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「AIに仕事を奪われる」ってほんと? 松田雄馬さんと〝身体のない人工知能〟を考える (全8記事)

“使いもしない情報”を顧客に入力させる日本企業は不義理? デジタル時代の大きな課題は「いかに人間を大事にするか」

「AIに仕事を奪われるのでは?」「人間はもっと創造的な仕事をするべきだ」……と、自分の仕事がなくなる不安を感じさせる言葉が、世の中にはあふれています。しかし、人工知能の専門家・松田雄馬氏は「AIは意外とポンコツですし、人は生きているだけで創造的です。AIのことをよく知って、仲良くしてあげてくださいね」と笑います。そこで今回、同氏が登壇したイベント「『AIに仕事を奪われる』ってほんと? 松田雄馬さんと〝身体のない人工知能〟を考える」の模様を公開。「人間を人間たらしめているものは何か」を問い続けている松田氏とともに、身体を持つ人間とテクノロジーの向き合い方を考えましょう。

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人間を大事に「しない日本」「する中国」

松田雄馬氏:「場の共有の目指すところ」と書きましたけど、ここまでいくと、これから僕たちはどんなコミュニケーションしていけばいいんだろう? というところも見えたりするので。もうまとめに入りますけれども(笑)。

サクッといきたいなと思います。「サクッと」と言っているけど、そこそこあるんだよな……でも数ページなので、サクッといきたいと思います。

「人間を大事にしない日本」。いきなりこんなテーマですけど、いわゆる「デジタル社会」とか「デジタル時代」と最近すごく言われています。当然、今はコロナ禍でもあって、在宅やリモートで仕事をしないといけないとか「やらざるを得ない」ところもあるんですけど。

デジタルの時代になって、日本は「もともと持ってたものをないがしろにしちゃってるよね」というふうに世界でも言われています。それが「日本×中国」みたいな。逆に中国って、デジタル時代の今、すごく人間を大事にしてるなって言われているんですよ。それを書いてるのは『アフターデジタル2』という、僕の好きな本でもあるんですけど。ちょっと読みますね。

アフターデジタル2 UXと自由

「中国では民間企業も大量のデータを保有しています。ただ、そうした企業は社会的責任としてのハイレベルな精神を持っています」と。巷では中国って「政府が統制して、全部データ取っちゃって」みたいなマイナスイメージがありますけど。じつは彼らの中でも大企業、要は成長している企業は、社会的責任を大事にしていると言われています。

「使いもしない情報をユーザーに入力させる日本」は不義理?

逆に日本では、使いもしない情報をユーザーに入力させることがあるじゃないですか。例えばあるサイトにいって「ユーザ登録してください」みたいな感じで「まぁいつものことか」みたいに登録して、いろんなデータを入れたりするんですけど。でも結局、それって使われなかったりすることって多々あるんですよ。

それに対して、中国の大きな会社の社会的責任のある人はどう言うかというと「それ(日本のサイト)はユーザーに対して不義理である」と。「ユーザーは君たちにデータを提供してくれているのに、君たちはそれを自社の利益にしか使っていない」。ただただ吸い上げてるだけだ、ということですよね。それではもうユーザーは「完全に愛想を尽かしてしまうだろう」と。「重要なのはユーザーに愛されて、使い続けてもらうことだ」ということですね。具体的にどういうことか、次のページで見ていこうと思います。

「デジタルが浸透した社会」と言われてるんですけど、例えばAlibabaという中国の大きな会社があります。

日本でいうと楽天みたいな会社だったんですけど、いろんなユーザーさんの「どこに住んでいて」「どんなものを求めていて」「どんな買い物をしていて」というのも全部知ってる。その情報でもって、例えばある場所にスーパーマーケットをつくって、かつその人たちが望んでいるような商品を置いて、さらにそこでデータを収集して、収集したデータでいろんな情報を提供していく……みたいに、すごく良い循環が回っているんですね。

要するに中国の人たちは「データを提供すると良いことがある」とわかっているし、企業の人たちも「提供してもらうからにはそれなりのことをする」という関係ができているので、非常に良い循環が回っていると言われています。デジタル時代になった今、これを日本の企業はできていないんじゃないかと言われてるんですね。

世界で問題になっている「Googleバッシング」

じゃあ「日本ももっとがんばらなきゃ」という話なのかというと、それだけでもなくて。「いかに人間を大事にするか、それが現代社会の大きな課題である」ということなんですけど。じゃあデータを使えばそれで良いのかというと、実はそういうワケでもないというのが次のページで出てきます。

課題としての「人間性」がある。実は今「Googleバッシング」が世界で問題になっているんですよ。Googleで検索したり、みなさん日々使ってると思うんですけど。実はGoogleによって「Googleで検索したらなんでも出てくる」みたいな感覚に陥ってしまうので、人間性や創造性を奪われてしまうという批判もあり。

かつ巨大企業なので、Googleがとにかく情報を収集してしまって、せっかく作ったものもGoogleのものになってしまうという循環が生まれてしまうので、世界中で批判されていると。

これはドイツのベルリンなんですが、ベルリンにGoogleが大学を作ろうとしたんですよ。スタートアップ、要はベンチャー企業を支援するような、新しい起業家を育成する大学をつくろうとしたんです。

これはドイツ語で「Google出ていけ」みたいなことが書いてるんですけど、要はGoogleがどんどん進出してくることに対して「いや、ちょっと違うだろ」という視点で、ベルリンにGoogleの大学までは必要ないんじゃないかというところで、結局、Googleも撤退せざるを得なかったというお話もあります。

Googleみたいな巨大IT企業が、自分たちの人間性にまで侵食してるんじゃないかというのが、世界的な懸念としてあるんですね。それも考えると、単純にデータを使えばいいという話でもない。データによる支配が人間の創造性を阻害して、反発を生んでしまっている。

今日ずっとお話ししてきたことですけど、データは単なるデータでしかなくて、我々の記憶は重い記憶から軽い記憶まで、身体を伴ったものである。それを考えると、単純にデータ社会に対して、人間性の部分で「どうかな」という、データ社会に対するある種の疑問として、まさにこのGoogleのお話が象徴的なところとして、実際現れているということですね。

単純に「共存することが大事だよね」で終わらせない

例えばオンラインやデータは非常に効率的な「記号のコミュニケーション」なので、これはこれですごく大事であると。単純に「それって身体を伴わないからダメだよね」なんていうワケでもなく、実際みなさんが経験されているように、オンライン化のおかげで満員電車に乗る必要がなくなったとか、すごくいい面もあるワケですよ。それ自体をどんどん進めることによって、より人間性が発揮されることではあるんですけれども、それだけではいかんと。

オフラインはそもそも身体を伴う「意味のコミュニケーション」であるとわかることで、オンラインとオフラインがすごく良い循環に変わってくるだろうと考えられるワケですね。

単純に「共存することが大事だよね」ということで終わらせない。共存が身体にとってどういう意味があるのか、逆に身体の自由を阻害するということで言うと「オンライン化を進めるべきだよね」といったところで考えていくべきなワケですね。

人間の知は身体を伴うもの、ということを出発点に考え、知を育む記号と意味の循環をデザインしていくことが大事だと。各人の身体を伴う物語を育む社会、そして場のあり方が必要になってくるだろうと。いかにこれをつくっていくかが、これからの社会のすごく大事なところなのかなと思います。

やっぱり単純にデジタル社会って、コンピューターを作ったアメリカから来たものと言われるんですけど。それだけでは立ち行かないというのが今の世界の答えだし、本当は日本の役割ってすごく大きいはずですね。

僕がいつも紹介する言葉があるので、最後にこれで締めたいんですけど。この言葉について考えつつ、実はやることがいっぱいありそうだというところを1つ持ったうえで、みなさんと一緒にディスカッションしていきたいなと思います。読みますね。

「しかし我々はいつまでもただ、西洋文化を吸収し消化するのではなく、何千年来我々を育み来った東洋文化を背景として、新しい世界的文化を創造していかなければならない」。我々の役割は非常に大きいのではないかいうところで、締めさせていただきます。ご清聴ありがとうございます。

(一同拍手)

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