病院の数は世界一の日本

峠健太郎氏:みなさま、こんにちは。宇治徳洲会病院の峠と申します。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

今日の発表は「他社との連携」ということで、企業の壁を超えた連携にkintoneを適用したという事例を発表させていただきます。

突然ですが、日本に病院っていくつぐらいあるかご存じですか。実はたいへん多くて、その数8,500軒。世界で一番多くて、2位のアメリカの1.5倍です。しかもこれは、開業医さんやクリニックさんを除いた病院の数なんですね。

大阪市には178の病院がございまして、我々宇治徳洲会病院が所属しております、京都府南部に位置する山城北医療圏では、24の施設がございます。

みなさまがお住まいの地域で、周りに病院が10も20もあると思うと、多く感じていただけるのではないかなと思います。

当院は、そんな山城北医療圏のなかでも、総合病院としての規模が最も大きく、24時間365日の体制で救命救急医療に取り組んでおります。

優劣ではなく、役割によって分けられる日本の病院

「病院が多い」と申しましたけれども、その理由は役割が明確に分かれているからなんですね。

1つ目は、1分1秒を争う救命処置を行うような、高度急性期や急性期という役割を主にする病院。

2つ目が、そういった状況を脱したあとに、退院に向けてのリハビリテーションを入院でもって行っていこうかという、回復期リハビリテーションを主とする病院。

その次は、病状はたいへん安定してきたものの、それでもまだ入院しての治療が必要だという方のための、慢性期の病棟を主にした病院。

このように、優劣ではなく、役割によって分かれております。宇治徳洲会病院はそのなかで、高度急性期や急性期の病棟を主に持っております。

病院は多いと申し上げましたけれども、病床……いわゆる入院いただく際のベッドの数は少ないんですね。当院の周りの医療圏では5,000のベッドがございます。つまり、5,000名の方が入院できる基盤があるということです。山城北医療圏以外(にお住まい)の遠方の方が来てももちろん入院はできますので、当院の周りの人口等を考えても、本当に1パーセントの方しか入院できないように捉えられます。

つまり、入院と退院をうまくやりくりしていかないと、病院というのはすぐに立ち行かなくなってしまうわけなんですね。そして、この入院と退院のところをうまくやりくりしていくのが、今日のkintoneのお話のターゲットとなります、医療ソーシャルワーカーです。

深い専門知識と高いコミュニケーション能力を必要とする「医療ソーシャルワーカー」

お聞きになるのは初めてという方もたくさんいらっしゃるかもしれません。医療ソーシャルワーカーというのは、主に入院患者さんの退院を支援するお仕事をしております。そのために、病院と病院のやりとりや調整、さらには病院内の部署間の調整と、患者さんとご家族との間に立っての橋渡しなどをします。

つまり、医療・看護・介護それぞれの専門的な知識を有していなければなりませんし、それに関わってくるお金の制度についても、詳しく把握しておく必要が出てきます。つまり、覚えるべき知識がたいへん多いと。

それにもかかわらず、専門家との会話もしなければなりませんし、ご家族さん・患者さんとの会話もしなければなりません。橋渡しをしなければなりませんので、高いコミュニケーション能力が必要になってきます。

医療技術の進化とは真逆の、アナログなコミュニケーション手段

今日のターゲットはこの「転院調整」という話で、これも退院支援の業務の1つです。

患者さんが当院で救命処置を終え、一段落をしてから退院に向けたリハビリテーションをする、ないしは「病状は安定してきたものの、まだちょっと入院が必要だね」という患者さんにとっては、受ける医療の役割が変わってきます。よって、当院からまた別の病院に転院していただく必要がございます。

このとき、患者さんに「好きな病院に行ってくださいね、さようなら」なんてことはもちろんできませんので、ここで医療ソーシャルワーカーが登場します。先方の病院さんに「こういった患者さんがいます。貴院様で継続して治療をお願いしたいんですけれども、いかがでしょうか?」という相談をするわけなんですね。これが転院調整です。

その流れとして、いままでは電話・FAX・郵便の3つのツールを使っていたんですね。

「医療なので、個人情報の取り扱いはすごく難しい」と言うと言い訳は簡単なんですけれども、ロボット手術や遠隔治療など、医療の技術はすごく進化してきています。しかし、ITに目を向けた場合、セキュリティの技術はたいへん進化しているなかで、電子メールすらまったく使われてこなかったというのが現状なんです。

医療ソーシャルワーカー同士のコミュニケーションミス

どういったプロセスになるかだけ簡単に紹介させていただきます。まず、相手の病院のソーシャルワーカーをつかまえて「こんな患者さんがいるんですけど、ご検討いただけないでしょうか?」という話をして、その電話をもって「そのあとで詳細な情報はまたFAXで送ります」というわけなんですね。

次に、「この患者さんの検査もしていますので、レントゲンのFAXを送ります」と言っても、レントゲンって黒色ですからFAXしたら真っ黒になってしまいますよね。まったく読めません。なので、データをCD-Rに入れて郵送するんですね。全員が全員郵送するというわけでもないですけれども、先方からしたら、その郵送が届いてからやっと検討が始まるわけなんです。時間がかかりますね。

その最初のアプローチでお受け入れが決まってしまえば、もちろんそれでいいんですけれども、先方にももちろん都合がございます。ベッドが空いていないなんてこともありますから、そういったときは、また2軒目の病院さんに最初から電話・FAX・郵便します。それで決まらなければ、3軒目の病院さんに電話・FAX・郵便。この繰り返しなんですね。たいへん非効率です。

つまり、時間がかかる。そして、FAXの誤送信、電話の言い漏れ・聞き漏れなどもございますし、コミュニケーションミスも十分に起こり得る。

さらに、医療ソーシャルワーカーさんをつかまえなければなりませんが、もともと面談や電話でのカンファレンス・打ち合わせが非常に多い仕事なので、なかなかつかまらないんですね。それは、宇治徳洲会病院も同じです。なので、すれ違いが非常に起こりやすい。

ぜんぜん会えないまま、巡り会えないまま夕方定時が過ぎてしまった。定時が過ぎたらもう電話はつながりませんので、「相談が今日はできなかった。じゃあ、もう明日にしようか。でも明日、私は休みだ」なんてことが起こってしまうわけなんですね。これまた時間がかかると。

担当者のメモや、頭の中にしか残らない情報もたくさん出てきますので、交渉の履歴がうまく残らない。申し送りがしづらい状況になるんですね。

院内・院外の情報共有をkintoneに集約した結果

ここにkintoneがうまく入り込みました。それまでは1つの部署の中だけで転院の情報を共有していたところにkintoneを入れてみたんですけれども、さらに社外との共有もできないかと思い、導入してみました。

つまり、当院で契約している1つのkintoneの中に「院内の共有」と「院外の共有」を同居させたわけなんですね。

(スライドを指して)これがその実際の画面です。まず、ログインして最初に、病院さんごとのベッドの状況を見ることができます。ちょっとアップにしてみましょう。

(スライドを指して)こちら、「回復期」で「1/1/1」とございます。これは、その病院さんの退院に向けたリハビリテーションを行っていこうという病室・ベッドが、個室で1つ、男性の大部屋で1つ、女性の大部屋で1つ空いていることを指します。この行には「京都リハビリテーション病院」と書いていて、その病院さんに数字を入力していただくわけです。

(スライドを指して)こちらが転院相談の一覧ですね。1つの行で1つの案件を指しております。

こちら「大腿骨頸部骨折での転院のご相談」。つまり、足を骨折した患者さんについて転院の相談をするわけなんです。こちらも詳細を見てみましょう。

そんなに項目は多くないんですけれども、このページにFAXで行っていた情報提供……患者さんの容態や治療の経過などを添付します。そこに、次はどこの病院さんに相談するかという、連携先を選択します。

患者さんによって選択する病院さんは変わってきます。もちろん患者さんのご希望もございますし、家族さんのご希望もある。もともといらっしゃった病院に戻られる可能性もありますので、全部の案件を全部の病院さんにお願いするわけではありません。1軒や2軒にしか相談しないことも多々ございます。

つまり、連携をとるユーザーをここでクリックだけで選択していけるということですね。

ログを残す環境がもたらすもの

続きまして、コメント欄ですね。我々はこれを「掲示板」と言っておりますけれども、添付した情報に補足したいことをここに書き込んだり、簡単なやりとりをしたりしています。「またあらためて返事させていただきます」というような簡単な伝言など、これまで電話でやっていたこともコメントに残すようにしています。

これによって、いわゆる「ログを残す」という環境を作ることができました。

こちらから相談をしておりますので、その回答をいただく必要があります。

(スライドを指して)「○」「×」「△」とあります。ここに相談させてもらった相手の病院さんから入力をしていただくわけなんですね。詳細のページで入力することもできますし、先ほどの一覧ページにもございます。

例えばこちらでは、転院先決定でFの欄に「◎」がついております。これは「F病院さんに転院が決まった」ということで、一覧でも見ることができますし、この一覧の上で編集・変更できるようにもしております。

いままで電話・FAX・郵便だけでやっていたことを、kintoneを使って一度で複数の病院さんにデータで相談を持ちかけるようになったわけですから、もちろん時間的な無駄が減ることになりますし、これだけでFAXの誤送信がなくなりますよね。

これによって、相手の医療ソーシャルワーカーさんがつかまらないという状況は関係なくなり、まずこちらから起票をすることができるようになりました。時間の都合上、夕方以降に相談しなければならなくなった場合にも、まったく電話がつながらなくて「あっ! 私、明日休みだ」となったとしても、少なくとも相談をしてから帰ることができます。もちろん交渉の履歴を残していくこともできますし、申し送りが楽になってきますね。

これまで医療ソーシャルワーカーの個人事業になっていたような状況に対して、kintoneを当て込むことで、いつでも・誰でも・どこからでもアプローチができるようになったというのが、非常に大きいことなのかなと思います。

シンプルさ、メンテナンス、セキュリティの重要性

院内と院外を同じ環境に入れていますので、気をつけていることがもちろんございます。それはこの3つですね。

1つ目として、機能はできるだけシンプルにしています。もちろんプラグインやJavaScriptを使ってプロセス管理できるようにしてもいいとは思いますけれども、やっぱり病院にはITに詳しい人なんてなかなかいないんですね。

「そもそもログインすら嫌がる人が非常に多いのでは?」と最初は思っておりましたので。まぁ、実際そうなんですけれども。なので、できるだけ機能をシンプルにしています。複雑な機能は一切入れていません。

そして、2つ目ですね。ほかの病院さんにもアカウントを持っていただいております。つまり、お金を払っていただいているんですね。ですので、それを忘れずに、しっかりとマメに更新であったりメンテナンスをするようにしています。

3つ目、これが一番大事ですね、セキュリティです。アプリケーション、レコード、行であったり、その入力する1つの囲みごとに、セキュリティ設定をかなり細かく設定しています。

ほかの病院さんが、別のところから間違って回答してしまうとトラブルのもとになりかねません。そういったことがないようにできるだけ細かくしています。マウスだけでセキュリティ設定ができていますので、とくに苦労することはなかったですね。

医療ソーシャルワーカーが本来やりたい仕事をできるように

ここまでkintone導入の事例を発表してきましたけれども、kintoneを触ったことがある方からしてみたら「それだけなんですか?」と思われるかもしれません。そうなんです、これだけなんですね。本当にこれだけです。ぜんぜん複雑なことはしていません。けれども、この程度ですら、10年も20年もまったくアプリ化されてこなかったんですね。

いわゆる電話・FAX・郵便を無駄と言うのであれば、その無駄が手順化してしまっていた。その手順に慣れて、染み付いてしまっていると。医療ソーシャルワーカーがもっと取り組みたいことを圧迫してしまうまでなっていたんですね。電子メールすら使われていない、ITがゼロだった環境を、kintoneが1にしてくれたんです。

医療人はみんなそうなんですけれども、「こうしたい」「私はこうなりたい」という強い思いを持っている人ばっかりなんですね。

そんな医療ソーシャルワーカーが退院の支援に入る患者さんが入院しましたと。それで新しく、身体障がい者としての申請をしなければならなくなった、ないしは退院後に介護を受けないといけない状態になってしまったとします。つまり、生活が入院前と大きく変わってしまうような患者さんに対する支援を行うのが、医療ソーシャルワーカーなんですね。

つまり、患者さんにとって退院や転院というのは不安なんです。本当に不安なんです。「もとの元気な自分に戻れるのだろうか?」「この病気はうまく付き合っていけるのだろうか?」「新しい病院に行ったとき、家に帰ったとき、介護施設に入ったとき、やっていけるのだろうか?」と不安なんですね。それは家族さんも同じです。

そういった不安を少しでもやわらげて、退院後の生活をこうしたいと患者さんが思う、家族さんが思う、その気持ちや願いを叶えるのが医療ソーシャルワーカーの仕事なんです。そこにkintoneがばっちり当てはまったんですね。そういうところに情熱を向けるようにできたんです。

病院の広報担当でも導入できる、kintoneの製品価値

ここまでお話しさせていただきましたけれども、私は実は医療ソーシャルワーカーではないんですね。いま、35歳にして初めて白衣を着ています。普段はなにをやっているかと言うと、広報です。営業と企画していますし、たまに、医療事務のお手伝いもしております。

(スライドを指して)こういった一般の方を呼ぶようなお祭りで、みなさんに宇治徳洲会病院を知ってもらおうという企画をしたり、地域の開業医さん・先生方に集まっていただいて、実際の症例をもとにした医療研究会を企画したりと、いわゆる地域の連携を図るお仕事をしております。

なにが言いたいかと言いますと、私は医療ソーシャルワーカーではないし、アプリケーションの専門家でもないんですね。でも、kintoneを導入できたんです。つまり、そんな専門家じゃなくても導入できると。

ほかの病院さんにも参入してもらわないといけないわけですから、私がkintoneのパンフレットを持っていくんですね。営業活動をするんです。ぜんぜんサイボウズの人間じゃないんですけれども、「kintoneという製品がありまして、どうでしょう、いかがでしょうか? こんなことができます」と話すんですよ。

そして、契約書じみた書面を作ったりもするんですね。サイボウズの営業と間違われてしまったこともあるんですけれども。それでも、ほかの病院さんは参入してくれたんですね。「よっしゃ、やろうか」と言っていただいた。お金を払っていただけたんですよ。

なにが言いたいかと言いますと、ユーザーだけで拡大していける魅力・やりやすさがkintoneにはあるのかなというのを、その営業活動の中で実感したということです。

(スライドを指して)こちらは、京都府南部の地域でkintoneを一緒に盛り上げていこうということで協力いただいている、京都リハビリテーション病院さんの瀧村さんという方なんです。今日も会場に来てくださっています。

京都リハビリテーション病院さんは、当院とは役割がぜんぜん違います。隣町なんですけれども、当院からの転院も積極的に受け入れてくださっていますし、京リハさんからの急変した患者さんを当院で救命処置するということもさせてもらっていますが、医療圏がぜんぜん違うんですよね。

本来だったら、こんなkintoneを盛り上げようなんていうことはしなくてもいい、ぜんぜん契約関係にない方なんです。それでも、一緒に手を組ませていただいています。「こうやって拡大していきましょう。こんな機能も追加しましょう」なんてやりとりをさせてもらっています。これも1つ、kintoneがつないでくれた縁なのかなと思っています。

kintoneで実現するメディカルタウンの可能性

じゃあそろそろ締めに向かいます。うちはうち、よそはよそ。こんな考え方がよく言われますけれども、それが通じる時代ではなくなってきました。病院と病院をつなぐシステムの開発を……開発と言うと大げさですね。kintoneを入れてみただけなんですけれども、それを導入してきました。

ただ、まだまだ導入してくれている病院さんは多くありません。今後はこれをもっともっと広げたい。もっともっと病院さんに知っていただきたい。さらには開業医さん・クリニックさんにももっともっと広めたい。介護施設にももっともっと広めたい。

そうすれば、この京都府南部からどこの病院に行くにしても、スムーズにことが進みます。どこの病院に行っても等しい医療の提供が受けられる。そんなメディカルタウンの可能性があり、それを作っていけるのではないかなと思いますし、その可能性がこのkintoneにはあるんじゃないかなという思いがございます。

本日は病院と病院の連携という話をしましたけれども、そんなに医療の用語は出てこなかったかと思います。ですので、ほかの会社さん同士のつながりであっても、簡単に連携をとっていけます。連携が必要なところとちゃんと連携するということの一端を、みなさんに感じていただければいいなと思います。

それでは宇治徳洲会病院の事例発表を終わりたいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。

(会場拍手)