ITバカのオヤジたちがチームで挑む、地域活性化の取り組み

太田泰造氏:みなさん、こんにちは。みせるばやおの副代表理事を務めています、太田泰造と申します。今日はよろしくお願いします。今日この場に集まられているみなさまは、おそらく最高のITリテラシーとたくさんの知識を持たれている、IT業界のトップランナーみたいな方ばかりじゃないかなと思っています。

今日みなさんにお伝えしたいのは、まさにそれと対極にある「ITバカのオヤジたちがチームで挑む、地域活性化の取り組み」です。我々がkintoneの活用を通して、いかに苦労して成長しているかをお伝えできたらと思っています。ぜひよろしくお願いしたいと思います。

最初に、少しだけ僕自身の紹介をしたいと思います。先ほど(みせるばやおの)副代表理事をやらせていただいているとお話ししたんですけれども、それとともに錦城護謨株式会社の代表取締役社長をやっています。みなさん、「ゴム」って漢字でどう書くかご存知ですか? パソコンやスマホで変換していただくとわかるように、「護謨」と常用漢字を使って書くことができます。

当社は工業品関係・ゴム関係の業務を行っております。例えば、みなさんのご自宅にある炊飯器を思い出してください。蓋を開けると、ゴムの輪っかがついていますよね。そういったものを取り扱っている国内メーカーさんの内、60パーセントぐらいは八尾市にある当社工場で作っています。

また、土木関係で言えば、例えば空港といった建物や道路の下にある基礎部分を作るのが、私たちのそもそもの仕事となっています。

僕自身はどういう人間かを一言で言いますと、(スライドを指して)ここに書いているように「リアルエアポート投稿おじさん」です。SNSを使った一番ダメな事例として、みなさんもネットで見たことがおありなんじゃないかと思います。私はそういったITバカオヤジの1人として、いまこちらでの仕事に携わらせていただいています。

ものづくりの街・八尾市の魅力をもっと伝えていきたい

ところで、みなさんは八尾市ってご存知ですか? 今日は大阪の会場ですから、たぶんご存知でない方はいないと思うんですけれども。もともと八尾市は、ものづくりの企業がたくさんひしめく「ものづくりの街」です。

いまでも3,200社のものづくり企業があり、八尾市の総売上の56パーセントぐらいを占めています。みなさんは物部氏をご存知ですか? たぶん、歴史の授業で出てきたと思います。八尾市はこの物部氏がルーツとなっています。例えば“弓を削る”と書いて「弓削(ゆげ)」と読むような地名があることからも、八尾市がものづくりの場所だったことがわかると思います。

しかし残念ながら、八尾市のものづくりの素晴らしさやその魅力が、なかなか八尾市全体に伝わっていません。こういった地域課題を解決していきたいということで、新たな挑戦を始めました。

これはまだingなんですけれども、産学官のいろんな企業88社が集まって、子どもたちの未来のために、ものづくりの街・八尾市の魅力を伝えていきたいと思っています。将来子どもたちに、「ものづくりの仕事がしたい」「八尾市にまた住みたい」「八尾市で働きたい」と思ってもらうという目標を実現するため、コンソーシアムを立ち上げました。

子どもたちのためだけではなく、大人も同じようにワクワクできる取り組みとしてやっていきたいということで、「3年で88個のコラボレーションを実現していく」を目標に、いま活動しています。

さらに、経済産業省さんから「地方版IoT推進ラボ」という認定をいただきました。まさに我々のような「ITバカオヤジたちの学習塾」という位置づけとしても、これから取り組みをしていく場所となります。

ものづくりの現場は、IT企業のオフィスと対極にある

さて、地域課題についてです。

八尾市にはたくさんのものづくりの企業があるというお話をさせていただきましたが、残念ながらものを作れるだけでは食っていけないんですね。そこで八尾市の企業さんに調査しました。「じゃあ八尾市の企業さん、製造業の強みはなんですか?」と。例えば、「短納期で作れます」「技術力にはすごく自信があります」という企業さんはたくさんあります。

その反面で、「開発ができません」「ブランド力がありません」「会社の知名度がありません」とおっしゃる企業さんがたくさんあります。さらに、八尾の景気動向調査によると、6割の企業さんが人材不足という課題を掲げられています。

さらに、市内の雇用所得を調査したところ、大阪府の平均よりなんと19万円も少ないということでした。要は、ものを作ることはできるんですが、クリエイティブな仕事ができていないという現状の課題が浮き彫りになっています。

じゃあ、現実のものづくりの場所はどんなところなのか。(スライドを指して)それが、まさにいまこちらに映っているような世界です。

油まみれで、汚れまみれで、情報伝達は口頭。しかも手書き入力が基本の世界です。みなさんがふだん働いていらっしゃるような、エアコンが完備されていて、パソコンが整然と並んでいて、掃除が行き届いたきれいなオフィス環境とは、まさに対極にあります。これが、いまのものづくりの現場の現状です。

この課題をクリアするためにどうしていこうかと我々が考えたときに、やはり見える化・仕組み化に取り組んでいかないといけないと考えました。現状ではまだ88社ですけれども、将来は400社を目指して活動しています。

ITバカオヤジにkintoneをぶつけてみるとどうなるか

そういった会員の企業さまや、会員同士のやりとりは、いままでであれば電話やFAX、メールなどで行っていました。ただ、これからどんどん会員数が増えて、活動も多様化していく中では、やっぱり電話・FAX・メールだけでは限界がきます。

こういったコミュニケーションやお互いの会員情報・議事録・マニュアルなど、いろいろなことを共有しないと、それぞれ別の会社同士ですから、なかなか思うように連携が取れないんですね。つまり、効率的な連携が取れないといけない、という課題が思い浮かびました。

ということで、実験その1です。こうやってやり取りを深めていくなかで、我々はいろんなことを試しました。例えばSlackやGoogle+、Facebook Messengerなどを使ってみたのですが、どうもうまくいかなかったんですね。

ここで真打登場です。ほとんどの人たちがガラケーで、スマホは持っていない。持っていても、電話とメールしか使えない。そういったITバカオヤジたちに、kintoneをぶつけてみるとどうなるのか。この実験にトライしました。(スライドを指して)ここに書いていますように、バカオヤジたちの頭に雷が落ちました。ということで、全員にアカウントを付与させていただきました。

よくよく聞いてみると、各企業が抱えている課題って、意外と共通のものがたくさんあったんです。中小企業にはシステム自体がそもそもないです。社長を含めてITバカオヤジばかりですし、使えるコストもあまりありません。そんななかで、たった1社だけでその企業課題を解決していくのは、なかなか難しい課題でありました。

kintoneを使った3つのチャレンジ

八尾の「みせるばやお」に参加している全員に共通する課題を、全員で解決したらどうなるんだろうか。それぞれが持っているいろんなナレッジをシェアすることによって、もっと新しいものが生み出されるんじゃないか。そういったことにチャレンジをしました。

例えば、空間・データ・人材です。具体的にどういったことをやったかをご紹介したいと思います。

まず、データのシェアです。みせるばやおは、現在3,000人の来場者にビジター会員登録していただいています。この会員はどこから来たのか。なかには、八尾市で作っている品を扱うショップもあるんですが、どこの場所の人がどんな商品を買っているのか。

そういったデータを取ることによって、実業のデータマーケティングを活用したり、分析したりしています。例えば顔認証のシステムなんかも入れていまして、そういった最先端の技術に触れられる場所としても活用していただいています。

2番目は空間のシェアです。八尾市にもいろんな企業さんがいらっしゃって、「自社に会議室がない」「イベントをしたいんだけども場所がない」といった声がたくさんあります。

みせるばやおは、近鉄八尾駅からだいたい徒歩5分ぐらいのところにあるLINOASという商業施設の中にございます。そういった場所にある空間を、各会員が自由に使うことが現状できるようになっています。

まず、企画提案。例えば、いついつこの場所のこの時間に、こういった企画をやりたいと。「ワークショップをやりたい」「会議をやりたい」というようにイベントの登録をします。各会員から3日以内に異議申し立てがなければ、そのまま承認をされてイベントを実施できるというプロセスをkintoneで実現しています。

3番目は人のシェアです。これも「kintone」で実現しました。集まったはいいんだけど、例えばいろんなものを共有するのになにをすればいいんだろう? どういうことをすればいいんだろう? 「子どもたちのためにものづくりを伝える」という目的はいいんだけれども、なにをすればいいんだろうといったことについて、「kintone」上で議論しました。

例えば、その場所に経営者が参加して、それに対して情報を共有していく、従業員向けのランチミーティングというのがあります。会社の悩みとかいろいろなテーマについて、ランチを食べながら、企業の枠を超えて他社の社員さんと交流する。そういったことも、kintoneを活用することで実現しています。

FAXが現役の人たちに、どうやってkintoneを使ってもらうか

じゃあ、これが最初からそもそもうまくいったのか。最初にお話ししたように、スマホですら満足に使えないITバカオヤジたちです。導入する前にどうだったかと言うと、入れる前から拒否反応です。

「クラウドっておいしいの?」「FAXしてよ、携帯とか見ないから」「電話で言ってくれ」とか。あとは、「そもそもkintoneからの通知がうっとうしいから止めてくれ」とか、そんなレベルのオヤジたちばかりでした。ログインすらしない、そんな状況のITバカオヤジたちを最初は相手にしていました。

じゃあ、どうやって使ってもらうか。例えばこまめな勉強会を開催しました。サイボウズさんにも来ていただいて行いました、いろんなイベントを作って、参加する場合には必ずkintoneを使わないといけないようにするとか、ポータル画面を工夫するとかさまざまです。

あとは、例えばログインした順番(ランキング)を、ポイント制にして出してみようかなとか、そこからもう1歩進めて、ポイントを貯めたらそれが八尾の地産品と換えられるとか。そういう八尾ならではの取り組みなどを工夫をしながら進めていきました。こういったものも、kintone上でたくさんアイデアをお互い出し合いながら、1つずつITバカオヤジの教育をしているのが現状になっています。

これでどうなったかと言いますと、なんとITバカオヤジは、いまではハズキルーペのようにいろんなことが見える化できるようになりました。僕もハズキルーペを使っているんですけれども、それぞれがどういうことを考えているか、なにをやっているかがよく見えるようになったんですね。

ITバカなのも、結局のところ食わず嫌いだっただけ

効果についてで言うと、まず人への投資が生まれました。実際、広報に特化した会社さんや、IoTのシステムがある会社さんなどに、「うちもITに関わる人材を入れよう」「広報をやる人材を入れよう」とどんどん波及していっている事例があります。

あと、受発注が生まれるということですね。お互いのことを「kintone」上で知ることで、例えば、とあるアルミの切削加工の会社さんから家具メーカーさんに実際に仕事の発注が出るなど、いろんな企業間コラボが生まれました。石鹸を作っている会社さんとインテリア関係の会社さんがコラボして新しい商品を作るといった受発注が生まれてきています。

さらに、ここがたぶん一番大事なんですけれども、kintoneの活用について議論が生まれます。僕自身もそうなんですけど、やっぱりほとんどの方って食わず嫌いなんです。kintoneとかシステムって言われた瞬間に、「なんか面倒くさそう」「邪魔くさい」「仕事が増えるんじゃないか」というようなことを感じるんですね。そうじゃなくて、「じゃあ実際にどうやって使っていったらいいんだろう」「どうやったらみんなに使ってもらえるんだろう」とベクトルが合わさることで、議論が生まれるんです。

これがまさにkintoneの一番の効果だと思っていまして。昔はスマホもいじれないITバカオヤジだったんですけれども、これからはITバカオヤジ4.0ということで、どんどんボウズマン(サイボウズのイメージキャラクター)に成長進化を続けていってくれるのではないかと期待をしています。

ローカルナレッジ・ローカルエコノミーのシェアリングへ進化していく

今後の可能性として、まず、いまずっとお話ししてきたような人とか場所、ものの共有化を進めて、さらに地域のシェアリングを加速していきたいと思っています。

例えば、企業って年間通してずっと忙しいということはなかなかなくて。やはり波があって、忙しいときと閑散期があるんです。そういったときの空いている機械や人がシェアリングできるといいんじゃないかと考えています。

倉庫なんかでも、物流で考えると、常にそこの倉庫が満杯ということはなくて。それでは空いている倉庫を空いている期間だけシェアリングしましょうとか、そういったローカルナレッジ・ローカルエコノミーのシェアリングについて、今後進化していけたらと思っています。

続いて2番目は、地域のITリテラシー向上ということで。先ほど見ていただいた実際の現場は油まみれで、まだまだIT企業とはほど遠い場所にあるんですけれども、そのなかで少しずつでもITに携わっていただいて、「これって便利だな」「これで新しいものが生まれるな」といったことを、kintoneを通して感触を持っていただく。そうやって八尾市全体のITリテラシーを上げていきたいと考えています。

3つ目です。ものづくり×●●のイノベーションということですね。我々もいままでは本当にBtoBの世界で、物をただ作るというだけだったんですけれども、そこにITが入ってくれば、より効率的な生産ができたりもする。例えばセンサー技術を活かして、機械にセンサーを付けることで生産効率を高めることもできます。

こうやって、いろんなことで新しいイノベーションを起こせると。これからはいままでの単純生産ではなくて、もっとクリエイティブな仕事にシフトしていくことで、より付加価値の高いビジネスにしていきたい。kintoneを通して、それを実現をしていきたいと考えています。

子どもだけでなく、大人もワクワクできる“みせるばやお”

これで最後です。我々は本当にITから一番ほど遠い場所におりまして、一生懸命ものづくりに取り組んでいます。kintoneならびにみせるばやおというこの場所を通して、お互いを知ることで八尾からイノベーションを起こしています。

それはなにかと言うと、まずは子どもたちにものづくりの楽しさであったり、八尾の未来であったり、日本の未来について伝えていきたいんですね。そこに、ワクワクしてほしいという思いのある、たくさんの企業さんが関わっていただける。子どもだけがワクワクするわけではなくて、そこに参加する我々のような大人たちもワクワクできるような場所を、いま実現しようとしています。

みせるばやおには、サイボウズさんも会員として入っていただいています。実はこれ、八尾市に限定した取り組みではなくて、八尾市以外の企業さんでも、もちろん会員に入っていただくことができます。

こういった活動に共感していただいたり、興味を持っていただけた方は、できれば会員になっていただけるとうれしいです。kintoneならびにみせるばやおについて、ぜひネットで検索していただけたらと思っています。

では、これで私の発表を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)