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「AIに仕事を奪われる」ってほんと? 松田雄馬さんと〝身体のない人工知能〟を考える (全8記事)

人間は身体全部が脳であり、知能とは身体全部で実現される? AI専門家が「知能を考える上で、身体を考えない人は“もぐり”」と語る理由

「AIに仕事を奪われるのでは?」「人間はもっと創造的な仕事をするべきだ」……と、自分の仕事がなくなる不安を感じさせる言葉が、世の中にはあふれています。しかし、人工知能の専門家・松田雄馬氏は「AIは意外とポンコツですし、人は生きているだけで創造的です。AIのことをよく知って、仲良くしてあげてくださいね」と笑います。そこで今回、同氏が登壇したイベント「『AIに仕事を奪われる』ってほんと? 松田雄馬さんと〝身体のない人工知能〟を考える」の模様を公開。「人間を人間たらしめているものは何か」を問い続けている松田氏とともに、身体を持つ人間とテクノロジーの向き合い方を考えましょう。

数理生物学者=数学を使って人間や生物を解明する人

松田雄馬氏(以下、松田):ではよろしくお願いします。

私は「そもそも何者なんだ?」というところから。私は合同会社アイキュベータ(現在は株式会社オンギガンツ)というベンチャー企業を経営しています。かつ一橋大学大学院、一橋ビジネススクールで講師をやらせていただいてます。要は人工知能を研究しつつ、ビジネス論も含めていろんな人に伝えていく仕事をしています。

今日も、みなさんに自分の知ってることを伝えることで、新たな知が生まれて、そこから僕もいろんなことを学ぶような場にしたいなと思ってます。

なぜ「からだのシューレ」で、身体のない人工知能を考えるのか。「からだのシューレ×人工知能」をやるのかということなんですけど、これが僕の中で、すごく密接に絡んでくるテーマだったりします。

今日来ていらっしゃる方の多くは「からだのシューレ」に何回も来ている方だと思うので、もう次のページを見たらよくわかりますよ。いってみましょう。

どん。こんな本があります。『なぜふつうに食べられないのか』。

なぜふつうに食べられないのか: 拒食と過食の文化人類学

(タイトルが)僕の『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』という本に似てるんですけど。

人工知能はなぜ椅子に座れないのか: 情報化社会における「知」と「生命」 (新潮選書)

『なぜふつうに食べられないのか』のほうが先だったんです。だいぶ早かったんですよね。決してマネをしたわけではないんですけど。

なぜタイトルが似ているのかが、これで明らかになります。『なぜふつうに食べられないのか』の筆者の磯野真穂さんは、なんと文化人類学者でボクサーなんですよ。

僕は、なんと数理生物学という数学を使って人間とか生物を解明する人で、かつボウラーなんですよ。似ていますよね。

初めてからだのシューレに来られる方は「何のことかな?」と思われるかもしれないですけど、からだのシューレを作られた磯野真穂さんは『なぜふつうに食べられないのか』が処女作ですけれども、実は文化人類学者という人間についての研究者なんです。

僕は、人間も含めて生き物を数学的に解明するので「人間を人間として解明するか」「人間を数学的に解明するか」で、実はすごく似ている一面がある。すごくおちゃらけて書いてるように見えるんですけど、実は真面目に書いてます。実際、なんとなく似てるんですよ。こういうところをどんどん深めていきたいなと思います。

人間は身体すべてが脳であり、知能とはもはや身体全体?

松田:本日のキーワードと共通項は、人工知能。

人工知能ということは、知能を人工的に作ったもの。知能ということは、要は人間の知能ですね。知能はどこで実現するのか。脳ですよね。こんな(脳の)模型があるんですけれども、これを僕は研究しています。

実はあまり知られてないかもしれないけれど、脳って、160億個の細胞でできてるんですね。1個の脳じゃなくて、細胞なんですよ。ちっちゃい細胞がいっぱい集まっている。じゃあ、その神経細胞はどこにあるのかを逆に考えてみましょう。脳は神経細胞からできてるんですよ。じゃあその神経細胞ってここ(脳の部分)だけなのかと言うと、ぜんぜんそんなことなくて。

みなさん、運動神経って(言葉を)聞いたことがあると思うんですけれども、要するに神経って身体中に張り巡らされているんですよ。だから、人間の脳ってここ(頭の部分)だけにあるような気がしていますけど、実は身体中が全部脳だったりします。

知能というのは、もはや身体全体なんですね。だから人工知能というか知能を考える上で、身体を考えない人は“もぐり”だということになります。

なので「からだのシューレ」って聞いた瞬間に「あぁ、なるほど。もうみなさんは知能のエキスパートなんやな」と、そんな感じで参加しておりました。

人間は身体を使って、新しい関係を常に作っている

松田:知能ってすなわち身体(からだ)なんですよね。身体とは何かという話を今日はどんどん掘り下げていくんですけど。環境に適応して生きていきますということなんです。

後で少しお話ししますけど、そもそも環境って、いつ何時何があるかわからないワケですよ。当然、今我々が直面している感染症なんていうのも、突然やってくるかもしれない。限定できない、無限定ですね。その無限定環境を身体が生きるとはどういうことかと言うと、常に環境との関係をどんどん新しくしていくこと。

新しい人に出会ったら新しい関係を作るし、同じ人と出会ったとしても、その人はまた違う人と出会っているかもしれない。そういう新しい関係を常に作っていく。これが、僕らが身体を使ってやっていることだったりします。

僕らが生きてること、それ自体が常に新しいことをやっているワケです。まさにクリエイティブなワケですね。別にクリエイティブになるのに、プログラミングとかアートとか、それっぽいことを無理にやる必要はないわけですよ。

実は(スライドを指して)前回、こんなテーマをやりました。「生きてない機械ってどういう限界があるの?」。これを今日もやります。キーワードとして、こういう専門用語があります。「フレーム問題」があったり「中央制御の限界」みたいな。

実は生きてない、身体がないがゆえにいろんな問題が出てきます。そういう問題を見ると、逆に「あ、身体があってよかったね」と思うし「身体があるからこそ、こんな能力が実は僕らに備わってるんだね」ということがわかるんですね。

まさに人工知能を研究したり開発していると「あぁ、こいつらに身体があればなぁ」みたいなところに、日々直面しています。逆に言うと、それを見ながら「あぁ人間ってこんな能力があったんだ」ということを日々感じているところでもあります。

そんな日々の研究で感じていたことを1冊の本にすることで、社会が変わっていくヒントになればなぁと思って書いたのが、去年後半に出た『人工知能に未来を託せますか?』という本だったりもします。

人工知能に未来を託せますか?――誕生と変遷から考える

クリエイティブとは何か? を本気で考えて、全部を詰め込んだ本になっておりまして。水野さんと一緒に、いろいろ準備してたんですけれども、今日はこの本の中からエッセンスの部分を取り出して、必要な問いを抽出してみなさんにお届けすることで、人間ががいかにクリエイティブなのかを考えた上で、いろんなことを考えていく時間にできるかなと思っています。

松田氏が持つ“3つの顔”

松田:というわけで、まだ自己紹介をちゃんとしてなかったですね。

水野梓氏:してなかったです(笑)。

松田:あ、さーせん(すみません)。自己紹介します。

ちょっと真面目なスライドでしょ? 僕らしくないでしょ。(自己紹介を)真面目に書くと、こんな感じで。なんでこんなふうに書いてるかというと、ふんぞりかえりたいとかじゃなくて、一応ちゃんとしてますよと言いたいなと思って。

(チャットを指して)「知ってます!」(笑)。ありがとうございます(笑)。

一応もぐりじゃない、ちゃんとした工学博士を、大学院から授かりまして。ちゃんとした知識を持って、みなさんにちゃんとしたことを提供しているという安心材料にして、こんな感じで書かせてもらっています。

ここに書いてるのはわりとどうでもよくて、大事なことは「私、3つの顔を持っています」ってよく言うんです。

1つは研究者。もう1つが起業家。最後に、僕がすごく大事にしている言葉で、科学コミュニケーター(サイエンスコミュニケーター)があります。

「この3つが有機的につながることによって、新しい時代の研究者像なのだ」みたいなことを、自分で活動しながら世に伝えていきたいと思っています。

サイエンスとは研究者だけのものではなく、社会みんなのもの

松田:1個1個説明すると、まず研究者としては、実際は脳の研究をしています。特に真面目な話をすると、脳の中でリズムというのがあるんですが、そのリズムが知能を作り出してるということを研究しています。

そういった知見からいろんな本を書いて、それも含めてAIと社会との関わりも研究している感じです。もう1つ、これはあまり今まで言ってなかったんですけれど、今日は真面目に言おうかなと思って。

起業家としての活動なんですけれど、実は今日みたいにフランクにお話をするところからビジネスが始まったりもするんですよ。

例えばこんな言葉を聞いたことがあるかもしれないですけど、デジタルトランスフォーメーション。要は会社や社会をデジタルで変革していこうとすることで、いろんなビジネスチャンスが生まれるんだとおっしゃってる方が非常に多いんですけれども。

そこに対して「そもそもデジタルってどう考えたらいいの?」とか「人間社会をどうやって変えていったらいいの?」ということを考える上で、実は今日みたいなお話が土台になったりします。

講演会をやったり、みなさんと一緒に演習をしたりというところから、ワークショップや相談会をして「じゃあこんなふうに作ったらいい絵が描けるかもね。みなさんの会社が変わっていくかもね」というような未来予想図を一緒に作っていって。

それを一つひとつ実現していく上で、場合によっては技術支援もしたり、実際に依頼を受けて物を作ることもあります。すごく“ふんわり”したお話から、一応、真面目に「ビジネスとして落とし込んでいく」なんて言い方をしたりします。

例えばみなさんがよく見る、電車に乗る時にピッとSuicaを使うシステムがありますが、一つひとつのシステムって、そのはじまりは、実はこんなふうにふんわりした思いだったりもします。そういう、ふんわりした思いを現実にしていくことを生業にしています。

こうした仕事をしている根っこの考え方が「サイエンスコミュニケーション」といって、僕が一番大事にしているものなんです。サイエンスコミュニケーションというのは「サイエンスというものは研究者だけのものではなく、社会のみんなのものなので、それを共有して楽しい社会を作ろう」という考え方だと僕は思っています。そして、そのなかで僕がよく伝えているのは「AIへの誤解を解き、科学技術から社会を考える契機を提供する」みたいなものです。

サイエンスコミュニケーションという観点から、メディアに出演したり、子どもたちと一緒に巨大プリンを作ったり。もはや「別にサイエンスとかどうでもいい」くらいの感覚で、みなさんと接しています。楽しいからやってるだけみたいなところがあります。

そんな中で大事にしているのは、ぜんぜん違う分野のいろんな専門家と議論をして、それをみなさんに届けるということ。要は「未来ってこうなるかもね」「こうしたらもっと楽しいかもね」ということがビジネスにも展開されるし、教育的な要素もあるというところで、いろんな活動をさせていただいています。

今日もそうなんですけど、いろんな人との交流からヒントを得てさらに研究を進めて、それをみなさんにまた提供して、またいろんなことを知識としていただいてという研究者サイクルをやっている次第です。

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