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「AIに仕事を奪われる」ってほんと? 松田雄馬さんと〝身体のない人工知能〟を考える (全8記事)

「群れ」という集団では、助け合いだけでなく争いも必要? 群れて体を寄せ合うことで学べる“協調と競合”のバランス感

「AIに仕事を奪われるのでは?」「人間はもっと創造的な仕事をするべきだ」……と、自分の仕事がなくなる不安を感じさせる言葉が、世の中にはあふれています。しかし、人工知能の専門家・松田雄馬氏は「AIは意外とポンコツですし、人は生きているだけで創造的です。AIのことをよく知って、仲良くしてあげてくださいね」と笑います。そこで今回、同氏が登壇したイベント「『AIに仕事を奪われる』ってほんと? 松田雄馬さんと〝身体のない人工知能〟を考える」の模様を公開。「人間を人間たらしめているものは何か」を問い続けている松田氏とともに、身体を持つ人間とテクノロジーの向き合い方を考えましょう。

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オンラインでのコミュニケーションは目線が合わない構造

水野梓氏(以下、水野):「オンラインでも、身体を伴う意味のコミュニケーションは可能ではないかと思うのですが、松田さんはどう思いますか?」という質問です。

松田雄馬氏(以下、松田):これなぁー……!

水野:私もこれ、ぜひ聞いてみたいですね。

松田:この図がひょっとしたら説明しやすくて。たぶん(身体的な感覚は)伸びることは伸びて、それなりのことはできるワケですよ。だけど最後の最後の埋められないところはあって。例えば、実際会ってしまうと一瞬で解消できたり。

水野:ハードルが高いんですかね。オフラインの意味のコミュニケーションに近づくには、オンラインだとがんばって越えなきゃいけない壁が多い感じでしょうかね。

松田:いろいろ面倒くさいですよね。例えば今、一対一で(司会者の)水野さんと話していて、当然コミュニケーションはできるんですけど。例えば僕が本を読んでいて「ここの、これ!」みたいな(笑)。

水野:確かに(笑)。「どこ?」って、(顔を)近づけても見えないし(笑)。

松田:ここでもう壁を感じるワケですよね。「えっと、えっと……」みたいな感じに。

水野:私すごく恥ずかしいんですけど、画面大きくするんじゃなくて思わず近づいちゃうんですよね。

松田:わかります(笑)。

水野:それで見えるワケではまったくないんですけど、そういうことをやっちゃうっていう。でもそれでも見えないですもんね。一斉に歌ったり合唱しようとかって言っても、難しそうですよね。

松田:ですよね。

水野:松田さんとしては、難しいけど可能であるという感じですか? 

松田:用途を限定すれば可能です。AIの話と一緒で、用途を限定すればある程度、埋まる部分はあるんですよ。例えば目の前に模型があるとして、突然「小脳のここを共有したいんだよね」みたいなことはやっぱり難しい。

水野:(笑)。

松田:突発的に起こることが難しい感じですかね。

水野:なるほど。けっこう最初のほうでコメントを書いてくださっている方がいましたけど「オンラインでは目線が合わせにくく偶然が起きにくいということを、作家の柳美里さんと音楽家の大友良英さんがおっしゃっていました」という。これを聞いてなるほどと思いました。

松田:基本的に目線が合わないというか、合わない構造になってますよね。

水野:なってますよね。私も松田さんを見ちゃうと、目線が違う人になっちゃうので。難しいですよね。

「1人の人間がすでに“群れ”」という発想

水野:「子どもたちを教える仕事ですが、群れて体を寄せ合うように学ぶことが記憶の定着を進める気がしています。そういうのも身体性かなと思ったりします」というご意見があります。松田さん、いかがですか。

松田:「群れ」ですね。「群れ」ってすごく僕の中で大事なキーワードなんですよ。脳は60億ですけど、身体は60兆の細胞でできていると言われるんです。だから1人の人間がすでに「群れ」なんですよ。

水野:細胞の群れ。

松田:そうそう。生物の進化をたどるとわかりやすくて、最初は単細胞からできるんですよね。単細胞がやがて群れになって多細胞になるんですけど、実はその間の生物がいて。(その生き物1匹1匹は)単細胞生物なんだけど、群れることで機能の分化が起こって、例えば「自分たちは食べることしかしません」とか「自分たちが生殖しかしません」という群れができて、多細胞になるんですよ。

僕らの知能も身体も、その本質って「群れ」なんですよね。要は集団の中でいかに助け合いながら……「協調と競合」っていうんですけど、助け合う要素と、逆に争い合うことも必要と。この2つのバランスがすごく大事で、それこそ身体を使って学ぶというのが、まさに先ほどの「群れて体を寄せ合う」ことから学べると思いますね。

水野:なるほど。そうなるとなかなかオンラインでは、「群れ感」を感じるの難しいかもしれないですね。

松田:「群れ感」ね。

水野:「群れ感」って言ったらいいのかな(笑)。人と一緒にいるという存在感は、なかなか難しいのかなぁと思ったんですけど。

猫とオンラインではコミュニケーションがとれない?

水野:最後のコメントについて、ちょっと説明していただいてもいいですか? 「同じ空間に複数の身体があると」ということなんですが。

質問者3:先ほど松田さんが、ペンを持つとここまで身体が伸びるというお話をされたじゃないですか。同じように、例えば1つの教室に10人の身体があると、ある種、他者の身体にちょっと自分の感覚が入っていくようなことが起こりやすいのかなと思ったんですよね。

やっぱりオンラインだと、場の空気感って読みづらいじゃないですか。「この人ちょっとイヤだろうな」とか「笑ってるけど(会話に)入ってないよね」って読めないじゃないですか。だけど複数でいる場って、なんかわかりますよね。それって、ペンを持つと自分の身体が拡張するように、身体がつながりあっていくことが起こるのかなと、ちょっと聞いてて思ったんですよね。

松田:即答できないですけど、たぶん同じことが起こってるんでしょうね。

水野:空気感を身体の表面って感じ取ってるんですかね。視界には入ってなくても、後ろに存在を感じる時ってあるじゃないですか。

松田:感じてます、感じてます。

水野:ありますよね。オーラじゃないですけど、そういうのを感じ取ってる時があるので。

質問者3:変な話ですけど、猫とオンラインでコミュニケーションって絶対できないんですよ。

松田:あぁ……できなさそう(笑)。

質問者3:だけど猫って、同じ空間にいたら相当コミュニケーションがとれる。それって身体性の話だと思うんですよね。

水野:確かに。

松田:例えばポジション取りってあるじゃないですか。猫をあやす時って、例えばなるべく視界に入るようにとか、逆に視界に入らないように後ろから寝転がってとか、いろいろやりますけど。オンラインで画面が固定されてると、ポジション取りもなにもあったもんじゃないですよね。

水野:確かに、そうですね。「この人が好きだから隣に座ろう」とかもできないですもんね。

松田:ええ。結局、左側にいるとか、ちょっと後ろに下がるとか、ある種、その気遣い自体から伝わるものがあったりもするので。

水野:確かに。好きな人と隣の席でなにかハプニングが起こって「わー」っとなったりするのも、オンラインだとないですね(笑)。そういう意味でも偶然が起こりづらいですね。

松田:ですね、ええ。

爬虫類に感情はある? ない?

水野:「爬虫類脳というワードが出てきたのですが、爬虫類に感情はないんでしょうか?」という質問がきています。

松田:これちょっと難しいな……! あるかないかで言うと、あります。

水野:爬虫類脳は情動までいっていないけど、あるはある。

松田:そうなんです。3つの脳の分け方ってすごく乱暴な分け方で。

これ(脳の模型を指して)で言うと……脳があって、一番下の脊髄か脳幹といったりするんですけど、これが爬虫類脳と言われるところです。脳をパカッと開くと真ん中のほうに丸い大脳辺縁系というものがあるんですけど、これが情動系っていわれるところで。その上側に先ほど言った社会脳と言われる大脳がある、という構造になっておりまして。

爬虫類脳が大脳とか情動脳の辺縁系がないのかというと、あるんですよ。要は全体の機能自体は備えているんだけど、どこを使っているか、どこが発達してるかが違う。いわゆる爬虫類って、情動がそんなに発達してない。例えば「快・不快だけしかない」みたいなイメージだと思うんです。「暑いから動かない」とか「不快だから攻撃をする」とかのイメージなんですけど。そこが哺乳類や霊長類になることで、より豊かになっていくんですね。

水野:なるほど、ありがとうございます。

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