2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
NPO法人 自閉症ピアリンクセンターここねっと 黒澤哲 氏(全1記事)
提供:サイボウズ株式会社
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黒澤哲氏:みなさん、あらためまして、こんにちは。私、「ここねっと」から参りました黒澤哲(くろさわあきら)と申します。どこかで聞いたことがある名前かと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、表題にありますように「少数派」というキーワードを使って、私どもの事例について事例報告をさせていただきます。おそらく、今日発表されるみなさんとはちょっと視点が異なるかもしれません。そういった意味で、“少数派”と使わせていただいておりますので、お聞きいただければと思います。
まず、自己紹介をさせていただきます。私は仙台市生まれで、港町の塩釜市育ちです。なぜか私は、小さい頃から、人間の行動科学というものに大変興味を持っていました。主に学生時代に、なんとか行動を分析していきたいという思いが強くなりました。さらに、私は地元がとても好きで、将来は地元の役に立つような仕事に就きたいなと常々思っておりました。
そんななか、ボランティア活動に携わることになり、そこで1つの出会いがありました。それが発達障害のある子どもたちです。彼らは大変生活に困っていて、サポートなしではなかなか生活がうまくいかないという現状がありました。そういったことを経験してから、私はそれを仕事として選択するようになりました。
仕事を進めるうちに、今度は私たちの活動だけ、または個人の力ではどうしようもできない地域の課題が見えてまいりました。その時に、やはりこれは個々の力だけではなくて、行政と連携しながら地域の仕組みを作って解決をしていかなければならないと考えるようになりまして、現在に至っております。
さて、ここでちょっとみなさんにお聞きしてみたいのですが、今から出るキーワードが「誰のことかな?」と、ちょっと想像していただきたいなと思います。
その人は、臨機応変な対人関係がとても苦手であり、自分の関心やペースの維持を最優先に考える方。これはいかがでしょう? もしかしたら、みなさんの周りにいらっしゃったり、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
実はこれは、発達障害のある方が生まれ持った主な特徴です。その結果、彼らは周囲から誤解をされてしまって、なかなか生活が思うようにいきません。
では、もう1つ、ある数字をご紹介します。970名。これは何の数字かおわかりになりますでしょうか?
ちょっと唐突な数字ですので、なかなかわかりづらいかもしれませんが、実はこの数字は、(親御さんがお子さんの)発達が気になったり心配になって、仙台市で発達相談や専門機関につながったお子さんの数です。
もう少し詳しく見ていきますと、これは実は平成13年生まれの約9,500人のうちの(970名という)数字になります。実は、1学年あたり10パーセントを超える方々が、そういう発達が気になっていることを示している。
つまり、我々が仮に90パーセントの多数派だと仮定します。そうすると、彼らは10パーセントの少数派ということになるかと思います。
では、この少数派の彼らは、地域でどんな生活を送っているのでしょうか? 彼らは、学校や幼稚園・保育園・または企業の中で、なかなか理解やそれに見合った対応を得られずにいます。さらに地域の中では、安心して過ごせるような居場所もかなり少ない状況です。
そういう彼らは日々孤立して、孤立を強め、追い詰められていきます。そうなりますと、不登校や引きこもりの問題であるとか、いじめの被害者・加害者、または成人期になって離転職を繰り返すという、さまざまな社会問題へつながってしまう。
そういう可能性がとても大きくなってくるわけですね。彼らが非常に生きにくい少数派だということが、おわかりいただけたかと思います。
そこで、私たち「ここねっと」は、人・物・心をつなぐ活動によって、なんとか彼らの支えになろうということで、みんなが手を取り合って支える地域を目指して活動してまいりました。
設立当初は2名の職員からスタートしておりますが、現在では71名の職員がおります。500名を超える利用者の方々に対して、日々対応している状況です。
そして、私たち「ここねっと」はさまざまな事業を行っているわけですが、事業の継続にあたっては、当然のように人事または設備・財務などの通常の経営活動も行っていかなければなりません。
財政的な基盤がとても脆弱でありますと、活動を続けることができないようなNPO法人もあるなかで、なんとか活動を続けていかなければならないと考えました。そうしたときに、たまたま私自身がMicrosoftのAccessに多少知識があったということもありまして、必要に迫られて、これらの事業のいろいろなデータベースまたはネットワーク構築も含めて、自分でちょっとやってみようと始めたわけです。
ご存じのとおり、Accessについては大変重いということですとか、同時並行処理・複数アクセスすることに非常に弱く、Wi-Fiにも非常に弱さがある。さらにフォームなどの改正も、非常に敷居が高くて難しいという現状があった。スライドには10年と書いてありますが、これを10年以上にわたって続けていました。
さて、また話は突然変わりますが、これはちょっとあまりイメージとは近くないのですが、みなさんは運命というものは信じますでしょうか? いかがでしょう? 私は信じます。
実は私は、偶然にもなんと二十数年振りに高校の同級生に再会することになりまして。彼とはとても仲が良かったものですから、懐かしい話で盛り上がりながら、「実際、いま何の仕事をしているの?」というような話になりました。その時に、彼はなんとサイボウズのパートナー企業の方であり、kintoneにとても精通していた方だったわけですね。
そうしたときに、私はもう直感的に「あっ、これだ」と。これがもう運命的な出会いだということで、Accessに代わる次のツールとしてkintoneを導入しようと決断をいたしました。
利便性・インターフェースなど、さまざまな面でAccessよりも優れている部分はあるのですが、やはり一番の決め手となりましたのは、少数派である私たちの活動をもっともっと大きく広げていけるような可能性を感じたことが、一番大きかったかと記憶しております。
さて、また話は変わりますが、ここはぜひみなさんと確認をさせていただきたいところです。NPO法人と株式会社、これはどんなところが違うかご存じでしょうか?
いろいろありますが、同じところは、税制上の違いがないということです。つまり、私たちも活動を継続していくためには利益が必要です。しかし、その利益に対しては一般の会社と同じような税率がかけられますので、経営活動がとても重要だということがおわかりいただけるかと思います。
それに対して違うところと言えば、ご存じのとおり、一般の会社は経済的な利益を第一に考えていきます。ただし、私たちNPO法人は社会的な利益です。ですので、周囲の利益というものを一番に考えて、そこから活動につなげていくことが大きな違いとなります。
そこで、「私たちの主力商品はいったい何だろう?」ということを考えたときに、これはやはり人間性である、ということが言えるかと思います。この人間性を高めることによって、社会的な利益を生み出す。利益を生み出すことで、こちらに経済的な利益を得る。そういうことで活動を継続していくという視点になるかと思います。
このあたりが今日の(他の方の)事例とはちょっと違って、少数派である所以かと思います。ですので、私たちはkintoneを使って、いかに人間性を高められるのかということにチャレンジをしてきたわけです。
では、ここからいくつかの事例について、当時の問題点・課題、さらにその取り組みの効果についてご紹介をしていきたいと思います。
まず1つ目、自己完結ということですが、これは私たちの障害福祉にとっては、非常に大きな敵であります。つまり、この自己完結に陥ってしまうと、私たちの視点が狭まってしまい、人間性が低下してしまうということがあります。
そうしたときに、人間性を高めていくということは、実は選択肢を多く持つことにほかならないわけですね。ですので、私はkintoneを使いながら、「相談すること」をキーワードに、どうやって人間性を高めていったらいいかということで試行錯誤してみました。
これは依頼アプリというもので、「私はこんな業務を進めたいのですが、あなたにこれをお願いしたいです」ということを尋ねるアプリなんですね。
このレコード数をカウントすることによって、職員一人ひとりのデータが出ます。これは、「積極的に人と仕事をしようとしていますか?」というようなことを指標にデータを取っています。
さらにもう1つ。これは決裁アプリなのですが、「自分はこのように利用者との関わりを考えたけれども、ほかにいい方法はないでしょうか?」ということを他者に尋ねるものです。
「自分の関わりを人に相談しているか」という、1つの指標としてレコードをカウントして、職員にフィードバックをしていったということになります。
そうなると、効果は歴然でした。まさに考えの幅が広がったということで、利用者対応の選択肢が明らかに増えてきていました。これは最後に私のところにデータが来ますので、その選択肢を時系列で見ていけば効果は明らかであり、やはり当初に可能性を感じたとおり、このkintoneが人間性を高める結果につながったんだろうと思っています。
2つ目は、わかりにくさです。私たちはときに自分の独自の感覚、あとは曖昧さの暗黙の了解、こういったことで業務を進めようとしていきます。しかしながら、私たちの雇用している障害者職員の方にとっては、これも大きな障壁となります。
つまり、彼らにとって、見通しの持てないことや明確で具体的でないことについては、とても能力を発揮しにくい環境になるわけです。ですから当面の目標を、彼らの職域開拓……できることを増やすために、いかにkintoneを使ってわかりやすく説明できるかを考えてやってみました。
これは、判断の根拠または出どころについて、一連のプロセスを明確に追えるアプリです。
これは、支援や利用者の関わりにおいて、誰がどんな判断をしてどのようになっているのかを時系列一覧で追えるものになります。
もう1つ。これは請求関連の業務の全体像を示すアプリです。これについては、見通しとつながり、関連の業務を把握していただくために、作業の全体像の見える化を図りました。
これも効果は歴然で、障害者職員の範囲は確実に広がりました。1つは、請求関連の業務に携わることができるようになりました。さらに、利用者支援の補助的な業務、利用者が利用者を支えることも可能になってきました。
副次的な効果として、もう1つ、彼らの独自の主体的な活動にkintoneを活用しようとしたわけですね。実際に活用して、いろいろと研究活動を進めているという結果が出ています。これはまさに、kintoneが職域開拓に1つの大きな効果を発揮したと言えるかと思います。
最後に、事務量についてです。近年、コンプライアンス重視・法令遵守ということで、どの業界でもそうだと思いますが、事務量が増える一方で人員は削減され、体制も限られているなかで結果を出していかなければいけない。
そうなったときにやはり効率化をして、私たちの本業、人間性をいかんなく発揮できる場というのは、利用者との関わりの場面です。この社会的な利益を生み出すために、情報の整理にkintoneを使って対応しました。
これはポータルの画面になりますが、やはりアプリが非常に多くなってくると、作業の持ち越しや属人化、滞りが発生してきます。
私どもとしては、通知の絞り込み機能を活用しながら、「とにかくすぐやるんだ」「即時完結」という姿勢を持って、「できないものは、まず開かない」「通知も見ないぐらい」の勢いで、すぐにやる姿勢を貫いてきました。
そうしたところ、少しずつ段階的にではありますけれども、本業に割ける時間が増えました。それで職員たちはなにをしたかといいますと、利用者の関わりに関するミーティングを充実させていきました。こういった業務改善の課題解決という事例があったかなと思っています。
最後に私どもとしては、今後の明確なビジョンを持って、現在kintoneの活用を進めています。これは、いろいろな出会いですね。私はたまたまパートナー企業の方ですとか、あとは「チーム応援ライセンス」というサイボウズのライセンスを使って、kintoneと出会うことができました。
ですので、もしかしたら地域の中には同じNPOや学生の団体、または行政機関や当事者の方々も同じような悩みを抱えているかもしれない。私たちが架け橋となって、こういった出会いをつないでいくこと。つまり、kintoneをもっともっと地域の中に広めていくこと。このことこそが、地域課題の解決につながってくるのではないかと考えています。
では、最後になりますけれども、このことをしっかりと進めていくためには、私は少数派の方々の存在は最も重要だと思っています。もしこの会場で私の話や発達障害のこと、少数派という存在を理解してくださる方が少しでもいれば、その方はもしかしたら少数派なのかもしれません。ただ、その少数派の方の想いが地域を変えていく原動力になっていくのではないかと考えています。
以上で報告を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
サイボウズ株式会社
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