新規事業に関わることで既存事業との向き合い方が変わる

光村圭一郎氏(以下、光村):もう1個聞きたいことがあります。みなさんがそれぞれのことをお話しされているので、ともすると、やや矛盾に聞こえるというか、食いちがうように聞こえる部分もあったかなぁというなかで。

これは、麻野さんと田中さんの話なんですけれども、田中さんのプレゼンテーションのなかでは、いわゆる社内業務にエネルギーをかけていくと、その人はけっこうパフォーマンスが上がりにくいんだよね、と。

これは、統計的な事実として指摘されていただろうなと思っています。麻野さんの方はどちらかというと、まさに社内業務というか、社内調整とか社内の説得のようなものこそ、社内起業家の花である、というところもあって。僕は、これはけっこう同意だなと。麻野さんと私の話のなかにもあったかなと思っています。この辺の違いについて、田中さんお願いできますかね?

田中聡氏(以下、田中):はい、誤解を招きそうなので、ちょっと補足させてもらうと、僕は、どんなスーパーマンでも一人では世の中に影響力を与えるような事業は創れないと思っていて。特に大企業の場合、既存事業を巻き込んでいく力はすごく大事なんだと思います。

その意味で、社内調整はめちゃくちゃ重要です。先ほどご紹介した3つのキャラクター(「ノープラン風見鶏上司」「ありがた迷惑ノイズ」「同じ釜の飯を食った敵」)は、話をわかりやすくするためにやや象徴的に描いたものですが、決して彼らは無視して事業を進めましょう!ということではありません。

彼ら(3つのキャラクター)の立場になれば分かることですが、彼らには彼らなりの正義があるんです。ここは、大事なことなのですが、むしろ実際に新規事業でさっき紹介した4つ目の学習プロセス(視座変容期)に到達する人たちって、どこかのタイミングで既存事業に対する向き合い方が変わっているんですよね。

光村:うん。

新規事業担当にとって、既存事業は「学びの宝庫」

田中:既存事業というと、「いつも新規事業に対して批判ばかりしてくる面倒くさい存在」というイメージや、「新規事業に理解を示さない頭の固い連中」というネガティブなイメージが、新規事業担当者には少なからずあると思うんです。

ただ、おもしろいことに、実際に事業を創る過程でそのイメージがガラッと変わる瞬間があると言うんです。どういうことかと言うと、既存事業もかつては新規事業であり、いろいろと紆余曲折がありながらも、今ここまで大きく成長し、当たり前のように事業が回っているという事実を直視した時、自然とリスペクトの気持ちが芽生えてくる、とみなさんおっしゃるんです。

どのようにして既存事業が生まれ、今に至る事業成長の過程でどんな課題があり、それをどう乗り越えてきたのか。新規事業を立ち上げながら日々向き合っている悩みを解決するヒントが既存事業の中に詰まっていることに気づくと、既存事業に対する見方が「批判の対象」から「学びの宝庫」へと、ぐっと変わっていくんですよね。

一度、既存事業に対する見方が変わると、当然、関わり方も変わってきますよね。だから、方法論として既存事業の巻き込み方を理解するより、既存事業の歴史を学び、既存事業に対する見方を変えた方が、結果的に既存事業の巻き込みはうまくいくんじゃないかなと。

光村:麻生さん、「わかるな〜」って、けっこうつぶやいていましたよね。

麻生要一氏(以下、麻生):そうですよね。僕はずっとリクルートのなかでやってきたんですけど、最初は3人とか5人とかのプロジェクトをやっているぐらいのときは、既存事業は巨大だし、ほぼ関係がないので、敵にしか見えていないというか。

そんな旧態依然なことをやっているのに対して、最先端のことをやってる俺、みたいな構造になっているんですけど、事業が起ち上がってきて組織が大きくなって、50人とか100人とかになってくると、やっぱりリスペクトに変わってくるんですね。

その先には、やっぱり1,000人とか2,000人の会社にしていきたいと思ったときに、どうやってこれをマネジメントしているのかとか、既存事業の組織マネジメントの仕組みの完成度たるやすごい、ということとか。

光村:たしかにそういうのを目にすると正直感動を覚えるし、新規事業の入口のあたりにいると大きなギャップがあるので、本当に自分がそこに行けるんだろうか、という。「どうすればギャップが埋められるのか」「こんなにみんなが勝手にコンセプトを理解して動くってすごくね?」ということは純粋に感じますよね。

麻生:うんうん。そういうことを思っていたなと、今すごく思ってましたね。

社内アントレプレナーにとって上司は顧客、経営陣は投資家

光村:麻野さんは、まさに事業を起ち上げられて大きく育てるなかで、今みたいなことも経験されていると思うんですけれども、どうなんですか? 一人の社内起業家としてさらに階段を上る、ブレイクスルーしていくと思うんですけれども、それは何が起きているんですか?

麻野耕司氏(以下、麻野):でも、社内でいろいろなことが起こるときに、目線が低いと敵に見えちゃうということがあるんですけれど、目線を高く持てば、全部が自分の新規事業を成功させるための資源に変わっていくので。

だから、既存事業もリソースに見えてくるんですよね。目線が低いと、既存事業が人を出してくれないとか思っちゃうんですけど。目線を高く持つと、いつかこの既存事業でレバレッジをかけて、自分の新規事業を大きくしようとか。

そういうふうに見えてくるので、僕はとにかく目線を高く持って、いろんなことを自分のリソースとして捉えられるように、と思っていますね。

麻生:ちなみにやっていて嫌になるときあります? やってらんねぇな、みたいなとき。

麻野:いや、ありますよ。

光村:嫌になるとか、やってらんないとか、日に何回あっても不思議じゃないですけど。どうリカバリするかというか、視座の高いところに戻るかが大事な気がしますね。

麻野:僕は、やっぱり起業家のことを思い出すんですよね。今までの先輩たちもいろんな新規事業を社内で提案して、なかなか役員陣からGOが出ず、腐っていく人はいっぱいいたんですよ。

「どうせわかってくれない」「しょせんこの会社は」「やっぱりダメなんだ」みたいな。「どうせ、しょせん、やっぱり」って、ずっと言ってたんですけど。なんだかどこか甘えてるんですよね。「同じ会社だからわかってくれる」みたいな。

クライアントの経営者に対しては、自分たちのプロジェクトを導入してもらうために、あの手この手を尽くして、あらゆることをやりきるんですよ。でも、なんだか社内では、プレゼンして通らなければ、相手のせいになっているような感じのところがあって......。

光村:確かにね。

麻野:でも、この上司が顧客だと思ったらやりきれるな、とか。投資家だと思ったらやりきれるな、ということがあると思うので、社内だからといって甘えないというのが大事だと思います。

だって、会社の資源を使ってやらせてもらうので、やっぱり上司を顧客だと思ったり、経営陣を投資家だと思うように見方を変えるというのは、社内アントレプレナーにとって大事だなと思いますね。

個人の思いと会社の方向性の折り合いをどうつけるべきか?

光村:はい、ありがとうございます。せっかく質問をいただいていますので、sli.doから拾いながらやっていきたいと思います。今一番「いいね!」を集めている質問が、上に上がって来ています。

「個人の思いと会社の方向性の折り合いをどうつけるべきか?」。これはちょっと補足すると、おそらく会社として、こういうテーマで取り組んでほしいという課題があると思うんです。一方で、今日お話ししているなかでも、新規事業を立ち上げていく人たちの個々人の思いや、ある種の原体験のようなものが源になって立ち上がっていく。これも非常に説得力のある話かなと思っています。

例えば、わかりやすい話としては、三井不動産のような会社で、個人がやりたいと思っていることが、「これ、どう見てもうちの扱うネタじゃないな」というふうに見えたりする。そういうときに、それをやらせるべきなのかどうなのかという話ですね。

たぶん、そういう宿題がここに込められているんじゃないかなと思うんですけれど、麻生さん、数千と見てきた事業のなかで、「これはさすがにリクルートじゃやらないんじゃないかな」というものも、少なからずあったんじゃないかと思うんですよ。そういうときに、どのようなさばきかた、ジャッジをしていったのかなと。

麻生:いや、実はそんなことなくて。

光村:おっ!

麻生:リクルートもそうですし、いま僕がやっているアルファドライブという会社で、いろんな大きい会社の新規事業を現場のみなさんと一緒にやっているので、「さぁ考えよう! なんでも考えよう!」ということも四六時中やってるんですけれど、その会社が絶対にやらないようなことが提案されたのは見たことがないです。

光村:なるほど。

既存事業と折り合えないほど新しいことをやるなら、起業家になるべき

麻生:逆に言うと、そのぐらい思考の幅が狭いというか。「もっといろんなことを考えればいいよ」と言っているのに、やっぱり誰も「ロケットを作りたい」と言わないんです。   光村:う〜ん。

麻生:「宇宙食を開発したらいい」とかって、やっぱり言わなくて。どこかにその会社っぽいものが出てくるという前提があるので、これはちょっとどういう意味かなと思っていて。

光村:あ〜、なるほどね。

麻生:(既存事業と)折り合いをつけられないぐらい、本当に新しいことを思いついていて、どうしてもやりたいということなんだったら、辞めて起業家になったら、って。

光村:一言で言っちゃうと、そういうことですよね。

麻生:例えば、これは折り合いということじゃないんだと思いますね。

光村:たぶんそういうことなのかな。逆に言えば、やっぱりその会社の持っている決裁基準とか、判断基準とうまく整合がつかないようなことだったりするんですかね。

麻生:それだと、麻野さんの話にあったように「顧客だと思って話を通せるようにがんばれ」ということだと思うんですよね。

光村:田中さんが見ている「事業を創る人」という観点でいうと、事業を創るって必ずしも大企業のなかだけではなくて、当然起業して創るとか、個人事業主として創るとか、いろんなパターンがあるわけなんですけども。こういうのって、どう考えて整理していけばいいのかなあということですかね。