チラシを売らない「ちらし屋ドットコム」

河田菊夫氏:みなさん、こんにちは。私は、岐阜県から来ました、株式会社ちらし屋ドットコムの河田菊夫と申します。今日は「kintoneの活用を通じて知ることができた大切なこと」というテーマで発表をさせていただきます。よろしくお願いします。

(会場拍手)

ありがとうございます。まず、私の自己紹介から始めさせていただきます。私は河田菊夫と申しまして、今年で厄年を迎える1978年生まれの41歳です。刃物の町で有名な岐阜県関市で生まれ育ちました。

経歴は、ダイワボウ情報システムという会社で3年ほど営業をしまして、その後、父親が地元で刃物を作る工場を営んでおりましたので、そちらにいったん戻り、刃物を作る職人として2年ほど過ごしていました。そして、兄が起業・設立していました、ちらし屋ドットコムという今の会社に合流しまして、現在に至っています。

岐阜には、「FC岐阜」というJ2のプロサッカーチームがあるのですが、そちらのホームゲームがあるときは家族や友人やお客さまを誘ってスタジアムまで足を運び、冷たいおいしいビールを飲みながらチームを応援することが、週末の楽しみとなっています。

会社の紹介を少しさせていただきます。私たちの会社はちらし屋ドットコムと言いまして、岐阜県の各務原市に本社があります。2000年に設立されて、今期で20期目を迎える会社です。現在、従業員は約12名ほどで活動しています。「家族や仲間と地域のお客さまに元気と笑顔と感謝をまきちらす!」という経営理念を掲げて、活動をしています。

ちらし屋といって名刺交換をさせていただくと、当たり前なのですが、「紙のチラシのデザインや印刷をしている会社ですよね?」と言われるのですが、ちらし屋はそのような業務を一切やっていない会社です。

残業、徹夜、休日作業を繰り返す日々

では、どんな仕事をしているかというと、私たちには「Web事業部」という部門があります。わかりやすく申し上げると、ホームページの制作、アプリや業務システムの構築と、それらの活用サポートをしている会社です。

おかげさまで、岐阜県では700社さまほど取引をいただいております。「ちらし屋ドットコム」という変な名前の、かっこよく言うとITの会社なんです。

そして、3年ほど前からは「EC事業部」という部門を立ち上げまして、こちらでは、海外向けに日本全国のメイドインジャパンの優れたものや当社のお客さまが開発されたすばらしい商品を仕入れて、翻訳・撮影・販売・発送まで行う仕事をしております。いわゆる海外向けにWebを活用した物販をしている会社です。

「グローバルだけど、超ローカルなWeb会社」、これが当社の経営ビジョンです。視野は広く世界に向けつつも、地元の岐阜のお客さまとも密接につながった超ローカルな活動をしていこうということで、このビジョンの達成に向けてがんばっています。

そんな私たちが悩んでいた課題のお話に移らせていただきます。もしこの会場に同じような業界でご活躍されていらっしゃる方がいらっしゃれば、共感いただける方もいらっしゃるかもしれませんが、IT業界はいわゆるブラックな会社が非常に多い、もしくは多かったのではないかと私は考えています。そして、私たちちらし屋も例に漏れず、大変ブラックな面が多い会社でした。

私たちWeb事業部の仕事は、ヒアリングに始まり、企画、取材・撮影、そしてデザイン、構築・公開作業と、決められた納期までに担当スタッフがホームページを構築・納品するのが基本的な仕事です。

もちろん、スケジュールを組んで取り組むのですが、お客さまのご要望次第では、納期間近に修正作業が何度も繰り返されることも頻繁にあります。お客さまに満足してもらうために、そしてなんとか納期までに仕上げるために、一生懸命がんばるのですが、案件の納期が重なったりしますと、残業や徹夜、そして休日の作業といったことを当たり前のように繰り返している会社でした。

最大の課題は「コスト意識のなさ」

そんな私たちが抱えていた課題は、スタッフが一生懸命関わって納品してくれたこの仕事がいったいいくら儲かったのか、そして本当に儲かったのかがわからないような会社だったことです。言い換えると、コストの意識がまったくなかったと言えるかと思います。

言うまでもなく、私たちの仕事は企画・デザイン・システム構築という仕事ですので、人が時間をかけて行う仕事です。お客さまに満足してもらうために、そして納期になんとか間に合うようにスタッフががんばったこの仕事は、その分だけ本当に儲かったのか。そして、がんばることはとても良いことなんですが、会社として本当にいい仕事だったのか、こんなことがわからない状態でした。

そして、私はこの問題に対して、なんとか人の見えにくい作業の部分を数値として見える化していこう、そんな思いで取り組みをスタートしました。これが2013年のことでした。そんな時に、どのようにkintoneと出会ったかをお話ししたいと思います。

仕事柄、私たちは自分たちでWebシステムを構築することはできます。ただし、スタッフには自分たちのためのシステムをゼロから作るような、精神的・時間的な余裕は一切ありませんでした。

そこで当時、業務の改善を目的としたいろいろなサービスやシステムが多く出ていましたので、「とにかく簡単でシンプル、そしてできるだけ安く小さくスタートできて、徐々にちらし屋の仕事にフィットさせていけるようなものはないか?」ということで、「工数管理」「時間管理」「案件管理」などのいろいろなキーワードで探した結果、このkintoneというツールに出会いました。

こちらが、今私たちの会社で実際に使っている「ちらし屋案件管理アプリ」というアプリの画面イメージです。

まずは大小にかかわらず、とにかく社内にあるすべての案件を情報共有することからスタートしました。そして、一つひとつの案件に対して、案件の内容・制作状況・納期・受注金額・請求予定日などを管理できるようにしていきました。

kintoneで業務改善し、赤字案件の黒字化に成功

そして、先ほど課題として挙げた、「人の見えない作業を数値として見える化したい」という思いがありましたので、ここの部分については、こちらの画面のイメージのように、一つひとつの案件に対して「誰が、どの業務を、何時間ぐらい対応してくれたか」ということを登録管理できるようにしていきました。

案件が終わったときには、その案件に関わってくれた全スタッフの合計作業時間がわかるようにしています。当社の場合、1時間3,000円と定義していますので、例えば合計300時間かかった案件であれば、およそ90万円分のコスト・時間がかかった案件だと、数値としてわかるようにしていきました。

そして、案件が始まるときには、「この案件は何十時間ぐらいで完了させよう」というような目標値を設定します。案件が終わったときに、先ほど申し上げた合計作業時間と目標値を案件を比較していくことで、この案件が良かったのか悪かったのかを判断できるようにしていきました。

そして、悪かった案件については、何が悪かったかを話し合うための材料にしていきました。このように数値化していくことで、大変ちらし屋流ではあるのですが、業務改善に向けた分析が可能となっていきました。

恥ずかしいんですが、ちなみにこんな案件もありました。受注金額に対して、最終的に-23万6,875円の赤字案件。こんな案件も今までは、終わったときは「お客さんが満足してくれた。納期に間に合ってよかった」、最後は「次もがんばろうね」なんていうことを社内ではコメントし合っていました。

自分たちの作業が数値として見える化されたことによって、「今度はもっといい進め方をしよう」「もっと効率的に作業をしよう」と、コスト意識を持って意欲的に業務改善に取り組めるようになりました。

例えば、こんな取り組みや成果がありました。細かいですが、岐阜は車で移動しないといけませんので、できるだけ移動時間を減らすためにSkypeやZoomなどを使った打ち合わせを依頼したり、実は赤字だった定期的な更新作業の値上げの交渉に行き、黒字化に成功したり。あとは「この案件は○○さんしかわかりません」というような属人性が激減しました。

そして、みんなで使えるような提案資料を定型化・共有したり。あとは、こちらにあるような「EAZY」シリーズといった、受託の制作・開発だけではなく、自社のパッケージシリーズを考えて販売するようになっていきました。

激務の中でもkintoneが定着した理由

今ご紹介したようなこの案件管理の取り組みは、もちろん最初からスムーズにいったわけではありません。当社が苦労したことは、すごく単純なことなのですが、kintoneに入力する作業の継続と定着化がなかなかできなかったことでした。

これはどこの会社でもあるあるじゃないかなと思いますが、みんな忙しいから入力が進まなかったんです。私にとっては重要な業務改善のためのkintoneの入力でしたが、忙しいスタッフにとっては、激務の中で「また仕事が増えた」。そんな負担でしかなかったんです。

こんなことを言っていてもなかなか進んでいきませんので、私はいくつかの取り組みをしました。1つ目がこちらの貼り紙です。

大変恥ずかしいのですが、本当にとにかくkintoneを使ってくれという思いで、スタッフが帰るときに通るドアに貼り紙を貼って、「頼むから、帰る前にkintoneを入力してくれ」という必死の思いを伝えました。もちろん朝礼でも伝え続けました。

しかし、状況はなかなか変わりませんでしたので、2つ目の取り組みとして、会議の中にkintoneを入力してもらう時間を設けました。大切な会議の時間を30分を使って、みんなでkintoneを入力する時間を取りました。

もはや力技でした。しかし、こんな改善をコツコツ続けていくと、今まで見えなかったものが数値として見えるようになり、kintoneを使うことが習慣化され、成果を感じるようになったので、徐々に会社の中に浸透してきました。

つまり、私たちの会社では、「kintoneは激務の中の面倒な報告・入力業務」という意識から「業務改善に向けた大切な業務なんだ」とまず認識を変えていく努力をしていきました。そして、kintoneを活用して業務改善をするんだ、という仕事の優先順位を上げる努力をしてきました。

今ではスタッフの協力もあり、案件管理に加えてこのような顧客管理からはじまり、EC事業部のほうの在庫管理まで、kintoneを活用した業務が完全に定着しています。

安価で簡単で柔軟性があるから使い続けられる

そして、kintoneの活用を通じて私たちが知った大切なことをお伝えしたいなと思います。いろいろなシステムがありますが、システムを活用すれば業務の改善はできると思っています。ただし、当たり前なんですが、そのシステムを使い続けることが必要になります。

システムの導入や業務改善がうまくいかない会社は、もちろん、「システムが扱いにくい」「システムがわかりづらい」などのシステムの出来映えうんぬんの問題があるかとは思いますが、最終的にはもう1つ、「人の気持ち」という問題があるんじゃないかなと考えています。

私たちの会社の場合は、まさにそうでした。当社の場合、この2つの原因・問題をkintoneの特徴が解決してくれました。安価だから使い続けられる。簡単だから使い続けられる。そして、システム自体に柔軟性があるから使い続けられる。だからこそ、当社のスタッフも使ってくれた。業務改善を継続的に行うことができました。

kintoneを活用することで、私たちのような小さな会社でも目的を失わずに業務改善が継続できるんだと、強く思っています。

ちらし屋ドットコムのこれからの取り組みをお話しさせていただきます。

kintoneを活用することで、私たちは本当に変化を実感しています。コストに対する意識が変わって、販売する商品も変わりました。そして業務が変わり、本当に社内の変化を実感しています。

今日もこの会場にスタッフが来てくれていますが、忙しい中でも、少しはそのような余裕が持てるようになったのかなと思っています。本当にkintoneには感謝しています。

kintoneを構築・定着させるサポートを提供

そして、私たちが味わったこの喜びを、ぜひ岐阜のほかの企業さんにも味わってほしいということで、kintoneというツールを積極的におすすめしていこうと考えました。そして、昨年の11月にサイボウズさんのパートナーにしてもらいました。

kintoneの構築はもちろん、私たちが最も自分たちの会社で苦しんだ、kintoneを活用する業務を定着させることに重きを置いて、岐阜の企業さんにサポートを提供していきたいと考えております。

そして、冒頭で私の趣味だとお伝えしましたFC岐阜さんも、もともとご縁があったこともあり、すでにkintoneの導入と定着サポートをスタートしております。FC岐阜さんは、スポンサーの管理や営業マンの情報共有で悩んでいらっしゃいましたので、それらを改善中です。次回のkintone hiveで登壇いただけるぐらいの成果を目指して、がんばっていただいています。

そして、このように岐阜県で業務効率や情報共有で悩む岐阜の企業さんに対して、kintoneというツールをまきちらして課題を解決していくことで、当社の経営理念でもある「元気・笑顔・感謝をまきちらす!」の実現を目指して、これからもがんばっていきたいと考えています。

最後になりますが、もしこの会場に岐阜からお見えの方がいらっしゃれば、ぜひ一度、FC岐阜を一緒に応援しに行きましょう。昨日もちょうどホームゲームがありまして、会社の同僚や家族、そしてサイボウズの社員の方にも一緒に見に来ていただきました。試合結果は2対0で、見事に勝利を収めました。

本当にサッカー初心者の方でも、スタジアムのグルメがおいしいですし、なによりも冷えたビールがとてもおいしいので、ぜひ一緒に行きましょう。当社では定期的な観戦ツアーも行っています。

それでは、これで私の発表を終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)