっこういろんなものがシンプルになっていくと思うんです。「これをやるとこのくらい儲かるし、そのためにはこのくらいのリソースを投入したいけど、リソースがないからこのくらい業務を減らしますわ」という、すごくシンプルなサイクルをきちんと作っていく。

計画を立てる時も、コストが増えることを嫌って、トップラインの増加にコミットしないケースがありますよね。逆にトップラインの伸びにコミットできないから、コストをこの程度増やしておこうとなってしまう。

それは勝負ではないんですよね。「このくらい伸ばすために、このくらいお金を張る」と決めてやっていかないと、0.5パーセントぐらいの成長はできるかもしれないけども、5パーセント、10パーセントの成長は生まれないですよね。

デジタル人材の採用難の中で、カインズに人が集まる理由

西澤:質問でもいただいてるんですけれども、デジタル人材は非常に採用難と言われています。なぜここまで急激にデジタル人材を採用して拡大していらっしゃるのか。1つはカインズデジタルという子会社の話というところもあると思うんですが、採用戦略的なところではどういった点を工夫されていますか。

池照:採用はたぶん、昔も今もあまりスタイルは変わっていなくて。僕らが何をしようとしているのかに対して、共感してくれる人に入ってほしいと思ってるんですよね。だから、基本的に選考面接っぽくはないです(笑)。

西澤:なるほど。「こっちが選ぶぞ」っていう感じでは(ない)。

池照:「選ぶぞ」感はあんまりないですね。選んでいただくので、お見合いに近いのかな。気の合う仲間を(採りたい)と思っています。

あとは、僕らのところに来てくれる人たちは、なるべく現場に近いところで働きたい方が多いんですよね。SIerさんでも3次請けとか4次請けぐらいの方々は、お客さまに会うことがなかなかなかったりするじゃないですか。でも、うちに来ると現場とそのまま仕事が始まるんですよね。事業会社としてはそこが魅力なのかなとは思うんですけどね。

塚本:あと勤務形態みたいなところで言うと、別会社を作られたお話も聞きたいのかなと思うんですけど、そのへんはいかがですか?

池照:今勤めてくれている人たちに、とりあえず新入の時の研修で、「表参道じゃなくて本庄早稲田に勤めろと言ったら来ましたか?」って質問をして(笑)。

(一同笑)

今まで百数十人採ってますけど、2人だけ「来ました」と言いましたね。逆に言うと、本庄早稲田のままだったら、うちのチームはできてなかったことになる。この2人も「熊谷に家を買っちゃったので本庄を本社にしてください」というだけだったんですね(笑)。

(一同笑)

従来のキャリアパスや就業規則は変えずに、子会社を作る

池照:やっぱり勤務形態とか、ルール上の問題で来てくれないのはもったいないと思うんですよね。来てほしいんだったら、自分がルールを変えればいいだけの話で、それは僕らがやればどうにかなるじゃないですか。

カインズには、アルバイトさんも入れて2万人の社員がいます。当然、単線のキャリアパスだったんですよね。お店から上がって偉くなっていくのは、伝統的な小売のスタイルです。ここに複線化されたキャリアパスを作り、フレックスタイムとか就業規則も変えようとしたら、3年から5年かかっちゃいますよね。その暇はなかったので。

西澤:本体でやるには時間がなかったと。

池照:ですから、給与制度や就業規則の吸収会社として作った、カインズテクノロジーズがあるんです。ここにみんなに勤めてもらって、カインズに出向するんです。ですから、名刺もカインズなんですね。ここは本当に制度上の吸収会社というふうに立ててやってます。

塚本:下請けのシステム子会社みたいな構図じゃなくて、ただ単に便宜上。働き方の違いだけで作っていて、あくまでフラットですという構造。だけど子会社という仕組みを利用されているということですよね。

池照:そうですね。

西澤:あとはいわゆる定着という面でも非常に工夫されてらっしゃるというお話がありました。常にモダンなテクノロジー、モダンな砂場環境を用意していくところも1つポイントだとおっしゃってたんですけれども。それを常にアップデートしていったり、最新のトレンドを国内外から仕入れていくのは、どういうかたちでやっていらっしゃるんでしょう。

池照:実はシリコンバレーに、コーポレートベンチャーキャピタルを持っていてですね。月に一度、投資先からのレビューや新しいテクノロジー紹介を(してもらっています)。1回につき20社ぐらいあって、その中の1つはもううちで採用をして、本庄早稲田に実験店舗として無人店舗を作っていたりもするんです。

そういうものを仕入れてくる場所は、国内だけだとやっぱりちょっと難しいんですよね。リテール技術はどちらかというと海外のほうが進んでいるので。そういうものを「仕入れてくる」と言ったらいいんですかね、そういう仕組みは持っています。

事業や仕組みづくりは、ベンチャー企業の創業者に学んだ

塚本:あとは、アドバイザリーボードみたいなことをやってらっしゃるというお話で。

池照:そうですね。立ち上げの時はやっぱり、当然右も左もわからない状態で進めてますから。クラスメソッドの横田(聡)さんとか、ABEJAの岡田(陽介)さんとか、マネーフォワードの辻(庸介)さんとか、いろんな方々にお話を聞いて勉強させてもらって。

これは僕だけではなく、(会長の)土屋も(社長の)高家も、そういう人たちから勉強させてもらっています。事業や仕組みをどうやって作っていったらいいのかという観点で、ベンチャーの人たちから学ぶことはすごくたくさんありますからね。

塚本:デジタルとかIT企業になるには、逆にベンチャーから学ぶということですよね。

池照:やっぱり屋台骨の大きいところは、大きなものからリソースをちょっと振り分けていくじゃないですか。ベンチャー企業は、小さいところから自分たちを膨らませていくのにどうしたらいいだろうかというふうにやっているので、組織の増幅のさせ方が若干違うんですよね。

やっぱりみなさん、どの会社をとってもベンチャー企業から始めてる会社さまなので。マネーフォワードさんはもう大きな会社になっていますけれども、創業者として経営されてるので、苦労話などもすごく参考になりました。

塚本:なるほどですね、わかりました。

デジタル組織のキャリアパスと人材の定義の仕方

西澤:ありがとうございます。そういった採用・育成も含めて、僕がこの資料の中でもすごく貴重だなと思ってるのは、「開発チームの構造」と書かれているページです。これはとても貴重な資料だなと思っています。

多くの企業さんは、そもそもプロダクトオーナーもプロダクトストラテジストもスクラムマスターもいないというか、今後作られていくところだと思います。いわゆるキャリアパスや、チームの中にどういう人材が必要なのかという定義は、今どうされていますか?

池照:まずこのMVP(Minimum Viable Product)は、簡単に言うとアプリケーションです。ここにいる人たちは、プロダクトオーナー以外は、基本全員エンジニアであり続けてほしいと思っています。

ですから「どこまでいくと要件定義の人です」という、ウォーターフォールに合ったかたちのキャリアパスを進むのではなくて、生涯エンジニアでいてほしいと思っているんですね。その中で大きな範囲を見られるか、小さな範囲を見られるかという。

当然業務の知識も、プロダクトオーナーときちんと話ができるようなレベルになっていってほしいわけですよね。そこに近づいていくと、大きなチームを持てるエンジニアができあがってくるのかなと思っています。

ただ単にスクラムチームが増えていくと、当然しっちゃかめっちゃかになるんですよ(笑)。その揺らぎを繰り返していくのかなと思っています。ですから、できあがってからも、組織がうまくいってるかのチェックは必要です。本人たちが悪いことはほとんどなくて、僕らの作り上げている仕掛けが悪いことが多いので、そこは目を配るようにしています。

西澤:ありがとうございます。のちほどまたご質問にお答えするパートがあるので、一旦本編は終了させていただきたいと思います。池照さん、どうもありがとうございました。

池照:ありがとうございました。

伝統的な日本企業が直面する、「人の壁」と「組織の壁」

司会者:池照さま、西澤さん、塚本さん、ありがとうございました。質疑応答に入る前に、一度弊社のサービスをご紹介させていただきます。ぜひこちらをお聞きいただきながら、Q&Aへの投稿もいただけたらと思います。それでは、EMCカンパニーセールス&マーケティング室より、良知さん、よろしくお願いいたします。

良知剛史氏:EMCカンパニー セールス&マーケティング室の良知と申します。本日はご視聴いただきありがとうございます。当社メンバーズでは2022年4月より、事業会社のデジタル推進を担当されている役員の方、部長さま、責任者さまを対象に、「デジタル内製化ラボ」というものを発足いたします。これはデジタル内製化を実現するために、どうやって壁を打ち破っていくのかというところの研究会です。

こちらについては、本日の池照さまのように内製化を強力に推進されている先進企業の事例やオンラインイベント、海外のリサーチなどのレポートのほか、会員限定イベントのご案内などを、どんどん提供させていただければと思っております。会員限定コンテンツも鋭意準備中ですので、もしご興味ございましたらぜひご参加いただければと思っております。

背景についてお話しいたしますと、やはり当社で行った調査においても、大手企業さまではこれまで業務委託していたところを、内部でデジタルを推進していこうという傾向が、非常に強いのかなと思っております。

なぜ内製化かと言いますと、やはり自社の内部でプロセスを遂行していくことで、市況の変化の速度に対応していきたいというところ。昨今さまざまな技術革新が起こり、マーケットスピードの変化が非常に速くなっている中で、我々は内製化は時代の潮流になってくるのかなと思っております。

一方で、いわゆる伝統的な日本企業の中には、大きな2つの壁があると思っております。「人の壁」「組織の壁」と言っておりますが、やはりデジタル人材は、まだまだ事業会社内での採用も難しいですし、組織を作っていくというところも難しいです。

加えて、組織を作って内製で進めていく推進体制を作ったとしても、やはり旧来型の「組織の壁」といった課題も非常に深刻であることが、当社の調査でもわかっております。こういったカルチャー面での課題についても、解決のヒントになる情報を集めていきたいと思っております。

我々メンバーズは、あらゆる日本企業をデジタルサービス会社に、テックカンパニーにする支援をさせていただくことを掲げています。みなさまのヒントになるような希少価値の高い情報を提供させていただければと思いますので、ぜひともよろしくお願いいたします。

本日のセミナーにご参加いただいたみなさまには、後日お申し込み方法等をご案内させていただきます。ぜひお問い合わせいただければと思います。

司会者:良知さん、ありがとうございました。それでは池照さま、西澤さん、塚本さんに再度ご登壇いただき、質疑応答に移らせていただきます。Q&Aより質問を受け付けておりますので、ご投稿ください。それではよろしくお願いいたします。

内製化とは“手の内化”すること

西澤:改めまして、いただいている質問の中からいくつかピックアップして、お答えいただこうと思います。セミナーの中でもお話がありましたが、従来の業務委託から内製化への取り組みで苦労された点、スイッチにおいて工夫された点について、ご質問いただいています。

池照:採用と育成ですよね。業務委託の方にはほとんど丸投げで出していたので、その機能自体も剥がしていかなければいけないんです。ですから、この「業務委託→内製化への変換」と、旧システムのリタイアメントプランと新しく作るものの投入プランの整合性を取りながら、内製化を進めなければいけないのが、一番気を使う点かなと思います。

僕らみたいな伝統的な小売は、まぁまぁ丸投げでやってきてますから。時間をかけて剥がしていかないと、極めてリスキーですよね。剥がし方に関しても、大きくドン、ドンと持っていくのではなくて。

小さな単位で、少しずつ機能を剥がしていかないと、プロジェクトそのものが大きくなってしまってリスクも高くなっていくんです。そこを、MuleSoftみたいなアーキテクチャを使いながら上手に変えていくという、プロセスの設計自体がけっこう大変だったかなと思います。

塚本:単純な契約の切り替えじゃなくて、“手の内化”じゃなきゃいけないってことですよね。逆に言うと、先ほどのTATAのお話のように、外部のパートナーさんともうまくお付き合いしながら手の内化していく。だから、「内製化とは手の内化だ」というような考え方が(ある)。契約の問題じゃないというところが大事なのかなと思いました。

池照:そうですね、そこはすごく違うと思いますね。業務委託から内製化する際、内製化の部分だけを付け加えていくと、やっぱりコスト増になっていく。リタイアさせる・減るぶんを作ってから、増えるぶんを作ってバランスさせていくのは、PL面でも大事だと思いますね。

外部人材と内部人材の役割分担のポイント

西澤:業務面での引き継ぎだけではなくて、ある種のシステム面も含めた、全体のリプレイスを考えてやっていかなきゃいけないという点ですね。とはいえ、外部人材も使われてらっしゃると思うので、役割分担はどういうふうにお考えでしょうか。

池照:最初のほうは、やっぱりプロフェッショナル的な人材を採っていきましたよね。実際に小さいチームでもきちんと回るような状態を作っていって、そこからアメーバ的に侵食していくようなやり方になると思います。

育成と考えると、内部の育成になっていくと思いますけども。中期的な外部育成はちょっと置いておいて、内部の育成は圧倒的なハンズオンをすること。あとはベンダー管理が主な仕事だった人に、ローコード・ノーコードのプラットフォームを与えることによって、モノ作りができる人に変わってもらうこともすごく大事かなと思います。

このへんは、やっぱりSalesforceさんもすごくいろいろ協力してくれましたし。Googleのチームも、今度はオンプレミスを管理してきた人をクラウドを管理する人に変えていく。AWSのみなさんもそうですけれども、そういうところで教育を提供してくれています。

塚本:そのへんは外部の良いプラットフォームを利用してですよね。ソフトウェアはもちろん、いろんなローコード・ノーコードツールもありますから。

池照:もちろん、いろいろなものがありますよね。

西澤:ありがとうございます。Zoomのほうからいただいてる質問、塚本さんいいですか?

避けては通れない、脱炭素社会への取り組み

塚本:「いいね」数が多いもので言うと、ちょっと今回の話と直接関わらないのかもしれないですけれども。「大変貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。カーボンニュートラル社会に向けてカインズさんの脱炭素の取り組みや今後の計画、どういうことを実現していくか」……。

池照:なるほど。製品面でも今考えていますし、電力供給も次世代店舗ではどういうふうにやっていこうかということは当然、長いスパンで考えてますね。具体的にまだ何か言えるようなものではないとは思うんですけど。

僕は今、次世代店舗の責任者をやっています。数年後には今とはちょっと(違った)、再定義された店舗になっていくと思うんです。売り方も変わっていくと思いますし、店舗のあり方も変わっていくでしょうし、もちろんエネルギー問題も変わってきます。

いろんな方面で、カーボンニュートラルの問題があるとは思うんですが、商品的なものも含めて店の運営を考えていくと、日本はほとんど化石燃料によって電気が作られてる国なわけです。実はそもそも日本って、その化石燃料から作られている電気では供給が足りなくなってるんですよね。じゃあほかの方法って何なのか。

さらに今ウクライナのことで、いろんな化石燃料が値上がりしています。これは当然CO2、カーボンニュートラル問題だけではなくて、企業の存続問題(に影響します)。PL的にも電気代が相当上がりますからね。これを両面でやっていく方法として、カーボンニュートラルをきちんとやっていかなきゃいけないなと思います。

塚本:なるほどですね。ちなみに、メンバーズで『脱炭素DX』という本を出してるんですけど、我々はデジタルをうまく活用することで炭素排出量も減らしていけるという考え方を持っています。

それもやっぱり、強い内製化のデジタルチームがあるからこそ、より炭素が出ないようなアプリの活用や店舗のシステム作りもできるんじゃないかなと思っているので。今後の展開にぜひ、我々も期待しています。

社内のデジタル人材の抜擢は、一本釣りから公募制へ

塚本:もう1個ぐらい、Zoomから質問いきますか。「社内の育成対象、既存社員の抜擢・指名などは、どのようなプロセスで行われたのか教えていただけるとうれしいです」。

池照:最初は一本釣りでした。

塚本:公募とかじゃなくて直接。

池照:もう本当に最初のチームの立ち上げの時は、僕も入る前だったんですけども、うちの高家が「この人とこの人とこの人はデジタルだ」と。

塚本:社長から直接(笑)。

池照:直でポンとやってくれて、仲間を作ってやってきました。今は公募制です。「こういうポジションがあるけどやらないか」というところに、手を挙げた人が来ている状態ですね。まぁ最初から公募ってなかなかきついんですよね(笑)。

塚本:難しいですよね(笑)。応募もなかなかこないでしょうしね。

池照:育成してあげる人材がいないんですね。この間もインターンシップをやったりして、新卒の採用もしていこうと思ってるんですけども。これができるのはチームがある程度の規模になって、しっかりしているから、若い人が来ても育成できるような状態になってるのかなと。

塚本:わかりました。非常に参考になりました、最初は一本釣りからってことですね(笑)。

池照:最初は一本釣りです(笑)。

塚本:ありがとうございます。

十分なリターンさえあれば、経営者はNoとは言わない

西澤:事前にいただいているご質問にも戻りましょうか……もう時間がない(笑)。ラスト1問。池照さんはCDOとデジタル本部長、責任者も兼務されてらっしゃるので、ある種やりやすさもあったと思うんですが、多くの企業さんはレイヤーが違うことによって、課題や認識の違いもあると思います。一般の企業さんは、ここをどういうふうに突破していくべきでしょうか。

池照:やっぱり金の話をするのが一番だと思いますよ(笑)。

(一同笑)

何をするとこれだけ売り上げが増えるのか。投入したコストやリソースに対して、十分なリターンがあるのであれば、イヤだという経営者はいないと思うんですよ。だから、そこをきちんとやっていくことだと思っています。やっぱりトップラインやPLのボトムをどう作るかという課題を認識して計画を立てていくことが、一番最初に重要なんじゃないかなと思います。

西澤:まさにさっきの顧客戦略みたいなことを理解していただく。

池照:そうですね。わかりにくいといけないんですよ。僕は、たぶん始めて2年ぐらいは3文字熟語を使わなかったんですよ。「CVR」とか……(笑)。

(一同笑)

そういうよくある言葉は、僕らは「使わない」と決めてやっていました。

西澤:ありがとうございます。まだまだたくさんご質問をいただいているんですけれども、お時間が迫ってきたので、一旦司会をお返ししたいと思います。池照さん、今日はどうもありがとうございました。

池照:ありがとうございました。