2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
医療法人ゆうの森 前島啓二 氏(全1記事)
提供:サイボウズ株式会社
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前島啓二氏(以下、前島):みなさん、こんにちは。ゆうの森の前島です。私ども、kintoneを活用し始めてから5年が経ちました。その中で学んだことを、うまくいったこともそうでないことも、すべてありのままでお伝えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
まず、自己紹介です。勘違いされるんですけど、私は全然システムエンジニアなどの出身ではありません。松山生まれ、松山育ちで、大学の時はプログラミングではなくて、人の言語を学んでいました。そのあとは、証券会社の営業を3年ほどやってからゆうの森に入り、その中で総務やITの仕事を始めました。
その中でkintoneとの出会いがあって、そのおもしろさに魅了されまして、kintoneの認定資格を受けたり、kintone Cafeに参加させてもらったり。kintoneを好きになって、kintoneにいつも向き合っているような生活なんですけれども、年に1回ぐらいは携帯の電波も届かないような山奥や湖に行って、少し大自然のエネルギーを吸収してから、また医療やITの世界に戻るような生活をしております。
では、ゆうの森の紹介をしたいと思います。ゆうの森は、松山市別府町にある「たんぽぽクリニック」と、西予市明浜町にある「たんぽぽ俵津診療所」という、2つのクリニックを中心とした医療法人です。医師や看護師、それからケアマネージャーやヘルパーといった、医療系・介護系のさまざまなスタッフが100名ほど働いています。
ゆうの森の「ゆう」は、「あなた」や友達の「友」、「優しさ」といった思いにあふれた森のような存在でありたいという思いを込めて、名づけられました。
主な事業やプロジェクトについてお話ししたいと思います。まずは在宅医療。寝たきりの高齢者の方だったり、重い病気で通院が難しい方に、ご自宅で安心して過ごしていただけますように、医師や看護師、さまざまな専門スタッフがご自宅を訪問をして、24時間対応の医療サービスを提供しています。
2つ目の地域医療。リアス式海岸が美しい西予市明浜町の俵津地区は、人口1,100人の町です。私たちはこの町でたった1つの診療所を運営しておりまして、在宅医療も取り入れながら、住み慣れた地域で安心して過ごしていただけるような支援をさせていただいています。
それから3つ目、在宅医療の普及・発展のために、さまざまな講演会やイベント、書籍の発行などを行っています。まだまだ在宅医療が知られていなかったり、在宅医療を選ぶことができない方々が多い中で、家で人生の最期を迎えられることが当たり前になる時代が来るように、さまざまな普及・発展の活動も行っております。
私たちが大切にしている思いとして、「楽なように、やりたいように、後悔しないように」という言葉があります。重い病気があっても、家で痛みやしんどさも緩和しながら、その人らしくより良く生きられるような支援、その方を支えて寄り添う医療を心がけています。
そんなゆうの森が、kintoneを使って業務の改善や情報共有を行ってきた事例をお話したいと思います。
まず1つ目。情報共有をする前に、すごく属人化していた情報をまとめるという作業からでした。もともと電子カルテというツールは使っているんですけど、電子カルテというだけですべての業務ができるようになるわけではなく、それを補うためにAccess、FileMaker、それから担当が思い思いに作った数々のExcelが存在していました。
まず私がやったことは、この電子カルテ以外のさまざまな情報をkintoneにまとめること。そうすると入り口が2つになりました。Excelは、使いたい時だけCSVで出力することで、元のデータをしっかりと担保した上で情報を扱えるようになりました。
そうやって、情報共有がスムーズになりましたら、毎朝のカンファレンスなどでは、情報共有の先の、方針の統一に時間を費せるようになりましたので、誰もが同じように患者さんに対応できるようになります。
そうすると、夜間や休日の対応が当番制でできるようになります。実際、西予市の診療は、松山に住んでいるお医者さんが毎日、日替わりで出勤しています。けれども、クラウドでしっかり情報共有ができていますので、毎日交代していても、無理なく24時間対応を実現することができています。
さらに、kintoneを使って、バックヤードのいろいろな業務を松山の本部に集約していますので、西予市に関しては現地採用の人員も最小限で、コストを抑え込ながら黒字で運営をしています。
それから営業活動。医療機関の営業活動というとイメージが湧きにくいかもしれませんけれども、とくに在宅医療の場合は、定期的にかかる患者さんの数が、収益を大きく左右します。その新規の患者さんを獲得する一番の方法は、地域の病院やケアマネージャーさんからの紹介です。
右は2016年頃のグラフで、濃い青が定期患者数、薄い青の新規紹介数です。これらがちょっと伸び悩んでいたので、私や内勤の事務職員を含めて総動員で、しっかりと地域の病院やケアマネージャーさんのところを回って、営業活動をしようということになりました。
けれども慣れていないスタッフも多く、ましてや、営業先のケアマネージャーさんがどんなふうにうちに関わってくれているかという情報が全然なく、営業ができないという状況だったので、これにkintoneを使えるようにしました。
(使い方は)シンプルでして、営業管理アプリを作りました。事業所名を入力してルックアップすると、kintone内にあるほかのアプリから、今まで紹介してくれた患者さん、その患者さんたちの最近の病状や様子、その事業所に所属している方が参加してくれた、ゆうの森主催の勉強会の履歴、こういったものがすべて1つの画面で確認できるようになりました。
それで自信を持って営業先に行って、紹介のお礼もできるし、患者さんの報告もできるし、「セミナーに参加してくれてありがとうございます」と言えるようになりました。
それによって、営業が得意か不得意かも関係なく、誰でも営業に行けるようになったので、地域のケアマネージャーさんや病院からの紹介も非常に増えました。その結果、2017年、2018年は一気に患者数を増やすことに成功いたしました。
次の事例。業務改善の1つのやり方として、自分たちでできないことを外注するというのがあると思うんですけれど、その業者さんに外注する時もkintoneがすごく役に立ちました。
例えば、Webやチラシなどのデザイン、それから患者さんに毎月お渡しするカテーテルなどの物品の在庫管理も外注して、コスト削減を図っているんですけれど、業者さんにもkintoneユーザーとして入ってもらって、発注連絡や発注の表、アプリを共有することによって、業者さんとの電話やFAXは一切なくなりました。kintoneだけですべて完結します。
さらに、一番良かったのはやり取りが透明化されることです。誰がどのように連絡して、どう発注をしているか、どう対応してくれたかが全部わかります。例えば、ゆうの森のスタッフのほうが無理なお願いをしてるんじゃないかとか、発注ミスをしているんじゃないかといったことも含めて、すべて透明化できます。
業者さんはどちらかと言うと弱い立場になりがちですけれども、しっかりと公明正大に共有できている。そういったところでオープンにしていくのがすごく良かったのかなと思っております。
ここまで良さそうな話ばかりしてきたんですけれども、5年間ずっとうまくいっていたかというと、やっぱりそうではなくて。とくに最初に導入したときの感動は、やはり1年、2年使っていくうちに少しずつ薄れていったりします。
そうしていると、いつの間にか新しいExcelができていて、「これ、kintoneでできたりするんだけどな」とか思ったり。あるいは、アプリが増えてくると通知も増える。通知が増えると、本当に見てほしい通知が見逃されてしまったりしてしまう。そもそも情報が多すぎて、見てくれていないんじゃないかと思うこともありました。
なにより、Webやkintone hiveで見聞きする他社の事例がすごくて。よく「隣の芝生は青い」と言うんですけれど、そんなレベルじゃなく、もう光り輝いて見えて。
自分たちのkintoneのまだまだできてないところは、自分が一番よくわかっているものですから、「ウチのkintoneって、本当に良いのかな。みんなの役に立っているのかな」という思いを持つことがありました。
そういうことをずっと考えているとしんどいので、kintoneは好きなんですけど、ちょっと距離を置いて、触らない時期があったり。恋愛ではないんですけど、そんな時期があったりしました。そうやって悶々としながらも、一応kintoneを運用してたんですけれども、ある日気づきがありました。
うちのとあるベテランの介護スタッフさんが、夜だけ働いて朝帰る夜勤の専従さんなので、なかなか他のスタッフさんと話す機会も少ない方でした。あるとき、その人が、お客さんが入るお風呂の桶の改善のアイデアを、kintoneの中で現場目線で投稿してくれたんです。
それを見たうちの経営者である理事長が、スレッドのいいねボタンを押したと。その人は、そのことをすごく喜んでいて、モチベーションもすごく高くなっていたとほかのスタッフから聞いて、その時にハッと気づきました。
私はkintoneを導入した時には、どちらかというとデータベースをしっかり作って、あらゆることをアプリにして、しかも連携させて、データを完璧につなぐデータベースを完成させることが目標のように考えていたんです。
でも、僕が作ったkintoneがつないでくれていたのは、みんなの心だったんですね。「ちょっと不安なので」という新人さんがいたら励ますコメントがあったり、昨年、南予で豪雨の大被害がありましたけれども、松山からの気遣うコメントに対して、「明浜町のスーパーがなくなったので、お弁当屋さんが立ち上がったよ」というようなコメントが書いてあったり。
そのほかにも、各自のがんばりや喜び、あるいは気づきといったものがコメント欄にいっぱいあったんです。自分も見ていたつもりだったんですけど、そのすごさにまだ気づいていなかった。
なぜkintoneのアプリにコメント欄がついていて、スレッドにいいねボタンがあるのかということを、頭ではわかっていたつもりが、全然わかっていなかった。むしろ、みんなのほうがkintoneをよく使ってくれていたんだということに気づきました。場を作っていれば、その中でみんながしっかりつながってくれるんだとわかりました。
先ほどの介護員さんの事例もそうなんですけど、部署が違ったり、職種も違ったり、ましてや勤務時間が違って会わない人たちが、kintoneだからこそつながっていたんだなと。
kintoneだからこそ認められて、それが嬉しかったと思えたんだなと。アナログでしかできないコミュニケーションもあるとは思うんですけれども、kintoneだからこそできるコミュニケーションもあるんだと気づいた時に、「うちのkintoneもそんなに捨てたもんじゃないな」「けっこう役に立ってるんだな」と素直に思うことができました。
そうなってからは、いろんな通知が多いというのはどうやって減らそうかとか、Excelでの作業が発生していたら、kintoneにできるかをちょっと議論して。そういった前向きな気持ちで、また改善ができるようになったと思います。まだまだ課題は多いですけれども、その時に取り組んでいきたいと思います。
まとめとして、こういった5年間の学びをお伝えしたいと思います。どちらかと言うと、もっとこうしておけばよかったなという反省になります。kintoneをやる上で大切なのは、スピード感。作り込む前に使ってもらって、改善の要望があれば、要望があった時に聞きながら直してしまうぐらいのスピード感を持っていれば、信頼につながったと思います。
それから、kintoneのアプリをつくる時に、「これはやらなくていいんじゃないか」とか、「そもそもなくていい機能じゃないか」ということで、なくなった仕事もけっこうありました。デジタル化、kintoneアプリ化することで、そういった視点も必要かなと思います。
それから3つ目ですが、他のユーザーさんは、本当に自分が到底思いつかないようなアイデアをいっぱい持っているので、それを学び続けていくというか、そういった事例に触れていくことがすごく大事かなと思います。しかも、ほかのアイデアをすぐに真似して、取り入れられるのがkintoneの良さですよね。
下の2つは私が途中でできていなかったことなんですけれど、しっかりと課題に向き合って、一生懸命に作ったkintoneのアプリは必ず役に立ってくれるし、仲間たちも使ってくれるんだと。5年もかかったんですけど、それを信じ続けたいと思います。
もしこの会場の中で、試用期間中だったり、あるいは導入し始めたという方がいらっしゃるのであれば、すぐに顕著な結果は出ないかもしれないですけれども、ぜひ信じていただきたいですし、お金を出す経営者の方にも、少し長いスパンで見ていただければと思います。
最後になりましたけれども、今日お集まりの四国のみなさんへ。四国のkintone活用はまだまだこれからだと思います。地区のユーザー会も、少しずつ盛り上がってきてますし、どんどん事例を共有しながら、四国でもっとkintoneを使って、もっと業務改善して、ぜひ盛り上げていきましょう。
ということで、以上で私の発表は終わります。どうもありがとうございました。
(会場拍手)
サイボウズ株式会社
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