やらされ感で仕事をする「依存型人材」

吉野創氏:いろんなところで失敗を経験して見えてきたことは、仕事観を大切にしてくれることが重要だということです。「みなさんは部下をどちらに育てたいですか?」と書かせてもらいましたが、仕事や人生に対する姿勢によって「依存型人材」と「自立型人材」に別れるということを、師匠の福島正伸さんから教わったんですね。

依存型人材はやらされ感で仕事をしています。問題が起きたら、「まずいな」とピンチに捉えます。失敗を恐れる、問題に無関心、自分に関係がなければ放置しちゃう。見て見ぬ振りをして、目先の損得だけで行動する。仕事を損得だけでやっている人ってけっこう多いですよ。

不満を探し、他人のせいにしてごまかしちゃう。利己心で仕事をする、自己中心で自分のためだけに仕事をする。こういう人たちは、依存型人材の傾向です。

「え? 利己心って当たり前じゃない? 目先の損得で行動するのも当たり前じゃない?」 「仕事ってやらされ感でしょ。嫌なことがあっても、自分に関係なかったら無関心が一番じゃない」と、普通に思っている人もたくさんいますよ。もちろん、強弱はありますが。

でも、依存型姿勢が普通だと思っている方たちが職場にたくさんいると、社風はなかなか良くならないですね。要は文化です。チームワーク、生産性がなかなか良くならなくて、悪化していく。「他責にしてごまかしちゃおう」という人たちばかりだったら、どんなに仕組みを変えたとしても、やっぱり良くならないですよね。

でも、無意識のうちに「それは当たり前じゃないか」と思ってやっている。「仕事でも面倒は避けちゃおう」「なるべく楽して給料が欲しいな」という人たちばっかりだったら、その職場には成長がないですね。

失敗を糧にし、自ら問題を発見する「自立型人材」

これの対極にあるものが自立型人材です。問題は飛躍のチャンス、失敗を糧にする、問題を自ら発見して他部署の問題でも解決していく、自分の出番に変えていく。役割や目的や価値に向けて行動して、自分の損得は後回しで、自分が責任を何でも取ろうとする。自分以外の人に貢献をするマインドを持って仕事するのが、自立型人材の傾向です。

職場の管理職の方々は、当然自立型人材であってほしいんですよ。でも僕の経験上、管理職の方の中にもこういう(依存型人材の)傾向を持った人たちがけっこういらっしゃる。

でも、こういう方たち(自立型人材)が増えてくると組織の社風は良くなって、生産性も上がって、仕事に挑む姿勢が変わってくるんですね。どっちの部下を育てたいか、これは聞くまでもないと思いますね。みんな「自立型人材」だと思います。

じゃあ、そういう部下を育ててより良いチームにしていくために、現場のマネジメントの中でどういう取り組みができるのか。この本の1章から4章は、部下がやる気になって自発的に動くノウハウについて書かせてもらっています。

そして5章から6章に関しては、一体感のあるチームで、管理なし・指示なしで業績アップにつなげるノウハウを書かせてもらいました。実はどちらかというと、本当に伝えたいのはこっち(後半)なんですよ。

今日は全部を話していると時間がないので、第1章のポイントだけ絞ってお話していきます。まずはここですね、「部下はそもそも働かない」。つまり、上司の方たちの考え方をちょっと変えてみませんか? ということをお話ししています。

(上司が)勘違いしている部下への認識とは何なのか。みなさんは(部下に対して)「給料をもらってるんだから、普通は会社の業績アップを考えて、会社のために仕事をしてくれるはずだ」と考えていませんか? でもそれは、みなさんがそのように育てられてきたからこそなんですね。

管理のしすぎは、確実に部下のやる気を下げる

いいも悪いも含めて、今の人たちは本当にいろんな考え方を持っている人が増えています。でも80パーセント以上の正社員の方は、本音では自分やご家族のことを考えて仕事をしてます。会社の業績や、会社のためだと考えている人って、どんどん減ってきてるんじゃないかなという感じがしますよね。

そもそも、さっき言った「依存型」の状態が普通で、自立型人材がめずらしいんです。だって、そもそもみなさんの部下がみんな自立型で、上司以上に働いて、会社のことを考えているようだったら、上司よりも昇進して自分の上司になったっておかしくないじゃないですか。

でもそうじゃないなら、「部下は俺よりも働かないのが普通なんだ」ぐらいの気持ちでいたほうがストレスがなくなると思います。自分より働かない、自分のことを考えているんだ、依存型姿勢が普通なんだと理解をするだけで、動じることなく有効な戦略が打てるようになります。

だから企業には、みなさんのような部下を育てるマネジメント職の方が絶対に必要なんですよ。ということを、マインドセットとして持ってほしい。まず、上司のみなさんの認識を変えることから始めてほしいです。指示や指導では思い描く結果が出ないということがわかったのは、この『メンタリングマネジメント』を読んだからなんです。

これは僕の師匠の本で、読んだ方はわかると思いますが、誰でも知っている「北風と太陽」という話があるじゃないですか。北風がいくらがんばって吹き付けても、コートを脱がずに頑なになる。でも太陽が温めるとどんどん衣を脱いで、心を開いて、笑顔になっていくという寓話がありますよね。

メンタリングマネジメントは、いわば太陽戦略なんですね。部下のやる気が出るように、太陽戦略にシフトしてみましょう。(これまでは)管理が大事だと思って、部下の業績や行動の管理もやっていました。でも、管理のしすぎは間違いなくやる気を下げる。さっき言った自立型と依存型で言ったら、依存型人材を育ててしまうんですよ。

「コントロール」ではなく「メンタリングマネジメント」を目指す

管理しすぎると、「上司がいちいちうるさいから、言う通りにやったほうが楽だわ」という状態になって、依存型になるんですね。なんでもかんでも上司のせいで、言われたことをやればいいという状態になることがわかったんですよ。

その時に出会った『メンタリングマネジメント』には、「管理して部下を動かすのは、コントロールしようと思ってるだけ」「上司がやることは、部下の自発性、つまりやる気を引き出すこと一択」と書いてあったんです。(部下を)思い通りに動かそうとしていましたから、これは目からうろこでした。部下の自発性を引き出してあげると、自分で勝手に、目指している方向性や幸せな方向性に動いていくということです。なるほど、と思いました。詳しくはこれを読んでほしい。

みなさんは部下のやる気や自発性を引き出す時、どのように考えますか? 「鼻先ににんじんをぶら下げる」というのがありますね。要は飴と鞭です。そういったものや、人事権で動かそうとする上司の方は今でもたくさんいらっしゃいます。それはなぜなのかというと、簡単だからですね。

例えば人事評価制度をリニューアルして、部下のやる気を高めようという取り組みをやっている企業やマネジメント職の方がいるじゃないですか。これも制度だけだと、本質的にはにんじんに近いと思ってるんですよ。評価のやり方を変えるだけですからね。

にんじんでやる気が出ても、効果は短期的、限定的だと思います。人は恐怖でその時だけは動くんですが、継続性はないんですね。ということは、(飴と鞭、にんじんだけでは)部下を本当には動かせないんだということがよくわかったんですよ。

コントロールするんじゃなくて、メンタリングマネジメントをしていこうというふうに、発想を変えていくことが大事だなと思います。じゃあ、いきなりメンタリングマネジメントをやってみようと言ったって、やっぱり難しい部分があるんです。

働く目的別に分類する、部下の「3タイプ」

じゃあ、メンタリングマネジメントをどのように進めていくのか、僕が実際に現場でやってきたことも含めて、ここで少しだけお話をしていきます。実は、うまくいくチーム戦略のベースになるものにはコツがあるんですよ。

まずは、わかりやすく部下を3タイプで分析しました。部下が数人ならいいですが、何十人、何百人といたら、もう大変じゃないですか。上司って万能じゃないですよね。部下が多いと、個別対応には限界が来るということが分かったんですよ。

だからこそ、「お金が大事」「時間が大事」「キャリアが大事」という、働く目的別に部下を3つのタイプで把握していくと、部下の理解がより進みやすくなるんですね。

これを3つのタイプに分けたのは、過去5,000人の合宿や研修で、何のために生きるのか、何のために働くのかという原点を見てきた経験から、この大きく3つのタイプに分かれるということがわかったんです。まずはこの3つに当てはめていくと、部下を理解しやすくなると思います。

最終的には、お金、時間、キャリアの先にあるものを考えて、部下を理解していこうと考えることがコツです。そこまで掘り下げて理解する努力をしていくことが、実は上司には求められているんですね。今、部下との1on1をされてる方たちが増えていると思うんですが、その時にこういったテーマで話をしてみることが、取っ掛かりとしてはいいのではないでしょうか。

そして、なぜ今こんな話をしてるかというと、コロナ禍で会社に出社しないので、自分の時間が増えたと思うんですね。通勤もしなくていいし、オンラインやYouTube、書籍もそうですが、いろんな人の生き方や働き方、考え方に触れる機会が増えた中で、ライフプランやこの先の人生をどう生きるのかを深く考える人が増えたと思っています。

いかに「部下の人生」と真剣に向き合えるか

実際に、企業もいろんな考え方を打ち出してきていますよね。顕著なのが副業解禁の動き。企業側も「もう自分の面倒は自分で見てくださいね」ということなんですよ。例えば、政府も「老後(に必要な)2,000万円は自分たちで準備してね」と言っている世の中です。

ということは、「自分自身が働く目的は真剣に考えていく」というスタンスでがんばっていく社員さんは増えていくと思います。さっき話した依存型・自立型で言うと、実はそういう人は自立型人材になる素養がある候補なんですよ。自分の人生を深く真剣に考えていく、というスタンスですからね。

上司であるマネジメント職の人たちが、部下の人生を本当に考えて、部下の働く目的を理解して応援していく存在にならないと、部下からどう思われるか。

「この人、ただ(自分よりも)先に会社にいるってだけで上司になってるけど、私の人生のことに全然関心ないし、私の人生にとってなんの価値もない。ただ仕事を教えてくれるだけの人だな」と思われちゃったら、残念ですよね。その状態がずっと継続していったら、最終的に部下から退職願が出る可能性だってあるわけです。

そうなってしまうと非常に残念です。部下の働く目的を知ってそれを満たしていくことは、マネジメント職の人には必ず必要になる要素、姿勢だと思っています。その変革こそが必要ですね。

部下をやる気にさせようとか、にんじんで、人事権で、恐怖で(コントロールする)管理型マネジメントだけで人の問題がなんとかなるんだったら、ここまで上司のみなさんは悩んでないんですよ。決してやり方やテクニックを否定はしませんが、それを上司の自己保身のために使うのか、それとも部下の人生のために使うのかで効果は変わるなと思っています。これは、今回書いた本のベースにある根本的な姿勢です。

これをちゃんと把握して対応ができると、部下は「大切にされている」と感じます。すると、やがて上司やチームのことも知ろうとしてくれますし、だんだん上司やチームのメンバーもお互いに大切にしようというふうになってくるんですよね。人間関係は鏡の法則なんですよ。

マネジャーが軸になってこういう展開をしていくと、社員さんが辞めない、自発的に動く、生産性の高いチームの基盤ができてくるんですよ。

部下の本音を引き出すには、まずは自分が本音で話す

つまり、このチームで仕事をすることが楽しい、充実感がある、仲間との信頼関係が心地良い、気分よく働けるという職場の基盤ができてくると、その職場やチームは社員から選ばれるんですよ。「辞めない」というのは、「選ばれてる」ということですから。

選ばれる上司、会社、職場、チーム作り。こういった視点が必要になる時代なんだと思っています。(書籍の)前半にはそういうことを書いていますが、後半は「部下から大切にされる上司になれ」という内容です。一体感のあるチームで、管理なしで業績アップにつなげるノウハウについて。最後はここに触れて終わりたいと思います。

上司の姿勢についてお話ししてきましたが、部下から大切にされることとはどういうことなのか。みなさんはいかがでしょうか? 本音を聞くには、自分も本音で話そう。これも人間関係の原則だと思うんですよ。上司は自分自身を客観視して、まずは自分の働く目的を分析してみましょう。その上で、部下と対話の機会を持っていく。

そして、そこで「自分自身の働く目的はこうなんだ」という自己開示をしてみましょう。そこから関係の質が変化してくることがあります。「上司は人の上に立っている人間だから、部下にまずいところを見せられない」と思ってる方、いらっしゃるじゃないですか。恥ずかしながら僕も支社長時代はそうだったので、よくわかるんですよ。

そうなると、苦しくなるのは自分ばっかりなんですよね。世の中に完璧な人間はいないわけです。いい面もあれば悪い面もあるのが人間だということも、いろいろな失敗を重ねて理解をしているつもりです。なので、上司の人たちにもそういうマインドになってほしい。

「部下に自分のまずい面を悟られたくないな」と、自分を良く見せようとしちゃうのは、「器の小さい姿勢の上司だ」というふうに見抜かれちゃうんですね。それを変えるために、自分も本音で話していく。そうしたら部下も本音で話してくれるようになるという、単純な姿勢の変換だと思いますね。

そういう上司が、この「5つのステップ」を職場で回せるようになるんですよね。まずは部下がやる気になって、自発的に取り組む、それはやっぱり、上司が刺激を与えているからなんですよ。この状態を継続することが大事です。そのためには、まずこの5つのステップが回る状態を作っていくことを意識しましょう。

管理すべきは「数字」よりも「流れ」

5つのステップが循環しているか、ちゃんと回っているか、流れが途中で切れてないかを意識して確認するようにしましょう。途切れていると行動が継続しないですから、循環しないのでNGです。このサイクルの流れが詰まったり、よどみがないかを管理してほしいんです。管理するなら、数字よりも流れの管理をしましょう。これが、指示なしでも動くチームにするポイントです。

プロセスごとのいろんな手法はあるんですよ。例えば、一般的によく言われているサンクスカードとか、1on1ミーティングをやるとか、10分間ルールとか、いろんなものがあるじゃないですか。そういったものは、職場やチームにおいて最適なものを選択してやればいい。それは「やり方」であって、本質じゃないからです。

本質は、これを回していくことなんです。最初から「ここだけを目指していくのが仕事なんだ」と勘違いしちゃうから、チームのこれらがないがしろにされて、結果として生産性が高まらないです。

自発的に取り組むには、目的に向けてちゃんと取り組みを始められているか。要は自分自身の働く目的です。取り組みができている実感を社員さん、部下ができているかどうか。

働く目的が満たされると、充実感が楽しさに変わってきます。楽しさが募ると価値も高まって、お客さまの「ありがとう」につながって、売上、利益、そして会社からの報酬という形で帰ってきて、さらにやる気が出る。

これを継続をさせていくために、「楽しい」というのはけっこう大事なんですよ。部下のみなさんに楽しさを感じてもらえるように、上司は承認をしてあげてほしいんです。「自己重要感」という、人間誰しも自分自身を重要なものだと思ってほしいし、自分自身でもそう思いたいという概念がありますよね。

部下の「自己重要感」を満たすには、承認することが大切

上司の人たちは、(部下の)自己重要感を満たしてあげましょう。そのためには、部下の働きぶりをよく見てあげて承認をしていくことで、さらに自発性が高まって、仕事に取り組んで、仲間と楽しい経験ができる。価値を高めるように仲間と共同して動いて、部署の垣根を越えて動いていくと、この循環が回っていくようになります。

こういった取り組みを、現場でマネジメント職の人たちにやっていただけるようにと思って、この本の中にノウハウを書きました。ぜひ手に取っていただいて、できることから実践していただけたらうれしいなと思います。

最後に、マネジメント職のみなさんがこういった組織やチームを作れれば、最終的には自分自身の評価も上がります。つまり部下が自発的に動いてくれれば、上司の評価も上がる。そのために、自分自身の働く目的と会社の目指しているものがリンクしているのかを、まずは上司の方たちに真っ先に見直してほしいです。

会社が目指しているものと(自分の働く目的が)リンクしていないのであれば、上司の方が部下に良い影響を与えられるはずがないんですね。まずはそこを見直しましょう。そして自分なりに、働く目的からミッション・ビジョンを見出して、志を明確にしていきましょう。

未来のビジョン、チームのビジョン、組織のビジョン、企業のビジョンをちゃんと部下に語って、その通りに言行一致している上司は、人を引きつける魅力が出ると思います。

個人の理念と会社の理念を一致させる「仕事観教育」

まずいのは、個人の働く目的を利己的に追求していくこと。自分のお金だけ、自分の時間だけ、自分のキャリアアップだけを追求して、企業の理念や目指すビジョンの方向性からずれている状態で部下を放置しているのは、やっぱりまずいですよね。

それだと部下も間違っちゃうし、ただ放置しているだけの甘い上司です。そうじゃなくて、自分自身の働く目的からミッション、ビジョンを見出して、真剣に生きて真剣にマネジメントをしている状態に、まずは自分自身でしていきましょう。

会社の理念・ビジョンは明確にあるはずです。それと自分の働く目的を合わせていくことを、ぜひ自分が見本になって部下に示してあげてほしいです。会社の理念の意味ってこうなんだよ、目指しているビジョンはこうなんだよと、理念の意味を理解して浸透させる。よく言っている「理念教育」や「仕事観教育」ですね。

こういったものを、マネジメント職のみなさんが自分自身で勉強したり、自分自身で話したりできるようになっていくことが、これからは必要になってきます。自分自身の働く目的を実現する最もよい方法が会社です。会社というのは、自分自身が活躍する舞台、フィールドみたいなものですよ。

会社が目指しているものをちゃんと知って、(自分の理念と)矢印がちゃんと合っているし、部下もそのような状態にしてあげる。部下の働く目的を知って、見出させてあげて、それを会社の理念と重なるように丁寧に合わせていく。これが大事なんだと理解して、マネジメントに挑んでほしいと思います。

ということで、今日はお話させてもらいました。ぜひ実践してください。部下を大切にすると(上司も)大切にされるんだという、この根本の原則が実感できると思います。以上が今日のお話です。ありがとうございました。