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0から学ぶ「グローバルブランディング」(全7記事)

ブランドの価値は「お金の流れの最適化」にある ブランディングがもたらす現実的な効果と、ユニコーンの夢

2019年7月2日、朝日新聞社メディアラボ渋谷分室にて「0から学ぶ『グローバルブランディング』」が開催されました。日本の企業が目指す海外市場での展開において、グローバルブランディングが重要となっている昨今。日本企業にありがちな「良いものを作れば売れる」「とにかく広告費を使って露出を増やす」といった考えで挑み、うまくブランディング構築ができていないケースが散見されます。本イベントでは、中国やシンガポールで活躍するブランドデザイナーの石坂昌也氏が登壇し、海外でも通用するブランディングとはどういうものかについて講義を行いました。本記事では、ブランド価値はどこにあるのか、またその価値をどう測るかなどについて語ったパートをお送りします。

理想をブランディングとして語れない弱み

石坂昌也氏:日本では「時計は正確だったら売れるだろう」とか、「車は最も燃費が良かったら売れるだろう」とか、あと「安ければ売れるだろう」と思っている人が多すぎます。

たぶんそれが原因で、日本では商品機能以上、実態以上の評価をされにくい状態なんですね。理想をブランディングとして語れないから、世界の人材の獲得や、優れた表現が不足し、結果的に雰囲気やプロダクトに先進性が失われて、性能は勝ってるのに市場で負けてしまうケースがよくあります。

そのときにどうして「機能で勝ってるのに、市場では勝てないんだ?」という葛藤の言葉が出てくるのかということなんです。相手は1枚もカードを切ってないんですよ。安売りもしてないし、機能も正確じゃないし。それにもかかわらず、相手に売上で勝てない。これは自分が海外にいる時によく見た光景です。

次になにをしたらいいかわからない。自分たちはカードを切ってるのに、相手は1枚もカードを切ってないのに、ぜんぜん勝てませんという状態なんですね。

「御社はブランドに投資をしておらず、意志が明確に発信されていないため、プロが指令がなくても同じ意志で動ける状態にない。プロのポテンシャルを十分に発揮できないからです」としか、ちょっと言いようがなかったです。

ブランドはあまり早くできないので、急に作るわけにもいかない。これは困ったなというところも含めてパラドックス(葛藤)なんだと言うことができると思います。

よくできたブランドには、知性が高い人もフォローしてくれることがあります。これって何がすごいのかというと、自分の会社の中にいない人が、親身になって、相手を打ち倒してくれるんですね。第三者が自分の味方になってくれることも、非常にレベルの高いノンバーバルなブランディングを達成すると起こります。

つまり、最も機能的でないかもしれないし、さらに広告を見ていないのに、購入して脳は満足してしまうと。それが世界的にある程度の再現性を持つというのが、非常にレベルの高いグローバルブランディングであるということですね。

ブランディングできている会社には、優秀な人がローコストで自然に集まる

次はブランドの価値と貢献について。例えば、自分はブランドデザイナーなので「聞きました? Googleは30兆も価値あるんですよ。どう思いますか?」と言ったときに、自分としては誇らしいわけですよね。

自分のやってる仕事って、そんな価値が出るかもしれないんだと思ってしまいます。ただし、冷静に自分が会社の社長になって事業を持ってみると、「いや適当に言ってるだけだろ。その中身はどうなってるのか説明しろ」って、やっぱりどうしても聞きたくなっちゃうんですよ。

何でGoogleがそれほどまでに価値を持つことができるのかというのは、自分も海外にいて、「あ、そういうことか」とけっこう理解できたことがあります。まず、最もベーシックな価値は、ブランドがあるとお金を使わなくていいようになるということがあります。支出の最適化です。

これは本当に、いい会社ほどめちゃくちゃ助かってると思います。みなさんも会社を経営していたり交渉をするときや、LPとかを見るときに何にお金を使っているかというと、やっぱり人件費や採用費とか、あとは広告費など、プロダクトに使うお金の何倍もスプレットするためにお金を支払うわけです。

例えば採用費です。本当にブランドのある会社はヘッドハンターを使ってないのをご存じですか? なんでかというと、彼らの言い分としては募集しなくても世界中のタレントが我が社に応募をしてくれるから、ヘッドハンティングのお金を払う必要はないと言うんですね。

人材エージェントに頼むと、だいたい年収の30パーセントから40パーセントがかかります。年収1,000万の場合は、300万から400万の紹介費を払わなきゃいけないんです。それが大企業ほどの規模になって、年収になった場合に、全部概ね無料化された場合の金額って天文学的な数字になるんですよね。人が辞めることはもう止められない時代です。そのため、いかに安く、優秀な人材を惹きつけられるかのブランドが重要になるわけです。

あと、広告費とかにもめちゃくちゃお金を使います。でもファンがいれば勝手に広げてくれるということですね。あとは原価費も抑えられる。例えばファッションブランドですね。ブランドロゴがあるだけで、1万円のカシミアのマフラーが10万円になることもぜんぜんあります。むしろそっちの方が売れるかもしれないんですね。

世界トップクラスの企業でも、ブランドがなければ人を引き留められない

また営業費に関しては、中国で自分がローカライズしているときにもプル型にできるブランドの強さを見ました。

みなさんはブランドのあること自体はもう体験をしているから、こちらのイベントにいらっしゃってると思うんですけれども。最近でもファッションブランドのロゴが入ったイヤホンが定価の2.5倍で売られていました。

これは別の登壇のときに使った資料で、海外の採用事情がいかにヤバいのかという話をしています。

これはなにが言いたいのかというとですね、下の人たちってめちゃくちゃ金をもらってないです。年収50万とかです。でも上にいくと、先ほども申し上げたとおり3,000万とか1億とか、平気でごろごろいますと。採用も辞めるスピードも、日本よりぜんぜん早いですね。

2週間くらいでチーム全員がいなくなって、いつの間にか全員入れ替わっていることもよくありました。世界トップクラスの会社でも人を引き留めることができないわけですね。

そのときに、自社が魅力的であること。「あそこにあんなスターデザイナーがいるぞ」とか、「あそこが今度あんな賞を取ったぞ」というと、いくらでもサラリーのディスカウントはできるし、呼ばなくても勝手にどんどんどんどん入ってくるということですね。

そして、なぜその会社がブランディングを採用に活かさなきゃいけないのかという話です。

日本も最近は辞める人が増えてると思います。海外の有名会社でも絶対に人の流れ止められないのは、自分が中国で働いていたころにヘッドハンターがいっぱい自分の回りについてくれていたので理解できました。

「お前はもっとスターな選手だから、今香港に行ったらあのポストがあるぞ」とか、3ヶ月おきくらいに電話がかかってきます。私の場合、香港とシンガポールと日本にいて、「あの国だったら」「お前あの賞取ったんだ。すげーじゃん」みたいにばんばんかかってきて、やっぱり魅力的な話が入ってくるんです。

それでみんなやっぱり遅くても2年以内くらいに、ぴょんぴょんぴょんと移っていく。やっぱり会社って人を育ててるわけですから、あんまり昇給させたくないんで、例えば一気に給料3倍にしたり10倍にしたいときには、もう転職しかないんですね。

包括的なブランドの価値は「金の流れの最適化」にある

こういう人たちの話を聞いて、特にアメリカではLinkedInをめちゃくちゃ使っていて。実は利用者の多さでいうと、2番目と3番目が中国とインドなんですよ。中国とインドも今はタレントがたくさん出てきてるけど、その流れを止めることはできないから、会社を魅力的に伝えることによって、採用の活性化をするしかない。

ここまでのまとめをすると、包括的なブランドの価値というのは「金の流れの最適化」にあると思ってます。特に、維持するためにお金をたくさん使っているところですね。

リテンションするためにめちゃくちゃ金を使ってるとか、人が辞めちゃったときに採用費を払わないといけないとか、採用イベントをしなきゃいけないとか。デカくて優秀な会社ほど恐ろしい金を使ってると思うんですよね。それを最適化するためにブランディングというのは非常に強く、包括的な効果が出るということです。

ただ最近って、良くも悪くもブランディングにはもうちょっと夢のある話があるんですね。RPAというか、最適化だけがブランドの価値なのかというとぜんぜんそうじゃなくて。もう一つブランドには恐ろしい可能性があるんですね。

それはユニコーンです。莫大なブランドの価値というのは、のちほど話します。つまり限界を超えた価値ですね。明らかにその会社は赤字なのに、なぜか期待を集めていて、恐ろしい価値……例えば7兆円くらいの価値がついているみたいな会社です。世界のユニコーンでいうと、例えばTikTokのバイトダンスで7.5兆くらいだと思います。そういう会社があるんですね。

ブランド価値の数字化はコストに見合わない

次も経営層の方は気になると思います。「ブランドの価値の計算ってどうするんですか」という話ですね。自分がブランドデザイナーで最もがっかりしたところです。計算できますけど、すごい欠点があります。

つまり、それに対してたくさんお金と時間を使えば正確に測ることってできるんですけど、正直やらない方がいいレベルの面倒臭さですね。日本の物差しと海外の物差しがあって、日本の場合は単刀直入に言うと、「売り」に集中しています。

つまり採用に対する貢献とか、それ以外の信頼度に関しては測れていないです。海外については測れているかもしれないんですけど、ブラックボックスになっちゃってます。計算が誰にでもできるようなものではないと思います。

なので、測りにくいのがわかってしまったというところが残念なところなんです。もしみなさまがライバル社に対して、「我が社のブランドが少しでもいいからパワフルなものか知りたい」という場合は、同じ商品が高く売れてるかとか、たくさん売れてるのかというところが、1番わかりやすいですね。

ちゃんと調べられるんですけど、相当金と時間がかかると思いますね。1,000万とか2,000万とか平気でかかるかもしれないですね。ちゃんと調査会社にお金を渡して、ライバルの中の数字とかも引っ張ってもらわないといけない話になります。

それがいい方向だと自分は思わない。それがあるんだったら、もう他の施策とかにベットした方がいいんじゃないかなと自分は思うんです。

趣味趣向のための製品はブランド価値比率が高まりやすい

次にもう1個気になるのかも知れないのが、「ブランディングってうちの会社でもできますか」「うちの事業部でもできますか」というものです。

これは「一応できます」と。ただし、難易度の差って当然ありますよと。「いやあ、うちってtoBだから、ブランド効かないんだな」とか思う人いるかもしれないんですけど、toBとかは大丈夫。今ってとくに、toBブランディングはけっこう盛り上がってます。

ただやっぱり業界によって差があるのは確かです。業界ごとに、10パーセントから25パーセント。先ほどのGoogleが世界1位で、割合としては40パーセントくらいですね。90兆の企業のブランド価値が30兆なので、だいたい33パーセントくらいから40パーセントくらいですかね。

これを単純にまとめてしまうと、基本的には趣味趣向のための製品だと、ブランドの価値比率が高まりやすくなってくるということです。

みなさんはブランドの価値をすでに体験しているし、価値は表現されていると。ブランドバリエーションなどによって、兎にも角にも数字上の表現はされているわけです。ただし残念ながら、その評価を細かく追おうとするとけっこう難しいです。

それをどう信じたらいいのかなと思うんです。世の中って、たまたま自分がブランドバリエーションというものが有名だから上げているだけであって、他の会社さんも追随していろんな指標を出してるんですよね。

そのときに、「いや1位はAmazonだ」とか、「1位はGoogleだ」という会社っていろいろあるんですけど、だいたいみんな一緒です。みんな違う測り方をしてるんですけど、アウトプットとしてはだいたい30兆くらいで、AmazonかGoogleみたいな感じです。

そこで、こっちが29兆だとか30兆なのかって、別にどっちでもいい話だと思っています。大枠で言えば、だいたい表現されているので。深追いすることに1年とか、何千万も使わなくてもいいんじゃないかなというのが、自分の今の境地ですね。

ブランドは業界によって割合が違います。趣味趣向系商品の方がたくさんベットし甲斐があるよと。すごく重要なのはそれを理解した上で、継続した投資をすることです。1ヶ月とか2ヶ月とか本当に意味ないんで、逆にやらない方がいいですね。

せいぜいやっぱり1年使うくらいで、1年を使うということは、覚悟をしたコストを少なくともそれを12分割することに耐えられる。あと自分も我慢をしなきゃいけないです。「こいつら何の話してんだろう」とか、日本語で「われわれは日本一のとかなんか言ってるけど」みたいな話で、途中でやめちゃうと全部無駄になっちゃうので。

ゴールを知った方がいいということですね。最終的に世界一の会社ってこれくらいのバリューを出していると。うちの会社はこういう業界で、これくらいの企業価値があるから、これくらいのお金を張ってもいいはずだと。

それはとりあえず事業として……事業というか戦略として、1年は我慢しようというのが張れない限りは、自分はブランディングの開始はおすすめしてないです。

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