「伝える」ではなく「伝わる」コミュニケーションを目指す

堀口友恵氏(以下、堀口):今日は「伝える」イベントということで、越川さんが伝える際に意識していることにフォーカスしながら話をしていきたいと思います。テーマを3つご用意してるんですが、その後2人でディスカッションをしながら進めていただきたいと思います。

まず1つめ、「メンバーへ伝える」というテーマに入っていきたいと思います。冒頭の自己紹介で越川さんからもありましたが、国内の大手企業からグローバル企業、そしてベンチャー企業とさまざまなご経験をされて、今は会社の経営をされています。

リーダーとして、これまで自分の部下に対してどういうことを意識してきたか。あと、外資か国内かによって会社でさまざまなやり方があったと思うので、そんな時にどういうことを意識されていたか。まず最初に、これをおうかがいできればなと思います。

越川慎司氏(以下、越川):ちょっとお題とずれちゃうかもしれません。あまり偉そうなことは言えないんですが、「伝える」じゃなくて「伝わる」にするのが僕の戦略ですね。

伝えるって、主役は「伝える側」じゃないですか。言いたいことや伝えたい内容を部下に押し付けちゃうのは、上司が主役のコミュニケーションスタイル。「伝わる」だと、相手が主役なんですね。コミュニケーションの目的は相手を動かすことだと思うので、相手主体のコミュニケーションで「伝わる」を目指す。

相手がホットコーヒーが欲しければホットコーヒーを出すし、水が飲みたければ水を出す。これが伝わるコミュニケーションであり、そこから共感が生まれて、相手を思いどおりに動かすことができると思います。相手主役の「伝える」を目指すというのが、僕の答えですかね。

堀口:ありがとうございます。今びっくりしたのが、鎌利さんも研修資料で最後にコーヒーの写真を出していて。「『コーヒーを下さい』と言って、コーヒーが出てくるのが伝わるプレゼンだ」という話をよくされていると思うんですけれども。

越川:本当ですか。これぞ偶然の出会いだと思います。

前田鎌利氏(以下、前田):いや、うれしい。この前、小学校で同じことをやった時にそのまんまコーヒーを出したら、誰にも伝わらなかった。小学生はコーヒーを飲まないもんね(笑)。

越川:確かに(笑)。

前田:「コーラに換えればよかった」と思って(笑)。「のわーっ、伝わらなかったなーっ!」って後悔したんですが、やっぱり相手に合わせるのは大事ですよね、越川さん。

「事後行動デザイン」を設計しないと、プレゼンはうまくいかない

越川:そうですね。コミュニケーションは基本的に相手が主役だと思っているので、そのためには、プレゼンテーションで目線を合わせるといったテクニックが必要になってくるかなと思います。基本的には説得するとか挑戦させるとか、相手を動かしたいわけじゃないですか。ただ、事前にそれを設計しておくべきだと思うんですよ。

前田:なるほど。

越川:約2万人を調べたら、PowerPointを作成した後に口頭で説明しているパターンが85パーセントと多かったんですね。メールやチャットとかで送って、あとで会議で説明する。それがプレゼンテーションだと思うんです。

受講生には「事後行動デザインを必ず作りなさい」と言っているんですよ。説明した後に、相手にどう動いてほしいか。説明後のアクションを設計しておかないと、PowerPointはうまくいかないよっていう説明をしています。相手を主役とした行動デザインをするという意味では、やっぱり相手が主役で「伝わる」ことが重要なのかなと思います。

前田:ちなみに越川さんの中で、相手を動かすために相手を見極めるやり方やコツってありますか?

越川:そうですね。例えば、プレゼンや提案書とかで提案するとか。商談で言うと、お客さんを知っていたほうが絶対に成約率が高いんですよ。調べられるんだったら調べたほうがいいんですが、新規顧客や部下として新人が入ってくるとかだと(相手のことが)わからないじゃないですか。

そしたら何をするべきかと言うと、対面コミュニケーションをする前に、1分間その人のことを考えて興味・関心を持てるかどうかだと思います。「どこから転職してきたのかな」「この人はどういうことが働きがいなのかな」とか、興味・関心を持つ。興味・関心はコミュニケーションに現れると思ってるんですよ。

内発的動機といって、自分に興味・関心を持ってくれているかが相手のモチベーションなんですね。なので「あなたに興味・関心があるよ」というのを示すためには、事前に調べてみたり、考え込んで会話をスタートすると、相手と共感しやすいかなと思います。

日本マイクロソフトは「英語がしゃべれない人」のほうが多い

前田:そうですよね。相手のことに興味を持つってすごく大事ですよね。興味を持てないと話も進まないし、聞けないし、聞いてくれないし。役職がついていない時なんて、はなから相手が無視するんですよね。

越川:(笑)。

前田:「お前みたいなぺーぺーなんかと話したって意味ないから」「部長呼んでこい!」みたいな。そういう時は、僕よりも部長を連れていったほうがいいなと。肩書きで見てくる方とかもいますもんね。そういう時も、なんとかしたいなとか思うんですけれども。

外資系の企業と国内のドメスティックな企業だと、けっこう違うんじゃないかなと思うんですが、越川さんはマイクロソフトで働いていた時はどうでしたか?

越川:そうですね。ただ、マイクロソフトは思っているほど外資っぽくなくて。日本には社員が2,000人ぐらいいるんですが、英語がしゃべれない人のほうが多いですからね。

前田:そうなんですね。

越川:本社とやり取りをする人は英語をしゃべれますが、「英語がしゃべれる」「毎回スタバのでかいカフェラテを持ちながら仕事をしている」というのは妄想ですね。どっちかというと日本企業ですからね。

前田:(笑)。

越川:ただ、やっぱり上司がグローバルな人たちだったりするので、努力やプロセスを説明するよりかはアウトプットとかをロジカルに説明しなきゃいけないので、伝え方・伝わり方のトレーニングは外資のほうが勉強にはなったなと思います。

堀口:ちょっとテーマとずれてしまうんですが、今日は越川さんのプレゼンにみなさん引き込まれて、20分間画面にキュッと寄っていたかと思うんですけれども。

越川:それはもう、ハードルが高くなっちゃいます。もっとがんばります。

プレゼンは「最初の1分」と「最後の5分」に注力せよ

堀口:ありがとうございます。今回はプレゼンテーション協会のイベントということで、コミュニケーションとはまた別に、越川さんがプレゼンテーションをする際に、相手に伝わるために意識されていることやアクションなどがあれば、ぜひ教えていただきたいなと思います。

越川:ありがとうございます。科学的に分析してきたので、そのデータを口頭でご説明します。例えば、60分間のプレゼンテーションがあったとするじゃないですか。スタートから終わりまで60分のうち、視聴者や聴講者、もしくは意思決定者はどのパートを覚えていると思いますか? 

24,000人の方に記憶テストをやったら、すごく典型的な答えが出てきたんです。一番記憶に残ってるのは、圧倒的に最後の5分です。次に記憶に残っているのは、最後の10分じゃなくて最初の1分です。つまり、途中の50分近くは覚えてないんですよ。

人間は1日で7割を忘れますから、戦術として正しいのは、最後の5分と最初の1分にエネルギーを傾けるのが正解だと思うんですね。

行動実験でわかったのが、最後の部分ではおそらくまとめスライドを作りませんか? トップ5パーセントのリーダーがまとめスライドを作っている確率は5倍以上だった。なので、これは作ったほうがいいです。Call To Action、相手に求める行動をまとめスライドに必ず入れてください。

そこに期日を入れるんです。「いつまでに」という期限を入れると、行動を起こしてくれる人がなんと1.5倍に上がります。特に、お客さんとの商談では質疑応答をやります。質問が出れば出るほど、9ヶ月以内に物を買ってくれる確率が高まっていきます。

これは相関関係にあるんですが、相手に質問させたほうがいいんです。ということは、プレゼンで100パーセントしゃべらなくてもいいということですね。ちょっと隠しておいて、質問させる。

「何か質問ありますか?」「シーン……」っていうのは、うまくいかないやつです。「他のお客さんからこういうくだらない質問があるんですが、こんなのでどうですか?」と言うとハードルが下がるので、どんどん質問が出ます。で、買ってくれます。期限入りまとめスライド、それから質疑応答で質問させる。これが(プレゼンの)最後の5分の使い方ですね。

NGワードは「本日はよろしくお願いします」

越川:前田さん、最初の1分の使い方で商談成約率を下げてしまったNGワードは何だと思いますか?

前田:最初ですよね?

越川:一言目です。実は僕も使っちゃってました。

前田:「本日はよろしくお願いします」みたいな? 

越川:あー、正解!(拍手)

前田:やった。よかったー! 

越川:さすがプレゼンテーション協会代表理事。

前田:(笑)。

越川:これは偶然なんですが、部下と上司で1on1をやる方はいると思うんですが、一言目で「よろしくお願いします」は絶対に禁止なんです。なぜかと言うと、「よろしくお願いします」と言った瞬間に、相手が怖がっちゃうんですよ。営業でいうと「売り込まれる」と思われます。

じゃあどうやって始めるかというと、例えば1対1で部下に「よろしくお願いします」って言ってたら、これは1on1じゃなくて評価面談というんですよ。だから(部下は上司に)悪いことを言わないようにしちゃうんですね。

何がいいか、いろいろなパターンで調べたんですよ。そしたら一番よかったのが、感謝やねぎらいから入ること。「いつもありがとうね」「今日はお時間を取って、ご参加いただきありがとうございます」。これ、ハードルが低くなりますよね。

あと、部下と会話する時に一番いいのは間接承認です。「前田さん。堀口さんがすごく褒めてたよ」って、なんかうれしくないですか?

前田:めちゃくちゃうれしいですね。

堀口:(笑)。

越川:他の人を使って褒めると、2人ともハッピーなんですよ。「僕のこと見てくれたんだな」って。部下に使う時は、間接承認は鉄板です。セミナーでは、「今日は遅い時間にありがとうございます」と、共感やねぎらいから入るんですね。「よろしくお願いします」は、ぜひ明日から禁止にしていただければなと思います。

プレゼンで発表するのは、伝えたい内容の「7割」に留める

前田:これ、みんなメモしまくりじゃないですか? カメラオンで(参加者が)誰も目線を上げてこないですよ。

堀口:そうですね。

前田:みんなペンが走ってる。すごいね。確かに、間接承認いいね。

堀口:鎌利さん、これから使いたいと思います。

前田:ありがとうございます。ちょっとテンション上がるわ。

堀口:越川さんから「質疑応答が大事だ」という話が出てきたと思うんですが、鎌利さんも「プレゼンの決裁率を上げるには質疑応答が大事」とおっしゃってると思うんですが、通ずるところがありましたね。

前田:本当にそうですよね。僕も質問されると答えられるんですが、何の質問もないと、決裁者からすると「興味ないのかな」というふうに判断したり。

「なにか質問ありますか?」と聞く前に向こうから質問が出てくるぐらいのボリューム(の小ささ)でお伝えせず、全部の答えを並べてからだと、クライアントさんからは本当に嫌な質問しか出てこないことが多かったんですね。

それこそ、価格を言わなかったら価格を聞いてくれるので、(伝える情報の量は)それぐらいでもいいぐらい。僕は本当に7割ぐらいしか伝えないようにしていたんです。

越川:いいですね。

前田:伝えれば伝えるほど、後で自分の首を絞めちゃうので。伝えすぎないというのは、資料に書き込みすぎないのとたぶん一緒ですよね。

越川:そうですね。例えば、PowerPoint1スライドに300文字を入れても読めませんので、これは自己満足になっちゃいます。鎌利さんのように、あえて質問させたい項目を用意しておくのはいいですよね。年々、質疑応答がすごく重要になってきているなと感じています。

「共感・共創時代」への突入

越川:今日もいろいろプレゼンをやってたんですが、特にコロナの前から時代が大きく変わったと思っていて。お客さんはぜんぜん偉くなくなりましたし、共感・共創時代に突入したと思ってるんですよ。共に感じて、共に創る。お客さんと複雑な課題を一緒に解決していくフェーズだと思うんですね。

だったら一方的に伝えるんじゃなくて、対話にしなきゃいけない。プレゼンテーションで唯一対話なのは、質疑応答だと思うんですよ。なので、対話を促すような共感・共創を生み出す質疑応答は、けっこう戦略的には準備されたほうがいいのかなと思いますね。

前田:なるほどね。dofという会社さんがあって、そこの齋藤太郎さんともすごく仲良くしているんです。彼が本を出されたんですが、越川さんがおっしゃったとおり、彼はプレゼンで資料を使わないんですよね。話をしながらプレゼンを一緒に作っていく、まさに共感・共創のプレゼンテーションを彼は目指されています。

まさにそんな感じで、ビジネスを作り上げていっているな。ただのコミュニケーションデザイナーじゃないなという感じなんですけれども。でも、商談スタイルもちょっとずつ変わってきましたよね。

越川:たぶん、お客さまも自分の課題がわからなくなってきちゃっていますし、解決手法もさらにわからなくなってしまっています。なので「やれ」ではなくて「協力してください」というモードなんですね。

プレゼンターの方も、できないことはできないと言って弱みを見せたほうが、実は共感・共創がしやすかったりします。強みと弱みを掛け合わせるという観点で、お客さんとの対話の時間を増やすことが、結果的にはビジネスにつながりやすいんじゃないかなと思います。