創業108年の老舗総合科学メーカー

篠原文子氏:みなさん、こんにちは。最後の発表になりました。緊張で、口がカラカラです(笑)。三井化学新ヘルスケア事業開発室の篠原と申します。今日はよろしくお願いいたします。

まず、自己紹介させてください。頭を使うより、とにかく体を動かすのが大好きな、今風でいうとリケジョです。会社入ってからゴルフを始めまして、すっかりハマってしまいました。もうゴルフ大好き。性格的に、ハマるととことんやってしまうんですね。両腕がゴルフ肘になって、1年間クラブ振れなかったりしたんです。

生まれも育ちも、うどん県出身。ちょうど前に登壇された小野さんも香川県出身でダブってしまいました。この粘りはうどんから来てるんですね。ちなみにこの服装なんですが、うどんを意識してるんです。ダシとうどん、そして実はピアスの緑はネギなんです。ちょっと今日はこうしてみようと思ったんですけども(笑)。

と、私のことはどうでもよくて、三井化学についてなんですが、今年で創業108年です。

昔々、三井鉱山という会社がありました。この三井鉱山、石炭の会社ですけれど、1912年に石炭化学事業を始めたんですね。この化学事業が脈々と受け継がれて、今の三井化学に引き継がれています。バリバリの旧財閥系総合化学メーカーです。

従業員は17,000人。去年の売上高は1兆4,800億円と、大きい会社ですね。

「総合化学メーカーってどんな会社?」って、わからないですよね。私もわからないんですけど。

石油を分解するといろんなものが出てくるんですが、それを化学反応させて、新しい素材を作るんですね。それをお客様に販売すると、お客様はその素材をさらに他の素材と混ぜて、プラスチック製品などを作ります。

このお客様の事業領域から、我々の事業領域も5つに分けています。

化学素材メーカー、BtoC事業への挑戦

私のいる部署はこのヘルスケア事業になるんですけれども、このヘルスケア領域には花形商品が1つありまして、眼鏡レンズの材料なんです。このレンズの材料は「レンズモノマー」というんですが、世界シェアナンバーワンの45パーセントを誇っています。国内に至っては、なんと7割。

ですから、もしみなさんがプラスチックレンズの眼鏡をかけていたら、きっと三井化学の素材が入っていると思います。

その強みを活かしてレンズ自体の開発にも力を入れているんですね。そこで登場するのが液晶レンズなんです。

この液晶レンズが一体何者かというと、レンズが9層構造になっていて、液晶を閉じ込めているんですね。液晶って、電圧をかけると分子配列が横から縦に変わるんです。この性質を利用してレンズの度数を電気的に変えようという、そういう代物になっています。

開発期間は10年。メンバーは、「これをなんとか製品化しよう」と毎日努力をしていたわけなんです。

ある時、英断がくだされました。「これを製品化するぞ」と。「やるぞ」「眼鏡作りましょう」と。「眼鏡ですか!? 自社でですか! うちは素材メーカーなんですけど」。いきなりBtoCビジネスに飛び込みましょうという英断がくだされたんですね。

2017年7月に決裁がおりて、眼鏡の販売は翌年の2月からだと。その名も「TouchFocus® 」。これでバーっと紹介しようと思ったら、実はプレゼンにすでにTouchFocus® のロゴが入っていて。「これ、ネタバレしてるじゃん!」と思ったんですが(笑)。

とにかく開発チームメンバーは、経営層からの後押しもあって、もうやる気満々で「よっしゃやるぞ!」と活気づいていて。幸いなことに、取り扱い販売店さんもすぐ決まって、製品の開発も順調に進みました。順風満帆と思っていたその時、ふと疑問が湧くんです。

「これどうやって注文取るんですか?」って(笑)。

既存ビジネスの対極にある眼鏡の製造工程と、その売り方

従来の私たちのビジネスというのはいわゆる装置産業。何千何万トンという材料を、巨大な化学プラントでガンガン作って、コンテナとかドラム缶に詰めてガンガンお客様にお届けする。かたや私たちの仕事、今度始めるのは眼鏡なんですよね。

眼鏡ってカスタムメードなんですよ。みなさんの視力はそれぞれ違いますから、オーダーを受けてからレンズを削って、眼鏡を作って、一個ずつ箱に入れて、どうぞとお渡しする。まったく対極のシステムなんですね。

当時、開発メンバーって20人いたんです。その中に当然システムの担当なんていないんです。私、当時ここの当事者じゃなかったんですね。「システムはどうするんだ?」という話になって、そこで「篠原さん、システムやってたよね」って。

気が付いたら、もう私が担当になっていたんですね。そこで、じゃあどうしようかと。まず社内のシステムをちょっと見てみました。従来のビジネスに合わせた、ガチガチのどでかいERP(Enterprise Resources Planning)です。

これをカスタマイズして、眼鏡のオーダーを取れるようにしようかなんてこと、できるわけないですよね。だから、もう最初からそれは選択肢にありませんでした。でも、眼鏡のオーダーをなんとか取るようにしなきゃいけない。

そこで一体どうすればいいんだと。Webサーバーを作ってオーダー取れるように、なんて思いましたけれども、そんなのできるわけないですね。時間もないし経験もない。「なにかパッケージはあるのか?」なんて思いましたけど、そんなものはないんですね。

そんなときに出会ったのが「kintone」だったんです。

オーダーフォームに求めたのは、直感的であることとエラーを絶対に出さないこと

「なんかkintoneっていうツールは良さそうだぞ」と。そこで、kintoneにどんな機能があるか、見てみたんですね。

その前に、この眼鏡の受注販売システムを作るときに気をつけたことがあります。目標はたった一つ。販売店様から眼鏡のオーダーを取ること。もうこれだけ。もうこれだけやろうと。

そのために気をつけたことですが、オーダーフォームが直感的であることと、エラーを絶対に出さないこと。とにかく機能はシンプルに、ミニマムの仕組みで。そして、すぐに対応できることです。

販売店から注文を受ける時は、当然社内の人じゃありません。kintoneのことを知ってる人もほとんどいないでしょう。だから、オーダーフォームを見て、すぐに入力できるようにしなくちゃいけなかったんです。エラーが出たら信用にも関わるし、そもそもリソースがないので対応するにも時間かかってしまいます。エラーを出さないように、機能はミニマムで。

私たちはまったく経験がないので、いくら完璧に作ったと思っても、当然ですが他から要望が来る可能性もあります。だからすぐに対応しなきゃいけない。そのためにも、とにかく標準機能にこだわったんですね。カスタムメイクしたら、バグが出てもブラックボックスになって、対応できなくなったりしますので。まずは標準機能でやろうと。

そこでいろいろ機能をチェックしました。まず販売店からオーダーを受けて、販売店がその受注一覧を見たときに、他の店の情報は当然見えちゃダメですよね。じゃあどうしたか。kintoneに組織間アクセス権という機能があります。まず組織の設定で、ユーザーを社内と販売店に分けました。

販売店の下に法人を入れて、その下にさらにその法人の店舗を入れます。そして優先する組織を設定するだけ。オーダーホームには組織コードを入れて、初期値を優先する組織にするだけ。

これだけでオーダーが入ったら、なんと自分のお店のオーダーしか見られない。これがkintoneの標準機能でできたんですね。

kintoneの標準機能だけでなんでもできる!

もともとプロセス管理にはすごく興味がありました。これだったら入力から製造・出荷までのプロセスをワークフローで管理できそうだとわかり、じゃあこれを使っていこうと。

次ですが、みなさんがオンラインショッピングなどをする時に、注文確定するまでって商品を入れ替えたり、数を変えたりとかできますよね。だけど注文確定したら、あとはその注文って当然ですが変えられないですよね。これをどうやって実現しようか。

そこで見たのが、レコードのアクセス権です。レコードのアクセス権を見ると、条件にステータスを入れられるんですね。

こりゃいいやと。ステータスが入力中の時は、販売店さんはまだ編集できる。だけど、その後に発注したらもう編集できない。これでできちゃったんですよ。あとこの画面です。ログイン画面ですね。販売店からログインすると、まず最初にこれが出てきます。水色と白い雲。kintoneらしくていいんですが、TouchFocus®のブランドイメージとまったく合わない。さすがにちょっと恥ずかしいなと(笑)。

そこで設定画面を見てみたら、ちゃんと変更できるじゃないですか。なんとかブランドイメージも取り繕うことができました。

kintoneの標準機能を調べだしたら、あれもできるこれもできるとわかり、もうLoveですね。恋に落ちました。もうkintoneと一緒にやっていくんだと。

ところがですね、こういう蜜月って長く続かないんです。

小さく作っては直し、少しずつカスタマイズできるという利点

kintoneを実際に使いだすと、頭は固いし、寸足らずだし(笑)。

例えばアクション機能。みなさんも使ってる方は多いと思うんですが、アプリから次のアプリへレコードを書き出そうとすると、ドロップダウンとかラジオボタンってコピーされないんですよね。なんでやねんって(笑)。何でコピーされないんだよと。

あとルックアップできるのも、取ってこられるのは単一キーだけです。データベースをやっている方はわかると思うんですが、キーって複数で一意になるのが普通なんですよね。ほぼできないです。

ひどかったのが、販売店からフィールドを見せないように、そのフィールドのアクセス権を入れたんですね。ルックアップで情報を取ってきてシステムで使ってたんですが、当然といえば当然なんですが、フィールドのアクセス権で見えなくなったらルックアップの情報も入ってこなくなって。せっかく作ったのに動かなくなっちゃうんですね。

kintoneの良いところは、小さく簡単に作って、あとはお客様のところに行って見てもらっては、すぐに変えられるところ。作っちゃ潰し、作っちゃ潰し、こうやって大変な思いもしながら、なんとか半年後にでき上がったのがこの姿です。

当時アプリとしては15個、トランザクションデータはたった3つ。注文用の発注マスター、製造管理用の眼鏡マスター、そしてレンズを加工・発注するレンズマスター。この3つに絞りました。あとはトランザクションじゃなくて登録系ですね。そして、情報の交換系が他にあって、全部で15からのスタートです。

リリースの1分後に、購入データが入ってきたときの感動

そしていよいよ運命の日、2018年2月15日。午前10時が販売店へのリリース時間でした。この日の朝、私10時前に、発注マスターの設計画面を開けて、販売店のアクセス権を入れ、マウスはアプリの更新にセット。そして、時計を見て、10時になると同時にクリック。

こんな超アナログなかたちでアプリがリリースされました。興奮冷めやらぬまま、画面を見ているとですね、これがその時の画面なんですけれども。ころんってデータが入ってきたんです。

これは本当のデータです。フィルターをかけてピックアップしたんですけども、時間を見てください。2月15日10時1分。これが、三井化学の眼鏡の初めてのオーダーなんです。半年間必死になって作って、2月15日、本当にデータが入った。この感動は忘れることができません。見ていて、思わず叫びました。

みなさん、やっぱりやきもきして、まわりをうろうろしていたんですけど。データが入ってきたときにみんな、ばーっと机に集まってきてですね。「おー!」なんて。感動的でした。本当に良かったです、やっていて。

TouchFocus®は、kintoneと一緒に世界へ羽ばたく

それからもう、1年4ヶ月が経ちました。当初は15アプリで始めたシステムで、標準機能にこだわって作りましたが、今では約50アプリが連動して動いています。

さすがに標準機能だけでは難しくなりました。私も標準機能を使い尽くしました。「これができる」「あれができない」というのがわかってきましたので、APIやJavaScriptなども入れています。

あと、機能を全部、1つのアプリに集中していたんですけれども、それがどんどん重くなってきたので、機能ごとにアプリを分けて、連動するようにしました。当初は販売店舗も9店舗に限られていましたが、今では北は北海道、南は沖縄まで、60店舗以上で取り扱いいただいています。

それでは、最後にみなさんにTouchFocus®の広告ビデオなんですが、ちょっと見ていただきたいと思います。

ありがとうございました。私がかけているこの眼鏡もTouchFocus®です。今国内でどんどん販売拡大を続けていますが、TouchFocus®はこれから世界での販売も計画中です。TouchFocus®は世界へ、kintoneと共に羽ばたきます。

これからみなさんもkintoneを使うと思いますが、みなさんもkintoneをいっぱい使って、世界のスタンダードにしましょう。ご清聴、どうもありがとうございました。

(会場拍手)