ALS患者は未来を生きている

吉藤:本当に普通の人間よりフットワークがはるかに軽い。すごいですよね。私の知っている80歳のALSの患者さんなんかはね、ヘルパーとかみんな連れて、スイスへ旅行に行きました。OriHimeで、とかじゃなくて本当に生身でスイスに行っちゃうんです。

呼吸器つけている人……しかもね、車椅子というかでっかいストレッチャー型のベッドみたいなので旅行に来るなんていうのは初めてだから、スイスの人はみんな驚いて「日本やべぇ!」みたいな感じになって。

武藤:ALSって、運動神経だけは壊れているんですけれども、頭で考える能力や、感覚っていうのは残るんですよ。だからみなさん、いまだにご自身でアイデアを考えて、発想している患者さんがとても多いですね。

吉藤:もともと私がALSに私が出会ったのは4年〜5年ぐらい前かな。2013年なんですけど、それまでまったくALSのことなんか知らなかったし、「なんだそれ?」みたいな感じでした。

もともと「入院している子どもたちが、OriHimeを使って学校へ通えるようにしよう」ってやっていたところでALSの人たちに会って、その人たちを見て思ったのは「かわいそう」とかじゃぜんぜんなくて、なんか(ALSの人たちは)みんなが人としておもしろかったんですよ。

私の初めて会った人の話をしますけど、50歳の女性だったんですね。もともと体育教師をされていて、もう首から下が動かなくて、初めて会った時もベッドで寝たきりになっちゃっていたんだけど、ジョークとかも言うし、タバコは吸うし、酒は飲むし、豪快な人だったんですね(笑)。

ただし、自分の体がこうなっちゃっていることを他の人に見られたくないっていうことで、まったく友達を自分の家に入れない、インターフォン越しだけでしゃべるみたいな感じでした。そんな人を「じゃあOriHimeでどう外に出せるだろう」っていうので、「この人をバーベキューに連れて行きたいな」みたいな(ことになりました)。その人のことは人間的にすごく好きになって、すごく居心地よかったんですよね。

だから共通して言えるのは、私はいろんな病気の人と出会っていますけど、ALSの方は特に……呼吸器をつける選択をされるからなのかわからないんですけど、未来を見ていますよね。それで、ネガティブな言葉が本当に出てこないんですよ。

武藤:実際みなさん「未来に向けて、今できることに集中して、がんばればいいじゃん」っていうマインドの方がすごく多いです。そういう患者さんに会うと、僕らももう1回ポジティブな気持ちになりますし、そういう仲間が集まっていけば、やっぱり未来って変わっていくねって、今は本当に思うんですよね。

ALS患者の前向きな姿勢こそが1つのソリューション

吉藤:ALSの協会がイベントとかやっていますけど、行くだけでおもしろいので、ぜんぜん用はないけど、私はフラッと遊びに行くんですよ(笑)。そしたらなんか、元気もらって帰ってくるみたいな。

武藤:キャラの濃い人が多いですね。

吉藤:みんなキャラ濃いですよね。だから、あのイベントはやばいですよ。みんな寝たきりなんだけど、ぜんぜん、寝てないし。

(会場笑)

吉藤:「動きまくっとるやんけ!」みたいな感じで。

武藤:みんなハイテクなんだよね。みんな、視線入力装置とか、いろんな装置を使って、バンバン、コミュニケーション取るよね。すごいよね。

吉藤:ALSだけじゃもったいない気がするんですよね。だからALSの人たちのあの空気の中にいろんな人たちを連れてくると、みんなもう過去のこととか今のこととかじゃなくて「未来はどうなるだろう?」っていうワクワクしか生まれないような気がします。あれは本当に、イベントをやったほうがいい気がする。

さっき私は「あきらめない」って言いましたけど、それってすごく大事です。薬とかもなんでもそうだけど、やっぱり気持ちが大事です。「病は気から」じゃないけど、本当に気が滅入っていると何もできなくなっちゃうので、「病気と闘おう」とか「呼吸器をつけよう」も含めて、どうやったら生きることに前向きになれるかっていう。そこって実は、ALSのあの世界は1つのソリューションか、そういうものになっているんじゃないかっていう気がすごくしました。

武藤:みなさんもご存知の方も多いかと思うんですが、まだALSの抜本的な治療方法っていうのは確立されていないんですね。でも、4年前のアイスバケツチャレンジや、本当に多くのみなさんの行動によって今、少しずつ治療薬や希望が生まれてきています。

でも本当に、ALSの患者一人ひとりが「ALSが治る未来を本気で実現していける」とみんな信じているので、みんなが信じた夢は、必ず実現できると思うんですね。だからこうやって今日この場で、同じ時間を共有してくださるみなさんとも、必ずALSが治る未来に向けて、行動し続けていければなぁと思っています。

樋口:なんかね、締めみたいな感じになっちゃいまいた(笑)。

(会場笑)

樋口氏が振り返る、武藤氏の熱意が伝わった瞬間

樋口聡氏(以下、樋口):そうなんだよね。本を作っていたときに武藤さんに張り付いていたので、埼玉のALSの交流会があって、我々もそこへ取材に行かせてもらったんですね。

その時、僕は初めて武藤さん以外のALSの方を間近に見て、やっぱり最初はすごくインパクトがありましたね。そのインパクトがあって、武藤さんがお話をされてという中で1つ、ちょっと印象的なエピソードがあってね。

武藤さんが「僕はとにかく前を向いて生きていくっていうことを実践しているんだ」っていう話をされた途中の質問でね、1人のALSの方が「いや、武藤先生」って言ってね。「そんな、限界超えていくって言うけれども無理ですよ」って言うんだよね。その方は奥さんといらしていて、おいくつぐらいの方ですかね? けっこうご高齢の方ですよね?

武藤将胤氏(以下、武藤):70代後半でしたかね。

樋口:ですかね。「今、奥さんと来ているけど、気管切開なんかしたらこれ以上迷惑をかけることになる。だから、僕は気管切開するつもりなんかないんだよ」みたいな話をされて。武藤さんはそれに対して「でも、もう僕だってそうですよ」「日々、一歩一歩なんです」みたいな話をしていました。

それで、その後なんですよね。その方が、ツツツーッとうまく来てね。武藤さんに、「でも、がんばってくださいよ」って。明らかに武藤さんの話を聞いて啓発をされているんですよね。着火している。あのおじさんも「自分もやっぱり前向きに生きていこうかな」って思ったよね。

だから、そういう行動をし続けていくっていうことの大事さっていうの? 今オリィさんが「あきらめないこと、生きること」っていうことをおっしゃったけど、それはやっぱり、誰かがやんなきゃいけないんですよね。

武藤:ちょっとでもそういう力が生まれるのであれば、僕はどこにでも行って、一緒にお話しして、乗り越えたいですよね。だからあの場でお会いできたからこそ、一緒に前を向けたタイミングでもあったなら、行けてよかったですね。

「アイスバケツチャレンジ」を武藤氏はどう見たのか

樋口:そういうふうに「とにかく前を向いて生きていくんだ」っていうのが、やっぱり我々とまた違うニュアンスじゃないですか。オリィさんはもう最初から「ALSの方たちはおもしろい人だ」っていって飛び込んでいくんけれども、まぁ、なかなかね。

アイスバケツチャレンジっていうのはすごく大きなムーブメントであったけれども、やっぱり「水をかぶる」っていうところだけが一人歩きしたじゃないですか。募金はすごく集まったっていう点で意味はあったけれども、そこって難しいですよね。どういうふうにイメージを持っていったらいいのかって。

吉藤オリィ氏(以下、吉藤):ちなみに、武藤さんはアイスバケツチャレンジに関してはどんな印象を持たれていますか?

武藤:僕はちょうど、先ほどお話ししたように、ALSの宣告を受けた年だったので、あの氷水をかぶるのがスマホに出てくるのも、すごく嫌だったんですね。それは「自分がもしかしたらこの病気なんじゃないか?」っていう思いもあって……。

寄付金がこれだけ集まったことや、ALSという病気の名前が広がったことにすごく意味があったんですが、どういう病気なのかっていうのは、理解をしていただくまでの活動になかなか至らなかったなっていう印象があったんです。

じゃあ僕たちは、ALSとともに生きていく中で、みなさんにちゃんと認知から理解までしていただける活動を続けていかないといけないなという、今のWITH ALSを立ち上げた原点にはなりましたね。

吉藤:今のWITH ALSのキャラクターもあれ、そうなんですよね? どこかにないかな、今見られるところにない?

樋口:本の中にあるんですけど……バケツの?

吉藤:そうそう。みなさん、よかったら本の中で探してみてください。バケツをかぶっている、かわいいキャラクターがいるんです。最後のほうです。

武藤:ずっと頭の中にいたキャラクターを作ってみたんですね。というのも、4年前にアイスバケツチャレンジというキャンペーンがあって、これ自体はもう終わってしまったけど、僕たちのゴールはALSが治る未来を作ることだったよね。

ならば、僕がアイスバケツをかぶり続けるよっていうことで、WITH ALS KIDっていうキャラクターでのコミュニケーションを行いたいと思って、キャラクターデザインを行ったんですね。僕のEYE VDJのプレイ中なんかも、よくこのキャラクターが登場します。

吉藤:ちなみにね、私にもバトン回ってきたんですよ。IT系社長たちの間でけっこうブームになっていて(笑)。

樋口:アイスバケツね。

吉藤氏は「遠隔操作」でチャレンジ!

吉藤:私も当時、長野でバカンスをしていたら急に「24時間以内にやれ」みたいなのバトンが回ってきてね。でも、私は普通にALSに関わっているし、OriHimeを使ってくれている患者さんである仲間もいるから、これはちょっとスルーできんなと思って。

でも、アイスバケツチャレンジをやることに対してやっぱり賛否いろいろあったんですよ。「俺はもう、バトンが来てもやらない」みたいな人たちもいて、どういうスタンスを取るか悩んだんです。ただ、(ALSの)当事者が「それ、おもしろそうだ」って言ってくれたんですよね。

実はそういうのがあって、「じゃあ一緒にやろうよ」っていう話で、寝たきりの80歳のALSの仲間がいたんですよね。その人に、まだその時はちょうど開発途中だったんですけど、「OriHime eye(オリヒメアイ)」というシステムで、目線で、目だけでOriHimeを遠隔で操作してもらって。

夜だったんですが、私の家の中は2階建てで吹き抜けがあるんですけど、そこを全部ビニールシートで囲んで。そこにOriHimeを置いて、OriHimeの動かし方で「なんでやねん!」っていうツッコミができるんですけど、この「なんでやねん!」をやると横にあるまな板が落ちて、そのまな板によってカッターが降りて。それによって紐が切れて、上にあるバケツがひっくり返って、バーンとかぶるみたいな。そういう「ピタゴラスイッチ」を作って。

(会場笑)

武藤:遠隔で?

吉藤:そうそう、遠隔でぶっかけるシステムを作って遊んでいましたね。あれは盛り上がった。そうそう、武藤さんには申し訳ないんですけど、その時はうちらの中では完全にお祭り騒ぎになっていて(笑)。

アウトプットの仕方は人それぞれでいい

武藤:でも本当に、アウトプットは何であれ、僕はいいと思っています。大事なのはゴールに向けて、KEEP MOVINGし続けていくかどうかだなぁと思ったんですよ。だから今僕にできる行動、挑戦っていうものを続けていこうっていう意味で、今年は「KEEP MOVING」っていうテーマで本を出版させていただいたんです。

樋口:そうですよね。そこからKEEP MOVINGっていうタイトルにさせてもらったよね。それでちょっとね、本の話もしたいんですけれども。

前向きに見ていくという武藤さんの、「前向きにしていきたい」「ビジュアルを入れていきたい」っていう命題を受けて、我々も「さて、どうしたものか」って、ずっとひっついて本を作っていたんです。

それで、お父様のお話をこの中に入れていてですね。お父様は最後に、この「KEEP MOVING」っていうテーマに対して、「武藤将胤さんがKEEP MOVINGできなくなっていく」っていう二重、三重の意味というのは非常に深いというお話があってね。

僕らもこれ、「本」を作ったんですよね。でも武藤さんはこの「本」を開くことはできないんですよね。だから今電子書籍を作っているんですけれども、そういうダブルミーニング的なものをね、僕らも最後に背負いながらこうやって作っているんです。

じゃあ、武藤さんはこれどうやってこの原稿をチェックしていただいたのかっていうとね、そのあたりもちょっと、お話しできますか?

武藤:ずっと原稿の出し戻しをさせていただく中で、Googleドキュメントに原稿を書いていって、僕はだいたいスマホかPCで、今動く自分の親指だけですべて文字も入力を行っていったんです。かなり気の遠くなるような作業ではあったんですが、チームのみなさんとずっと意見交換をしながらようやく実現できたから、良かったですね。

樋口:だから、武藤さんの新たなコミュニケーションの1つ、アウトプットの1つとして今回は本というものに挑戦したというところがあります。それで、武藤さんには原稿確認の段で初めて読んでいただきました。我々の意図を伝えたのは、その時がたぶん初めてだったと思うんですよ。

僕は聞いてないので、ちょっと聞いてみたいんだけども、武藤さん、この本はどうでしたか? どう思いました?

武藤:今の挑戦と、自分が生まれて幼少期から過ごし、どんなことを考えて育ったかっていうのを、生まれて初めてこれだけさらけ出したんですよね。なので、すごく恥ずかしくもあり、さらけ出したからこそ、「あっ、だからこいつはこんな挑戦を今やっているんだ」って、みなさんに知っていただけたらなと思いました。

それで、どこかにみなさんも共通点を感じていただけたらうれしいなと思います。それをきっかけに、みなさん一人ひとりにとっても、「今ある行動や挑戦を、もう1回がんばってみようかな」とか、「さらにがんばってみようかな」っていうことのきっかけになるようなものにしたいと思って作ったので、それはさらけ出せてよかったですね。