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IVS DOJO 田中邦裕 氏(全1記事)

さくら田中氏「社長の機嫌が悪くなると会社は傾く」 成長企業をつくるために、経営者が心がけるべき“余白”の実践

2018年12月19日に行われた「IVS2018 Winter Kanazawa」のセッション「IVS DOJO」で、さくらインターネット株式会社・田中邦裕氏が登壇。27歳で会社を上場させたという輝かしい記録の裏には、数々の失敗があったと語る田中氏。傾いた会社を立て直すに至ったきっかけとはなんだったのか。心がけた“3つの心持ち”について、その意味を明らかにします。

ロボットで生計を立てることを夢見ていた学生時代

田中邦裕氏:みなさん、こんにちは。

さっきまで(の登壇者が)たくさんお話しされてたので、このあとどう繋ごうか大変心配しておりまして。3人目まではまじめなセッションで、4人目(の私)から笑いのセッションだということなんですけれども……この会場を見る限り、笑う雰囲気がまったくしなくて、大変出鼻をくじかれております。

田中と申します、どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

22年前にさくらインターネットという会社を創業しまして、現在40歳です。学生起業しました。

私は昔から経営者になりたかったわけではなくて、もともとは高専に通うエンジニアでした。

小学校の頃の夢がロボットのエンジニアになることで、NHKの『ロボコン』を見て「将来は、ロボットで生計を立てよう」という夢を持っていた人間です。

ただ、世の中なかなかうまくいかないもので、1993年に高専に入学した年にバブルが崩壊しました。そのあと、流行り言葉で「就職○○」とか「就職氷河期」とか、そういったネガティブなワードが流れるなかで、10代を過ごしました。

インターネットという新しい夢を見つけた

ただ、私は……あとでも話しますが、非常に運がいい人間だと思っています。バブルが崩壊して、モノづくりの未来が急になくなった。これは、ネガティブな話かもしれません。

でも、私の前にあったのはインターネットでした。そして、インターネットにはまり、ロボットをつくる夢の次の新しい夢を見つけ、18歳の時にさくらインターネットを創業しました。

さくらインターネットという会社を、どれぐらいの方がご存じでしょうか?

(会場挙手)

ありがとうございます。

ただ、「さくらインターネット」という会社は知っていただいているんですけれども、「田中邦裕」という私を知らない人が多いと。なので、今日は「さくらインターネット」というキーワードをほぼ使わずに、私の話だけにしようと思って来ました。ただ、(みなさまの)期待値は「さくらインターネット」なので、少しは話さざるを得ないですが。

ほんの少しの成功と情熱があれば会社は続く

私は起業家として22年間やってきて、結果的にさまざまな記録を持っています。

1つは、ポジティブな記録。実は、先日「30歳までに上場した起業家ランキング」というものが出たんですけれども。私は27歳の時に上場しましたので、上には4人しかいません。堀江(貴文)さんとタイで、5番目に若く上場しました。

18歳で起業して27歳で上場しました。ただ、ここで終わればよかったんですけど、残念ながら……「最速債務超過ランキング」。

(会場笑)

東証から、上場廃止の宣告を受けかけると。この時、弱冠29歳でございました。私は、実はたくさんの失敗をしてきています。正直、成功の秘訣をみなさんに伝えることはできません。

ただ、失敗したとしても、ほんの少しの成功と情熱があれば会社は続くんだということ。これをお伝えできればと思っています。

すでに私の自己紹介をしましたが、経営者ではなくてエンジニアとして、22年間ずっとやってきたつもりです。

実際にロボットをつくり、(スライドの)真ん中に「Apache(アパッチ)」というWebサーバのサイトがありますけれども、それを日本に啓蒙しています。そして最近は、この右下にあるようなアニメのロゴのジェネレータを、Webサービスとして個人で運営しています。

なので、サーバの会社を経営している私ですけれども、サーバを使う側として、ユーザーとしての立場でもあるわけです。

サブスクリプションのビジネスにサーバは不可欠

少しさくらインターネットの話をしておかないと後で怒られるので、お客さまがどういうところかだけ、ご紹介させていただきます。

一言でいうと、スタートアップさんです。最近ですと、例えばメルカリさんとか、左下にあります「Ponanza」……これは将棋で人間に勝ったAIです。

最近はどんどんサブスクリプションになってきています。製造業やパッケージソフトの時は、サーバが必要ないんです。ただ、SaaSとかクラウド、そしてサブスクリプションのビジネスをするとなると、どうしてもサーバが必要になります。

ですので、サーバが必要で、サーバがボトルネックにならないような世界をつくっていく。それが我々のミッションです。そういった流れで、22年間でたくさんのスタートアップさんに触れ、しかしながら卒業されてしまうこともたくさんある……という会社でもあります。

できればみなさんに、当社とお付き合いいただきながら(やっていきたいのですが)。当社は、とにかく運がいい会社です。なので、当社と一緒にやってきた会社さんは、ほとんどが成功しました。失敗したからといって、怒られたら困るんですが……そういったなかで、我々を知っていただけたらと思います。

我々は、時刻表のない世界で生きている

さくらインターネットの話を終えて、ここからは、私がこの会社でどのような22年間を送ってきたのかという話をさせていただきます。

1996年に創業したのが、18歳の時です。意気揚々と、2005年にマザーズに上場しました。すごいスピードで売上が伸び、すごいスピードで債務超過になりました。

問題は、ここからで。実は私、一回社長を辞めていた時期があるんですが、債務超過になったということもあって、また社長をすることになりました。

どちらかというと、自分でつくった会社を「途中で手放そうかな」なんて言いながら、上場したあとで呆けていたら、いつの間にか、また社長になると。

人生、なにがあるかわかりません。正直、時刻表のない世界で我々は生きているんです。電車が来ると思っても来ないんです。

なにせ1993年に高専に入って、1998年に卒業したらメーカーに行けると思っていたのに、勝手に日本経済は崩壊しているし。上場してのんびりできるかなと思ったら、いつの間にか債務超過になっちゃうし。その結果として、社長をやることになっちゃうし。

いろんなことが起こるわけですが、すべてにおいて運がよかったと思っています。ここを、ちょっと掘り下げさせていただきたいと思います。

効率化の過剰な追求がもたらしたもの

2007年に債務超過になってから、当社は売上の成長率がどんどん鈍化していきます。そして社員が減り始めます。

その時に私は「効率化」をキーワードにやっていました。とにかく会社が倒れそうだというなかで、貧すれば鈍するという……みなさんも気を付けたほうがいいと思います。会社がうまくいかなくなってくると、「人が減らないかな」とか「もうちょっと、経費が下がらないかな」とか、そういったことを思い始めます。バブル期のあとの、日本企業のようなプロセスです。

ご多分に漏れず、当社もどんどん経費削減をしていきました。その結果、「すごく成長したい」と思っていた社員が、どんどん辞めていきました。

社員が辞めてくれるということは経費が下がるんです。経費が下がると利益が出る。利益が出ると会社が続く。そういったことをやっていると、どんどん人が減っていくんです。「いやぁ、でも利益が増えた。よかったよかった」とか言っていました。

自分で言うのもなんですが、なんとなく清廉潔白っぽい私なんですけれども……一時期、2008年ぐらいに利益がたくさん出たものだから、すごい勢いで六本木で遊んでいた時期があります。

(会場笑)

稼いだお金を使うことに、すごく呆けていた時期がありました。そして、会社は経費を削減し、利益をどんどん出そうと思っていました。

その結果、起こったことが2つ。株価が下がって、売上が伸び悩むということです。

私はスタートアップの方々のメンタリングをしていたんですが、「いやぁ、田中さんの会社がそんなに成長していないのに、メンタリングされても困るわ」と本当に言った方がいて……その方は失敗していますけれども。

(会場笑)

ただ、残念ながら、本当に心にしみました。僕はもっと大きなことをして、世の中をよくしたいからこの会社をつくったし、サーバが本当に好きだからこの会社をつくったんじゃないかと。

その結果、やっぱり投資をしていこう、人をもっと採用していこう、社員の満足度や顧客の満足度を高めていこうと思ったのが、この4年ぐらいのお話です。

余白を削減してはいけない

結局その後、すごい勢いで売上がまた復活し始めて、社員数がどんどん増えていったというところがあります。ここについて、これから3つのお話をさせていただければと思います。

1つは「余白の実践」というものです。結局のところ、社長に余裕がない、余白がないと、会社は絶対にうまくいきません。例えば、ずっとスケジュールが詰まっていたら、社員と話すこともできない。なにかトラブルがあったとしても、社長が動けない状況ではチャンスを失います。

自分自身が常に思っているのは、自分の余白をつくることです。実は私は、1週間よりも先の予定を半分以上空けています。秘書にも、「半分以上(予定が)余っていたとしても、そこの部分については『埋まっている』という返事をしてください」という話をしています。

会社でも、無駄は削減しないといけませんが、「余白を削減する」ということはしません。渋滞がなぜ起こるかというと、車間距離がないからですよね。車間距離がないから、前が詰まってくるとスピードが落ちるわけです。

経営にとって(どういうことかを)考えてみると、余白がない経営というのはスピードも落ちる。チャンスがきたとしても、それをつかめない。そういったさまざまなことがあります。

データセンターでいうと、プロセスをいかにつくって全部売り切るかみたいなことが、製造業の考え方です。一方、サブスクリプションの考え方でいうと、いかに余白を持って、お客さまが来た時に、それを即座に提供できるか。それがビジネスの本質なのに、ビジネスの本質であるはずの余白をどんどん削って利益を出している。「会社は、これで本当にいいんだろうか?」と私は思います。

そういったことで、会社の経費に関しても、例えばお客さまに係るコストであったとしても、自分の時間に関しても、やはり「常に余白を持とう」ということを経営の中心に据えています。

経営者の仕事が、社員の負担になっているかもしれない

それでなにができるかというと、「機嫌よく」なるということです。

社長の機嫌が悪くなると、たいていその会社は傾きます。これは事実です。なぜかというと、機嫌が悪い人に話したい人なんていませんので。機嫌がよくなると情報が入ってくるし、機嫌が悪くなると情報が入ってこなくなる。そうなると、成功が遠のくわけです。

これは先ほどの話と繋がります。余白がないと、機嫌が悪くなります。機嫌が悪くなると情報が入ってこなくて、またよくなくなってくる。そういった悪循環になります。

実は私、去年1ヶ月の休みをとりました。創業社長が21年目にして、1ヶ月も休むのは初めてでした。結婚して14年目でしたが、お金も時間もなくて新婚旅行に行けていなかったので、海外旅行に行きました。

私、絶対電話がかかってくると思ったんです。絶対に社員が困るだろうと。途中で私が「1ヶ月休む」と言った時に、「いやぁ、社長に1ヶ月も休まれたら困ります」と言われるかと思ったら、「どうぞ行ってきてください」と言われたんです。なんと薄情な。

(会場笑)

そういう世界があるんだと思いました。1ヶ月休んだら電話がかかってくるだろうと思ってたのに、結局1つも電話がかかってこないんです。会社に帰ったら、会社も機嫌よく回っているわけです。

なのでみなさんも、休むことにすごいリスクだったりとか、負の感情を持っているかもしれませんが、社員はそんなに気にしていません。「社長がいないほうが、有休の消化率が上がった」って、喜んでいました。

それぐらい、みなさんは「経営者の仕事が、社員の負担になっているかもしれない」ということを理解しないといけないと思います。

そういった、社長が機嫌よく余白もあるなかで、いかに会社がよくなるかということが非常に重要です。

お客さま・社員・会社の成長は、社長の心持ち次第で変わる

もう1つ申し上げたいのは、「学ぶ」ということと「成長する」ということです。

成長している会社だと、成長したい人が入ってきます。成長したい人が入ってきて、成長するような仕事をすると、会社は(さらに)成長します。お客さまが成長すると会社が成長し、お客さまの成長で社員も成長する。「成長」というキーワードは、お客さまと社員と会社、三位一体になっています。

そのなかで成長性が少しでも鈍化すると、すべてが逆回りになってきます。当社のように。当社はその逆回りをしちゃって、年間成長率が2パーセントぐらいに減りました。

そのあと、私が「もっと成長させるべきじゃないだろうか?」「もっと社員を知っていくべきじゃないだろうか?」という話をしたら、成長率が20パーセント上がりました。その程度には、社長の心持ち次第で成長率は変わります。

みなさんが一番大事にするものはなんですか? 私は、お客さまと社員、そしてその人たちとともに成長するということです。

売上も厳しい、利益も厳しい。いろんなプレッシャーをたくさん受けます。当社も一部上場して、3年になりました。株価も最近、若干下がっています。

ただ、株価を心配して、売上を心配して、利益を心配して……。そんななかで社員は働きたいだろうか? そういった社員が提供しているサービスを使いたいだろうか?

製造業なら製造プロセスをうまくやればいいですけれども、サブスクリプションサービスの世界は、社員の仕事がそのままお客さまへの価値に繋がる世界です。データセンターサービスも、そのような世界で生きています。

そういったなかで、社員とともに学び、社員とともに成長する。そして社長が機嫌よく、「社員やお客さまのおかげでやれている」と思うと、必ず成長する。

すべての成長は社長次第だということを伝えて、私の話とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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