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パネルディスカッション「天才を活かすための組織とは?」(全4記事)

新規事業担当にとって、既存事業は“学びの宝庫” 『「事業を創る人」の大研究』共著者らが語る、社内の巻き込み方

2019年4月16日、One HR主催による「事業を創る人を創る人の集い#3 -天才を活かす組織とは?-」が開催されました。研究者やイントレプレナーなどの有識者が集い、組織内で合理的にイノベーションが生まれない構造を解き明かし、イノベーティブな組織へと変身する方法について議論を交わしました。本パートでは、麻生要一氏、田中聡氏、麻野耕司氏、光村圭一郎氏によるパネルディスカッションが行われ、新規事業担当者と既存事業との関わり方について議論しました。

新規事業に関わることで既存事業との向き合い方が変わる

光村圭一郎氏(以下、光村):もう1個聞きたいことがあります。みなさんがそれぞれのことをお話しされているので、ともすると、やや矛盾に聞こえるというか、食いちがうように聞こえる部分もあったかなぁというなかで。

これは、麻野さんと田中さんの話なんですけれども、田中さんのプレゼンテーションのなかでは、いわゆる社内業務にエネルギーをかけていくと、その人はけっこうパフォーマンスが上がりにくいんだよね、と。

これは、統計的な事実として指摘されていただろうなと思っています。麻野さんの方はどちらかというと、まさに社内業務というか、社内調整とか社内の説得のようなものこそ、社内起業家の花である、というところもあって。僕は、これはけっこう同意だなと。麻野さんと私の話のなかにもあったかなと思っています。この辺の違いについて、田中さんお願いできますかね?

田中聡氏(以下、田中):はい、誤解を招きそうなので、ちょっと補足させてもらうと、僕は、どんなスーパーマンでも一人では世の中に影響力を与えるような事業は創れないと思っていて。特に大企業の場合、既存事業を巻き込んでいく力はすごく大事なんだと思います。

その意味で、社内調整はめちゃくちゃ重要です。先ほどご紹介した3つのキャラクター(「ノープラン風見鶏上司」「ありがた迷惑ノイズ」「同じ釜の飯を食った敵」)は、話をわかりやすくするためにやや象徴的に描いたものですが、決して彼らは無視して事業を進めましょう!ということではありません。

彼ら(3つのキャラクター)の立場になれば分かることですが、彼らには彼らなりの正義があるんです。ここは、大事なことなのですが、むしろ実際に新規事業でさっき紹介した4つ目の学習プロセス(視座変容期)に到達する人たちって、どこかのタイミングで既存事業に対する向き合い方が変わっているんですよね。

光村:うん。

新規事業担当にとって、既存事業は「学びの宝庫」

田中:既存事業というと、「いつも新規事業に対して批判ばかりしてくる面倒くさい存在」というイメージや、「新規事業に理解を示さない頭の固い連中」というネガティブなイメージが、新規事業担当者には少なからずあると思うんです。

ただ、おもしろいことに、実際に事業を創る過程でそのイメージがガラッと変わる瞬間があると言うんです。どういうことかと言うと、既存事業もかつては新規事業であり、いろいろと紆余曲折がありながらも、今ここまで大きく成長し、当たり前のように事業が回っているという事実を直視した時、自然とリスペクトの気持ちが芽生えてくる、とみなさんおっしゃるんです。

どのようにして既存事業が生まれ、今に至る事業成長の過程でどんな課題があり、それをどう乗り越えてきたのか。新規事業を立ち上げながら日々向き合っている悩みを解決するヒントが既存事業の中に詰まっていることに気づくと、既存事業に対する見方が「批判の対象」から「学びの宝庫」へと、ぐっと変わっていくんですよね。

一度、既存事業に対する見方が変わると、当然、関わり方も変わってきますよね。だから、方法論として既存事業の巻き込み方を理解するより、既存事業の歴史を学び、既存事業に対する見方を変えた方が、結果的に既存事業の巻き込みはうまくいくんじゃないかなと。

光村:麻生さん、「わかるな〜」って、けっこうつぶやいていましたよね。

麻生要一氏(以下、麻生):そうですよね。僕はずっとリクルートのなかでやってきたんですけど、最初は3人とか5人とかのプロジェクトをやっているぐらいのときは、既存事業は巨大だし、ほぼ関係がないので、敵にしか見えていないというか。

そんな旧態依然なことをやっているのに対して、最先端のことをやってる俺、みたいな構造になっているんですけど、事業が起ち上がってきて組織が大きくなって、50人とか100人とかになってくると、やっぱりリスペクトに変わってくるんですね。

その先には、やっぱり1,000人とか2,000人の会社にしていきたいと思ったときに、どうやってこれをマネジメントしているのかとか、既存事業の組織マネジメントの仕組みの完成度たるやすごい、ということとか。

光村:たしかにそういうのを目にすると正直感動を覚えるし、新規事業の入口のあたりにいると大きなギャップがあるので、本当に自分がそこに行けるんだろうか、という。「どうすればギャップが埋められるのか」「こんなにみんなが勝手にコンセプトを理解して動くってすごくね?」ということは純粋に感じますよね。

麻生:うんうん。そういうことを思っていたなと、今すごく思ってましたね。

社内アントレプレナーにとって上司は顧客、経営陣は投資家

光村:麻野さんは、まさに事業を起ち上げられて大きく育てるなかで、今みたいなことも経験されていると思うんですけれども、どうなんですか? 一人の社内起業家としてさらに階段を上る、ブレイクスルーしていくと思うんですけれども、それは何が起きているんですか?

麻野耕司氏(以下、麻野):でも、社内でいろいろなことが起こるときに、目線が低いと敵に見えちゃうということがあるんですけれど、目線を高く持てば、全部が自分の新規事業を成功させるための資源に変わっていくので。

だから、既存事業もリソースに見えてくるんですよね。目線が低いと、既存事業が人を出してくれないとか思っちゃうんですけど。目線を高く持つと、いつかこの既存事業でレバレッジをかけて、自分の新規事業を大きくしようとか。

そういうふうに見えてくるので、僕はとにかく目線を高く持って、いろんなことを自分のリソースとして捉えられるように、と思っていますね。

麻生:ちなみにやっていて嫌になるときあります? やってらんねぇな、みたいなとき。

麻野:いや、ありますよ。

光村:嫌になるとか、やってらんないとか、日に何回あっても不思議じゃないですけど。どうリカバリするかというか、視座の高いところに戻るかが大事な気がしますね。

麻野:僕は、やっぱり起業家のことを思い出すんですよね。今までの先輩たちもいろんな新規事業を社内で提案して、なかなか役員陣からGOが出ず、腐っていく人はいっぱいいたんですよ。

「どうせわかってくれない」「しょせんこの会社は」「やっぱりダメなんだ」みたいな。「どうせ、しょせん、やっぱり」って、ずっと言ってたんですけど。なんだかどこか甘えてるんですよね。「同じ会社だからわかってくれる」みたいな。

クライアントの経営者に対しては、自分たちのプロジェクトを導入してもらうために、あの手この手を尽くして、あらゆることをやりきるんですよ。でも、なんだか社内では、プレゼンして通らなければ、相手のせいになっているような感じのところがあって......。

光村:確かにね。

麻野:でも、この上司が顧客だと思ったらやりきれるな、とか。投資家だと思ったらやりきれるな、ということがあると思うので、社内だからといって甘えないというのが大事だと思います。

だって、会社の資源を使ってやらせてもらうので、やっぱり上司を顧客だと思ったり、経営陣を投資家だと思うように見方を変えるというのは、社内アントレプレナーにとって大事だなと思いますね。

個人の思いと会社の方向性の折り合いをどうつけるべきか?

光村:はい、ありがとうございます。せっかく質問をいただいていますので、sli.doから拾いながらやっていきたいと思います。今一番「いいね!」を集めている質問が、上に上がって来ています。

「個人の思いと会社の方向性の折り合いをどうつけるべきか?」。これはちょっと補足すると、おそらく会社として、こういうテーマで取り組んでほしいという課題があると思うんです。一方で、今日お話ししているなかでも、新規事業を立ち上げていく人たちの個々人の思いや、ある種の原体験のようなものが源になって立ち上がっていく。これも非常に説得力のある話かなと思っています。

例えば、わかりやすい話としては、三井不動産のような会社で、個人がやりたいと思っていることが、「これ、どう見てもうちの扱うネタじゃないな」というふうに見えたりする。そういうときに、それをやらせるべきなのかどうなのかという話ですね。

たぶん、そういう宿題がここに込められているんじゃないかなと思うんですけれど、麻生さん、数千と見てきた事業のなかで、「これはさすがにリクルートじゃやらないんじゃないかな」というものも、少なからずあったんじゃないかと思うんですよ。そういうときに、どのようなさばきかた、ジャッジをしていったのかなと。

麻生:いや、実はそんなことなくて。

光村:おっ!

麻生:リクルートもそうですし、いま僕がやっているアルファドライブという会社で、いろんな大きい会社の新規事業を現場のみなさんと一緒にやっているので、「さぁ考えよう! なんでも考えよう!」ということも四六時中やってるんですけれど、その会社が絶対にやらないようなことが提案されたのは見たことがないです。

光村:なるほど。

既存事業と折り合えないほど新しいことをやるなら、起業家になるべき

麻生:逆に言うと、そのぐらい思考の幅が狭いというか。「もっといろんなことを考えればいいよ」と言っているのに、やっぱり誰も「ロケットを作りたい」と言わないんです。 光村:う〜ん。

麻生:「宇宙食を開発したらいい」とかって、やっぱり言わなくて。どこかにその会社っぽいものが出てくるという前提があるので、これはちょっとどういう意味かなと思っていて。

光村:あ〜、なるほどね。

麻生:(既存事業と)折り合いをつけられないぐらい、本当に新しいことを思いついていて、どうしてもやりたいということなんだったら、辞めて起業家になったら、って。

光村:一言で言っちゃうと、そういうことですよね。

麻生:例えば、これは折り合いということじゃないんだと思いますね。

光村:たぶんそういうことなのかな。逆に言えば、やっぱりその会社の持っている決裁基準とか、判断基準とうまく整合がつかないようなことだったりするんですかね。

麻生:それだと、麻野さんの話にあったように「顧客だと思って話を通せるようにがんばれ」ということだと思うんですよね。

光村:田中さんが見ている「事業を創る人」という観点でいうと、事業を創るって必ずしも大企業のなかだけではなくて、当然起業して創るとか、個人事業主として創るとか、いろんなパターンがあるわけなんですけども。こういうのって、どう考えて整理していけばいいのかなあということですかね。

会社の目的や方向性から逸脱する新規事業はあり得ない

田中:「個人の思いと会社の方向性を一致させるには?」という話ですよね。まず、その大企業において新規事業を立ち上げる目的は何なのかを煎じつめて考えることだと思うんですよね。

当たり前の話ですが、意外にここが曖昧なままスタートしている新規事業が少なくないように思うんです。この本のなかでも相当強調して伝えたんですけれど、新規事業って単に新しい事業を一つ創るということではなく、「会社の未来を創る」ということだと思うんですよね。つまり、主語は事業ではなく「会社」だと思うんです。

「事業を創る人」の大研究

ですから、これから会社がどういう方向に進みたいと思っているのかという経営の描く理想的な未来と、既存事業の延長線上でいったときに想定される現実的な未来とのギャップを埋めるというのが、シンプルに考えた新規事業の目的じゃないですか。なので、会社の目的や方向性から逸脱する新規事業というのは、あり得ないんじゃないかなとは思いますね。

光村:先ほどの話で言えば、経営者の視座で見るという話も当然ありましたし、会社に対する愛のようなものも、社内起業家にはけっこうついて回るのかな、という印象があります。いろんな社内起業家の方と話をしていて、そう思うんですけれども。大室さん、ごめんなさい、ちょっと変な話を振りますけれども。

大室正志氏(以下、大室):はい、変な話担当です(笑)。

会社に対する依存と健全な愛社精神の違い

光村:サラリーマンが一般的に持っている会社に対する忠誠心とか愛社精神、ひどい言い方をすれば奴隷根性とか。いろんな言い方をすると思うんですけれど、そういうある種の依存性みたいなものと、会社に対して健全な愛を持つこと。こういうものには違いがあったりするんでしょうかね。

大室:はい。たぶん、それはあると思いますね。昔、ベストセラーになった土居健郎さんの『「甘え」の構造』という本があります。これはある精神科医の方が書いたんですが、甘えという言葉は、意外と世界中で訳しにくい言葉だと。甘えというのは、他人が自分に好意があることを想定した言動だったり行為なんですね。

その先生が書いていたのは、例えば、アメリカ留学したときに、アメリカ人がガチャッと扉を開けて「アイスクリーム食べる?」と聞いてきたと。それに対して「いや、大丈夫」と言ったら「あっそう」と言って、扉を閉められたと。もう1回ぐらい言ってくれるんじゃないかな、と思ったと(笑)。

これは、日本人的なコミュニケーションですよね。相手がそもそも自分にやってくれるだろうと思って、1回言う。でも、「あっそう」と言われるという、外国的なコミュニケーションですよね。

言わないとわかってもらえない。これは実は、日本のいわゆる大企業と言われるような会社に非常に多いんですよ。なぜなら会社は、松下幸之助さんとかも言ってらっしゃいますけど、社員は家族であるから、多少なりとも、ちょっと跳ね返っても、別にそう悪いようにはしない。

甘えの構造、家族だから甘えてなんぼですから。そういうところなんですよね。ただ一方で、家族に対して、例えば奥さんに対して、日本人で毎日「今日はきれいだね!」「愛してるよ!」という人はあんまりいないですよね。

光村:はい。

大室:みなさんだいたい、嫌々ながら付き合ってるんだよ、という。そういう国の離婚率って、低いんですよ。

光村:へ〜〜。

大室:これはそういうふうに言っていて、「僕が決めたわけじゃない」という行為にし、責任の主体を曖昧にしておきたい。だから、これは非常に半沢直樹っぽいんですよ。 常に文句を言っているけどずっといる、と。でも「今って嫌なら別れればいいじゃん」という(笑)。「なんで別れないの?」というふうになるわけですね。だから、どちらかというと今だったら、「嫌で(一緒に)いるっておかしくない?」という。非常にそっちに変わってきている。たぶんその辺は、……これは麻野さんっぽい。

光村:これは麻野さんっぽいですよね。

麻野:でも……。俺っぽい話か(笑)。

(会場笑)

大室:離婚って言ってない、会社、会社。

依存と愛の違いは、選択肢を持っているかどうか

麻野:いやでも、さっきの愛と依存って、企業と個人の関係のなかで、すごく大事なポイントだと思っていて。今までは依存だったと思うんですよ。依存と愛は何が違うかというと、選択肢を持っているかどうかなんですよね。

依存というのは、人事の言葉で言うと、ロイヤリティと言われたりします。忠誠ですね。ロイヤリティというのは基本的には、企業が個人に選択肢を手放させていくということですね。日本企業は終身雇用、年功序列で、要は途中で辞めちゃったら大損こくようなシステムを作ったわけです。

相手からどんどん転職するという選択肢を奪っていって、その場にとどめる。これはロイヤリティですよね。依存させていく。一方で今、愛というのはエンゲージメントと言われたりするんですけれど、これは相手に選択肢を認めると。

システムとして、なるべく即時精算して、今の成果は給与で払って、辞められる状態を作ってあげる。それでもこの会社で働きたい、という自主的な選択をすることがエンゲージメントと言われていると。

この方がパフォーマンスが高いとか、自主性とか創造性が働きやすいと言われたりするんですけれど、新規事業を立ち上げたときも、そういう心持ちというか佇まいは大事だなと思っていて。やっぱり、僕もどこかで思っているんですよ。「本当にこの会社が、自分の思っている方向と違うんだったら辞めるよ」って。

それはぜんぜん言わないですけど、そういう佇まいは常に持っているんですよ。だから最後、役員陣にビビらないというか。本当にわからず屋だったら、本当にいなくなるからね、という佇まいは要るなと思っていて。それがときどき突破力を持つ場合もあると思うんですね。

麻生:光村さんも1回辞表を出しているわけで。

光村:出しましたね。行き場所を含めて、なんらかの保険というと変かもしれないけど、いくつかの手法を組み合わせたり、ちゃんと家族を食わせるぐらいのことはできるんだぜ、というような気構えを常に持っていたいなと思っていますけどね。

麻生:新規事業をやる人は、1回転職活動をしてみるといいですかね。

光村:それはあるかもしれないですね。そのロイヤリティと愛という話とか、エンゲージメントということで。最近では、辞めてからも出戻りできるようなコンフォートゾーンなども作りながら、大企業が人のマネジメントをしていくという流れになってきてますが。

「アルムナイ(定年退職者以外の離職者)」という考え方などが広がってきているとか。変わっている会社はどんどん変わっている感じがあって。そういうところがいろんな行動、思考の自由、そして新規事業につながっていく。そういうものが生まれてくるんじゃないかなと、ちょっと予感として感じているところなんですよね。

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