去年に引き続き、働くの“当たり前”を考える

渡邉華子氏(以下、渡邉):みなさま、ご来場いただきありがとうございます。今年も司会は私たち20代女子と思いきや、松川さん! お願いします。

松川隆氏(以下、松川):今年もよろしくお願いします。このメンバーでやっていきたいと思っているんですけど、実はこのセッションは去年も同じメンバーでやらせていただきました。今日はその続編です。

会場のみなさんにおうかがいしたいんですけど、去年のセッションを見た、あるいはネット上にあがっているレポートを見た方は、どれぐらいいらっしゃいますでしょうか?

(会場挙手)

ありがとうございます。ざっと見たところ、3割4割の方々が、去年のセッションを見て参加していただいているようですね。その認識で私たちも進行していきたいと思います。よろしくお願いします。

最初に私の方からさらりと、メンバー紹介を兼ねて、それぞれの社会人歴を時代背景も含めて紹介していきたいと思います。まず一番年配者の私から。

1996年に社会人になりました。私が大学を卒業して最初に入ったのが銀行です。男性・女性で言うと、総合職は9割9分が男性で、同期に女性1人だけでした。そんな環境で社会人デビューしまして、そして40歳の年にサイボウズに入社しました。

自分が男性ということもあり、そんなに意識を高く持ってるほうじゃないんです。なのでこういうテーマの話をしても、聞いて初めて気づくような「おぉ、そうか……」みたいな学びがすごく多かった。でも自分的には普通のおじさんだと思っているんですけど。よろしくお願いします。

サイボウズ創業初期から人事制度を整えてきた

松川:続きまして中根さん。中根さんは、1999年に大手エネルギー会社の総合職として社会人デビューしてますよね。

中根弓佳氏(以下、中根):はい。当時総合職の女性はだいたい10パーセントぐらいですね。

松川:そうですね。僕らの時よりは、総合職における女性の割合は少しずつ増えてきた時代です。サイボウズに入社したのが2001年ですね。サイボウズが創業して4年目の時ですか? 

中根:そうですね。

松川:20年いらっしゃる。

中根:長いですね。もう辞めたほうがいいかもしれない。

松川:いやいや、そんなことは言ってないんですけど(笑)。サイボウズに入社してご自身も産休・育休を取られました。これもサイボウズの中でもかなり早いほうですよね? 

中根:(サイボウズの中で)4人目のママさんですね。

松川:サイボウズもベンチャー企業の頃であまり制度も整ってない中で、自分が4人目として産休育休を取って、制度的に「うーん、これどうなのかな」と感じたところを、人事の担当として一つひとつえっちらおっちらと整えてきて今があるんですよね。

中根:えっちらおっちらと。

松川:今は執行役員人事本部長の中根弓佳さんです。

中根:よろしくお願いいたします。

松川:それから時を経て、僕たちと15歳から20歳ぐらいの歳の差があるんですけど。2人は2014年、2015年に新卒でサイボウズに入社をしてきてくれています。その頃はサイボウズもまだそんなに有名じゃない企業でしたね。

中根:ぜんぜん有名じゃないです。

松川:そんな中で、数多ある会社の中から、わざわざあまり有名じゃないサイボウズに入ってきてくれた。そんな環境の2人です。山田幸さんと渡邉華子さんですね。最近は2人あわせて“やまだはなこ”なんて呼んでます(笑)。

今日はこの4人のメンバーでお送りしていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

一同:よろしくお願いします。

「サイボウズで働く先輩ママを見ていると、自分の将来が不安になります」

松川:さっそく去年の続編ということで、去年の振り返りダイジェストを“やまだはなこ”さんからよろしくお願いしたいと思います。

山田幸氏(以下、山田):はい。去年のセッションはこの一言から始まりました。「サイボウズで働く先輩ママを見ていると、自分の将来が不安になります……」。

松川:これ、中根さんがクラクラしたやつですよ。

中根:いや、もうショックでしたよ。サイボウズに入って十何年もいろんな人事制度を変えて、働く人も働くママさんも女性も男性も複業する人も、いろんな人が働きやすい環境にしていこうと思ってやってきたけど、「えっ、今もそうなの!?」ってショックでした。

山田:その節はすみませんでした。

松川・中根:(笑)。

山田:この一言を、働き方改革先進企業で「働くママ」に優しいイメージのあるサイボウズ人事本部長の中根さんに、私たちが言ってしまったのがきっかけでした。これをきっかけに、20代女性が抱えるキャリアや人生の不安について、ここにいる4人で深堀りしたのが去年のセッションになります。これを言った理由があるんですよね。

渡邉:はい、不安になった理由が3つあります。まず1つめが、私たちが新人時代に、「先輩のママさんのほうが新人より給与が低いケースがある」と知ったこと。

2つめが、どんどん私たちも年齢が上がってきて、ちょうど同期が産休に入ったり産休から戻ったりしているんですけど、時が流れても、私たちの同期も同じように給与に不安があるという話を聞いたこと。

3つめが、お子さんがいらっしゃる社員の方って、どうしても途中で抜けなきゃいけなかったり、時短勤務で早上がりしたりする時の申し訳なさそうな感じが印象的だなぁと思っていました。

「私たちも子どもができたらこんなふうに働くのかな」とか、「新人よりも給料が低くなってしまったらどうやってモチベーションを保てばいいのかな」って不安になっちゃったんですよね。

「時短で在宅の女性は働く意欲が低い」とみなされている

山田:しかも「私たち不安なんです」って先輩ママさんたちに言うと、「いやいや、でも私たち働かせてもらっているだけでありがたいから」って、みんな口を揃えて言うんですよ。

今私たちは産休前で、スキルを上げて給与を上げて一生懸命働いて……って考えているんですけど、子どもを産んだ瞬間に「働かせてもらっているだけでありがたい」と思いながら働かなきゃいけないんだと思うと、この先自分はどうやってモチベーションを保つんだろうと不安になりました。

渡邉:さらに私の女性の友だちが、結婚してから転職活動をしたんですが、転職エージェントにこんなことを言われたそうです。「女性は結婚したら次は出産でしょ。そうすると産休に入ったり辞めちゃったりするから、紹介できる企業がかなり限られる」と。こんな話を聞いて、さらに不安になりましたよね。

山田:これは本当なのかなと思って、去年私たちでアンケートを採りました。働く20代から50代、男女400人に「どちらのほうが働く意欲が高いと思いますか」と聞きました。すると、3人に1人が「時短よりもフルタイム」。3人に1人が「在宅より出社」。2人に1人が「結婚したばかりの女性よりも、男性のほうが働く意欲が高いと思う」と答えたんですね。

理由を見てみると、「そりゃそうでしょ」とかしか書いていない。これは逆を言うと、「時短で在宅の女性は働く意欲が低い」とみなされているんだなと思ったわけです。子育てしながら働くママたちは、時短で在宅で女性の方が多いと思うんですね。私たちもそのうちそう思われるようになるんだなと思いました。

人生を逆算してしまう20代女性のリアル

山田:こういう社会で生きていくにはどうすればいいんだろうと考えると、次に「産休前にできるだけ自分たちの給与とかスキルとか、キャリアの水準を高めておけば、産休後に気持ちよく働けるようになるんじゃないかな」と考えるようになるんですよね。

これは自分たちだけではなくて、自分たちの周りの先輩も同じように考えていることがわかりました。当時25歳の先輩TさんとYさんは、こう言っていました。

「産休後に会社の居場所を確保するためには、産休前にリーダー以上の肩書きをつけないといけない。産休に入る前にバリバリ働いて給与を上げないといけない。リーダーになるためには、他社経験を積まないといけない」。こう言ってサイボウズを転職していくんですよ。

こういう先輩たちが自分たちの身近にいるので、次は自分たちの番なのかなと。自分たちも転職しないと、満足に働けないのかなと思うようになるんですよね。

渡邉:私たちはすごく生き急いでいるというか、不安があるんです。同世代の女性が何人か集まると、よくこんな話をします。

例えば仮に30歳で第一子を出産したいとなると、そこから2年前には結婚をしておかないといけない、その2年前にはお付き合いを開始しないといけない、その1年前には出会っておかないと……というように、何も決まっていないのに人生を逆算して「あぁ、もう時間がない」って焦ってしまう。

同じことが仕事でも言えて、例えば30歳で産休に入るとなると、その2年前までには仕事で成果を出して肩書きをつけて、周りから「産休明けても戻ってきていいよ」と言われるようにしなきゃいけない。そのために、その2年前にはスキルを伸ばして転職しないといけない、仕事を覚えないといけない……というように、逆算をしちゃうんですよね。

スライドに文字がすごく多いんですが、子どもを産む前にやらないといけないことがたくさんあるような気がして、焦っちゃうんです。そういった話を去年はお2人に聞いていただきましたね。

セッションを受けて社内外から予想外の大反響

松川:思い出してきましたね。

中根:思い出しますね。私も、学生で就職活動する時にこれを考えました。就職してからも考えることはありましたね。

今は人生三部作ではなくて、「人生100年時代」と言われています。勉強して働いて、あとはリタイアという三部作ではなくて、人生はいろんなことが伏線的になっていくんだと、リンダ・グラットンさんもおっしゃっていますよね。

さらにサイボウズの中で多様な働き方ができる制度も作ってきているにも関わらず、やはり出産や育児が特別なものになっていて、若い女性たちも産む前のことを逆算して焦っているんです。そう考えざるを得ない環境にしてしまっていることがショックでしたね。

松川:本当にいろんなことを考えさせられました。今はダイジェスト的に振り返ってもらいましたけど、もう少し詳しく知りたい方は、ぜひネット上にもまとめが載ってますんで、チェックしてみてください。

去年のセッションを受けて、社内外にもいろんな影響・反響があったんですよね。

山田:はい。まずは社外の反響です。当日のレポートをTogetterでまとめたら、閲覧数が195,000PVありました。Togetterには毎日いろんなまとめが投稿されるんですけど、その中でもかなり上位でした。簡単に言うと、195,000人の方がなにかしらこの記事に対して反応してくれたということです。自分たちでもこんなに反響があると思っていなかったので、びっくりしましたよね。

渡邉:通知が鳴り止みませんでしたね(笑)。

山田:この中身を見てみると、先ほどの「女子の人生逆算メモ」について、共感の声がかなり集まりました。

「わかる」「リアル」とか、「仕事のキャリアを積みたい女子なら、大抵の人は考えると思う」とか、「私も新卒1年目からリーダー経験を意識して人生計画を立ててました」といった声をたくさんいただきました。

社内から出てきた、次につながるうれしいコメント

渡邉:社内からも反響がたくさんありまして、やはり同年代の女性社員からは共感の声が集まりました。あとは、「産休から戻ると新人より給与が低くて、なかなか言い出せなくて悲しくなる時があったけど、思っていることを言ってくれて嬉しかった」というような共感の声も多かったです。

山田:身近にこんなに悩んでいる人がいるなんて気づいていなかったので、びっくりしました。

渡邉:私たちだけじゃなかったんだなと思いました。先輩社員からは、「私たちが若い女性を不安にさせちゃってたんだな」とか、「働きやすいようなバトンを私たちがつながないと」とか、お給料の話も「まずは自分たちがどんどん天井を上げていかないといけないな」といった、次につながるようなうれしいコメントをいただきました。

山田:男性社員からも声をいただきました。ほとんどが「女性ってこんなに大変なんだ、ぜんぜんわかってなかった」という声でした。松川さんも初耳という感じでしたよね。

松川:本当ですね。自分が男性だということもあって、まったく気づかない話だったんですけど、すごく学びがありました。同年代の40代の女性と話をすると、「若い人たちのために私たちももうちょっとがんばらなきゃいけない」って言っていて、私も「そうか、そうだよな」って思いました。自分のためというよりは、次の人たちのためにもうひとがんばりしなきゃいけないんじゃないかなと思いましたね。

こんな社内外の反響を受けながら、サイボウズの中で具体的にアクションにつながった例があったんですよね。

渡邉:大反響があったおかげで、人事部主催でいくつかの制度などに大きな変化があったのでご紹介します。

給料の不満を解消するために、復職前のコミュニケーションを改善

渡邉:まず1つめに、産休育休の復帰時の給与面談のコミュニケーションに変化がありました。中根さん、これはどういう変化があったんですか? 

中根:お二人の話、あるいはその周囲の若い女性の話を聞いて、不安・不満の1つとして「お給料」があるんだとわかりました。ただ、そのお給料への不満の声は、復職が決まった時よりも、復職して働き始めてからいろいろ出てくるんですよね。そうであれば、あとから不満が出てくるような決め方じゃなくて、働き始める前にもう少しマネージャーと深くコミュニケーションをしてもらおうと。

復職っていろんな仕方があるんですよ。15時にあがる人もいれば、17時まで働く人もいるし、この日は在宅にしたいという人もいます。本当にいろんな人がいるんですね。なので復職する時は「こんな働き方をしたい」と希望を出して、それに対してマネージャーが「じゃああなたにはいくらで」とお給料の提示をするんです。

これまではそれでおしまいだったんです。でもそうではなくて、「こんな働き方でこんな業務をするならいくら欲しいです」ということもセットで、本人から希望を出してもらうようにしました。マネージャーはそれを前提にお給料の案を作って、最終的には本人とコミュニケーションをして決めます。決定する前に、きちんと両者のコミュニケーションを深くしましょうとマネージャーにお願いをしました。

渡邉:お金の話って、自分からはなかなか言い出せないので。

松川:言いにくいですよね。

渡邉:こういう機会が人事部主導で決められてあると安心できるので、すごく大きな変化かなと思います。

見えない不安を解消するために、「キャリアのダイアログ」を実施

渡邉:もう1つ大きな変化がありまして、キャリアについて知る機会が増えました。社内イベントが開催されたそうですね。

中根:もう1つ不安にさせている要素として、まだ子どもを産んでもないのに「産んだらどうなるんだろう」という、「見えない不安」が大きいんじゃないかなと思いました。でもサイボウズの社内には、すでに産んで復職をして活躍をしている女性がたくさんいるんですよね。

そういう人たちに、その時にどんな選択をして今どう活躍をされているのかを話してもらうことで、「見えないもの」が少し見えるようになるんじゃないか、解像度が高くなるんじゃないかと考えました。自分がそうなった時には、こういう選択をすればいいんじゃないかということがわかれば、不安が少し消えていくんじゃないかと思って、復職した人たちにどんなキャリアを歩んできたかを話してもらう会をやりました。

今までのキャリアについて30~40代の女性に話してもらったんです。やってみて思ったんですけど、キャリアについての悩みって、別に20代女性だけじゃなくて、私のような40代女性もいろいろ考えるわけですよね。「親の介護はどうしよう」とか「今後のキャリア」をどうしようとか。

そう考えると、別に20代女性だけじゃなく、松川さんのような40代男性も、性別や年齢に関わらずいろんなキャリアの選択があるんだと。多様なキャリアの中の1つに「子育て」があるんだとわかってもらえると、不安も不安じゃなくなるんじゃないかと。

多様な中の一つの要素でしかないんだと思ってもらえるかもしれないなと思いまして、20代女性向けのキャリアだけじゃない、全世代の「キャリアのダイアログ」を開くようになりました。

松川:そうでしたね。

中根:松川さんにも話してもらったんですよね。

松川:そうですね。話す立場で参加させていただきました。40代後半なので、あと残りどれくらい働けるかわからないんですけど。

中根:まだまだお願いしますよ(笑)。

松川:話しながら、みなさんの参考になったのかなと思う側面と、自分のこれからを自分で考え(るような側面もありました)。周りからもフィードバックしてもらったり、すごくいい場だったなと思いましたね。

中根:おもしろかったですね。

コロナで「出社する当たり前」が「在宅する当たり前」に

松川:確かに、今ご紹介したサイボウズで起きた変化は、人事部が旗を振ってやったことが多かったんじゃないかと思います。この4人でセッションの企画もずっと一緒に考えて、中根さんという人事本部長の立場の人が入ったから、あるいは社内にもポジティブなフィードバックが多かったから、人事部が旗を振りやすかったという側面も確かにあるんじゃないかとは思うんです。

でもその他にも、変化のきっかけになったものとして、こんなことも言えるんじゃないかなと思うんですよね。

コロナで私たちも「出社する当たり前」が「在宅する当たり前」にずいぶん変化しました。そういうことを経験しながら、人事部ではなく社員の一人ひとりがこの「当たり前が変わったぞ」というところで、見え方が変わるきっかけになったのかもしれないですね。

山田:めちゃくちゃそう思います。私も今「出社するのが当たり前」と思わなくなりましたし、「在宅する選択肢があって当たり前」と思うようになりました。

在宅勤務が、働くママの働き方の変化を後押し

山田:今1つエピソードを思い出したので、ここで紹介させてください。在宅勤務が働く変化を後押ししたエピソードです。

30代のHさんのお話になるんですけれども、1年前までは私もHさんも出社するのが当たり前の環境で働いていました。特にHさんは子育てするのもあって、人より在宅勤務する頻度が多かったんですね。それに対して、かなり引け目を感じていたので、給与やキャリアに不満があっても、上司に相談できずにいたそうです。給与が低いのでどうしようかなと思った時に、複業を始めて給与を補填しようかなとまで思っていたそうなんですよ。

それが、現在は自分のキャリアや給与について上司に相談できるようになっているそうなんですね。

「どうしてなんですか?」と理由を聞きました。1つは、去年のセッションを聞いてから、どんなにマイノリティな立場であっても自分で声を上げることには躊躇する必要がないんだと。間違っているかなぁと思っても、声を上げることで新しく気がつくことがあることに勇気づけられたと言っていました。

もう1つが、在宅勤務がみんなの当たり前に変わったことで、引け目を感じなくなったから声を上げられたと言っていました。

これはすごい変化だなと思っています。「上司に相談しただけで、結果はどうなったの」って気になると思うんですけれども、結果的に仕事の内容や給与も上げることができたと言っていました。

松川:報酬に対する満足度はすごく高まったということなんですね。

山田:そうですね。

松川:じゃあ僕らはその背中を押したということで、去年のセッションをやってよかったということですね。すばらしい!

中根:本当に、2人ともよく教えてくれましたよ。有難い。

松川:すばらしいじゃないですかね。