考える、4つの問い

松田雄馬氏(以下、松田):ようやく本編でございます。今日考える問いは、4つあります。3つのほうが据わりがいいんですけれど、4つになりました。

しかも1つめは、(スライド上で)④から始まるんで、ちょっと注意してくださいね。

「場の共有は必要?」という問い。いわゆるコロナウイルス感染症が広がって、1年が経ってしまいますけれども。その間、みなさんのお仕事環境も含めて、オンライン化が急速に進みました。

オンライン化で「やっぱり(場の共有は)あったほうがいいんじゃないの?」というのは、みなさんひしひしと感じている部分もあると思うんですけれども、逆にオンラインですごく便利にもなったところもあって。じゃあどっちなの? というところを、まず入り口として考えないといけないと思います。

もう1つ、オンラインでのコミュニケーション、オフラインでのコミュニケーションなんですけど、それって一概にオンラインだけともオフラインだけとも違うような気がする。そこにもしコミュニケーションの軽さがあったら、軽いコミュニケーションと重いコミュニケーションみたいに考えられるかもしれないですよね。

3つめ、実はここで全部つながっているんですけれども、主体性がキーワードになってきます。「主体性って必要なの?」みたいな。特に最近、教育の分野でも「主体性のある深い学び」とか言うらしいですよね。なんて浅い言葉なんだと思いますけれども。とにかく主体性って、実は今の時代、すごく大きなキーワードなんです。ここを知能の観点から掘り下げていきたいなと思います。

最後に「AIって人間を超えるの? それとも道具なの?」と、ここも全部につながっています。オンラインで全部できるっていうなら、それこそ機械にやらせればいいじゃないかみたいになってきそうな気もしますけれども。

人間と置き換えられちゃうものなのか、それとも単純に便利に使うものなのかを考えることによって、全部つながってくる。AIって仕組みは単純だけど、それが今の社会の基盤にもなっているという無視できない部分もあります。

おそらく身体に強い方と、逆に頭というか、理系的なところ(に強い方)は、感覚的にちょっと追いつけないところもあるかもしれないんですけれども。今日はこれをサクッとお伝えしますんで「あ、なるほどね」となって、全部つながってくるところをぜひ体感していただきたいと思います。

一番最初に、サクッとAIを理解するところから始めて、一番最後の「場の共有」に移っていきたいと思います。

「10分でわかるAI講座」

松田:まず「10分でわかるAI講座」。これを聞けば、みなさんAIエキスパートになりますから。その後「AIには『身体』がない!」というところから、主体性について考えていこうと。

先ほどお話ししたコミュニケーションの軽さ・重さなんですけれども、じつはAIが学んでいるであろう記憶には、重い・軽いが(あると)わかってます。それを理解すると、じつは「自分って何なんだろう」「意識って何なんなんだろう」みたいなこともわかってくると。

こうやってみると、いい目次ですね。最後、ようやく“場”の話ができるんですよ。なんとなくオフラインのコミュニケーションが大事じゃないの? って思っているのが、ここまでいくと「あぁ、もうそれはこういうことですから」みたいに流暢にしゃべれる。

心配なのは、時間内で、この盛りだくさんの内容を、すべて押さえられるのか、ですよね。そこは、松田ですから。「何を言うてんねん」って感じですけど、がんばっていきたいと思います。

最初の10分でAIの基本がわかれば、(その後の話が)わりとスッと入ってくると思うので、スパスパスパッといきたいと思います。

適宜、時間区切ってうまいことやれればなと思います。はい。ドラえもんなので。がんばります。

AIとは脳のようなもので、3つに分かれる

松田:よしがんばるぞ。「10分でわかるAI講座」ということで、最初に「AIって何なの?」ということをよく言われるんですよね。僕も「どういう説明がいいのかな」ってモヤモヤとしていた時期があったんですけど、昔の研究者がだいたい分野を区切ってくれているんですよ。

ふんわりと言うと、AIって脳のようなもので、その脳のようなものは3つに分かれると、昔の偉い人が言ってくれているんで、そのまま踏襲してみようと。今日はとりあえずこの3つを覚えてください。

まず1つめは「認識」。要は目で見たり音で聞いたりですね。2つめは「分析」。頭で考えることですね。最後は「制御」。身体を動かしたり、身体だけじゃなくて、例えば家族とか、組織・会社組織を動かすことを言います。この3つだけなんですよ。

しかもこの3つは、一言ずつで説明ができちゃいます。

「AIが○○を認識」する仕組み

松田:まずは認識、この呪文をとりあえず今日は覚えて帰ってくださいね。「線を引く」。どうだ、完璧だろうという感じですけれども。みなさんも「あー、なるほどね」というふうになった方もいらっしゃるかもしれないです。磯野(真穂)さんも、もう「あーなるほどね」というような顔をされていますけど。

何のことか。大丈夫です。真面目に話します。例えばおいしそうなイチゴがありますよね。農家の方に「カメラを置いて、自動的にイチゴがいい感じに熟れてきたら教えるような仕組みを作りたいんだよね」と言われたとします。

まずは、おいしいイチゴとまだ熟れてないイチゴの2つのイチゴの画像があったとします。これをたくさん集めてくるとしたら、なんとなくこんな感じになるワケですよ。

例えば色とか形とかいろんな要素で、わわわーっとイチゴをプロットしていくと、おいしそうなイチゴはこの辺で固まって、そうじゃないイチゴはこの辺で固まってみたいな。

そうすると、ぴしゃっと線を引くことができるワケです。この線を引くというのが、すごく大事です。線が引かれると、新しいイチゴが来た時に「そのイチゴはこっちですか、こっちですか」とすることで、まだ熟れてないのか、もう熟れたのかがわかる。

これが「AIが○○を認識した」といわれている仕組みなんですね。データを集めてきて線を引くだけでこれができるようになると。じゃあこの仕組みでいったいどんなことができるようになったのかが、次のページです。

じゃん。認識の事例です。例えば今みたいに農家で使うことができます。他にも暗闇で人を見つけたり。「人がいる・いない」というふうに、線を引けばいいワケですよ。遭難者、これも一緒ですよね。それから自動運転なんて、今たくさんのところでやられていますけど「車がいる・いない」「歩行者がいる・いない」に分ければいいと。

それを潜水艦につければ似たようなこともできる。あと工場で、ちゃんとした製品なのかそうじゃないのかを見分けることもできるし、人間の表情の笑ってる・笑ってないも、同じような仕組みでできる。

あと最近は、スポーツなんかでも非常に使われていて。いいフォームとそうじゃないフォームから、どの辺が違うのかを分析するのにも使っています。

認識が実は線をぴしゃっと引くというだけでできてしまう、ということでございます。もう、これで3分の1は「AIマスター」ですよ。

データ分析=法則を見つけること=ビールとおむつ?

松田:次で、3分の2はAIマスターになっていただこうという感じです。次は認識・分析・制御のうちの「分析」。頭で考えるってやつですね。一言でいうと「法則を見つけること」です。すごく有名な事例がありまして、ビールとおむつ。分析と言えば、今「データ分析」とか言われていますけど「データ分析=ビールとおむつ」と言うだけで「あれ、なんか知ってるの?」みたいに言われることもあるんで、これだけは覚えていただくといいかなと思います。

90年代ぐらいの話なんですが、アメリカのスーパーマーケットで、同時に買っていく物を調べたんですよ。そうするとどういうワケか、ビールとおむつが一緒に買われていることがわかりました。買っていく人を一人ひとりつぶさに見ていくと、実はある法則がわかりまして。

それは何かと言うと、おむつを買う世代ですよね。年代で言うとおおよそ30代ぐらいが多い、働き盛りの世代ですよね。特にお母さんが子どものために買うことが多いと思うんですけど、その時にやっぱりお父さんが働いているワケですよ。

晩酌にビールを買って、ついでにおつまみも買ってみたいな感じで一緒に買っていく。その世代だからこそ、(ビールとおむつを)一緒に買っていくところが見つかったんですね。

非常におもしろいのが、この法則を見つけたこのスーパーマーケットが、ビールとおむつの棚を近づけて、かつキャンペーンを張るんですね。「働き盛りのお父さんのために」といったキャンペーンをすると、どんどん買いやすくなるワケですよ。

結果として、なんと売り上げが17パーセントも上がってしまった。法則を見つけるだけで、それだけの効果があるということなんですね。

これが分析です。まぁ事例はいろいろあります。スーパーとか小売店で何が一緒に売れてるのとか、誰が買ったの、どんな行動が寄与してるのみたいにも使われたりするし。

あとはお金に絡むようなことですね。不動産とか人の移動とか、貿易とかにも使われます。もっと大きな話で言うと、例えば建物がどうやって作られていくのかとか、サーバーがいつダウンしちゃうのかとか。

もっと大きな地球レベルの話だと、災害がいつ起きるのかもデータを分析して法則を見つけていくことで見つけ出すことができるのです。

法則を見つけることで、地球規模までいろんなことがわかっていくのが認識・分析・制御の2つめです。これでみなさんも、3分の2のAIマスターか。もうちょっとで3分の3のAIマスターになります。

AIが将棋で人間に勝てるのは「迷路を解ける」から?

松田:最後、制御ですね。これもスパッといっちゃいましょう。一言で「迷路を解く」。これですよ。制御とは迷路を解くことであるということですね。いやぁ、みなさん「なるほどね」みたいな顔をしていないかな。大丈夫です。ちゃんと説明するので。やっていきましょう。

例えば自動運転で経路を見つけて、時々刻々と、歩行者がいるとかいないとかも含めて、最短の距離で動けるこの経路で行くというところが、まさに「迷路を解く」になります。

実は自動運転だけに限らないですよ。みなさんがよく知っている囲碁や将棋で(AIが)人間に勝ってしまう。これも実は迷路を解くのと同じ仕組みだったりします。

どういうことかと言うと、勝ち筋って言いますよね。要は勝つまでの棋譜があるとして、そこにめがけて「今どういうパスで行けばいいのか?」みたいなのもので。

そのための確率はどうかも含めて計算すると、まさに最短距離が見つかって、迷路を解くようにゲームに勝つこともできる。いろんな環境の中で意思決定をするのはまさに、迷路を解くことと同じだったりするワケですね。

その仕組みがあると何ができるのかと言うと、要は自在に身体を動かせるワケですよ。ゴールに向かうためにこの道を通ればいいとすることで、当然、今言ったようなゲームの勝ち筋もそうだし。あとは掃除のルートを決めたり、月や危ないところの探査だったり。

それから工場の自動化や物流。コンテナをどうやって運べば、最短経路で最も少ない労力で運ぶことができるかというところも、すべて迷路を解くということですね。

認識は認識で、分析は分析で、制御は制御でデータが必要

水野梓氏(以下、水野):松田さん。「認識する前に因果関係の分析があるので、認識と分析は一体とも思うのですが、いかがですか?」という質問があります。どうですか? 

松田:グッドクエスチョンですね。(認識を)やる場合もあればやらない場合もあります。先にいきなり数字になっている場合があったりするワケですよ。例えばスーパーマーケットのデータとかって、もう最初から数字になっているので、最初に認識をかまさなくてもそれができる。

だけどそもそも自然界は、空間をなんらかのかたちで数字にしないといけない。これをやるのが、まさに認識だったりするので。まさに今のお話はグッドクエスチョンで、(認識と分析を)組み合わせることでより効果を発揮するような理解をしていただくといいかなと思います。

水野:なるほど。コメントで「元になるデータがいっぱいありそう」ということですけど、認識にはたぶん、認識するためのデータがたくさん必要ってことですよね? 

松田:そうです。認識は認識で必要だし、分析は分析で必要だし、制御は制御で必要だという感じです。

水野:なるほど、ありがとうございます。

松田:だから「将棋にも勝って、囲碁にも勝ってすごいじゃない」と言うんだけど、そもそもいろんなことをやらせようと思ったら、データが必要で。そのデータで線を引いたはいいけど、実はイチゴじゃなくて○○でやりたいんだよねというと、当然、新たにデータが必要なので。

「必ずしも、なんでもかんでもできるワケじゃない」というのがイメージとして伝わるかなと思います。やっぱり使う目的を人間が決めないといけないし、必要な環境やデータを揃えてあげる必要もあるし、けっこう面倒くさいんですよ。

なんだけど、一度データが集まってくると、すごくいいサイクルが回りそうだというイメージもなんとなく湧くかなと思います。だから、うまく使ってあげようねということなんですよね。