東京駅復元工事で1万本の杭を撤去した事例も

小野一樹氏(以下、小野):みなさんこんにちは。ケミカルグラウトの小野と申します。今日は、55年間地盤を改良してきた会社が、ついに業務を改良しはじめたというお話をさせていただきます。

最初に会社紹介をさせてください。ケミカルグラウトという会社は、土より下に関して様々な工事「地下の総合エンジニアリング」を行っている会社です。1963年に設立して以来、霞ヶ関ビルや青函トンネル、東京駅の復原工事、福島第一原発の凍土壁造成などといった工事を経て、現在56年目を迎えています。

業務内容としては、主に開発・設計・施工管理です。業務改良の対象としているのは、現場での「安全」「品質」「コスト」などを管理する施工管理業務、いわゆる現場監督の業務を対象としています。

自己紹介をさせていただきます。私は小野一樹と申します。出身は香川県琴平町、こんぴらさん(金刀比羅宮)がある街の出身です。現在、ケミカルグラウトという会社に所属しています。写真の左が私です。趣味は旅行や読書で、左下の写真が国内の温泉地で一番私が気に入っている絵です。長野県にある白骨温泉が非常にお気に入りです。

真ん中の写真と右下の写真が、今まで海外で食べた物で一番おいしかったと思っているものですが、去年アイスランドに行って32ヶ国に行ったことになります。その中で一番おいしかったのが、ポルトガルの料理です。絵はシーフードライスなんですけど、非常にあっさりしていておいしいです。

右下がインドでスーパーで買った100円のアイスで、はじめて食べたときはハーゲンダッツかというぐらい本当においしいアイスでした。ぜひ旅行に行く際はご参考にしていただければいいかなと思います。

業務改善のプロジェクト発足

話を戻します。では、まず現場担当者の現状についてお話させていただきます。現場担当者の一日の流れを絵に描いています。昼間は現場担当者として現場で作業や安全・品質等の管理、打ち合わせなど、基本的にはフィールドワーカーとして仕事をしています。そして夕方、工事を終えて事務所に移動してから、いわゆる事務作業(に取りかかります)。

メールの対応や図面の修正ですね。それから現場で生成されたデータの整理、明日の作業準備などを済ませて帰宅するというのが1日の流れです。

この絵を見てわかるように、昼間はフィールドワーカーとして働いているので、なかなか机に向かって事務作業するといったことが難しいんです。そのため夕方以降、残業時間として事務作業を毎日こなしています。長時間労働になっているというのが現状です。

これまで、この状況を改善していこうということで、「マクロ関数を組んだExcelを使って効率化しよう」という取り組みは何度か行ってきました。でも、どうしてもExcelなので各人が使いやすいように改良を加えていて、社内では安藤式、佐藤式といった名前がついた雛型ファイルがたくさんある状況です。

結局現場や使用者が変わると、そのExcelファイルを修正したり理解したり、改良したりといったことに時間が取られてしまって、長時間労働がなかなか改善されなかったんです。長時間労働を懸念して、若手の離職率も近年高まっていたというのが問題でした。この問題を解決するために、社内で業務改善をしていくためのプロジェクトが立ち上がります。

1996年のExcelファイルがまだ現役

まず始めに「なぜ残業時間が多いのか」を要因分析しました。先ほど申し上げたように、現場事務所に戻らないと事務作業ができない。かといって事務所に戻ってしまうと、その間は現場責任者が不在となってしまうため、基本的には現場に常駐しなければいけないといった制約があります。

事務作業自体を見ていくと、何年も前につくられたExcelファイルを使っています。現在の専務が作成した96年や98年のExcelファイルが、まだ現役で動いているという状況です。また、新しいICT技術が活用されていない、本社との作業共有もうまくできておらず、現場担当者が事務作業をすべて抱え込んでやっている状況です。

ここから見えてくるのが、現場における昼間の隙間時間を有効に使えていないということ。そして、日常業務が改善されてないといったことがあります。これに対して、「現場でも事務作業ができる環境を整えていくこと」「ルーチンワークのシステム化や本社とスムーズに作業を共有できる環境を整えること」が重要な改善項目であると考えます。

先ほどの改善項目を絵で表しますと、このようになります。事務作業にシステムを導入し作業を効率化していくこと、また本社とのスムーズな作業の共有をしていくこと。昼間の隙間時間に事務作業を行い、残業時間を減らして社員の働き方改革を推進する目的です。

作業時間を8割削減

そこで業務改良の第一弾として、写真管理業務の改良に取りかかりました。写真管理業務とは、左下の絵にあるようですね。

現場ではよく木の黒板にチョークで文字を書いて、デジカメで写真を撮ります。撮影する写真の枚数は一日数十枚から多い現場だと一日数100枚撮影する現場もあります。夕方事務所に戻ってから、撮った写真の一枚一枚をフォルダ分けします。さらに提出書類を作成しなければいけないので、Excelファイルにその写真一枚一枚を貼り付けます。

また、昼間撮ったときに黒板に書いた文字を写真から読み取って、Excelの右側に入力するといった、二重入力も行っていました。これに対して、当社はアプリケーションの導入を行います。手に持っていた黒板は、電子黒板としてタブレット上に表示します。撮影した写真はリアルタイムにクラウドサーバに送られて、電子黒板に書いた文字が撮影した写真のタグ情報として自動的に整理されます。

さらに書類の作成に関しては、画面を数回クリックしていくだけで作成できる。なおかつ、その作業は本社の社員もほぼ同時に作業することが可能です。これによって現場担当者は現場で写真を撮り、本社側が書類の作成や確認を行う。現場担当者は、作成された書類を確認して提出するだけというフローになりますので、作業時間を約8割削減しています。時間にすると一ヵ月当たり約11時間の削減です。現在、全社的に使用しています。

「そこ、困ってないんですよね」 ツール導入の落とし穴

ここで浅はかな私は、あることを心に思います。「あれ? ツールを入れただけなのに8割も削減してしまった、そういうことか」と。「業務改善というのはツールを入れたらいけるんだ!」。私はそういう感情になりました。

気をよくした私は、業務改善の第二弾として、資料作成業務の改良に手をつけます。資料作成業務というのは、左下の写真にありますように紙のノート、それから属人化したExcelファイルに対して、例えば今日は現場で作業員が何人出て何時間労働したのか(を記載するものです)。

それから材料を何トン入荷して、何トン使用したか。トラブルが起こった際にどう対応したらうまくいったのか、うまくいっていないか、といった施工的なノウハウも含めて、こういった媒体に記録をしています。

私も現場経験があるので、非効率な原因というのは雛型ファイルがたくさんあり、これらを理解して修正するのに時間がかかっていると思っていました。それを右の絵にあるように、kintoneにこれらの情報を打ち込むようにする。

そして、統一された書式で出力できるようにすればいいだろうと、当初は思っていました。早速私はこの案を現場担当者に提案しました。「アプリ化して雛形を統一しようと思います」。それに対して現場担当者からは、「いや、そこずっと困ってたんだよね」「いやぜひ作って欲しい」と反応が来ると思っていましたが、実際には「雛型の統一は無理だと思います」「いや実際そこは困ってないんだよね」といったものでした。

ツールを入れることしか能がない私は非常に悩みました。そんなある時、机の上にある招待券を目にします。私は逃げるような思いでCybozu Daysに参加します。そこで出会ったのがこの3人です。ある人は「みんなの本音が聞けちゃうんだよ」。またある人は「要件は作りながら詰められますよ」と(おっしゃっていた)。別な人は花粉にずっと苦しんでいました。

(会場笑)

社員の本音を聞き出せたワークショップ

小野:現在、開発パートナーとなっていただいている、ミューチュアル・グロースさんと倉林工房さんです。困っていた私は、彼らの意見を聞いて実施することにしました。そこでまず実施したのが、現場担当者を本社に集めたワークショップ。こちらが実際の実施風景です。ワークショップで何をやったかというと、まず現場担当者それぞれが、「業務中、何に困っているの?」というのを付箋にすべて書き出してもらいました。

さらに書き出したものを「業務フロー上、どこで困っているの?」と(当てはめていく)。現場に乗り込む前なのか、現場に乗り込んでからなのか。はたまた、現場から戻ってきたから困っているのかを細かく整理をします。

同時に解決方法や業務のあり方も、管理職・実務者含めて全員で議論をします。実際に出た上位の意見が、「過去のデータが整理されていない」「情報がまとまっていない」「社内サーバにはあるんだけど見つけられない」というものです。

最初に言ったように、フォーマットが各人各様なので、理解するのに時間がかかってしまう。それから同じ情報を入力することが多い。要は過去案件・データの活用がうまくできていないといったことが見えてきました。こちらがワークショップ結果の全体像ですが、当初想定していた書式の統一という意見も、たしかに多くありました。

ただ、それ以上にデータの検索や情報の活用などに困っているということが、このワークショップをやってわかりました。当初私が考えていたように、kintoneに登録して統一された帳票を出力することだけが理想ではなく、登録したデータを検索し活用していくことが、非常に重要だった。この現場実績データベースが存在したら、どう変わるのか。

データベースにトラブル防止のノウハウを蓄積

一例を挙げます。例えば現場でトラブルが発生します。現状であれば、そもそもそのトラブルに対して、どう対応していいかわからない。経験者はいいんですけど、若手社員だとほとんどわからない。そのトラブルを誰が経験しているのかもわからないので、誰にも聞けない。結果的に個人の中で判断を下す。それによって現場で作業を中断して、費用・工数などが上がってしまうリスクがあります。

データベースが存在すると、すぐキーワードで検索をかけられます。さらに似たようなトラブルを経験している人の名前も出るので、すぐに電話で確認がとれる。全員のノウハウで現場の課題をクリアしていくことができるようになります。結果的に現場を止めるリスクは少なくなるんです。これまで現場でクローズされてきた情報をオープンにするだけでも、かなりの効果があると思っています。

実際につくったアプリがこのようなものです。まず、データ検索用の現場検索というアプリをつくり、その下にノートやExcelに書いていた情報を登録できるアプリを、全部紐付けています。

それから、要望や不具合などを継続して登録できるようなアプリも別途、作成しております。こちらが実際に開発した日報アプリの画面です。日報アプリだけでも項目数が150項目ぐらいあるので、ボタンを置いてカテゴリー別に出るようにしています。

それから、ノートに書いていたノウハウも文字データとしてここに書けるようになったので、キーワードで検索をして探すことができる。さらにこのデータを活用した人はすぐ下に「いいね」ボタンを置いていますので、これを押すことによって、有効なデータだと目立たせるという仕組みも取り入れています。

この画面はアジャイル開発で作成しているので、作成した画面をユーザーに見せながらフィードバックをもらいます。それから作成している途中に思いついたアイディアも取り入れながら、非常に精度の高い画面をつくっています。実際にアプリをつくってからテストランを実施します。

「使ってみたい」と思わせる仕掛けは口コミ

ここで復習ですが、テストランまでに実施してきたことは主に3つあります。1つ目は今回、初めて実施したワークショップによって、本質のニーズを理解することができました。またその後の開発もフィードバックにスムーズに協力をしていただけた。

2つ目は、アジャイル開発を可能にしたkintoneというツールの導入。3つ目が、テストランを実施する2週間前に集中的に操作性を向上する期間を設けること。この改良期間を設けることによって、テストランでバグの有無を確認するのではなく、操作性自体をレビューしてもらう。

それからテストランで使用した最初のユーザがアプリに抱くイメージを良くする狙いがあります。これは現在当社で実施しているアプリの広め方に関係しています。

今までであれば「開発がアプリをつくりました、さあみなさん使ってください」といったようにトップダウン形式で行っていました。でも、どうも広がりが悪いという意見が多かったんです。そこで当社は口コミ式で広めるようにしていますが、先ほど申し上げた、徹底した操作性の向上をここで行います。

テストランで使用した方をキーマンとして、この方にアプリの高い満足感を持ってもらう。その満足感を(持ったうえで)、現場から上がってきたときに一緒になった社員に対して、「この前このアプリを使ったんだけど便利だったよ」などいい意見が自然とユーザサイドに浸透してく仕組みとしています。

この効果としては、口コミを聞いた社員から私に直接「いつできるの? 早く使いたいんだけど」といった声が届くようになり、ユーザサイドから使いたいという状況になってきています。

実際にテストランを実施した結果になりますが、これまでは報告書作成に3日から4日かかっていた。また、夜遅くまでの残業に対して、昼間の隙間時間、日々の記録をkintoneで入力することができた。また第一弾の改良で紹介した写真の帳票作成も含めて、半日で報告書を作成できました。ある社員は「今週は毎日定時で帰れてうれしい」と言っています。

本社側の意見としては、手戻り・再度入力が非常に多かった。これに対してデータを探す労力・時間が解消された。早い段階で現場側のミスを見つけることができて、こちらで修正できる。また、ほかの業務もどんどんアプリ化してほしいといった意見をいただいております。

3、4日費やしていた資料作成が半日まで減少

続いて、費用対効果についてです。まず現場での隙間時間の約15分をかけて、事務作業を行っています。これに、一人の現場担当者が年間現場に出る平均日数の180日を掛けると、45時間になります。

また、1現場当たり3日から4日程度かかっていた報告書作成は半日までに短縮することができ大きな効果が出ている。一人の現場担当者が年間担当する平均現場数の6現場を掛け合わせると144時間。これらを日数に換算すると24日に相当します。

これだけあると、白骨温泉に2泊3日で行って、ポルトガルも8日間、インドはお腹壊すかもしれないから6日間としたとしても、7日間も余ります。これぐらいのインパクトがある数字が出ます。

最初に上げていた問題ですが、長時間労働も解消されております。さらに若手の離職率も、2016年の業務改善をしはじめたころから0パーセントをキープしている。効果は少しはあるのかなといった印象です。

業務改善の近道はいいパートナーを見つけること

今後の予定ですが、現在kintoneで使っているアプリの改良を進めるのと、要望のあるほかの業務もどんどんkintoneに取り込んでいこうと思っています。そして、現在運用している写真の管理やストレージなどをすべてAPIでつないで、データ検索がしやすいようにしていく予定です。

また現在進めているのが、現場担当者向けにつくっている工事部編。営業や労務、経理、機材管理にも広がっていきますが、今後は工事部だけではなくて、事務方(でも運用できるので)、壁はなくしてどんどん改良していきたいと思っていますので、ぜひともご協力お願いいたします。

最後に、みなさんに一言。一人で悩まず、「kintone hive」や「Cybozu Days」でパートナーや仲間を見つけて業務改善、進められますように。ということで、発表を終わりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。