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大企業のオープンイノベーション座談会(全8記事)

オープンイノベーションは“おもしろいからやめられない” 大企業のイントレプレナーたちの本音

2018年4月24日、東京ミッドタウン日比谷「BASE Q」にて、NTTデータ・三井不動産・日本郵便によるオープンイノベーションをテーマにした座談会が開催されました。いくつものトライアンドエラーを乗り越えてきた担当者らが語る、本当に価値あるオープンイノベーションを実現するために大切なこととは。本パートでは、日本有数の大企業のイントレプレナー(社内起業家)たちが、オープンイノベーションに取り組むきっかけについて意見を交わしました。

日本全体を変えるエンジンになりたい

富樫憲之氏(以下、富樫):みなさん今日はよろしくお願いします。モデレーターをさせていただきます。オープンイノベーション界隈や業界がすごく活発で、注目されてる方が多いんですけど、これからオープンイノベーションに参画していきたい方や、1回やって、ちょっとうまくいかない中で進めてる方もいらっしゃるので、そういった方向けに、(オープンイノベーション)導入編のお話をお聞きしたいと思います。

例えば、スタートする時にどんな苦労があったのか、今後どういうオープンイノベーションになっていくのか、オープンイノベーションの未来や、社外をどう変えていくかといったところを、お伺いしたいなと。

あとはより具体的に、みなさんの体験の中で「こういう部署のこういうところは大変だったよ」とか、わりと具体的な話を深堀りできればなと思っています。では、まず「オープンイノベーションの目的は?」から伺っていきたいと思います。(NTTデータの)残間さん、御社での目的からお願いできますでしょうか。

残間光太朗氏(以下、残間):(オープンイノベーションに取り組む)目的ですね。私自身はもともと、新規ビジネスをやっている中では、ベンチャーさんと一緒に何度もやってきていたんですけど。

たまたまスタッフの方になってファンドを提供する側になった時に、やっぱりなかなか社内だけでアイデアコンテストをやっても、どうしても非常にエクスポネンシャルな、ディスラプティブなものは出てこないって感じていたんですよね。

その時に、個人でこれまでやってきたベンチャーさんや面白い人との取り組みを、せっかく世界的に11万人も社員がいるような大企業にいるので、その人たちを全員巻き込んでイノベイティブな活動ができれば、すごくおもしろいだろうなと思ったのがきっかけなんですよね。それで今では世界でビジネスコンテストを開くに至りました。

ですから、ある意味、すごい危機感ですね。やっぱり、(アイデアが)既存の延長線上しか出てこない。それを打ち破るためには、いろんな多種多様な人たちとやってきたのがすごくおもしろいって、僕は経験上わかっていたので。

それを大企業の組織として広げられると、本当に会社全体が変わるんじゃないかなと。ひいては「日本全体を変えられるエンジンになれればいいな」というのが目的というかきっかけというか。

「山が動かざるを得なくなる状況」になっていった

富樫:実際、残間さんの中での危機感と会社が持つ危機感には、ギャップなどはなかったですか? もしくは苦労したところとかあれば。

残間:苦労したことはもう山ほどあるんですけど、そもそもそんな話を聞く人たちがいなかったんですよね。結局ベンチャーさんと一緒にやるってことは「非常にリスクが高いことである」と。そういう考え方がものすごく強かったですから。私も何回も失敗してます。その失敗経験がみなさん強くて、成功経験がある人はほとんどいないので。そういうことはやっぱり否定されるんですよね。

それを乗り越えられたのは、最初私の知り合いの中で小さく始めていったのですが、やっていくうちに口コミが広がって、すごく仲間が増えてきたんですよ。社内の仲間だけでなく、ベンチャーさんも、我々のお客様の大企業もそうで。

その大企業の人たちに、「おもしろい、おもしろい」と言っていただいて、そこからお客さんのレピュテーションが今度はお客さんの上層部に上り始めて、それが経営層まで響いてきた時に、山が動かざるを得なくなったという感じなんですよね(笑)。

富樫:社内での反応として、「うち(NTTデータ)らしくない、でもそこがいい」ってコメントもらったと拝見したのですが(笑)。

残間:あー、そうです。ある時、経営者の一人から呼ばれて「お前なんか怪しいことやってるらしいじゃないか」って言われて。確実に怒られると、「これでもう終わったな」と思ったんですけど(笑)。でも、その時に言われたのが「(NTT)データらしくない。そこがいい」と(笑)。もうその時は、本当に胸をなでおろしました。そこから、その人が支援してくれたのがすごく大きかったですね。

イノベーションに取り組む2つの目的

残間:でも、やっぱり小さく始めて仲間と我々のお客様だったりベンチャーだったり、共鳴できる人たちが、どんどんどんどん「いいね」と言ってくれたのが力になったってことだと思います。私や私の担当だけでは、たぶん突破できなかったと思います。そんな感じですね。

富樫:「多様性から生まれる」「小さくスタート」「仲間の存在」など、大事なエッセンスが、たくさん散りばめられてるようなお話でした。次は(日本郵便の)福井さんお願いします。

福井崇博氏(以下、福井):はい、目的ですよね。やっぱり、いろんな巨大なリソースをもった日本郵便という会社のアセットを使って、外部の人にそれを利用してもらって、外部の人と一緒に課題解決に取り組むことで、自分たちだけではできないことを作っていくのが大目的なのかなとは思っています。

それを通して、もっと世の中に貢献できる会社にしていきたいですし、もっといい社会にしていきたいなと思ってます。そういう最終目的を目指す中で、本当に外部とアウトプットを作りながら、やっぱり社内変革みたいなところでも、このオープンイノベーションが担う役割はすごく大きいと思っています。

さっきも(残間さんが)おっしゃってましたけど、これに関わる人がどんどん増えてきて、みんなで成功体験を積んでいくことによって、この日本郵便自体がもっとイノベーティブに変わっていくんじゃないかなと思っていて。

この2~3年、いくつか取り組みをしてきているんですけど、それが実感できているかなとは思っています。なので、アウトプットを作っていくという話と、社内をよりイノベーティブに変えていくことによって、もっと大きなアウトプットができるような組織変革をするという2つの目的があるのかなとは思ってますね。

出向したことで身につけられた「客観的な視点」

福井:きっかけみたいなところでいくと、僕は3年前までローソンに出向させてもらっていたんです。外に出てみると中のことが客観的に見えたり、今まで気がつかなかった視点で見えたり。たぶんそれが、今取り組んでいるオープンイノベーションが重要だと思ったきっかけかなと思っていて。

なので、戻ってきてからも『まちてん』という、オープンイノベーションのイベントに出るプロジェクトに参加したりしたんですけど。そういう積み重ねがあって、昨年度のサムライインキュベートとのプログラムにもつながっているのかなとは思ってますね。

富樫:「客観的に自社を見られるかどうか」って、すごい大事なポイントですよね。「ローソンが一つのきっかけ」っておっしゃいましたけど、自社にいるだけだとなかなかその視点って持てないものでしょうか?

福井:まぁ、自分のことしか経験してないんでわからないんですけど、僕はやっぱり外に出たことによって、ローソンの文化も学んだし、最後のほうに「ローソンとJPとの協業プロジェクトをやらせてください」って言って、やらせてもらったんです。外から自分たちの会社をどうにかできないかとか、どう組めるかで見た視点はすごい活きてるかなと思っていて。

なので、外部からオープンイノベーションの担当を採ってくればいいとか、社内でなんとか育成できないかという議論がずっとあると思うんですけど、一つは一度外に出た人間をその担当にあてるとか、2つの視点を持っているような人をあてるのは、会社の戦略としてはありなのかなと思ったりはしますけどね。

ハード面における街づくりの限界

富樫:なるほど。そういう視点の人を当てることや、複数の視点を持つ組織作りをしていくようなことが、(「客観的に自社を見られないこと」に対する)一つの解決策とも言えるってことですかね。

福井:そうかなとは思いますね。

富樫:了解しました。次は(三井不動産の)光村さん、お願いします。

光村圭一郎氏(以下、光村):ちょっと建前で言うと。

(一同笑)

三井不動産という会社の立ち位置が、不可逆的に根本的に変わっていく時代に、どう追随するかっていう話ですよね。例えば、ハード一辺倒であった街づくりが、明らかにソフトとかコミュニティっていう要素を組み込んだ形に変容しているとか。リアルな場しかないものから、急にデジタルとか、さらにバーチャルというものまで組み込んだ世界観に変容しているとか。

そういうところにおいて、ハードとリアルしか扱えない三井不動産という会社が、街づくりという一つのビジネスの主役を担い続けることが、基本的にできなくなるんじゃないかという危機意識があって。それを追随しようとすれば、会社の中にある、これまでのアセットとかリソースだけでは当然できなくて。

ましてや、三井不動産は基本的にR&D(Research and development)という文化を持っていなくて、商品企画しかやらない会社です。外から、外部の完成したものを、ある種寄せ集めてアッセンブルする仕事でした。

そこに対して、おそらく根本的に技術開発的なアプローチを含めてやっていかなければならないよね、となった時に、もうこれは外に求めに行くという、オープンイノベーションという概念なり事業開発の方向論というのは必然でしかない。というのが、建前上の話です。

福井:教科書的な部分をちょっとしゃべりたかったんですね(笑)。

光村:本音で言うと、「おもしろいからやってます」以外の何物でもない。

(一同笑)

ここで言ってる「目的」が、個人的な目的なのか、それとも会社の目的なのかをちゃんと整理する必要があると思っていて。なぜそれが大事かと言うと、普通の人は会社の目的が当たり前なんだけど、イントレプレナーは、いかに自分の野望・欲望のために会社を利用するか、ってことを考えているべきと僕は思っているから。

それで言うと、僕がおもしろくて作りたい未来を作るために、三井不動産という器が、オープンイノベーションをやってた方が都合がいいからやってるというのが、僕の本音の答えです。

人生のエンドロールを超大作にするために

富樫:本当に個人的な野望を達成するためにやっていると?(笑)

光村:そうですね。やっぱり、この東京という街自体が、今後の数十年間にわたって、僕の寿命が尽きるまで、もしくは自分の娘が死ぬぐらいまでは、イノベーティブな都市であり、世界の最先端の情報やいろんなものが集まってくる状況を、僕は壊したくないと思っているんですよ。純粋に、それがおもしろいから。

そのためには、やっぱりいろいろ変えていかなければならないこともいっぱいあるよね。そこに三井不動産の果たし得る役割があると僕は信じているから、この会社でオープンイノベーションを使って、新しい概念や世界をどう作るかということにコミットしているんだっていう。そういう順番なんですよ。

福井:いいですね。本音のところ、僕も一回しゃべっていいですか?

(一同笑)

ダメですか? 僕のエゴの世界の話をしていいですか?

富樫:いいですよ(笑)。

福井:僕は、「オープンイノベーション、やめられないな」と思う理由は、僕の人生のゴールみたいなところで言うと、けっこうサムライ(インキュベートの代表取締役)の榊原(健太郎)さんの(目指している)ノーベル平和賞と似てるんですけど。

去年、いろいろ人生の目標を考え直して、僕は「人生のエンドロールを超大作にしたい」と思っているんですよね。いろんな人に助けてもらったなって思いながら、自分のエンドロールを作って死にたいなと思って。そのためには、いろんな人のエンドロールに載らなきゃいけないなと思っているんですよね。

光村:あー、なるほど。

福井:そのためには、場面場面の仕事において、より多くの人に関わってもらって助けてもらって。逆に、僕のプログラムとかプロジェクトに関わってよかったな、って思ってもらえるような仕事をしたいと思っています。

そういった観点で考えると、やっぱりこの日本郵便って正社員だけで20万人ぐらいいる大組織の中で、なおかつ外部とも連携しながら、いろんな人を巻き込みながらプロジェクトを進めていく醍醐味って、たぶん他の大企業さんと比べても断トツであると思うし。

しかも日本郵便の仕事の中でも、プログラムを含めたオープンイノベーションの取り組みって、断トツで(やりがいが)あると思うので、なんか僕は今、自分の人生の目標も含めて考えると、これがやめられないって思っています。

(一同笑)

残間:言っちゃいましたね、この男(笑)。

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